第三十五話 成長しないわけがない
グギャ!?
ヒギャア!!
ウゲァ!?
ギャァ!?
ゥギャウ!!
迷宮に醜い悲鳴が複数こだまする。そこでは薄茶色の髪に同じ瞳をした、端整な顔立ちの男が素早く動き戦っていた。彼に襲い掛かってくるゴブリン達の攻撃を軽々とかわして、その両手に持った銃で魔法を放ち逆にゴブリン達を狩ってしまう。相手はゴブリンとはいえ体の動きが違う、人間にしては早過ぎるといっていい。
それでいながらその動きには無駄が無く、両手に銃をもって戦う姿は舞い踊るように美しい。ゴブリンは人間のこども程度の力しかない魔物だが、その非力さを考慮にいれても、今戦っている男は美しい戦士だった。そんな男であるディーレが敵を全滅させて、俺を振り返って無邪気に言った。
「あっ、レクスさん。とりあえず、ゴブリンは掃討しておきました。これから魔石を剥ぎ取ります、いいですか?」
「おう、俺が見張っているから、心配せずに遠慮なく剥ぎ取れ」
「人間の成長とは時に恐ろしいものでございます、イケメンが爆発させてます」
俺は先ほどまでゴブリンと戦っていたディーレの後方を守っていたが、今度は安全に魔石の剥ぎ取りができるように見張りをすることにした。
以前なら、ディーレは戦闘がどちらかといえば苦手だったが、今では俺達のパーティで立派に戦う戦士である。現に今だって、ゴブリンという弱い魔物だが、魔法銃に風の魔力をこめることで、その体を内側からほとんど破壊してしまった。体の中で小さな竜巻が起こったようなものだ。
「改良した魔法銃との相性と、ディーレの魔力の高さが幸いしたな」
「まさか、これほど魔法銃との相性が良くなるとは、予想外の出来事でした。……イケメンとは何をやっても、かっこよくなってしまうのでしょうか、うぅ」
「えっ?ああ、このライト&ダークですか、二丁の魔法銃って使いやすいですね。それでイケメンって何ですか、ミゼさん?」
元々、ディーレには天性の高い才能があった。現在は両手に二丁の魔法銃、ライト&ダークと改名した、その銃と俺から習った武術と『浮遊』の魔法で体を軽くすることで、人間としてはかなり俊敏な動きができるようになったのだ。たた単純に『浮遊』の魔法を使ったら、人間はぷかぷかとその場に浮かんでしまう。それを微妙な魔力配分で加減して使ってみせる、そうして体重を軽くして、普通の人間ができない動きをしているのがディーレだ。
ディーレは才能があるが、決してその力に驕り高ぶるということが無い。俺も鍛錬は欠かさないが、ディーレも同じく自分の弱点の克服や鍛錬を続けていた。『浮遊』の魔法を実戦では使って体重を軽くするが、地道な筋力をあげる基本的な鍛錬も欠かさないのだ。それにしても魔法銃との相性も抜群にいい、俺ではあれほどに2丁の魔法銃を使いこなせないだろう。
「やはり図面だけで作って貰うのと、実際に見て貰うのは恐ろしいほど違うな」
「はい、僕にとってこの魔法銃はとっても使いやすいです。ああ、優しき神の導きに今日も感謝を」
「まぁ、レクス様では実現しませんでしたが、ディーレさんの二丁拳銃もイケメンで絵になります。はあああああ、両手銃。それは男としてのロマン!!…………どうして、私は肉球ぷにぷにへと生まれ変わってしまったのか。世界って本当に残酷なんだから、うぅ」
ディーレが剥ぎ取りをやっている間にも、いつものミゼの発作が起こっていた。もうこいつのわけのわからない発言は、俺は病気とみなしている。時には役に立つこともあるので、治す必要はないだろう。…………俺に、治せるとも思わない。
そうミゼの発作からディーレの新たな武器は生まれたのだ、こうやって妙に役立つ知識を、偶に披露するのがミゼという猫の従魔である。
そもそも、ディーレの武器。両手に二丁の銃は、俺達が鍛冶が盛んなアンダーグランという街にきたことで生まれることになった。
