第二十三話 仲間がいるのも面白い
「レクス様、私はこの街にいた覚えがございます」
「…………マジでか、どのあたりに?」
俺は時々、素になって喋るミゼのように驚いて聞いてみた。ミゼは元々はただ普通の猫だったと聞いている。
「あの塔あたりに見覚えがありますから、……貴族や大商人が暮らす特別区画には近づかない方がよいかと」
「…………なるほど、わかった」
ただの普通の猫であったミゼを従魔に変えてしまった者がいる、そしてそれは俺の聞いているとおりなら下位ヴァンパイアだという話だ。
「それ僕もよく義父のカーロ様に言われました、お前だとうっかり中で何かやらかしそうだって言われて、……懐かしいなぁ」
「亡くなられたカーロ殿のご苦労がわかります、ディーレさん今も特別区画には、決して近づいてはなりませんよ」
俺とミゼはこの街の貴族などには近づかないことにした、恐らくそのどこかにミゼを従魔にしたヴァンパイアが隠れて存在している。
俺は自分の周囲半径、見える限り全てにおける平和主義者だ。そんな平和主義者としては、ヴァンパイアなんてモンスターに関わるつもりは微塵もない。
「まぁ、とにかく。とりあえずは、冒険者ギルドへ行くぞ。一人と、一匹」
「かしこまりました、レクス様。って、ディーレさんそんなふうにぼけっとしていますと、財布をすられてしまいますよ」
「はい!? 行きます、今すぐに参ります!!」
俺達はごく普通の平民である、平民であるからには日々の糧を得る為に、働かねばならない。この通称デレクの街ではどんな依頼があるのだろうか、楽しみだ。
そう思って向かったデレクの街のギルドには、想像以上に様々な依頼があった。人も多く、銅から銀まで忙しく受け付けのギルド職員と交渉をしている。
『フロウリアまで商隊護衛、ランク銅以上』『ポー草の採取依頼、ランク銅以上、常時依頼』『マジク草の採取依頼、ランク鉄以上、常時依頼』『デビルウルフ退治、ランク鉄以上、常時依頼』『デビルラビット退治、ランク銅以上、常時依頼』『港での荷物積み込み手伝い、ランク銅以上』『人探し、ランク銅以上』『デビルボアの肉、採取依頼、ランク鉄以上』『デビルウルフの毛皮、採取依頼、ランク銅以上』『ラビリスまで商隊護衛、ランク鉄以上』
「うーん、俺達ができそうなものは、ポー草とデビルラビットやデビルウルフの毛皮の採取依頼か。そろそろ、冒険者ランクを鉄以上にしたいもんだ」
「僕はまだ冒険者になったばかりですから、ちょっとそれは無理ですね」
「確かに、レクス様も冒険者となってもう一年と少し、昇格試験に挑戦されてもよろしいでしょう」
ランク銅は新人冒険者だ、彼らの質はピンキリで酷い奴はとことん酷い。いいや、まずはどんな冒険者を目指すかというところから話も変わってくる。銅の冒険者の身分証は無いよりはマシという程度のものだ、あまり酷い素行を続けていると冒険者の証をはく奪されることもある。
そして、俺のように戦闘を中心とした、採取、討伐、それに商隊護衛などを受ける者。
そういった荒事ではなく、雑用と呼ばれる依頼を中心に受ける者に大まかに分けられる。
前者が目指しているのは、いずれは騎士やギルドの指導員などになってからの安定した生活、一部の才能あふれる者なら貴族の仲間入りを夢みているという。貴族になるなんて、本当に数少ない夢物語のような話なのだが。
後者が目指しているのは人脈作りと、とにかくその日を生き抜くこと。何かの依頼で商人見習いになったり、鍛冶職など職人見習い。つまりは、生きるのに必要な技能を取得しようと彼らはする。
「昇格試験も視野にいれておこう、だがまずは魔の森あたりで地道に狩りでもするかな。その地形や分布している魔物を知っておきたい、昇格試験はそれからだ」
「よくわかりませんので、レクスさんにお任せします。神よ、我らにその日の糧をお与えください」
「ディーレさん、食べるためには、まずは労働でございます」
とりあえず、いくつかの採取依頼を眺めて、常時依頼をしているものを中心に覚えておいた。俺達は宿屋を先に決めておく、物価はラビリスの街とほぼ同じだが、宿の代金は少し安めだった。
デレクの街は商業と物流が盛んだから、宿屋も頻繁に利用されていて安価になる。俺とディーレとで二人部屋をとった、従魔であるミゼのことも問題を起こさない限り、部屋に入れていいと言われた。
「毛皮が高く売れるなら、よっと!!こうして素手で、首を折る方がいいな」
「レクス様、一応は血抜きをしておいたほうが良いかと、傷は最小限に」
「はぁ、冒険者って強いんですねぇ。僕も強くなりたい、そう神の御心のままに」
