第三話 ぼけっと食べられてやるつもりはない
「どこだ?」
「いないわ、そっちはどう?」
「ああ、神様!!」
「探せ、探すんだ!?」
「喉が乾いて……」
うーわっ、やっぱりあいつら何かの化け物になったのかよ。日が落ちた途端にわらわらと外に飛び出してきた。喉が渇いてって欲しいのは水じゃないんだろうな、昔話に聞くヴァンパイアみたいに血が欲しいって言われたらどうしよう。ああ、神様って、その神様はそのヴァンパイアの天敵ではなかっただろうか。
そんなふうに、おそらくヴァンパイアもどき達は俺を一生懸命探しているんだが、俺もぼけっと彼らに食べられてやるつもりはない。
「大体、俺もまだ人間なのか?」
ヴァンパイアの弱点と言えば何といっても日の光だ、でも俺は少し眩しかったけど、真っ黒焦げの灰になることは無かった。
だからといって俺がまだ人間かと言われると、大いに怪しいところがある。だって今の俺って屋敷の最上階の屋根にいるんだからさ。
壁の微かな凹凸に指をかけて、必死に登ってきたんだぜ。…………いやこれは嘘だな、わりと軽々と鍋のお湯が沸くより速く、ひょいひょいっと登ることができた。
「えーと、俺が目覚めた部屋はこの辺りか?」
そして、屋根まで登りきった後、なるべく静かに工作中だ。要は壁の中に埋まっている窓部分らしきところを、力づくで何とか剥がそうとしてるんだよ。
地下室で鉄製の鍵をぶちっとやったことも、今考えると別に脆くなっていたわけじゃなさそうだ。俺は随分と怪力になったらしい。その力でなるべく、静かに、静かに、侵入口を作っていく。
「………………よっし、誰もいないな」
ここは多分、この屋敷の主人の部屋のはずだ。だって、部屋の内装が屋敷で一番豪華だったからな。だからあるだろう、よしあった!!
「ほい、中の扉の内鍵をかけてから、俺が入ってきた窓は家具で塞ぐ。これで、今夜一晩くらいは大丈夫だろ。明日は屋敷中の窓をぶち壊せば、それでヴァンパイアもどきの退治終了。あっ、でも地下室あるからダメかー……。うーん、どうするか?んん?」
シャッシャッシャッシャッシャッシャッシャッ……
なんだ?ガラスを小さく引っ掻くような音がする、よく見れば部屋の隅に贈り物っぽい箱が沢山あるな。その中の一品がゆらゆらと少しだけ揺れている。
「ん?でっかいガラスの花瓶の中に猫が?水の中を泳ぐ珍しい猫なのかな?」
「そんなわけねぇよ!早く!!早く出してください、お願いします!!」
おお、猫が話すなんて珍しい。とりあえずは出してみよう、話せるってことは、この謎の城のことを多少は知ってるってことだろうし。人間はあまり好きでは無いが動物を愛する俺は、花瓶をひっくり返して猫?を解放してやった。
うん、俺は結構動物が好きなんだ。特に鳥とか、兎なんて食べれたら素敵だね。豚や牛とかも一回くらいは食べてみたいもんだ。まぁ、寒村での食事なんて、何だろうと肉が入ってたらご馳走ですよ。
「はぁー、はぁー、死ぬかと思った、咄嗟に花瓶をひっくり返して、すぐに低活動状態にスリープしなかったら、あと少しで死んでた!それも全部お前が悪い!!」
「そうか、動物を愛する俺としては喋る猫なんて珍しくて勿体ないが、とりあえず非常食にしてみるか。綺麗に捌いた後に燻製して……いや、喋る猫とか高く売れるかも」
俺がわりと本気で非常食にするべきか、それとも持って帰って珍しいペットとして売り払おうかと検討してみる。そうすると、ねこがぷるぷる震えながら提案してきた。
「私は優秀な使い魔です、魔法だっていくつか習得しています。食べたり売り払うなんてもったいない掘り出し物なんです、それに昨日起こったこともお話できますよ」
「あっ、それ。そこは聞いておきたい、一体何が起こったんだ?それから、この屋敷から脱出する方法があったら、それを聞いておきたい。あと、使い魔っていうのは珍しいのか、皆がお前みたいに喋るのか?」
俺が気になっていた昨日あったこと、そしてこの屋敷からの脱出方法、あとはしゃべる猫のこと。この最後はまぁどうでもいいが一応は聞いておこう。
「昨日はこのお屋敷の主、ローズ・ミディアム・ニーレ様の生誕日でした。私はその贈り物の一つだったわけです、そして……」
ここからはこの黒猫が語った回想だ。
「あらあら、今年のヌーボーのメインね。あとの二人は大したことがなかったわぁ、貴方は楽しませてくれるといいんだけど……」
私のこれからの主になる、ローズ・ミディアム・ニーレ様はなかなかの美少女。濃い紅色の美しい髪をした、真っ赤な瞳の女性。年は知らないけど、見た目は15歳くらいだから、まぁまぁですね。
そして、あの男がご馳走のメインディッシュですか、近くの村から攫ってきたそうですが、こんな辺境の寂れた村にもイケメンは転がってるんですねぇ。15歳のわりに凛々しくて、厳しい労働のおかげで体もスマートとは、……イケメン爆発しろ。
「あっぐうぅわぁぁぁぁ――――!!」
ぎぎぎぎぎっ、ぶちっぶちっぶちっぃ!!
