第百九十一話 またすぐ出会うわけがない
「お前の王族の身分証はどうする、大人になってから故郷に帰る為に必要か」
「うっ、それは、うぅ、い、要らない!!」
「そうか、ならどこかで捨てておくことにするがいいか」
「……うん、それを持っているときっとオレは国や、勇者としての未練を捨てきれない」
「分かった、俺たちは一週間ほどはこの国にいるから、何かあったら宿屋に来い」
「もう次の国に行くのか、どうしてそんなに急ぐんだ?」
「こっちも事情があるのさ、常に移動して目立たないようにしているんだ」
「そっか、分かった。あと一週間か、……何かあったら会いに行くよ」
セイヴィヤはまだ故国や勇者への未練が捨てきれない様子だった、13歳の子どもだがいきなり勇者という重荷を背負わされたのだ、だから責任感が強いほど何もできないのは辛いことだろう。だが実際にセイヴィヤがフメット国に戻って勇者になったとしても、フメット国とグラウェル国の戦争が勢いづくだけで良いことが何もない。故郷のグラウェル国と敵対することになるし、そうして勇者がセイヴィヤだと気づかれたら、もしかしたら親族にまで害が及ぶかもしれない。
逃げ出したセイヴィヤの判断は正しかった、やってしまったことは軽率かもしれないが、ギリギリでも逃げ出したことは賢明だったと俺は思う。セイヴィヤもいつかそう思えるようになればいい、いまは責任で潰されそうな心が、時間を経て少しでも軽くなればよかった。そう思いながらセイヴィヤとは別れた、セイヴィヤは王族の身分証と偽造した傭兵の身分証も俺に渡した、どこかで廃棄しなければならないだろう。どこか遠い国につくまでは、『魔法の鞄』の中に入れておこう。
「それにしても野宿ばかりで疲れたな、一週間は良く休もう」
「はい、そうですね。やはり野宿ばかりだと疲れます」
「美味しいものが食べられないのが辛いや」
「そうでございますね、やはり寝るなら柔らかいベッドが一番でございます」
俺たちはそれから見つけておいた宿屋に行って休んだ、全員が疲れていたから風呂を借りてそれぞれが眠りについた。翌日からも特に予定は入れずに好きなことをして休むことにした、俺は本を持って近くの森に行ったし、ディーレは大人しく宿屋で休んでいた。ファンはミゼをつれてレクトール国の観光に行っていたようだ。セイヴィヤは訪ねてこなかった、この国を出る時に孤児院にこちらから様子を見に行かなくてはならないな。
そうして俺たちは休んでいたが、傭兵ギルドで気になる依頼を見つけた。フメット国とグラウェル国の両方から傭兵の募集が出ていたのだ、受付で詳しく聞いてみると意外と戦争が長引いているらしい。これはセイヴィヤには聞かせたくない話題だった、都の噂にはなっていないようだが、そのうちに噂にもなるだろう。この国を出る時に聞かせたくはないが、一応は知らせておいた方がいいだろうか。そんなことをしているうちに一週間は過ぎてしまった、俺たちはセイヴィヤに最後に会いにいった。セイヴィヤは顔色は良かったが、まだ少し笑顔がぎこちなく俺たちを出迎えた。
「セイヴィヤ、フメット国とグラウェル国の戦争はまだ続くようだが絶対に帰るなよ。お前にできることはここでいろいろと学んで、二度と誰かに利用されたりしないことだけだ」
「分かってる、分かってるけどやっぱり気になるよ。でも安心してくれよ、もうフメット国に戻ろうとは思ってないからさ、今はこのレクトール国のことをもっと沢山知りたいんだ」
そこでセイヴィヤはまたぎこちなく少し笑った、彼が晴れ晴れと笑えるまでには時間がかかりそうだった。
「お前は剣の腕が良い、それ以外でも何か得意なことを探してみるといい」
「セイヴィヤさん、貴方のこれからの道に聖なる光の導きがありますように」
「えへへへっ、また会えたらいいね。それまで元気でね!!」
「レクス様の言う通り、しばらくは何か勉強をなさるといいでしょう。ではお元気で」
俺たちはそれぞれ挨拶をしてセイヴィヤとお別れをした、今度こそ多分二度とは会わないお別れだった。
「助けてくれてありがと、オレに何ができるかもっと考えてみるよ。それじゃ、さよなら」
