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第三十一話 追いかけるだけじゃ済まされない

「なぁ、レクス。今度はお前の順番さ、この街のお仲間(・・・)と一緒に全て食べてやる」


 そう言い放つとグラッジはギルド長の部屋にあったガラス窓を叩き割り、そのままそこから外へと逃走した。あっという間のことで俺も止めることができなかった、俺より反応が遅い人間たちなら尚更無理だ。


「あいつはグールだ!!俺はあいつの跡を追って、仕留める!!」

「わ、わかった!!」


 俺は窓から飛び出したグラッジの後を追って屋根の上を走った、グールは人食いの化物だ。ヴァンパイアほど強くはないが、ゾンビと違って体が腐らず、また日光も平気なのでヴァンパイアが眠るその昼の間にその主人を守るという従魔だ。


「あはははははっ!!なぁ、レクス。お前、俺だけを追いかけていていいのか?」

「ああ゛?」


 グラッジは俺ほどではないが人間よりも早く屋根の上を走っていく、俺は力を抑えて見失わずにまた追いつかないようについていった。グラッジの言うことが本当ならこいつには仲間がいる、その仲間のグールかヴァンパイアも危険だから退治しておきたい。それにもっと気になること(・・・・・・・・・)をこいつはさっき言った。


 そんなことを考えている俺に向かって彼は奇妙なことを言う、ディーレとミゼの捜索と冒険者ギルドでも尋問で時間を使ったから辺りは既に夕暮れ時だ。っまさか!?


「キャアアアアァァァァァッ!!」

「な、なんだこいつ!?」

「ゾンビだ、誰か魔法を!!」

「こっちにはグールがいるぞ、冒険者ギルドに応援を!?」

「嫌あぁぁぁ!!助けてえぇぇぇl!?」


 俺とグラッジが屋根で追いかけっこをしている間に、夕暮れ時となった街のあちこちから同時に複数の悲鳴が上がった。しまった、既に仲間を街に潜ませていたのか!!


「あはははははっ!!なぁ、なぁ、今夜は食べ放題だ。皆で一緒に楽しめる」

「くそったれ!?『標的撃(ハンティングショット)』!!」


 決してグラッジを見失わないように気をつけながら、暗くなっていく街に徘徊しはじめたアンデット達に魔法を放った。


 もう命が失われてしまった者達に、標的を追跡する効果がある中級魔法を当てて、その体をもう利用されないように破壊する。目についたアンデッドから、そうやってできるだけ俺は始末していった。


「あーあ、可哀想にお前のせいだ。俺が皆を食ったように、この街の皆も食われることになる。あはははははっ、ざまぁないな!!」

「うるっっさいんだよ、女の趣味が悪い馬鹿のくせに!?『標的撃(ハンティングショット)』!!『大治癒(グレイトヒール)』!!」


 俺は街中に溢れだしたアンデッドを、グラッジを追いながら『標的撃(ハンティングショット)』で可能な限り破壊する。更に傷を負った者の為に、中級魔法の『大治癒(グレイトヒール)』を効果は低く範囲は広くしてかけておく、こうしておけば軽い傷なら完治する。何もしないよりはずっとマシなはずだ。


 ああ、ここにディーレの奴がいれば話が早い。光属性の広範囲浄化魔法を唱えて貰えばいい。それで少なくともゾンビどもは片が付く、その後は街の冒険者に疲弊した彼を預けてグールから守って貰えばいい。


 俺自身もその魔法は使えるが、使ってもディーレほどの魔法の適正が無いのだ。焼け石に水、一時的にアンデッドを行動不能にはできても、その遺体を世界に還元するほどの効果は出ない。俺の全魔力を使用すれば話は別だが、そうすると今度はグラッジの奴を追えなくなってしまう。グラッジの行く先にはきっとこいつを使役しているヴァンパイアがいるはずだ。


「おーやぁ、可哀想なレクス。お前なんか村で一番の弱虫が、ただの虫けらがいるからだ。母さんは甘くて美味しかった、妹は辛くて美味かった、マリアナはどんな味がしたんだろう?」

「グラッジ、お前はっ!?」


 俺から逃げていくグラッジの発言はおかしい、正常な人間なら言わないような事を言っている。どうやら、グールになったことで人間としてのグラッジは、もう完全に死んでいるのだ。


