第二十話 別れがあるのは仕方ない
「ただ、ラミアにはどの程度まで、魔力をこめれるのか分からん。……不安だ」
「圧縮した魔力をこめた溜めておく魔石とその金属の器、これがどれほどの圧力まで耐えられるか。これから興味深い部分でございます」
この魔法銃の部品で大切なのは銃本体である金属と、魔力を溜めておく部分の魔石の質である。この謎の金属の方にも魔力を帯びる性質があり、こっちは今のところ問題ない。
「問題なのは魔石だな、あのアルラウネは人語を話し、思考するくらいの能力があったが、どこまでの魔力を吸収できるか」
「こればかりは実際に使っていき、試すしかありませんね」
俺は完成した魔法銃を見て、思わず自分の頬が緩むのが分かる。この銃は簡単な岩くらいなら破壊するほどの威力がある、逆にこめる魔力を少なくすれば人間相手に気絶するくらいの打撃を与えることもできる。
ミゼが言うにはデザート○ーグルという銃に似ているそうだ、ミゼはよく分からないことを偶に知っている。グリップの外側に持ちやすいように緩衝部分として表面だけ、アルラウネの枝が使用されているのは皮肉な話しだ。
「よし、今日も楽しく迷宮散歩だ、いくぞ!ミゼ!!」
「はい、お供したします。ああ、魔法銃。二丁拳銃がカッコいい、まだ諦めはしないここからが私のターンでございます」
うおおおおぉぉおっぉおおおぉぉうぅぅぅぅ
俺がいつものようにラビリスの街の迷宮散歩を、新たな武器であるラミアを連れて行ってみた。早速、素晴らしい利点があった、『浄化』の魔法を使う必要もなく、あまり近づきたくないゾンビを中距離で始末できるという点だ。ゾンビは首など頭と体を繋ぐところを破壊すると、それ以上は這いずり回るくらいしかできなくなった。これならそのまま無視して進めばいい、どうせゾンビの魔石は浅い迷宮で死んでる冒険者だ、戦って手に入れても買取に期待できない。
「なるほど、これは便利だな。土の魔力をこめて撃つだけで飛ぶ石弾、ただの土魔法を使うよりも速い。それに、連射ができる」
「ああ、これでもう腐りかけたお肉とは、親しいお付き合いをしなくて済むのですね」
ゾンビを俺の愛用しているメイスや、コボルトなどから奪った棍棒で殴るとどうしても、その汚い腐肉が近距離で飛び散ることになる。これは、魔法銃を作った甲斐があったと思える。
ギャ!?
ウギャア!?
ギィ!?
ギャアア!?
ウギャ!?
次にゴブリンやコボルトの集団を次々と俺はラミアで撃ち抜いていく、稀にその連射から逃れる者もいるが、そんな奴は蹴りとばすかメイスの餌食となる。
「ラミアを使う為に両手利きになったのも、結果的には良かったな。手数は多い方が良いし、両方の腕力を均等に鍛えることで戦闘の幅が広がった。時々、銃の連射から逃れる奴がいるが。…………両手銃、案外いい発想かもしれん。」
「そうでございましょう、本来ならば両手に銃など持てばその銃の重さと、撃った時の反動で打ち続けるなどということができません。ですが、ヴァンパイアの怪力を持つレクス様なら、そんな問題を解決できるのです。くくくくっ、二丁拳銃、ロマン」
俺の使い魔がまた残念な顔をして、なにかブツブツと呟いている。しかし、いろいろと苦労はしたが、魔法銃を作ってみたのは結果的に良かった。主にザコを始末するのにいい、ゴブリンやコボルト程度なら木っ端微塵だ。
また汚い花火を生産してしまった。オーク相手にも花火というほどではないが、頭や四肢くらいは軽く風弾で吹っ飛ぶので、本当にザコを掃討するのに魔法銃はお誂えの武器だ、ミゼの言うとおり良質な魔石が手に入ればもう一丁作ってみてもいい。
「さて、ここからラミアは少しお休みだ、俺のメイスを遠慮せずにくらうといい!!」
「はい、ミゼはこちらで『魔法の鞄』を死守しておきましょう」
ぐらあああああああぁぁぁあぁぁ!!
人食い鬼と呼ばれるオーガが咆哮をあげる、オーガの怪力とその体の強靭さは有名だ。このラビリスの街に来てから1年ほどになる、そろそろ俺の遊び相手としてオーガ単体では物足りなくなっていた。
「うしゃああぁぁ、こっちだ、こっち!!」
ぐらあああああああぁぁぁあぁぁ!!
