第二十八話 どこかで見かけたかもしれない
「おいっ、こいつは俺がやる。ディーレとミゼは警戒しながら防御に、回避!!」
「は、はい、『聖殻』!!」
「お任せください、『風硬殻』!!」
俺達はいつものようにデレクの森近くで狩りをしていた、デビルウルフなどを狩っていたのだが、そこにデビルグレイトスパイダーが現れた。
久し振りの大物の魔物だ、さぁて狩りを楽しむとしよう。俺の体が鈍らないように、こういった大物との戦いは楽しみでもあり、草食系とはいえヴァンパイアの破壊衝動を満たす為には必要なことなんだ!!
「くっそっ、厄介なやつだ、『追氷岩』!!」
大体デビルと最初に名がつくモンスターは、魔の森など魔力溜まりの高い魔力に影響されて、魔物になった生き物だ。
このデビルグレイトスパイダーも、元はただの蜘蛛なのだが、その大きさは家一軒くらいもある。その体の周囲にそいつの巣なのだろう、粘着性の強い糸がはりめぐらされていたので、これを中級魔法でまずは凍らせて無効化しなくてはならない。俺はそいつが吐きだす、粘着性の強い蜘蛛の糸を水系統の中級魔法で凍らせて止めた。
バキバキバキッグシャァ!!と派手な音がする。相手が糸を吐きだしきった瞬間を狙って素早く接近し、八本ある足の数本をメイスで破壊した。
大きさが小さな家くらいもある大物なので、その体まるごとをぶち壊すまでには至らなかった。でかい蜘蛛はまた獲物である俺達に粘着性の強い糸をぶちかましてくる。
「この糸には絶対に捕まるなよ!! これでどうだ、『風刃』!!」
「は、はい!!」
「お任せください!!」
シュッィィィィィン!!と風の音がした。俺は一旦、敵から遠ざかって、また吐きだされた糸の隙間から、風の初級魔法を当ててみた。ダメだ、こいつくらいの大物になると、初級ではデビルグレイトスパイダーの強靭な足を浅く切ったくらいだった。
闘いながら俺は仲間の状態も確認している、ディーレもミゼも作り出した魔法での防御をうまく生かして、粘着糸には捕まらないようにしている。
「ははっ、それじゃこっちはどうだ、蜘蛛野郎、『風斬撃』!!」
ギュッィィィィィィィィィィン!!再びさっきより強く風の唸る音がした。俺は蜘蛛野郎の注意が仲間にいかないように、木々を蹴って空中を飛びまわりながら、風の中級魔法を行使する。
っこれもダメか、さっきよりは深く足の半ばほど、それに細くなっている部分が斬り飛ばされたが、魔物は生命力が強い。まだ、五本の足を残していて、逃走しようとソイツは動きだした。
「なぁ、逃がすと思ったか?『飛翔』!!」
草食系とはいえヴァンパイア、俺の脚力なめんな!!両足で強く地面を蹴り加速し、最初の跳躍からそのまま『飛翔』の魔法で逃げ出した、デビルグレイトスパイダーに肉薄する。
慌ててそいつは再度戦おうとまた粘着糸を飛ばしてくるが、俺の魔力の強さを忘れてはいけない。たとえ普段とは違い魔法で飛翔していても、吐きだされる糸を避けるくらいは楽勝だった。
「やっぱり、最後はこれだな!!」
ぐわっしゃあ!!と蜘蛛の背中に振り下ろしたメイスから大きな鈍い音があがる、続いて振り回したメイスはバキバキバキッグシャァ!!と蜘蛛の足が三本折れていく音を響かせた。俺はデビルグレイトスパイダーの背中に降り立つと、そいつがなんらかの反撃をする前に背中と足を潰し、素早く頭まで駆け上がり最後にメイスでぐしゃり!!とその頭を破壊してしまった。
おっとここで俺は油断などしない、さすがは魔物。頭が潰されていても体の動きが止まらない。頭を潰したついでにと、残っていた二本の足もメイスで完全に潰して動きを止めた。
なんでも俺達の頭を小さくしたような、複数の頭がこういった昆虫系の魔物にはついていて頭を潰しても関係なく、しばらく体は動き続けるんだそうだ。こういう知識はミゼのうけうりだ、時々妙なことに詳しいのがミゼという従魔だ。
「おーい、それじゃ楽しい剥ぎ取りタイムだぞ」
「はい、頑張ります」
「私は魔法でお手伝いいたします、『乾燥』」
俺は蜘蛛野郎が完全に動かなくなったことを確認する、胸部にあった魔石も回収した。ん?そういえば蜘蛛野郎とは言っていたが、蜘蛛の性別の見分け方など知らないな。まぁ、オスでもメスでも末路は変わらないからいいだろう。
