表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/222

第二百三話 心の準備はそうできない

「心の中を見る魔法は難しい、心に入る者も入られる者にも危険な魔法だ」


大賢者ラウトはそう言いだした、もしかしたら既に相手の心の中を見る魔法があるのかもしれない。ふと相手が何を考えているか知りたいと考えたことは皆はないのだろうか、いや誰かがそう思ったことがあるはずだ、だったらそんな魔法が既にあってもおかしくはない。人間でもエルフでもいろんな理由で相手の心の中を探りたくなることはあるだろう、僅かな時間で考え込みだしたラウトを見ながら俺はそう思っていた。随分と考え込んでいたが、ラウトはゆっくりとその先の言葉を口にした。


「『真実の心(インベーションオ)への侵入(ブトゥルーハート)』という上級魔法がある、嫌な話になるが拷問してでも真実を知るために使われた古い魔法だ。相手の心に侵入することになるからとても危険だ、お互いを信頼していないと心に入る者も入られる者にも危険な魔法なのだ。心が無い魔道具の私には理解できないが、どうしても真実が知りたいのなら試してみるといい」

「……そうか、分かった。おい、ラウトの話は聞いていたよな。ミゼラーレ(・・・・・)!!」


ラウトから俺は相手の心の中に入って真実を知る魔法を教えてもらった、これが使えるとしたら精神魔法に一番適正がある俺しかいない。俺とミゼが信頼しあっているか、当然だが信頼している。草食系ヴァンパイアになってから一番長い間、お互いに命を預け合って一緒に過ごした仲だ。だが、俺のミゼに対する呼びかけは気の抜けるような悲鳴で遮られた。


「ひえぇぇぇえぇぇ!?ご、拷問ですってレクス様!!それを試すんですか、私に試すんですか!?レクス様!!」

「うるさいぞ、ミゼ。野営をする時に交代で見張りをするようなものだ、そんな時はお互いに信頼して命を預けているだろうが!!」


「はうぅぅぅ、そうでございますが心の中となりますと、私も深層意識の奥底ではレクス様に敵意を持っているかもしれませんよ。あはっ、あはははっ、なんちゃって~」

「ほう、そうか。俺もお前の心の中をみるのが楽しみになってきたぞ、ははははっ」


ミゼは俺の手の中から往生際悪く逃げ出そうともがいていた、こいつ本当に何を心の中に隠しているんだ。ちょっとくらい俺を気に入らないと思っていてもいいが、あんまりこう隠されると知りたくなるのが人情というものだな。今すぐにでもその魔法を試そうとした俺だったが、それはラウトから止められた。


「レクス、心に入る魔法を試すなら場所を移した方がいい。ここはもうヴァンパイアたちに知られていて危険だ、万が一だがまた襲ってくる可能性がある。ラウト国の大樹の塔へ来なさい、長老たちには私から塔へ入れるように話しておこう。それからここの店主にも会ってくる、部屋の惨状をよそ者が説明するよりはいいだろう」

「そうか、そうしてくれると助かる」


ディーレとファンの傷から出た血で部屋の中は酷い状況だった、まるで殺人事件が起きたようだ。確かによそ者の俺たちが起きた事を説明するより、ここでは大賢者であるラウトから事情を話してくれたほうがいいだろう。


それから俺たちは一番重症だったディーレには急がせて悪かったが居場所を移すことにした、俺がディーレを背負っていってファンがミゼと荷物を持って大樹の塔へ移った。宿屋の方はいくらか多めに金貨を払うことで何事もなく済んだ、それもラウトを幼い頃から大賢者ラウトだと知っていた宿屋の主人のおかげだった。しかし、大樹の塔の客室に案内されてからちょっと問題が起こった。


「あなたたちね、ヴァンパイアたちを呼び寄せたのは!!」

「ん?初めて会うが誰だ?」


「あたしはカルネよ、大賢者ラウトの子孫にしてそのひ孫よ。お爺様も何を考えているのかしら、大賢者であるお爺様が狙われたのはあなたたちのせいなのに!!」

「ご高説を遮って悪いが、怪我が癒えたばかりの者がいる。詳しい話なら俺が部屋の外で聞こう」


カルネというオレンジ色の髪と茶色の瞳をした18歳くらいのエルフの女はやかましかった、特にディーレがまだ重症から回復したばかりなので、とりあえず俺は部屋の外に女を追い出して話を聞くことにした。


