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第二十六話 こんな事には屈しない

「これから第一回、盗賊討伐と女性救助についての会議をします。何か気がついたことがあったら、すすんで発言してみましょう」

「はい、おそらく盗賊達はこの村からそうは離れていない場所にいるはず、ここの森の奥などをもっと捜索しましょう!! 今すぐ助けに行きたいです!!」

「ディーレさん、まずは落ち着いてください」


 俺達は依頼のあったレート村の周囲に広がる森の捜索をしていた、近くには小さいが山もある。もし本当に(・・・)盗賊がいるのなら、その捜索範囲は広すぎる。普通に探せば二、三日では済まないだろう。


「なぁ、一人と一匹。な~んか、おかしいと思わなかったか?」

「えーと、何がでしょうか? はっ、盗賊がきたわりには被害が少なすぎるとか?」

「確かに村を襲えるような盗賊団にしては、今回の被害は少なすぎますね」


 幸い村に負傷者はいなかったから、ディーレの回復魔法に出番は無かった。俺達は森の端を歩きつつ、まだ村が見えるところにいる。今回、盗賊が奪っていったのは、女性が一人と少々の金銭に酒だ。なんて、慎ましい盗賊なんだろう。


「村を襲うという危険に反して、奪った物や人が少なすぎる」

「盗賊の数が少ないということでしょうか、えっ、でも人数の少ない盗賊さんなら、そもそも村を襲ったりはしないですよね」

「村を襲えるほど自信がある集団なら、それなりに人数がいるはずです」


 歩きながら村の様子を観察して、森に多数の人が出入りしたような跡を探している。そうしながら、俺達はちょっとした会議中だ。


「そうだ、村を襲うくらいの力がある盗賊なら、もっと被害が大きく出てもいい。他には?」

「ええと、うーん。はっ、そういえばヴァンパイアの仕業だという方もいました」

「ディーレさん、その可能性は低いと思われます。ヴァンパイアは強いモンスターです、もしそうなら盗賊よりずっと大きな被害が出たでしょう」


 俺達は盗賊退治と女性救出が終わるまで、村長の家に泊まるようにすすめられた。一応、部屋は用意して貰った。だが、まだ日も暮れてもいないし、俺達は夕暮れの中で丁寧に地面を確認していく。


「他には何か思いつかなかったか?どこかにおかしいところは? 矛盾する点は?」

「…………矛盾する点、…………おかしなところ」

「ディーレさん、頑張ってください!!」


 ミゼは既に気づいているのか、ディーレが思考するのを応援している。俺は草食系だがヴァンパイアだ、よく注意して聞けば相手の心音の速さ、呼吸の回数などで、ある程度の嘘を見分けることができる。


「盗賊ってのは荒くれ者が多い、殺人者だって珍しくない」

「ああ、村の方に怪我を負った方がいない。それは良いことですが、おかしい?」

「そのとおりです。負傷者が一人もいないというのは少しおかしいです」


 俺の能力は確実なものではないが、それにしてもこの村の連中が嘘が下手だった。ディーレがその点に気がつくように待ちながら、とうとう村の周囲を一周してしまった。


「村を襲えるならある程度の人数がいるか、他にもう一つ可能性がある」

「ああ、僕達みたいに魔法が使える人がいる。でも、それならやはり被害が少なすぎる。それに魔法が使えるなら、そう言って脅した方が効果的でしょうか?」

「それなりに例えば中級魔法が使えるのなら、それを言って聞かせて脅した方が金品も手に入りやりやすいでしょう。ディーレさんの言う通りでございます」


 俺が調べてみたところ、特に森の端に踏み荒らされたような、不自然に見える場所はなかった。人を攫って逃げれるような盗賊団なら、馬の一頭もいるだろう。だが、森の端にはどこにもそんな痕跡はない。


「目撃者は何と言っていた? ディーレ、お前は記憶力がいい。村の連中から言われたことを、全て覚えているだろう?」

「はい、そういえば子どものようだった、大男、大きな剣を持っていた、黒い服に鎧、それからヴァンパイア?妙に詳しいけれど、証言がいくつかバラバラですね」

「はい、ディーレさん。お見事でございます」


 ディーレは実はかなり記憶力がいい、魔法への天性の才能といい。天はディーレにいくつもの才能を与えたようだ。もっとも、天然の純粋培養物という欠点があり、才能が相殺されてしまっているとも言えてしまう。


「それで結論は、ディーレ」

「はい、小さい人と大きい人がいる、少数の盗賊さんでしょうか!!」

「…………ディーレさん、もうちょっと頑張りましょう。もっと、疑問を持って下さい」


 やっぱり、天然の純粋培養物というのがディーレに大きな弱点だ。まずは人を疑うところから学んで欲しい、今回の依頼はそのちょうどいい機会なのだ。


「ディーレはもっと人の悪意について、相手が嘘をついていないか。表情や動作、声の調子など観察して欲しい」

「人を疑うのは心苦しいですが、これもまた神の試練の一つ。よく人を見て観察するようにします、それでは攫われた女性の捜索を続けましょう。早く彼女を助けてさしあげなければ」

