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第二百二話 決して不可能なことではない

「思ったよりも時間がない、レクス。フェリシアは永遠となり、……そして消えてしまう」


そう俺に声をかけたのは大賢者ラウトの影だった、明るいところでは初めて会う姿だった。いつも通りのように見えるが、魔道具が本体だから動揺しないのかもしれない。ラウトは続けて俺とファンやミゼにこう言った。


「悪いがレクスだけが私と話してくれ、複数の相手と会話すると混乱して情報を処理しきれない。だから私は常に一人とだけしか会話しないんだ、……祝福されし者を再現したとは言っても、この程度の魔道具なのだ」

「ラウト、率直に聞く。フェリシアにはどのくらいの時間がある?」


「私がいや大賢者ラウト様が魔道具に意志を移して芽生えさせるには一年ほどかかった、かといって君たちはまだ安心することはできない。一年と言えば長いような気になるが、意志を移して芽生えさせる魔法は祝福されし者の残された寿命を削るのだ。彼女を助けるのならば、早ければ早いほどいい」

「そうか、それとあんたの意見を聞きたい、俺たちが襲撃されたのは何故だ。俺たちはずっと魔力を隠して移動していた、ヴァンパイアたちに俺たちの動きは気づかれていなかったはずだ」


「君たちが追いかけられていたのではない、ヴァンパイアに狙われていたのは私だ。私という祝福されし者が残した意志を持つ魔道具が狙われていたと推測する、そこへ君たちが偶然にも魔道具に使える大魔石を持ってきたと言えるだろう」

「いずれ俺たちにはあんたの助けが必要だった、つまりはいつかは遭遇する戦いだったということか」


「肯定する、おそらく避けることができない戦いだった。私自身ももっと周囲に注意すべきだった。ヴァンパイアたちがこの国の周辺国家に来ている噂は聞いていたが、私が目的だと気づいたのは君たちが襲われたからだった。力になれなくてすまない、まだまだ情報の分析と計算が未熟なのだ」

「そうか、あんたが謝ることじゃない。ラウト、俺はまだフェリシアを助けたい。一体どうすればいい、どこに助けに行けばいいんだ」


「アーベント国というヴァンパイアの国があるのは知っているか、だがあそこには行っても無駄だ。世界の根源にある力が流れている道筋から外れている、このラウト国も世界の根源がある力が流れている、そんな場所でしか私を作ることはできなかった。どこかにヴァンパイアたちの隠された本当の王国があるはずだ。だが私はそれを推測できない、もしそこを見つだせたら、レクス。君自身の力で転移するしかない、翼で飛んだり人が歩いて行けるような場所ではないはずだ」

「……ヴァンパイアたちの国、……隠されている本当の王国」


俺は今までのことを考える、ヴァンパイアたちの国とはどこにある。ラウトの言っていることを信じるならば世界の根源にある力が流れる場所だ、そんな場所など行ったことはない。だが、そこを知っている者がいる、そうだ!!俺をそこに連れて行こうとしていた者がいた!!


「ミゼ!!お前の記憶が頼りだ、お前は最初ヴァンパイアたちの国を知っていただろう」

「はいぃぃいぃ!?え、えっと確かに私はヴァンパイアの国を知っておりました。で、でも記憶にはもう無いのです、いつの間にか綺麗さっぱり忘れてしまったのです!?」


ミゼは俺の使い魔になる前は別のヴァンパイアに仕えていた、そしてヴァンパイアたちの国も知っていた。だがその記憶は旅をするうちに消えていった、主人である俺が必要ないと言っていたから、従魔であるミゼの記憶からは消えてしまった。おそらくはヴァンパイアたちの国を守る為に、ミゼにも不必要なら記憶を消してしまう条件づけをしていたのだろう。ではどうすればいい、どうすればミゼの記憶を取り戻せる。


「レクス、焦るな。数日ではフェリシアの寿命もそう無くならない、魔道具を作る手順もあるからまず一月は大丈夫だと思っていい。それに君はまだヴァンパイアたちと戦うには弱過ぎる、たとえヴァンパイアの王国をみつけたとしても、自分自身を守りそしてフェリシアを助けにいくのは無理だ」

