第二百四話 案内人がみつからない
「ええい、男も度胸でございます!!レクス様、私の心の中を探してどうか答えをみつけてください!!」
「いいのか、ミゼ。本当に準備はできたんだな?」
「はいぃぃいぃ!!じ、準備完了で、ご、ございます!!」
「まだ体が小刻みに震えているのが気になるが……、お前が覚悟を決めたのならそうしよう」
今度は大賢者ラウトにも立ち会ってもらって俺はミゼの心の中に入ることになった、ウィルとの戦った場所にもラウトはいつも通り来ていたらしいが、ウィルが俺が来る前にラウトの分身の核である小魔石を破壊してしまったそうだ。分身して動き回るラウトは核である小魔石を破壊されると消えてしまう、本体の大魔石が無事な限り新たに同調させた小魔石で分身を生み出せるが、この小魔石が破壊させたことも稀なことでカルネというひ孫が怒る切っ掛けになったらしい。まぁ、あのエルフの小娘はあれ以来何も言ってこないのでどうでもいい。
それよりも気になるのはミゼの記憶だ、他人の心の中に入るのは二度目だが、ダフネの時のようなことは勘弁して欲しい。今回はミゼが俺に敵意を持っているわけではないので心配は少ない、だが生きている者の心の中は夢のようにあやふやで危険だそうだ。
「レクス、この魔法は案内人として心の中の主人が出てくるはずだ、拷問で使用する時には心の持ち主を特別な薬を使って弱らせて、そうして心の中の案内人を屈服させて情報を聞きだしたという」
「随分と物騒な魔法なんだな、今回は薬は必要ないというわけか」
「ひえぇぇぇえぇぇ、薬!!怪しげな魔法薬はごめんでございます!!」
「君たちの間には信頼があるのだから、ただ案内人を探し出してヴァンパイアたちの王国を見つけるだけでいい。案内人を見つけたら、彼が全て指示してくれるはずだ」
「ミゼ自身をまず見つければいいんだな、簡単に見つかるといいが……」
「はぁ、はぁ、はぁ、動悸が激しくなってまいりました。私ってば落ち着け!!もちつけ!!」
「それから決して心の中で何か壊したり、誰かを殺したりしないこと、心に何か干渉すると精神に異常をきたす恐れがある」
「何も壊さず、殺したりもなしか。分かった、俺は分かったんだが……」
「レクス様!!貴方様はご自分が思うよりも大雑把な性格をしておられます、くれぐれも私の心の中では行動を慎んでくださいませ!!はぁぁぁぁ、がくぶるるる!!ぶるぶるるる!!」
俺は落ち着いてラウトの説明を聞いていたんだが、ミゼがその度に震えあがって何かとうるさかった。それだけ心の中に入られるのが負担なのだろう、わめいていれば精神が安定するのなら少しうるさいくらいは何ともなかった。俺はまだ震えているミゼを抱き上げて、部屋にあるベッドに横になった。
「レクスさん、ミゼさん、お気をつけて。お目覚めをお待ちして、ここで神に祈り続けます」
「ミゼも頑張ってね、一度決めたんなら根性みせてよ!!レクスは気を付けて、女の子の洪水で迷わないでね」
ディーレは優しく、ファンからは厳しく応援された。最後にファンからミゼは頭を撫でられてやっと体の震えが収まった、俺はそれに少し安心して体の力を抜いて精神魔法への備えをする。
「いいかい、注意することはお互いに分かったね。それでは、行きなさい」
「ああ、『真実の心への侵入』」
「おやすみなさいでございま……す…………」
瞼を閉じた瞬間だった、すぐに俺は灰色の空に放り出された。天の上下がどちらにあるのかも分からずに落下した、ここはミゼの心の中だから落ちても多分死ぬことはない。そう分かってはいたが反射的に背中から翼を出して、そうしてゆっくりと落下し俺は灰色の硬い地面らしきところに降り立った。
「………………一体、どこなんだ。ここは」
今までに一度も訪れたことのない場所だった、地面は灰色の硬い石のような物でできていて、その上を沢山の人間が歩いていた。俺のことが見えていないようでぶつかってくる者もいたが、またその人間たちが変わっていた。何と言えばいいのだろうか、俺たちのような実用重視の皮鎧やブーツを履いている者はほとんどいなかった。同じようなでも少し違った格好をした貴族のような男たちが多く、逆に女たちはスカートが短く様々な格好をしていた。広い道には鉄でできているのか、何か乗り物のような物が沢山止まっていて、ガラスの窓ごしに中に人間がいるのが見えた。
