表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/222

第百九十話 生き延びるだけで精一杯

「さぁ、見つけたぞ。セイヴィヤ、大人しくついてこい」

「…………オレになんの用だよ」


「大事な用がある、もう一度言うぞ。大人しくついてこい」

「…………分かった」


俺はセイヴィヤを傷つけずに保護したかったので、用があるといって彼を傭兵ギルドから連れ出した。そうして、とりあえず俺たちが止まっている宿屋に連れていった。次に『無音(サイレンス)境界(バウンドリ)』で俺たち以外に会話が聞こえないようにした。それからセイヴィヤと話をした。


「セイヴィヤ、お前をこれから別の国に連れて行く。戦争の原因となったお前はここには置いておけない」

「オレが行けば少しでも助かる奴がいるかもしれない!!」


「もうそんな段階は過ぎているんだ、お前一人では何もできやしない。だから、大人しくついてこい」

「嫌だ、オレはまだ何かできるかもしれない!!」


「それはお前の罪悪感からくる感情だ、お前にできることは二度と同じことをしないように学ぶこと、それにまずは生き残ることだけだ」

「……オレは自分のしたことに責任をとって、それで死ぬこともできないのかよ、うっ」


俺の言葉にその場でセイヴィヤは泣き崩れた、だがこの13歳の子どもにできることは俺が言ったことだけだ。戦争の責任をとって死ぬには若すぎる、次に同じ過ちをしないように、今は生き延びることが大事だった。幸いグラウェル国に入る前にセイヴィヤを捕まえることができた、今からならもっと安全な国に連れていけるだろう。セイヴィヤは泣いたことで残った体力を使い果たしたのか眠りについた、俺たちは地図を広げて次に行く国を探した。


「セイヴィヤが一人で生きていけるような国がいい、政情が安定している大国がいいだろうか」

「それなら人間の国にはなりますが、レクトール国はどうでしょう。近隣では一番大きな国です」

「セイヴィヤの外見なら、人間に混じっていても大丈夫だね」

「大きな国になればなるほど人探しも難しくなりますからいいでしょう、勇者は死んだと思われているようですし、セイヴィヤさんの親類はいなくなっても探さないでしょう」


俺たちはセイヴィヤが眠っている間に次の行先を決めてしまった、それから眠っているセイヴィヤを俺が背負ってすぐに旅に出た。ここはフメット国とグラウェル国から近過ぎる、少しでも遠くへ早くいきたかった。俺たちは少人数しか通れないような道を通って、レクトール国を目指して移動していった。数刻も経つとセイヴィヤが目を覚ました、そして大騒ぎをしたが森の中だったので聞いているのは俺たちだけだった。


「オレはやっぱり責任をとるべきじゃないか!!」

「無理だ、今更13歳の子ども一人を処刑しても戦争は止まらない」


「それでもオレのことを待っていてくれる奴がいるかもしれない!!」

「13歳の子供に頼るような大人だ、そんな無責任な奴は放っておけ」


「オレは何もそんなに何もできないのか、グラウェル国にいって自分のしたことを話してもいい!!」

「グラウェル国が他国に加担したとしてお前を処刑して終わりだ、結局は何も変えられない」


「畜生!?何かないのかよ、オレにできることは!!」

「だから、お前にできることは今は生き延びることだけだ!!」


セイヴィヤは大騒ぎをしたが、言いたいことは言えたようでそれからは大人しくなった。俺たちはレクトール国を目指すように旅をしたが、目立つ行為はなるべく避けるべきなので、今回は街にも立ち寄らなかった。普段から『魔法の鞄(マジックバッグ)』に必要な物を入れておいて助かった、今後も何か必要な物があったらいれておくようにしよう。セイヴィヤはずっと森や荒野が続く旅で考えていた、きっと自分にできることは何かないかを考えていたのだろう。それから旅の途中で休んだ時にはセイヴィヤから鍛錬を頼まれるようになった、今の自分にできることを考えた結果なのだろう。


「剣筋はいいが、まだ俺には敵わんな」

「くっそっ、あんたみたいな強い奴が何で冒険者じゃないんだ!!」


「……いろいろと事情があるんだ、ほらっ、手が止まってるぞ」

「これでどうだ、ってこいつも受けるのかよ!!」


セイヴィヤは剣が確かに上手かったが、俺が本気を出せば軽く相手できた。草食系とはいえヴァンパイアの力は強い、そして力はスピードを生み出す。セイヴィヤの剣を片手で持ったメイスで楽々と受け止めて、お返しに開いている方の手でセイヴィヤを突き飛ばした。俺はやっぱり武器をメイスに戻した、こちらのほうが使い慣れているし、手加減もしやすかったからだ。