 そんな彼を見失わないように注意しながら、決して追いついてしまわないように、手加減をしながら彼を追いかける。


 こいつは俺にお仲間(・・・)と一緒にと言った、つまりグラッジの逃げていく先には、ミゼとディーレが捕まっている可能性が高い。


 人間のまま(・・・・・)で捕まっている可能性は逆に低い。でも、もしディーレやミゼが目の前にいる壊れた人間の残骸のような。そんな無残な姿になっていたとしたら、俺自身で片を付けてやらなければならない。


「おーい、おーい、ここまでおいで。やっぱりお前は村一番の愚図だ!!」


「母さんは泣いていたけど優しかった、妹は泣き喚いていて面白かった」


「レクスが悪い子だからいけない、だから俺は皆を美味しく食べて、あれっ、それならレクスも少しは良い子なのか?」


「お前を連れていったら、俺もこの街の奴らを食べよう。ああ、楽しみだ!!」


「子どもは肉が柔らくて美味しい、女は犯して食べると楽しい。男は固くて楽しくないが、ただ潰すだけなら面白い」


「あはははははっ!!最高だ、早く食べたい、食べたい、食べたいいぃぃぃ!!」


 グラッジの人間としては壊れてしまった発言を聞きながら、俺は奴を見失わないようにずっと追っていった。やがて、俺達は街の外壁を飛び越え、魔の森にある奥へと入っていった。


「ああ、もう着いてしまった。それじゃあ、レクス。お前の肉を食わせてくれよ、いくら固くてまずくても、今なら許してやるからさぁ!!」


 俺達が辿りついたのは、魔の森の中に端の山肌にある広さのある洞窟のような暗い場所だった。グラッジはそこに辿りついた途端、俺の方に全力で飛びかかってきた。


「馬鹿がっ!!お前と今の俺とじゃ、勝負にすらならねえよ!!」

「グガァ!?」


 俺はギルドで尋問を受けていたから武器を何も持っていない、でも草食系とはいえヴァンパイアとグールでは明確な力の差がある。


 それにグラッジの体の動きは戦う者ではなかった、こいつ本人は村民だった人間だった頃と同じで戦闘技術が身についていない。俺は飛びかかってきたグラッジを遠慮はせず、蹴り飛ばして地面に這いつくばらせた。


 ああ、神だかなんだか知らないが感謝する!!次の瞬間、俺は思わずいるかどうかも分からない神を思った。だって俺を呼ぶ大切な仲間の声がしたからだ。


「レクスさん!!やはり仲間は信じるに足る者でした。慈悲深き神よ、ありがとうございます」

「お待ちしておりました、レクス様!!」


 俺は神なんて普段は信じてないのに今はそれを信じてもいい全く勝手なものだ、仲間たちの無事そうな姿を見てほっとする。


 洞窟の端っこの方に小さな檻があった、人間なら座らないと入っていられないような小さな檻だ。その中には少し薄汚れてしまって、同時に疲労しているようだったが、一人と一匹。ディーレとミゼがそこに捕まっていた、今のところアンデッド化しているようには見えない。


「なんだ、元気そうじゃないか。攫われるなんて馬鹿なディーレと、その他一匹」

「はい、申し訳ありません。神とレクスさんに、もう一度心からの感謝を」

「その他一匹って、せめて名前を呼んで欲しいです。…………労働環境の改善を訴えたいところでございます」


 俺が近寄ってその小さな檻を壊してやろうとする、何だかやけに固い檻だ。鉄の檻くらいなら圧し折れる俺でも、ちょっとこの檻を破壊するのは大変そうだ。


「ふぅん、これがローズを倒した羽虫か。さぁて、どこから壊して遊ぼうか?」


 それでも俺が全力で檻を壊したその瞬間、すぐ近くに大きな魔力を感じた。思わず檻の残骸を引き千切り、助けたディーレとミゼを抱き抱えて大きくジャンプし、いきなり現れたそいつから離れて距離をとる。


 そいつはこんな暗い洞窟には似合わない、まるで貴族が着るような素肌を包む白いシャツに黒い上下の服、磨き込まれた艶のある靴を履いていた。


 濃い紅色の男にしては長い美しい髪、真っ赤な瞳をもつ男は笑ってこう言った。


「やぁ、私はフラトリス・ミディアム・ニーレ。可愛い妹を殺された憐れな兄さ、だからちょっと君たちは、ここで悶え苦しんで死んでくれるかな?」


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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