傍にある建物も変わっていた、木やレンガでできたものではない。硬くてガラスが大きくなったような建物があった、とんでもなく高さがあって中にいる人間たちを大きなガラスごしに見ることができるのだ。ここは一体何なのだろうか、ヴァンパイアたちの王国にも見えない。行き交うのは人間ばかりだ、そしてその数はどれだけいるのか数えきれなかった。黒髪に黒い瞳の人間が多かったが、中にはいろんな髪の色をしている者もいた。ミゼはどこにいるのか、案内人としてどこかにはいるはずだ。俺は見慣れた黒猫の姿を探したが、見渡す限りどこにもその姿は無かった。
仕方がないので俺はどこへともなく、歩いている人間を避けながら歩き出した。見たこともない場所だからどこへ行けばいいのか検討もつかなかった、そのまま俺はしばらく歩き続けた。やがておかしな物をみつけた、ドアだ。ただの茶色いドアが灰色の道の真ん中に立っていた、回り込んでドアの後ろを見たが風景は変わらない。人間たちはそのドアをすり抜けて歩いていた、俺は他に目印も道らしい物もないので、すり抜けるかもしれなかったがドアに触れてみた。ドアに触れるとちゃんと手に硬い感触があって、思い切って俺はドアノブをまわしてみた。
「うっ、……今度はどこだ。ここは」
次の瞬間には俺は夕暮れの世界にいた、大きな部屋の中に机と椅子が沢山並んでいた。一人だけ机に向かって座っている人間がいて、何かをノートに書いては独り言を言っていた。俺のことは眼中にないらしい、近づいてみたが何も反応がなかった。
「よーし、俺が考えた最強キャラの完成っと、これで面白い話になるぞ!!次はヒロインだな、エルフのおにゃのこか、犬耳のけもみみっこか、いやいやドラゴンの娘ってのも捨てがたい。うーん、そうだな、もう全部だな、全部でハーレム完成だ!!」
なんだか喋っている内容が普段ミゼが言っていることに近かった、だがその少年はわりと整った顔をした黒髪に黒い目をした人間だった。だから俺はしばらく観察を続けたが終いには飽きてその部屋を出た、長い廊下があって今度は黒いドアがその真ん中に立っていた。さっきもドアノブに触れたら移動できたから、今度も同じだろうと思って俺はドアノブに手をかけた。思った通りだった、俺は次の瞬間にはまた違う場所にいた。
今度は小さな部屋の中だった、雑然といろんな物に溢れていた。なぜかワーウルフの少女やエルフの女の子、それにもっとさまざまな種族の女の子を小さくした人形が沢山置いてあった。あまりに精工にできているので、まさか生きているのかと思ったがそれらは動かない人形だった。壁にも同じような少女たちの薄い絵が飾られていた、そしてまた小さな机があってそこに人間が一人いた。さっきの少年をもう少し大人にしたような感じだった、また俺は眼中にないらしく独り言を言っていた。
「あーもう、二次元に行きたい。俺の嫁は二次元しかない、三次元なんかくそったれだ。くそっ、あの理不尽上司め、土曜日も出勤なんていい加減にしろっていうんだ。労基に訴えてやろうか、逆転勝利だ。あはははっ、さぁ、どんどん行けー」
明らかな酔っ払いだった、酒の匂いが辺りに漂っていた。俺はまたため息をついてその部屋を出ることにした、一体ミゼはどこにいるのだろうか。さっきからミゼの気配は全然ない、関係ない人間ばかりを見ることになった、今度のドアは部屋の真ん中にあって真っ赤な色をしていた。俺は迷うことなくドアノブに触れた、するとドアが開いて真っ暗な空間に出た。
そこは不思議な空間だった、足元がふわふわとしていて頼りない。沢山のドアが不規則に並んでいた、そこに一人の男がいた。三十歳を少し過ぎたくらいの男だった、黒髪に黒い瞳で短い髪をしていた、ディーレには敵わないがまぁ顔がいい男だった、さっき沢山見た奇妙な貴族のような服を着ていた。その男は俺を見つけると慌てて走り寄ってきた、そしていきなりこう耳元で叫ばれた。
「レクス様!!何故、ドアの向こうからここに!?はっ、もしかして私の黒歴史から来たのですか!!」
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