「貴方はヴァンパイアなんですってね、エルフは襲ってないみたいだけど、早くこの国から出て行って!!」

「俺はヴァンパイアだが血は必要ない、エルフも人間も襲わない、この国ではまだやることがあるから出てはいけない」


「お爺様の好意に甘えないで、お爺様は優しいからすぐに卑しい人間にも、敵であるヴァンパイアでも同情するわ!!」

「大賢者ラウトが寛大な心の持ち主だったんだろう、その影であるラウトが似ているのは当たり前だ。そして、ここに残るかどうかはラウトと俺たちとの問題だ」


「うっ、嘘でしょ。お爺様は本当に狙われていたのは自分だって言ってる、絶対に貴方たちのせいなのに間違えてるわ。全くもう優し過ぎるのも考えものね!!あたしは認めないから、長老たちに抗議してやる!!」

「…………優しく親切な隣人として、ラウト国の長老たちが賢く寛大であると信じておこう」


結局のところ俺たちが追い出されることはなかった、大賢者ラウトの影は祝福されし者の想いが残した欠片として、エルフの長老たちからもかなり信頼されているようだった。カルネ以外のエルフたちの態度が丁寧で優しかったし、ヴァンパイアである俺の前に来てもまったく緊張していなかった。祝福されし者はそれだけのことをこの国でしていたらしい、ラウト国を守っている大森林を作ったのも大賢者ラウトだ、人間に狙われやすいエルフが安心して暮らせる王国を作りたかったらしい。あの大森林は木を切ろうとしても、焼き払おうとしても無駄で、すぐに木々が成長して森に戻るそうだ。


とにかくこれでヴァンパイアたちが容易に侵入できない場所に来ることができた、この大樹の塔は大賢者ラウトが残した結界で守られていた、長老たちが許可しない者は出入りもできないらしい。いざという時には国民の一時的な避難所になるそうで、かなりの広い居住もできる場所が確保されていた。その一角を俺たちは借りたわけだ、まずはディーレとファンには出血から回復してもらう為に食事と睡眠をしっかりとってもらった。そしてミゼには心の準備をしてもらうことになったのだが、これがなかなか上手くいかずにミゼはすまなそうに俺に時々謝っていた。


「レクス様を信頼していないわけじゃないんです、ただ私の心の中はとても複雑でして、レクス様に理解できるかが分かりません」

「一月は時間がある、その間にゆっくりと準備をしてくれたらいい」


俺はミゼの心の準備ができるまでラウトからまた特訓を受けることになった、塔の地下にはこれまた避難所にもなる大広間が会って、エルフたちの鍛錬場にもなっていた。そこを夜の間だけ貸し切りにしてもらってラウトからまた特訓を受けることになった、時にはラウト国の周辺の森にも行って戦ったり俺の食事をしたりもした。


「レクス、もっと速く動きなさい。常に複数の敵がいると思って、君以外は全て敵だと思っていい」

「分かった!!やっている!!」


ラウトの特訓は容赦がなかった、時間が限られているのだから仕方がない。十人ほどに増えたラウトが百ほどの武器をそれぞれ『念力(サイコキネシス)』で操って襲ってくる、俺は時には飛んだり霧化してそれを(かわ)して、または躱しきれずに傷を負いながらそれを霧化で癒して、逆に素早くラウトに近づいてメイスや魔法で攻撃をした。


「そして君が一番倒さないといけない者は誰なのか、その者の考えを打ち砕くことができるのか。今一度、真剣に考えて方法をみつけなさい」

「…………分かった、すぐにはできないが一月でどうにかしてみせる」


いや俺はもう本当は分かっている、俺が誰と戦わなければならないのか知っている。それは俺にとってとても辛くて寂しいことだから、分かっていないふりをしているだけだ。これは最初から俺たちの問題だった、本当ならよく話し合って解決すべきものだった。すれ違いを繰り返して、繰り返して、そうしたらこんなに大きな問題になってしまった。俺も分かっているが戦うのが辛くて怖い、もしかしたら信頼や愛情を失うのが恐ろしくて仕方なかった。だから、それを忘れるようにラウトとの特訓に力をいれた。


そして大樹の塔に来てから何日か過ぎたある日のことだった、ミゼが突然に覚悟を決めたと言いだした。


「ええい、男も度胸でございます!!レクス様、私の心の中を探してどうか答えをみつけてください!!」

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