「おーい、ミゼ。次は俺が代わろう。『乾燥』お前は糸玉を転がしておけ」
「糸を巻いて、巻いて、なんだか楽しくなってきました」
「ディーレさんは地道なお仕事が好きですね、私はあれっ、これっ、楽しい。待て、待て、糸玉――!!」
俺達が今回の魔物で剥ぎ取っているのは蜘蛛野郎が吐きだした糸だ、ただの蜘蛛でもその糸の強さは凄い。なぜなら蜘蛛の体重を軽々と支え、自分より大きな獲物を捕食するにも役立っている。
それが魔物の蜘蛛なら尚更のこと、吐きだされた糸は強靭だ。今回はそれを『乾燥』の魔法で粘着性は無くして、でもしなやかさは保ちつつ、強靭な糸を適当な石に巻き付けて回収しているところだ。
「デビルグレイトスパイダーがいたとは運がいい、これで防御服でも作るか」
「む、虫の糸の服ですか?」
「ディーレさん、それをいったら貴族などが好む絹だって、蚕の糸を使用します」
デビルグレイトスパイダーの糸なら、普通の服よりも柔軟性があって、戦闘服にはもってこいの性能をしている。更に贅沢を言えばデビルシルクワームの糸なら、まるで絹のような滑らかな肌触りの服になるらしい。
もっとも、防御力だけで考えるのなら、デビルグレイトスパイダーが吐く糸の方が強い。今日は良いものを手に入れた、このくらいの量があれば二人分くらいの服が何枚か作れそうだ。余った分は高く売れるので、それもまた良し。
「ただ、本当に地味だな。この作業、なんだか俺は飽きてきた」
「レクスさんはお休みしていてください、僕とミゼさんでできますから」
「はぅぅ、糸玉って転がすのが楽しい。何これ怖い、やめられない」
ディーレが優しいことを言ってくれたので、遠慮なく俺は木にもたれて生気を分けてもらい休憩した。また、ただ休んでいるだけじゃない、きちんと他の魔物がこないか確認していたぞ。二匹ほど近くに魔物が現れたが、少し威嚇してやれば逃げていった。
ははははっ、俺は休みながらも仕事ができる男だ。草食系ヴァンパイアとは本当に便利な生き物だな。
「随分と取れたな、それじゃ帰ろう」
「はい」
「はっ!? つい雪だるま式に遊んでしまいました、面白かったです」
俺達はデレクの街に帰ると商業地区で、いい防具屋を探してまわった。完成品としてデビルグレイトスパイダーの糸で作られた服、それが飾られていた店に材料である糸玉を渡して値段交渉をした。
残った糸をこの店に売ってもいいと言うことで、わりと安価で見本のような防御服を、予備も含めてそれぞれ作ってもらうことになった。ディーレは聖職者のような法衣を選んでいた、教会は嫌いでも相変わらず神への信仰は揺らがないそうだ。
「俺はなるべく肌を見せないシャツとズボンでいいけどな、法衣ってゆったりしてて逆に動きにくくないか」
「最初に着たときはそう思いましたが、今ではこちらの方が動きやすいです」
「私には関係ないお話ですね、あっ、私に服を着せようなんて止めてくださいよ」
俺は別にミゼに服を着せようとは思わない、というか今まで服を着た猫に会ったこともない。不可解なことをいうミゼを不思議に思いつつ俺達は店を出た。するともう日が暮れかけていたので、宿に戻る道をのんびりと歩いていった。途中で屋台により、簡単な食事を済ませる。
デレクの街はこういった簡単な屋台でも美味しい物が多い、まぁ俺は食べれないから、精々スープを飲むくらいだ。それでも、よく煮込まれた野菜と肉汁がしみ出ていたスープは熱々で美味しかった。
「……………………見つけた」
「んん?」
ふと気がつくと食事をしている俺達を、ギラギラとした目をした男が一人睨みつけていた。俺はどこかでこの男をみたような気がした、一体どこでだっただろうか。
濃い茶色の髪に、やや赤みがかった黒い瞳、年はおそらく成人したてだろう。俺はこいつをどこで見かけたんだったか、この街に親しい知り合いは数えるほどしかいない。
俺が記憶を辿っている間に、その青年はくるりと身を翻して姿を消した。
少し気にはなったが、俺の頭はその青年のことをすぐに忘れてしまった。
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