第三十六話 真似してできるものじゃない
「鉄の冒険者、レクス。グラン家より呼び出しがかかっている、我々と共に今すぐに来てもらおうか」
「だが断る」
そう何だか立派な鎧をきた騎士達。彼らが、買い取りをする為に来ていた冒険者ギルド、そこにいた俺達に話しかけてきた。そのことに俺が反応するより早く、俺の従魔である黒猫のミゼがどこか気どったポーズを決め、先にこう強い口調で言い放った。
「この従魔であるミゼラーレが最も好きな事の一つは、自分で強いを思っている奴に『NO』と断ってやる事だ、でございます。はぅわ、まさかこの名セリフを私が言える日が来るとは!!」
ミゼがなぜか自信満々で言い放った言葉に、俺達やその場にいた者は硬直した。何でそんなことを言いだしたのか、凡人の俺には見当もつかない。ディーレもただぽかんと口を開けてミゼを見ている、この俺の従魔の不治の病はどうしようもないことが多い。だが、時と場合を考えて……って無理だろうな、ミゼだからな。俺は今までの経験からそう判断した、そして仕方なくミゼに声をかける。
「うおーい、ミゼよ。いつもの発作か、お前の病状は深刻だな」
「ええ、ミゼさんはご病気なのですか、すぐに癒しの魔法をつかいましょう」
ミゼが病気と聞いて、ディーレは慌てて上級の回復魔法をかけようとする。ディーレよ、そんな魔法ではミゼの発作は治らない。俺は魔力の無駄以外のなにものでもないので、とりあえずディーレの肩を掴んでそれは止めさせた。ミゼは堂々と座りなおして俺たちに反論する。
「別に私は病気ではありません、前から言って見たかった有名な名台詞を、実際に言ってみただけのことでございます」
「なんだそうでしたか、本当のご病気かと思って驚きました」
「…………なぁ、ミゼ」
ミゼの発したよくわからない名セリフとやらに、立派な鎧を着た騎士達は最初のうちは戸惑っていたが、徐々にその雰囲気は険悪なものへと変化していった。俺はそれを肌で感じてミゼに向かって威圧しながら問いただした。
「その台詞を言った後のことは考えていたんだろうな、ああ゛?」
「…………レクス様、人生いや猫生とは時に考えずに、本能に付き従うものです」
「はぁ、確かにミゼさんは猫でした。動物としての本能にとても忠実なのですね」
結局のところその後、俺は馬鹿な発言をした従魔であるミゼだけ、静かに怒っている騎士達に引き渡して終わりにしたかった。
しかし、そんな俺の希望は叶えられることはなく、俺達はこのアンダーグランを統治している。グラン家の城に、一応は客として連行されることになった。案内された部屋は平民の俺たちからすると豪華で、金や銀の調度品で下品ではない程度に飾りたてられていた。
「しっかし、無駄に豪華な部屋だな。おい、一人と一匹。何も触るなよ、壊したら弁償できる自信がない」
「はぁ、なんだか目がチカチカ致します。貴族とはこのような生活で目を傷めたりしないのでしょうか」
「なんで呼ばれたんでしょうね、私達」
あまり長居したくない場所だ。何かをうっかり壊したら、弁償なんてできないかもしれないと小心者の俺は考えてしまう。暇なのでディーレやミゼとここの貴族について話してみる。
「俺も本で読んだことしか知らないが、確かアンダーグラン家はこの街を統治する伯爵であったはずだ」
「ディーレさん、五爵の中でも三番めに偉い貴族なのです。もっとも街の発展によっては爵位に関わらず、実際の権力が逆転していることもございます」
「ええと、地位はあるけどお金が無い。お金は無いけど、その地位は高いということですか?義父がそんなことを言っていたような覚えがあります」
アンダーグランとはこのフロウリア国では、伯爵にあたる貴族だったはずだ。貴族は五爵と呼ばれる五つの階級があり、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順に権力を持っていることになっている。
もっともディーレの言う通りで地位があるからと言って、その財産が多いとは一概には言えない。代替わりした貴族の馬鹿息子が、金を浪費して没落してしまうことも決して珍しくはないそうだ。
「一番下の男爵家なんかは、一代限りの貴族だからもっと酷い」
「デレクの街で見たでしょう、ダーリング騎士団長のように剣術という能力で成り上がった貴族です」
「ああ、あの娘さんのお婿さんをさがしていた方ですね。あの後、無事に良い方をみつけられたならよいのですが。あの親子に神のお導きがありますように」