とりあえず、俺は愛用のメイスくんを泣く泣く封印して、素手のみでデビルウルフの首を圧し折っていった。ディーレは世間というものをよく知らず、俺が少々人間ではあり得ないほどの速度で動いても、冒険者って凄いなぁで済ませていた。
「おーい、そっちにもいったぞ。できるだけ、デビルウルフは口の中を狙えよ~」
「うわあああああ、ああ神よっ。すいませんっ『聖殻』!!」
「ディーレさん、慣れですよ、慣れ。『標的撃』!! でございます」
ディーレはまだ動く敵に慣れておらず、ラミアを上手く使う以前の問題だった。敵の動きを見て驚き、すぐに防御結界を張ってしまうのだ。防御や回復系が得意だと言っていたが、その言葉どおりに防御に関しては大したものだった。
ディーレが危ない時にはミゼがそれを補い、毛皮などを傷つけないように衝撃系の魔法を行使していた。
「狙って撃つ、狙って撃つ!! うわぁ、当たりましたよ――!!」
「うんうん、良かったな。それに、ラミアの射程距離は意外と長いようだ」
「ディーレさんも根性がついてきましたね、剥ぎ取りもとても丁寧ですし」
神様に仕える聖職者であるディーレは、時々祈りを口にしてはいるが、狩りなどには反対しなかった。全ての命は尊いものだそうだが、誰かの糧になるのならばそれを奪うことに忌避感はないんだそうだ。また、奪ってしまった命は最大限に活用すべきということで、毛皮の剥ぎ取りなど俺より上手くなってくれた。
「そして、俺は待っていました!!冒険者ギルドの図書室。ああ、面白そうな本があちこちに!!」
「ギルドにも図書室があるのですね、教会の教え以外の本を読むのは初めてです」
「ディーレさんは純粋培養でございます、このような娯楽本なども面白いですよ」
それから、もちろんデレクの街でも冒険者ギルドの図書室を大いに活用した。ミゼに薦められてからはディーレは冒険ものなど、今までは読んだことのない。純粋に楽しみで読む本。それに結構はまっていた、教会の孤児院で文字は習っていたので教える必要は無かった。逆に古語など、難しい言語はディーレの方が詳しかった。
「えっと、それでよろしいでしょうか。ダメですか、あの、その」
「別にディーレの力は、ディーレのもんだ。自由に使うといい、ただし教会ほどではなくていいが、ただ働きだけは止めろ」
「金銭を受け取ることなく、ただ施しを与えれば人間というものは、それに慣れてしまいます。それは無責任なことです、またディーレさんの身も危なくなります」
ディーレはデレクの街に来て、初めて『貧民街』という場所がどういったところか分かり驚いていた。始めは手当たり次第に癒しの魔法を使おうとするので、それだけは止めさせた。魔力だって無尽蔵に溢れ出るものじゃない、何かを与えるなら、それにふさわしい対価を得るべきだ。
「神よ、痛みに苦しむ者に優しき御手を『完全なる癒しの光』」
「おい、おっさん。金の足りない分は一つ貸しだからな、あとは余計なことを話したら、この親切な聖職者さまは二度と『貧民街』には来ないぞ」
「ああ、分かった。本当に助かった、ありがとう。この借りは何かあったら返させて貰う」
この街の『貧民街』を救おうと活動している医者がいた、医者とは魔法による癒し以外に、薬などを使って人の体を癒す。この医者からは『貧民街』でしか聞けない情報をもらえたり、ディーレの奉仕活動の隠れ蓑になって貰った。ディーレがもっと世間の醜さを知って、清濁併せ呑むことができるようになったら、こんな慈善活動家になるのかもしれない。
ただ、今のディーレでは無理だ。あまりにも無知で、人間を疑うということができない。今だって、回復の上級魔法を儲かりもしないのに、『貧民街』の人間に惜しみなく使っている。 こいつはもっと世間を知るべきだと思う、その優しい性質はそのままで、もっと逞しく生きれるようになって欲しい。
「今日も仕事をしたし、魔石の買い取りがあるおかげで儲かった」
「レクスさんと出会えて私は幸運でした、もしお会いしなかったら今頃、都にある『貧民街』で死んでいたかもしれません」
「ディーレさんの剥ぎ取りや魔石回収は、とてもレクス様のお役にたっています。これからも頑張りましょう」
俺達は日々できることをして、体や魔法の鍛錬を忘れず、また時々は少し高めの料理店を楽しんだりして生きていた。デレクの街にも慣れたもんだ、魔物の森にいる場所も大体は把握した、俺は相変わらず睡眠が短い。そのおかげで夜も魔の森で体を鍛えたり、そこに住む魔物の住処を見つけたりできていた。
「そろそろ、俺は昇格試験でも受けてみるかな」
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