「…………問題は、助けた後にありそうです」


 ディーレにはできれば自力で答えに辿りついて欲しかったが、攫われた子のことを考えるのなら、早く解決した方がいいだろう。


「よし、村人をまずは一カ所に集めて貰う。さっさとその子を見つけて、皆を安心させてやろう」

「何か方法があるのですね!!」

「これはディーレさんだからお話しますが、レクス様も上級魔法の使い手なのですよ」


 俺はまずは村で一番に偉い奴、村長に話して困惑する村人を一カ所に集めて貰った。そして、村の簡単な地図を書いて貰う。


「どうして私達は集められたのでしょうか、こんなことに一体何の意味が?」

「落ち着いてください、少々お時間を頂きたいだけです」


 村人達は村の広場に集められた、きちんと村長や他の村人にも説明して、村人全員が揃っていることを確認する。


 俺はディーレを盾にして、村人に背を向けてとある上級魔法を無詠唱で発動させた。


広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)


 これは術者の魔力の高さによって、広い範囲に潜む者をさがす魔法だ。俺のほどの魔力の高さなら、この村一つにその周辺にある森もある程度は探索可能だ。


 村人達と同程度の存在である、攫われた女性を探す。大小の獣や魔物の気配が入り混じっていたが、探し人は森の中にはいなかった。やはり、俺がある程度予測していた場所に、この村の中に彼女らしき気配がしていた。


「攫われたと思われる女性を見つけました、ご両親と婚約者の方。俺達と一緒に来て下さい、他の皆さんはその場に残っていてください」


 俺が彼女と親しい人達に地図で場所を示す、そこは今は空き家になっている村のはずれの一軒の家だった。


 角灯を持って入ってみると、積もった埃だらけの家だった。だが、その埃だらけの家の床には、最近出入りしたと思われる複数の足跡がついていた。


「ここだ、ここが地下室の入り口だろう。開けますよ、よいしょっと」

「………………ぅううううぅぅぅうぅぅ!!」


 部屋の隅に地下のおそらくは貯蔵庫だったのだろう、地下室への入り口があった。入り口になっている木の板をどかすと、誰かのうめき声が聞こえてきた。


 地下室には迷宮のような饐えた匂いがしていた、そして一人の若くて綺麗な女性がそこにはいた。彼女は最初は虚ろな瞳をしていたが、両親と婚約者の姿を見つけると、布を噛まされている口で必死に何か訴えようとした。


「むううぃう、ううぅぅぅう、ぅううぅぅ!!」


 後ろ手で縛られており、首にも縄がかけてあってその縄が、地下室の天井を通して柱に結びつけられている。酷い、これは拷問だ。彼女が座って休もうとすればその首にかけられた縄が締まる、これはもっと早くに助けるべきだった。


 ディーレの奴を人を信じすぎる甘い馬鹿だと思っていたが、俺もまだまだ甘かった。犯人たちが普通の村人と同じように働いているから、攫われた彼女も昼間は監禁されているだけだと思っていた。 だから、夜になる前に助ければいいと、馬鹿な考えだ。内部犯がいると思った時点で、すぐに動いておくべきだった。内部の者の犯行だとすればよっぽどの覚悟か、後で完璧に隠蔽できる自信がなければこんな小さな村では犯罪は犯さない。


 捉えられていた彼女の両親と婚約者がすぐに縄をほどいて彼女を開放した。彼女はそのまま両親と婚約者である男性にしがみついて泣きだした。


「うあぁぁっぁあぁぁぁあああぁぁあ、あいつが、あいつらが、俺達の誰かと結婚しろって、ロジーとの結婚は諦めろって、そうするまでここから出さないってぇ、うああぁぁぁあああぁぁぁ!!」

「頑張った、頑張ったんだな、ミーネ!!」

「ああ、ミーネになんて酷いことを!!」

「ミーネ、もう大丈夫だよ。あいつら、くそっ。もう安心して、ミーネ、ミーネ」


 家族と婚約者にかわるがわる抱きしめられながら、彼女は安心して子どものように泣き喚き続けた。


「うああぁぁあぁぁぁぁぁああぁあああぁぁ!!」


 何度も何度も、繰り返し、自分の大切な人達に抱きしめられて、自分は生きているのだと、決して理不尽な暴力に屈しなかったのだと。


 まるで全身でそう言うように、彼女は力一杯の声を上げ続けた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話は面白いんだけど、文章というか文法がおかしい箇所が結構あるのが気になった。 終止形で終わってるのに句点じゃなくて読点になっていたり、修飾子を文頭に持ってきていたり。 前者は例えば以…
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