「こりゃ、変わった形の魔法の杖だな。魔石に魔力を貯めておき、力を一点に集中して解き放つ構造か。………………ただし、こいつは無駄な部分が多過ぎる」
「どこか改善できる点があるのか、実はもう一つ同じものを作って欲しいんだが」
「こんなに面白そうな魔法の杖は初めて見た、よっしゃあ、俺の技術向上もかねて更に使いやすくしてやる。ただ、いくつか欲しい部品や金属があるな」
「この剣達や、盾を溶かして使えないか?どうやら、珍しい武器なんだが」
俺達はアンダーグランの街に着いたら、宿をとってまず魔法銃のラミアの改良へと手をつけた。俺には愛用のメイスがあるから別にいいが、ディーレの方は相変わらず魔法銃という攻撃手段を、どうも生かしきることができないでいたからだ。かといってディーレに他の武器を持てというのも、ディーレに『魔法の鞄』の中からいくつか武器を渡してはみたが、どの武器もどうもしっくりとこなかった。
それでディーレの攻撃力向上は俺達のパーティに必要なことだったし、その為に俺は資材を惜しむつもりはなかった。以前に浚われた屋敷、そこから持ち出した武器はまだまだ沢山あったので、『魔法の鞄』からあらかじめ出しておいて鍛冶屋に持ち込んでみた。
「うおおおおぉぉぉ!!なんだ、あんちゃん。どこか貴族の坊ちゃんか、これほどの名品を溶かしてもいいとか贅沢な話だ、い、いくつか見てみてみるか」
「ああ、それからもう一丁作成して貰う銃には、この魔石や素材を使って欲しい」
「この盾とかグラビトル石も使われているな、それにミスリルの剣もある。魔石もなかなか質がいいし、こりゃアルラウネの枝か。珍しい素材の山だな、あんちゃん、一体何者なんだ?」
「んん?別にただのランク鉄の冒険者だ、これらは迷宮で倒した敵などから手にいれた。俺は仲間とできるだけ良い装備を使いたい、それに奪った武器なんかは持っていても、使わなければただの重りだ」
「そうだ、よくわかっているじゃねぇか。どんなに良い武器でも、使わなきゃただの置物だ。これと、これを鋳溶かして使う。グラビドル石が多く含まれているから、思ったよりも軽くていい物ができるぞ。ああ、楽しみだ。鍛冶屋冥利に尽きるぜ」
「ああ、頼んだぞ。ここらであんたが一番の鍛冶屋だと聞いた、名品ができあがるのを楽しみにしている」
俺はこうして両手銃の作成を良い鍛冶屋に頼むことができた、評判もだが本当は店に並んでいる剣などに魔力を流して、その質が良かったからこの鍛冶屋に依頼したのだ。
そして他にも評判のいい鍛冶屋はいくつかあったが、俺たちは当たりを引いたらしい。それから一週間ほどで、ディーレの装備はできあがった。改名、ライト&ダークという両手銃が完成したのだ。ちなみに余った金属を鍛冶屋に譲ったから、格安で作って貰うことができた。
「凄いです、以前とは比べものになりません。魔力の流れがとても速く、また軽いです。これを私に……、ありがとうございます、レクスさん!!」
「ん、ディーレが戦力になれば、結局は俺とミゼが助かるからな」
「うわわわわわわわわ、綺麗ですねぇ、完成された無駄のない武器とは、こんなに美しいものになるのですか」
実際に完成した二丁の魔法銃は芸術品と言っても良かった、機能性に特化して無駄な部分をそぎ落とされたこの銃達は、旧ラミアとは一線を画していた。
ちなみに新しい両手銃に命名したのはディーレ本人だ、一丁は白銀のように光り、もう一丁が漆黒の闇のように黒かったので、ライト&ダークと名付けたそうだ。俺たちはその魔法銃の力をさっそくアンダーグランにある迷宮、ラビリスの街にも深いところで繋がっているという大迷宮で試してみた。
ぐらああぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあぁぁあ!!