そんなことをしながら一月があっという間に過ぎていった、俺たちはレクトール国の都へとやっと入ることができた。ちなみにセイヴィヤの王族としての身分証は取り上げた、もうセイヴィヤは王族でも貴族でもない、ただの一人の悪魔族だった。偽造ではあるが傭兵の身分証があるので、そちらを使ってレクトール国へ入った。


「はぁ、久しぶりの都だな」

「ええ、そうですね。暫くは休みましょう」

「やったぁ!!美味しいご飯が食べれる!!」

「野宿ばかりで大変でございました」


俺たちはいろんな国に行ったことがあるから驚きはなかったが、セイヴィヤは初めてみるレクトールという大国を目の当たりにして呆然としていた。


「…………こんなに大きな国もあるのか」


そんなセイヴィヤを連れて、俺たちはまずは飯屋に直行した。野宿ばかりで同じような食事が続いたから、まずは普段食べれない良い食事がしたかった。


「そうだな、豚肉と野菜のスープ。具は無しで、果物のジュースを二杯くれ」

「僕は豚肉の串焼きにパン、卵のスープをください」

「えへへへっ、僕はここからここまで全部。それから豚肉入りのスープね」

「………………(ファンさん、ありがとうございます)」


いつもどおりにそれぞれが好きな物を注文する、ミゼは普段は普通の猫のふりをしているからファンが代わって注文していた。セイヴィヤは俺たちの食べる量に圧倒されていたが、ファンに薦められて豚肉の串焼きやスープなどを食べていた。野宿している間にもかなり食事をさせたので、痩せていた体は戻って肉付きが良くなっている。さて、あとはこの国がセイヴィヤに合うかどうかが問題だ。


「レクトール国は移民を受け入れているだろうか」

「そうですね、そこを調べないといけません」

「セイヴィヤがちゃんと移住できないとね」

「………………(豚肉入りのスープ、美味しい!!)」


セイヴィヤはその話題にビクッと体を震わせていたが、食欲には抗えないのか黙々と食事を続けていた。俺たちは食事が終わったらまずは宿屋を見つけにいった、夜遅くなると空いている宿屋も少なくなるからだ。それから役場に行ってみた、受付にいる役人に移住のことを聞いてみる。


「レクトール国は移住を受け付けているのか」

「はい、我が国では移住を受け付けておりますが、最初に一年分の税金を払っていただくことになります。それから犯罪歴のある方は受け入れられません、それ以外の方でしたら大丈夫ですよ」


「エルフや悪魔族でも移住できるのか」

「我が国は大国ですからね、いろんな亜人種がいます。エルフでも悪魔族でもセイレーンでも受け付けていますよ、ご心配はいりません。それでは移住するのは4人さまでしょうか?」


役場で聞いてみたがレクトール国では移住も受け付けているようだ、あとはセイヴィヤの意志次第だったが彼は自分からこう言った。


「移住したいのはオレだけだ」

「そうですか、それでは大陸語はできますか。こちらの書類に記入してください」


セイヴィヤは生まれが王族だからもちろん大陸語が使える、すらすらと渡された書類に記入していた。税金もセイヴィヤが持っている金で払えた、セイヴィヤはレクトール国の平民になった。13歳と正直に年齢を記入したので、役人から教会が運営している孤児院をすすめられた。


「我が国では15歳からが成人です、それまでは教会の孤児院で部屋を借りたらどうでしょう。食事も出ますし、学校の代わりに学ぶこともできますよ」

「そうか、分かった。行ってみる」


それから役人から薦められたレクトール国の孤児院にも行ってみた、院長は壮年の男性で国が発行した移住許可証を見せると、運営している孤児院のことを詳しく俺たちにも話してくれた。15歳の成人を迎えるまではここにいれば衣食住は保証されるそうだ、嘘を言っていないか心音と発汗の様子を見ていたが嘘ではなさそうだった。セイヴィヤはそのまま孤児院に残ることになった、俺はそれでこっそりとこう聞いた。


「お前の王族の身分証はどうする、大人になってから故郷に帰る為に必要か」

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