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第三十八話 信じてやっても変わらない

「アンダーグランの街も面白かったが、そろそろ別の街に行ってみるか。いっそ、別の国に行ってみるのもいいかもしれない」

「はい、それもいいかもしれません。神のお導きが僕達にありますように」

「これでしばらく暑い迷宮とはおさらばでしょうか、もう毛皮を脱げるものなら私は脱ぎとうございました」


 アンダーグランの街に一月ほど滞在した後、また俺達は旅に出ることにした。特に金銭的には困っていなかったので、今回は商隊護衛の依頼も受けないつもりだ。


「どこか行ってみたい場所はあるか?」

「国を変えるなら、ウィズダム国はどうでしょう。小さいですが知識を尊ぶ国で、大きな図書館があると聞いています」

「迷宮にも繋がっている場所もあるそうです、と申しますかあの大迷宮はほとんどの国にその入り口がございます」


 図書館だと、俺はディーレの発言にがっしと彼の肩をつかんで、その体を前後に揺さぶって問い詰めてしまった。


「図書館、沢山の本、まだ見ぬ知識たち!!早くそれを言わないか!?行こう、今すぐに行こう、そのウィズダムという国に!!」

「うわっわわあっわあわあ、はいぃぃぃ!?今から行くのですね、分かりましたああぁぁぁ!?」

「レクス様の悪い癖が、いいえ知識欲があるというのは良いことなのですが……」


 俺の図書館への想いにディーレは感動してくれたようだ、がくがくと思いっきり首を振って旅の始まりを肯定してくれた。ミゼの奴はいつもどおりだ、猫にとっては居場所が変わることはそう重要じゃないかもしれない。

 さて思いたったらすぐに動くのが俺という生き物である、旅に必要な装備の点検をして主に食糧を『魔法の鞄(マジックバッグ)』に詰め込んで、止まっていた宿屋を引き払いさっさと出発することにした。


 この街を出たかったのには実はもう一つ理由がある、パルトウム・アンダーグラン。ここの領主である彼は、魔法銃という扱いによっては革命的な武器を量産したがっていた。


 だが、それは俺の推測したとおり、上手くはいかなかったらしい。ディーレの武器であるライト&ダークに使用した金属や魔石が珍しいものだったからだ。他のよくある鉄などの金属や、質がそこそこの魔石では魔法銃として形にならなかった。


 まず、魔石には言葉を話せるアルラウネと配下を従える中位ヴァンパイアのものが使われている。それにグラビトル石という魔力を通せば浮かぶ金属。もう一つの、ミスリルは魔力の伝導力自体が高く、硬度もそこそこあるので魔法剣を作るのに使用することがある、つまりはこの魔石や金属がどれも珍しく希少過ぎるのだ。


「さぁ、さぁ、行くぞ。また、鍛冶屋のおっさんに泣きつかれるのはもう嫌だ」

「ああ、そういう理由もあったのですね。僕もライト&ダークを気に入っています、この魔法銃を売ってくれと、そう言われ続けるのは少し疲れました」

「私も他に何かいい武器はないか、聞かれ続けるのはちょっと辛かったです」


 魔法銃は碌に魔法という技術を知らない者でも、簡単な魔法を使えるという武器だ。これが普及すれば、戦争というもの自体が変わってしまうかもしれない。


 半径が見渡す限りにおける平和主義者である俺としては、上手くいかなくて一安心といったところだった。


「うーん、今度は昼に移動して夜に眠る。そういった旅になるから、準備を念入りにこのくらいでいいか」

「僕にあわせた生活をして貰ってすいません、雑用とか出来ることを頑張ります」

「護衛依頼でもない旅です、のんびりと行くのも悪くはないでしょう」


 こうして、準備を整えると俺達はアンダーグランの街を出ていった。また、気が向いたら来てみてもいい。……あのアウラという女性が、その時に新しい夢をみつけているといいな。


「そう言えば、俺は不老のヴァンパイアだから、とりあえずその長くなる一生を生かすこと。例えば様々な場所を見て、沢山の本を読むのが楽しみだ。ディーレにも、何か目標があるのか?」