一番偉いのが公爵で王都で王の側近として仕えていたり、広い領地を持ち王族と婚姻関係を結んでいたりする。逆に一番地位が低いのが男爵でこの国では一代限りの貴族であり、優秀な跡継ぎを見つけなければ次の代では平民扱いとなる。
あのダーリング騎士団長という剣術馬鹿、あの婿探しはうまくいったんだろうか。娘はあの剣術馬鹿にそっくりだという、俺だったら部屋に一杯の金貨を貰っても、絶対に婚姻なんかしないな。
「まぁ、子爵以上の貴族でも跡を継げるのは1人だけなんだがな」
「それは、どうしてですか?」
「権力の分散を抑えているのですよ、ディーレさん。貴族が増えすぎると、今度は与える土地や役職が不足してしまうのです」
王国の領土には限りがある、いやどこの国でもそれは同じだ。領主に金銭的な余裕があれば開拓を行ってはいるが、魔力溜まりで生まれる魔物に村を滅ぼされることもあるので、どの貴族でもそう簡単に領土は増えはしない。
だから、冒険者の中には結構な数の元貴族という奴がいる。長男以外の跡取りになれない息子や、何か問題があって嫁げなかった娘など、それらが冒険者として生きているのだ。
「お客人、お待たせした。ああ、堅苦しい挨拶などは必要ない。座って楽にするといい、飲み物でも用意させよう」
「それでは、遠慮なく」
「はい、座らせていただきます」
「ディーレさんの膝をお借りします」
暫く待たされた俺達の前に現れたのは、30代くらいの金髪に蒼い瞳をして威厳のある男性だった。彼の言う通りに応接室の上等な椅子に座ると、すぐに使用人が現れて、俺達のまえに菓子と上等そうなお茶を出してきた。
「単刀直入に話をするとしよう、私はパルトウム・アンダーグラン、この街を治めている。レクスといったか鉄の冒険者。お前が作らせたという魔法の杖、あれを量産することはできだろうか?できれば、大型化してより威力のある物を作りたい」
ただの冒険者である俺達に一体何の用事かと思っていたら、魔法の杖と言っているが魔法銃のことだったのか、確かにあれは強力な武器になり得る。ただし、大きな問題がある。
「それは無理だ、完全に無理だとは決めつけられないが、あの武器には良質な魔石や希少な金属が必要になる。俺達は迷宮でそれらを偶々見つけて、武器として作ってみただけなんだ。量産するとなると、恐らく品質はかなり劣化するだろう」
「……そうか、ただ単純な量産は難しいか。勿体ない話だ、新たな素晴らしい武器になるだろうに」
魔法銃が強力な武器となりうる理由はその構造にある、人間は誰しもいくらかの魔力をその身に有している。だが、それは魔力操作や魔法の鍵となる言葉を覚えないと、魔法としては使うことができない。
その問題を魔法銃は解決してしまうのだ、誰でも銃を握れば体内の魔力が自然に集まって、ただ引き金を引くだけで収束された魔法に近い威力が出せる。
ディーレの為に作った魔法銃には盗難防止の技術も施されている、俺達以外では使うことができないようになっているのだ。人の持つ魔力にはそれぞれ特徴がある、それを生かして鍛冶屋に持ち主を俺とディーレ、それに一応はミゼも登録してもらった。
「実際に量産できるかどうか、試してみるのは構わないだろうか?」
「それは魔法銃を作った鍛冶屋と相談して決めてくれ、俺達は何となく構造を考えただけで、実際に作ったのはあの鍛冶職人だ。それから劣化した模造品で何が起きたとしても、俺達は関わっていないから責任はとらない」
どんな武器でも使用するのは結局は人間だ、俺個人としては反対したい気持ちがあるが、ここの領主様となれば鍛冶屋の職人くらい雇い入れるのは簡単だろう。
それが原因で魔法銃という技術が一般的になるかもしれないが、俺は無理だと思っている。あれはよほど良い材料を贅沢に使って、良い職人に作らせないと暴発などの危険がある武器だ。
ディーレにも使用する魔力の量には、くれぐれも注意するように言ってある。その点、天才であるディーレは魔力をこめる魔石の状態をよく観察していて、その状態を見極めて器用に魔法銃を扱っている。
「そうか、わかった。ご苦労だったレクスよ、もう下がっていい」
「ああ、くれぐれも暴発などに気をつけるように、一応は忠告しておく」
ここの領主、パルトウム・アンダーグランは貴族だが、人間としてはなかなか真っ当な人物に見えた。高圧的な態度もなかったし、俺達は時間を少し取られたが、何事もなくこの場を去ろうとした。
「あ~あ~、見ぃ~つけたぁ~」
だが、それはどこか力が入っていない、不気味な女の声がするまでの話だった。
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