セイヴィヤはまた少し笑って手を振ってくれた、これからは親類も知り合いもいないこの国で、彼はたった一人で生きていくのだ。もしかしたら助けられたことを恨むかもしれないし、逆に良かったと感謝してくれるかもしれない。セイヴィヤがどう成長していくかは本人にも誰にも分からないことだった。俺たちはセイヴィヤと別れてまた旅にでることにした、今度はどこに行こうか、また特に目標のない旅だった。
「次はどこに行ってみるか」
「そうですね、どんな国がいいでしょうか」
「ご飯が美味しい国が良い!!」
「それでしたら、スフィーダ国はどうでしょうか。隣国で交易が盛んな国だと聞きました」
「交易が盛んなら面白いものがあるかもな」
「ええ、行ってみるのもいいかもしれません」
「美味しいご飯があるのかな」
「そうですね、美味しいご飯もですが、いろいろと珍しい物が見れるかもしれません」
全員でなんとなくスフィーダ国に行くことになった、隣国だからさほど遠くないはずだ。一月野宿ばかりしていたので、今度は街や都を利用する旅をすることにした。行く先に迷宮があるたびに潜って稼いでいるから、金銭に困っていないのがこのパーティに良いところだ。そうしてのんびりとスフィーダ国に歩いていくことにした、街道沿いに進んだので道も良くて歩きやすかった。
そんな旅をしながら俺は祝福されし者への修行を再開した、だがちっとも上手くいかなかった。宿屋や森などで休んでいる時に試してみるのだが、どこか感覚がずれてしまっているようで、いっこうに世界の力に触れられなかった。この修行が上手くいけばフェリシアを助けるのもとても楽になるのだが、焦れば焦るほどに力はちっとも身に着かないのだった。
やはりまだ体の方が力に耐えきれずに、成長している途中なのかもしれなかった。そんなことをしていたら、スフィーダ国にはすぐに着いてしまった。迷宮があるそうなのであとで潜ってみる予定だ、それからまた傭兵ギルドにもいってみた、フメット国とグラウェル国の戦争は泥沼化しているらしい。セイヴィヤが大人しくしていることを祈った、戦争に13歳の子どもが行ってもできることなどない。
「それにしても交易が盛んなだけあっていろんな種族がいるな」
「はい、悪魔族にエルフ、それにあれはドワーフさんでしょうか」
「いろんな種族がいて面白いな、ドラゴンも数が増えると良いけど無理だもんね」
「ファンさんのような可愛いドラゴンが増えたら良いですね、幼女尊い!!」
「飯屋はどこにするか、いろんな店があって迷うな」
「あっ、あそこはどうですか。ミゼさんが好きなお米のご飯があるようです」
「ミゼってお米が大好きだよね」
「お米は私のソウルフードでございます、故郷の味を思い出しますねぇ」
いろんな飯屋があったがミゼの希望を聞いて米の飯がでる飯屋に入った、以前に行った国にあったような料理がいろいろとあった。俺はいつもどおりにスープとジュース、皆もそれぞれ好きな物を注文していた。ミゼはもちろんお米にかじりついていた、こういう時に草食系ヴァンパイアは不便だ。固形物が食べれないから、ミゼが食べている料理も味わえない。主人である俺がいろいろと食べれなくて、従者のミゼが何でも食べれるという、これもなんだか理不尽だと時々思う。
「飯が終わったら買い物に行こう、また野宿が続いてもいいように、『魔法の鞄』にいろいろと入れておきたい」
「携帯食も補充しましょうか、他にも燃料なども買っておきますか」
「僕はね、甘くて美味しいドライフルーツが欲しい!!」
「………………(ああ、ファンさんの守りたいその笑顔。くそっ、念写の魔法が人前で使えないのが悔しい)」
ご飯をそれぞれ食べ終わったら買い物に行った、交易が盛んなだけにいろんな物が売っていた。俺たちは主に食べ物を中心に買い物をしていった、食事がやはり旅では一番の楽しみだからだ。いろんな保存できる食材を買いあさった、それでも金貨1枚にもならなかった。物が新鮮で安いのだ、これは良い国だと思った。その代わりに迷宮産の物も安くで売られていた、買うのはいいが売るのは別の国にしたほうが良さそうだった。そんな買い物をしていたらある時、売り子のおばちゃんがまた奇妙なことを言った。
「ねぇ、知ってるかい。あの勇者さまもこの店で買い物していったんだよ」
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