「そうですね、しばらくは冒険者として生きていける間はできるだけ貯蓄に励もうと思います。その後に教会に仕えるにしても、以前にお会いした医者の方と同じく奉仕に生きるにしても、何にしてもお金は必要だとわかりましたから」

「ああ、あの世間知らずのディーレさんが、こんなにも立派になられて!?」


 俺達の今度の旅はのんびりとしたものだ、体が鈍らないように時々は俺がディーレとミゼを背負って街道を疾走したりする。俺がミゼを担いでディーレと二人で歩くより少し速い速度で、体を鍛える為に走り続けることもあった。


 それから、お互いに俺は『重力(グラビティ)』の魔法を使って体を重くして、ディーレは『浮遊(フロート)』の魔法を使って体を軽くして模擬戦をすることもあった。俺は草食系だがヴァンパイアだ、こうして適度に二人の力を等しくし、模擬戦でお互いに戦闘技術を磨いていった。


 昼間は人目がなければ鍛錬も兼ねながら街道を進み、夜は俺は一日の六分の一ほどの僅かな間だけ眠ればいいから、その僅かな間だけディーレとミゼに野営地の見張りを交代して貰った。


 俺の草食系ヴァンパイアという体質は本当に便利だ、食事も見張りしながら適当な樹から充分にとれたし、旅をする人数が少なくてもお互いの負担は軽く、余裕を持って旅をすることができた。


「そう言えば、ディーレはよく神に祈っているが、それはどんな神様なんだ?」

「人によって様々な神が信仰されていますが、教会の主流となる神はディース神という、全知全能でこれ以上に尊い神はいないというものです。でも、私が信仰しているのはパルム神という神様です」

「へぇー、こちらにもいろんな神様がいるのですね」


「パルム神?」

「僕が考えますにディース神は全知全能と言われていますが、それならばどうしてこの世界には争いが絶えないのでしょう。僕の信仰するパルム神は、とても小さな力を持つ神だと言われています」

「私は無神論者ですが、こちらの神話なども面白そうですねぇ」


「パルム神とやらは、実際にはどんな力を持っているんだ?」

「はい、パルム神は僅かな小さい力を持つ神だと言われています、ですからあまり人気がないのです。でも、人間が努力を怠らなければ、小さな奇跡。僅かですが、必ず助けをもたらす神だと言われています」

「なるほど、あれでございますね。神は自らを信じる者を助けるというわけです」


 俺はディーレがあれほど、魔法としての天が与えた才能。そして、戦闘行為が生きる為に必要になってから、決して鍛錬を怠らない。その理由の一つが分かったような気がした、俺としてもそのパルム神とやらは気に入った。


 俺は教会が主流として信仰している、ディース神とやらは好きになれない。何だか全知全能と言われる神様という上からの者に、玩具のように弄ばれているような気がする。


 それよりはディーレが信仰しているパルム神の方がいい、人間が努力を怠らないように戒め、そしてその労に報いるように小さな助けを与える。神様とはそのくらいでちょうどいいだろう、あまり頼りにし過ぎるものじゃない。


「草食系とはいえヴァンパイアの俺でも、その神様は拒絶しないだろうか?」


 俺の言葉にディーレは嬉しそうに微笑んで答える、元々彼は草食系ヴァンパイアについてくるような変わり者だ。その答えは聞かずとも分かるようなものだった。


「パルム神がレクスさんを拒むとは思えません、貴方はただ生きるだけなら豊かな森の中にでも住めばいいのです。でも、レクスさんは決して鍛錬を怠らず、それに知識に対しても意欲的な努力家です」


 そう褒められると俺としては少々恥ずかしい、俺は俺の思うがままに自由に生きているだけでなのだ。


 草食系ヴァンパイアという、生まれかわった一生をできるだけ、楽しんで生きていきたい。そういう、ただの平和主義者だ。


「レクス様、あちらに何かございますよ」


 俺達が歩きながら神様論議をしていると、そうミゼが前方の街道の方を見て言った。


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