第百八十九話 どこにも居場所なんかない
「フメット国がグラウェル国に宣戦布告したんだってさ」
そんな噂話も聞こえてきたがアンフィ国ではあまり関係が無かった、近隣の国ではあるのだが周囲を森と山々に隔てられているのだ。俺たちはグラウェル国からアンフィ国へ10日で来れたが、軍隊などが通れない細い道を選んで移動したからできたことで、軍隊が攻め込んでくるのならばもっと時間がかかるはずだった。だからか総じて住民の顔色は明るく、戦争が始まるにしても悲壮感が感じられなかった。これがもっと近い国だったなら今頃は大騒ぎだっただろう、俺たちはのんびりと朝食を食べながら噂を聞いていた。
「この噂を聞いても、セイヴィヤが大人しくしていれば良いけどな」
「はい、責任を感じていらっしゃるようですが、13歳の子どもには荷が重すぎる話です」
「別に勇者がいなくても戦争を始めたんじゃないかな、勇者っていうのはとってつけた理由みたい」
「はうぅぅ、ファンさんの膝枕は最高です。戦争、なにそれ美味しいのでございます」
俺たちは安全なアンフィ国で事の成り行きを見守っていた、戦争が始まるとなると近隣諸国がどう動くか分からない。下手に移動しない方が安全なのだ、このアンフィ国も戦線に加わるとなったら、また別の国に移動すればいい。だから、俺たちはアンフィ国で迷宮に潜ったりしていた、以前に行った悪魔族の国であるリブロ国には迷宮が無かった、だがこのアンフィ国にはあるのだ。
この迷宮というのも世界の謎の一つだ、沢山の入り口があってあちこちで繋がっている。誰も迷宮の最深部に辿り着いた者はいないという、まぁ俺たちは冒険をしないから稼ぎがいい階層までしか潜らないようにしている。今日も噂話を朝食と共に一通り聞くと、迷宮へと足を運んだ。
「この迷宮は一際暗いな、『永き灯』」
「はい、僕の目では灯が無いと辛いです」
「ディーレは大変だね、気を付けて足元が結構悪いよ」
「レクス様も私も魔物でございますし、ファンさんはドラゴンですからね」
「交代で灯を使いながら降りよう」
「はい、すみません。お手数をおかけします、『永き灯』」
「えへへへっ、そんなことよりディーレが仲間でいるほうが大事だもんね」
「ディーレさんには敵いませんね、お忘れなく私も大事な仲間でございますよ」
いつもよりも迷宮が暗いので『永き灯』の魔法を、通った道に次々とかけながら歩いていった。他のパーティが浅い層では灯を持ってうろうろしていた、悪魔族の冒険者たちだろう。関わり合いになる気にならないので、礼儀を守ってゆっくりと下に降りていった。
「ぎゃやが!!」
「ぎゃしゃ!?」
「きゃ!!」
「ぎぎゃ!?」
ディーレは人間なので遠くの暗がりまでは見通せない、代わりにホワイト&ブラックの魔法銃をもったファンがゴブリンやコボルトを撃ち殺していた。ディーレほどではないがなかなかの命中率だ、ファンも地道に魔法銃の練習をしているようだった。
「『永き灯』さて、そろそろだぞ。気をつけろよ」
「はい、いつもより気をつけて援護します。『永き灯』」
「えへへへっ、やっと自由に動けるよ。『永き灯』」
「『永き灯』それでは、私は見張りを致します」
俺たちは大きな広間のようなところで『永き灯』をあちこちに放った、そうしたら広間が明るくなり容易く見渡せて敵の姿も確認できた。ジャイアント十数頭が暗がりからぬっと現れた、俺の見たところではそれ以上はここにはいないようだった。草食系とはいえヴァンパイアだ、暗い所でも俺の目はそんなに困ることがない。まだ使い慣れないフレイルを構えて、俺はジャイアントの群れに突っ込んでいった。
「ファン、俺が足を潰すから、敵の両手にだけ注意しろ!!」
「分かった!!僕が首を狩ってくね!!」
「閃光弾からの風撃弾、これであなたは終わりです!!」
「……はぁ、皆さま勤勉なんだからもうっ、まぁ見張りはしっかりやりますけどね」
俺はフレイルでジャイアントの足を狙って敵の隙間を走り抜ける、一歩間違えれば踏み殺されてもおかしくないが、俺の速さと筋力なら攻撃を避けて足を潰すくらいは難しくない。しかし、フレイルはやはり使いづらい、そろそろ武器をメイスに戻そうかと思いながら確実に足を潰していった。ファンも負けてはいない、脚を潰されて両手で暴れるジャイアントを両手ごと首を断ち切ったりしている。ディーレも『永き灯』の灯をあちこちに放っておいたおかげで、正確に確実に援護をしてくれていた。ミゼは何も言わないが、見張りをさぼったりはしないはずだ。少し時間はかかったが、ジャイアントが一頭ずつ確実に減っていった。