「――――――!!」


俺はラウトの言うことに何も反論できなかった、確かに俺はまだ草食系ヴァンパイアとして弱すぎる。ウィルの奴に、たった一人の高位ヴァンパイアに殺されそうになった、そんなに弱くては高位ヴァンパイアたちからフェリシアを取り返せない。俺は自分の弱さに吐き気がするようだった、ガンガンと頭を殴られているように眩暈がした。怒りと情けなさでいっぱいになったが冷静さを忘れないようにする、やみくもに感情にまかせて飛び出していっても何にもならないからだ。


「れ、レクスさん。大丈夫ですか」

「ディーレ!?良かった、気がついたか!?」


「もう大丈夫です、少しふらつきますが話はできます」

「……いやまだ寝ているんだ、時間はある。……そう時間はあるんだ」


何をしていいか分からなくなった時、ディーレが弱弱しくベッドに横たわったまま俺に声をかけた。大量に出血したせいでまだ本調子じゃないはずだ、俺はディーレをとりあえずまた寝かせようとした。血まみれの服も取り替えてやらなければならない、そんな俺を遮ってディーレは強い視線で話しかけ続けた。


「以前にレクスさんは体験したでしょう、そう『強奪せし(ロブドホー)聖なる炎(リーフレイム)』の魔法です。あの魔法は相手の心を奪います、ですが上手く使えたら相手の心の中を見ることができるかもしれません」

「な、な、ななな、なんですと!?ディーレさん、まさか私の心の中をレクス様に見せろと言ってらっしゃいますか!?」


ディーレの思わぬ提案にミゼが驚きのあまり声をあげた、確かに俺は以前にダフネという悪魔族の心に入り込んだことがある、いやあれは向こうが俺の中に入ってきたのだろうか。『強奪せし(ロブドホー)聖なる炎(リーフレイム)』は相手の心を奪って廃人にする魔法だが、ディーレの言う通りに上手く使い方を変えれば、ミゼの心の中をみることができるかもしれない。魔法は応用力が強みだ、決して不可能なことではない。ウィルとの闘いでも試しておけば良かった、それすら思いつかないような奇襲だったから仕方ない。


「………………ディーレ、確かにそれは試す価値がある」

「え!?ミゼの心を奪っちゃうの、それって大丈夫なのかな」


俺がディーレの言ったことを真剣に考えているとファンが心配そうにミゼを見た、ミゼはすっかり震えあがっていた、まぁ心の中なんて他人にそうそう見せたいものじゃない。


「今回ばかりは主人である権限を活用させてもらうぞ、ミゼ!!」

「えええぇぇぇえぇぇ!?横暴でございます、断固抗議させていただきます!!」


素早く逃げ出そうとしたミゼを俺は捕まえた、だが心配しなくても今すぐに試すわけじゃない。まずは『強奪せし(ロブドホー)聖なる炎(リーフレイム)』の魔法の分析をして、もっと安全にミゼの心の中を見れるようにしたい。ミゼは俺に首のあたりを掴まれて逃げ出せなくなった、余程嫌だと見えてシクシクと小さな音を立てて泣き始めていた。


「心配しなくてもすぐに見たりはしない、お前の心の安全を第一にまずは心の中を見る魔法の分析をする」

「ほ、本当でございますか!!で、でもやっぱり見るんですよね。……私の心、あああああ!!封印していた黒歴史をどうしたらいいのやら!?ディーレさん、ファンさん!?」

「ミゼさん、レクスさんは余計なものは見ないでいてくれると思いますよ」

「どうせミゼの心の中ってば、他種族の女の子でいっぱいなんでしょ。僕も一緒に見てこようかな」


ミゼはディーレとファンに助けを求めるように目で訴えていたが、あいにくとミゼの助けになってくれる者はいなかった。一月だ、まだ時間はある。一月でどうにかフェリシアを救い出せるくらい強くなって、ミゼの心の中からヴァンパイアたちの本当の国を見つける。確かにまだ時間は残されている、とても短くてもどかしくなるくらいだが、まだ俺の希望は失われてはいない。


「心の中を見る魔法は難しい、心に入る者も入られる者にも危険な魔法だ」

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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