オーガが雄たけびをあげると、それが『魔法の言葉』にもなっているのだろう。時には氷撃が、時には炎撃が俺に向かって降り注ぐが、俺はそれを余裕をもって回避する。
「……――下から、狙って!? その喉を叩き潰す!!」
俺はオーガの攻撃と魔法を避けて、その懐に潜り込むと下から上へと叩きあげるように、人間の二倍はあるオーガの顎をメイスによって叩きあげた。
その攻撃でオーガの頭が上に向けて叩きつけられた瞬間、今度は続けてその首付近を力と技術を使って突き上げる。俺のメイスでそのオーガは首の骨がバラバラに、砕け散るということになった。
以前にオーガの相手をした時よりも俺の行動は速い、そして、一撃に込められた力は小さいが効果的にこの人食い鬼を破壊した。
「……ラミアで撃ってみるか、さてどうなるか」
オーガがほぼ無力化したのを見て、俺は魔法銃のラミアでオーガを撃ってみた。売却に向いてない四肢や、目や口の中を狙ってみる。四肢でも少し魔力を強めにこめれば、オーガの体はその部分がはじけ散った。目や口の中など柔らかいところなら、もっと効果があった。
「ラミアでも目や口の中なら充分に効果があるな、四肢だと少しこめる魔力を高める必要があるが、それでも充分だ」
魔法銃のラミアは充分な威力を持っていた、今のところオーガくらいならば、有効な攻撃手段としてみていいだろう。
「それじゃ、剥ぎ取りをしておくか」
ラビリスの近くの迷宮にはオーガくらいしか強敵が出ない、人間からすればオーガも充分な脅威なのだが俺からすれば少々物足りなくなりつつあった。
「なぁ、ミゼ。宿屋も引き払っていることだ、そろそろこのラビリスの街から離れることも考えないか?」
「……約一年いろんな思い出のある街ですが、レクス様に私はついて参ります」
俺は今日の収穫オーガの皮や、拾った魔石を集める。いつものごとく『隠蔽』を使用し、迷宮の帰りは敵と戦わず、また新人冒険者とも関わることなく帰途についた。
「いつも通りに買い取りをお願いします、魔石とオーガの皮です」
「はい、少々お待ちください」
俺はギルドで売れる物を売却した後に、綺麗に手を洗ってから図書室を訪ねた。シアさんと別れの短い挨拶をする、この一年の間に彼女にはどれほどお世話になったことか。
「シアさん、俺はそろそろこの街は離れようと思います、今までお世話になりました」
「え?そ、そうですか!?……どうか、お元気で」
俺のいきなりの放浪宣言にシアさんは戸惑っているようだったが、きちんとお別れの挨拶はすることができた。それから俺は思い立って、冒険者ギルドの鍛錬場に向かった。すると思ったとおり、お目当ての人物がそこにいた。
「おっちゃん、俺は別の街に行ってみようと思う。どこか、おすすめはないか?」
「おお、元気でな。そうだなぁ、物価は高いがこの国の首都、フロウリアとか見てみてもいいんじゃねぇか?」
「首都でございますか、きっと大きな都市なのでございましょうね」
「そうか、おっちゃん。ありがとな、先生とも元気で仲良くやってけよ!!」
「最後は余計だガキ、でもこっちこそありがとよ、元気でな!!」
「大変お世話になりました、それではどうかお幸せに」
俺は銀の冒険者だった、おっちゃんにお礼とお別れを言った。この一年でおっちゃんは冒険者を引退していた、冒険者ギルドに再就職して体術を教えたりしている、そして俺の棒術の先生であった女性と結婚したんだ。さすがはおっちゃん、良い女を捕まえたもんだ。
面倒見の良いおっちゃんなら、きっとこれからもギルドでうまくやっていくと思う。俺は挨拶をすると、そのまま迷宮都市の一つであるラビリスを出ていった。
俺は自由な生き物だ、やると決めたらそのまますぐに動く。シアさんやおっちゃんとの別れは少々辛いが、そんなことを気にしていたら、どこにも行くことできなくなってしまう。
「それじゃ、行くぞ。ミゼ、次は何があるだろうか。今からが楽しみだ!!」
「はい、できれば美味しいものがあるといいですね」
ミゼはいつもどおりの通常運転である、色気より食い気だ。俺も人のことなど言えないが、美女をはべらすよりも良い茶葉を貰ったほうが嬉しいと思う。
俺達は食糧など必要なものを購入して『魔法の鞄』に入れると、約一年を過ごしたラビリスの街を後にした。
「やはり、俺はヴァンパイアなんだな。また、昼夜逆転の旅になる」
「馬車などに乗ってもよろしいのですよ、退屈だとお嫌いでしょうが」
俺達はフロウリアというこの国の首都を目指して、街道を夜だけ全力疾走で走っていた。翼を使って飛んでいくという方法はとれない、大体の方角は聞いたが別の街についてしまうかもしれない。
「それはそれで、何か面白いものがあるかもしれん」
「またそれで一年とか、寄り道はほどほどにお願いします」
夜の間に鍛錬しながら移動して、昼間は適当な林か樹木の上で眠る。眠りながら食事もする、これは草食系ヴァンパイアの強みだ。適当に狩りをしてミゼの食事を作る、全く主じきじきに食事を作らせる従魔とは、ミゼは贅沢者だと思う。
「ふーん、魔物ってやはり迷宮以外にもいるんだな」
「魔力溜まりはあちこちにございますから、だから人間の領域が広がりにくいのでございます」
旅の途中で普通の兎や狼にもあったが、デビルラビットやデビルウルフといった、その動物に似た魔物にもあった。素早さは少し厄介だったが、ラミアで撃ち殺して遠慮なくその魔石を頂いた。
そうして順調に旅を続けていた俺達だったが、ある夜に奇妙なものを道端で発見することになる。
「なぁ、これは何だろう。ミゼよ、どう思う?」
「そうですね、返事が無い。ただの行き倒れのようだ、……つまりは無視をしても、構わないと思います」
まだ少し首都から遠い街道で、俺達はボロボロの服をきた男が倒れているのを見つけた。薄茶色の髪に、よく見て気づいたが同じ色の瞳をした男だ。ぱっと見れば、容姿はなかなか優れていると言えよう。冒険者として鍛えている俺より、やや貧弱な体格で少し背は低い。
行き倒れを放置するなんて、何て冷たい人だとか言われたら、そいつの方がこの世界ではおかしい。ラビリスの街でも、路上でその生涯を終える者もいた。俺が領主様とか領民を保護する義務と力があるなら話は別だが、俺は俺の生活を支えるので精一杯のか弱い草食系ヴァンパイアだ。
「……た、助け……て……」
「………………」
「………………」
さてはて、これは一体どうしたものかな。どうにも、厄介事の匂いがする。
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