「ひい、ふう、みい、っと十三頭か。これは剥ぎ取りが大変だな」
「はい、頑張りましょうね」
「僕は皮を剥ぐのは苦手なんだけど」
「ファンさんは食事をしても良いのではないでしょうか、レクス様」
「そうだな、ファンはドラゴンに戻って食事していていいぞ。ミゼ、見張りをしっかりとな」
「では僕は一番良いところから皮を剥いでいきます」
「やったぁ!!ご飯、ご飯!!」
「ファンさんの私の目に焼き付けたいこの笑顔、ああ白紙の束をもってくるんだった!!」
そうやってファンがドラゴンに戻って食事をしているうちに、俺とディーレでジャイアントの剥ぎ取りをしていった。柔らかい皮を中心に剥ぎ取っていく、13頭もいたからかなりの量になったが、『魔法の鞄』に入れておけば問題ない。ファンが十分に食事を終える頃には利用できそうな皮を剥ぎ取り終えていた、人間の形態に戻ったファンを『水』と『乾燥』で血を洗い落として乾かした。それから迷宮から出るために上にあがっていった、迷宮から出ると太陽が明るく感じた、アンフィ国の迷宮が暗すぎるためだ。
そうして迷宮を出て、宿屋に帰ると聞いたこともない貴族から手紙が届いていた。メイドさんが届けに来ていて、セイヴィヤ様からですと言って俺に手渡した。とりあえずは借りている4人部屋に入って、その手紙を皆の前で読んでみた。
『レクスとその仲間たちへ、せっかく助けてもらったけれど、オレはフメット国に戻ることにする。家に戻ってはこれたけれど、祖父も祖母も勝手なことをする奴はもう孫ではないと言っている。ここにオレの居場所が無いのなら、オレはフメット国に戻って自分のしたことの責任をとりたい。聞いてくれる者は少なくても、勇者は最後まで戦うことに反対したと何かに残したい。あんたたちにはとても世話になった、ありがと。あんたたちの旅の成功と幸福を祈っている。セイヴィヤ』
「……あの馬鹿が、もう子どもに責任がとれるような事態は過ぎているのに」
「レクスさん、どうされますか」
「ううっ、どうしよう。可哀そうだよ、あの子」
「親類に見捨てられて、自暴自棄になっているようでございます」
「危険だが、俺はセイヴィヤを助けたい」
「はい、分かりました」
「そうだね、うん。行こう!!」
「ひえぇぇぇぇ!?戦争中の国でございますよ、皆さんは冒険はしないって言われませんでしたか!?」
「戦争に関わるわけじゃない、セイヴィヤを連れ戻すだけだ」
「はい、それでは彼の足取りを追って急ぎましょう」
「見た目は15歳くらいだから、どうやって国を出ていったのかが大事だね」
「ああ、もう。私を迂闊者扱いするのに、皆さん正義感が強いんですから、もうっ!!」
とりあえず俺たちはセイヴィヤのことを門番に金を渡して尋ねてみた、門番はその子どもなら駅馬車に乗っていったと言った。駅馬車は戦時中の為に本数が減らされていた、それなら俺とファンとで悪路を走っていった方が速くつくはずだ。そう考えて俺がディーレを背負って、ファンがミゼを布で体に結び付けて、細い悪路である山道や坂道を走っていった。途中でセイヴィヤを追い越してしまわないように、時々は街によってセイヴィヤの足取りを聞きこみした。
15歳くらいの子供の一人旅は目立つ、あちこちで情報を得られてグラウェル国の手前の街であるミッテで追いついた。門番の話によるとここに入ったばかりだということだった、俺たちは二手に分かれてセイヴィヤのことを聞いてまわった。俺とファンはセイヴィヤが止まりそうな宿屋をまわった、ディーレとミゼは傭兵ギルドに聞きこみにいった。見つけたのはディーレたちだった、セイヴィヤはまだ偽造した傭兵の身分証で歩き回っていたのだ。『従う魔への供する感覚』でミゼから連絡があって、俺とファンもそこへ駆けつけた。そうしたら、最後に会った時とはちがって随分と痩せてしまったセイヴィヤがそこにいた。
「さぁ、見つけたぞ。セイヴィヤ、大人しくついてこい」
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