え?何だ、あれえええぇぇぇ!?に、人間がヴァンパイアの喉を喰いちぎったあああぁぁぁ!?そのまま、ゴックゴックとローズ様の細首から血が吸われてるんだけど、一体何が起こってるんだ??
あっ、ローズ様が灰になって消えた。ってあの男、なんか瞳が紅く染まってるんですけど、その体が霧に?なんかこの霧、嫌な予感がする――!!
ええい、あっ花瓶があった。いけてある花なんかどうでもいい、この花瓶を倒して、早く、早く、男の輪郭が消えていって霧がこっちに広がってくるうぅぅぅ!!
痛いっ、痛いっ、この霧!やっぱり普通じゃありません!?
良かった!やっと、花瓶が!?ええい、生命活動を最低限の低活動状態に……。
以上、この黒猫の回想は終わりだ。
「というわけで貴方がヴァンパイアのローズ様を反対に食べてしまったのです。高位のヴァンパイアには霧や動物に変身できる者がいると本にはありましたが、どうして高位ヴァンパイアの貴方が生誕日のご馳走に?」
「…………他の質問、二つに答えてないぞ」
「この屋敷からの脱出方法ですか? 言うまでもありません、高位ヴァンパイアでしたらご自分の羽で飛ぶことができるでしょう。あっ、蝙蝠に変身するとか、霧になって移動してもかまいません。あと使い魔はわりと力ある魔性の傍には多いですが、私ほど気の利いた会話ができる者はなかなかおりませんよ」
「…………もう二つ、聞きたい。ヴァンパイアは、普通は他のヴァンパイアを食べたりするものなのか? もし人がヴァンパイアを食べれば、ヴァンパイアになれるのか?」
「ヴァンパイア同士で食べ合ったりすることは普通はありません、稀に敵対関係になった時にも殺し合いはします。ああ、記憶を探るために相手の血を飲むことはありますね。二つ目は、プププ、プスー!ヴァンパイアを食べてもヴァンパイアにはなれません。もしなれるなら欲深い人間が攻めてくるでしょうね、例えるなら魚を食べても魚にはなれないのと同じことです」
よし、よく分かった。この使い魔って、あんまり役に立たない。でも俺も故郷の村くらいしかしらない田舎者だしなぁ、こんなのでも連れて行けば何かの役には立つだろう。
この猫の話を聞く限りでは、俺は理由は分からないが高位ヴァンパイアらしい。そして、ここから脱出するには羽で飛ぶか、変身するしかないという。できるのか、それ?
「うーん、飛ぶ。飛ぶ、飛ぶねぇ。俺は飛べる、飛べる、飛べる。うわぁ、無理」
俺は自分の身体が浮き上がるイメージをしてみる、…………ダメだな。羽なんか今までの人生で生えてた覚えがないから、背中から羽が生えてくる気配も無い。もし、羽があったとしても、全く動かせる気がしない。
それに今日は一日、屋敷の探索で疲れたし、屋敷の最上階までクライミングもした。…………なんだ!つまりは逆だ!!空を飛ぶ手段が無かったら、あの崖を下まで降りていけばいいだけの話だ。それじゃ、まず俺のすることとは決まっている。
「というわけで、俺は寝る。お前は俺の使い魔になるんだっていうなら見張りをすること、以上。おやすみ~、猫」
「はいい!?えっと、ああ、はい。おやすみなさいです!!」
俺は使い魔である黒猫に見張りを任せて、体力を回復させる為に寝ることにした。そうだ、起きたらこの使い魔の名前を聞かないといかん。
なんだかんだで俺達は自己紹介もしていない、まぁいいか。今はもう、ただ眠い。
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