「私にもこれくらいのことは!!――レクスさん、とどめをお願いします!!」
「おうよ、任せておけ!!」
「私は待機しておきます、防御魔法はいつでも発動可能です」
結果的にオーガなど大物との戦いにもディーレは参加できるようになった、光属性の魔力弾を小さな的であるオーガの瞳に見事に当てる。これは、光りの目潰しだ。
または火属性の火炎弾を口の中に当てて内側からその身を焼く、ディーレの魔法銃の扱いはますます洗練されていき、俺は戦闘でとても助かることになった。
ただの風属性の風撃弾でも、ゴブリンやコボルトなどザコを始末するのに役に立つ。風撃弾をくらったザコはその体を内側からはじけさせ、魔石の回収なども楽々と行えていた。
「ただ、その法衣はちょっとまずかったな」
「…………丈夫さが裏目に出るとは、神よ。私に新たな試練を与えたのですか」
「法衣を引っ張られて転ばれますとは、ちょっと作り直して貰いましょうか」
そこでいつものように狩りをしていたら、ディーレがデビルグレイトスパイダーで作った法衣を、隠れていたゴブリンに引っ張られて転倒してしまった。
すかさず、俺がメイスでそのゴブリンは叩き潰したが、ディーレに作った丈夫な法衣が仇になってしまった。ゴブリン程度ならまだいいが、オーガなどにそのだぶつく法衣を掴まれたりしたらかなり危険だ。
「中に着る服を作りなおして貰いました、法衣の方は裾が短いものに変えました」
「…………敵に服を掴まれて、振り回される危険はなくなったわけだ」
「レクス様もよろしかったですね、更にいい服になりましたよ」
一旦デビルグレイトスパイダーで作った服を、糸に戻して貰って俺達は改めて装備を作り直して貰った。
俺は黒を中心とした体に沿った形の服を着ている、その上にオーガの皮の胸当てや、体の急所を守るように革製の防具をつけている。鎧は動きを阻害するので好きじゃない。後はまた作り直してもらった、金属片がついた殴打武器にもなる手袋。それに動きやすくて丈夫なブーツだ。
俺とは対照的に白の法衣をまとっているのがディーレだ、その白の法衣の下には俺と同じでデビルグレイトスパイダーで作った、その細身の体に沿った形の服を着ている。手袋はごく普通のオーガの皮のもの、法衣の中に来ている防具やブーツは俺と同じものだ。
ミゼ?ミゼのやつには装備させるものがない。本人も絶対に服など着ないと嫌がるし、たたミゼの体の動きの妨げになるだけだと俺は思う。そんなどうでもいいことよりももっと大事なことがある。
「アンダーグランに来て良かったな、迷宮は他と違って少々熱いから居心地が悪いが、何といっても鍛冶屋と防具屋の腕が素晴らしい」
「ここはそういった物をつくるのが盛んな街なのですね、武器か防具を扱う職人の方が多いです」
「食事は大雑把な味付けが多いですが、これはこれでシンプルで美味しいです」
俺達は装備を充実させて、今日も平民らしく一生懸命に労働をおこなった。オーガを数体と、その他のザコを片付けて魔石を売る。
今までと何も変わりのない生活だ、平民とはそういうものだ。その日、その日を、精一杯に生きて働いてその代わりに糧を得る。
その日も何も変わりはないはずだった、そう何だか立派な鎧をきた騎士達。彼らが、買い取りをする為に来ていた冒険者ギルド、そこにいた俺達に話しかけてくるまではそうだった。
「鉄の冒険者、レクス。グラン家より呼び出しがかかっている、我々と共に今すぐに来てもらおうか」
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