第百八十八話 成り行きまかせの偶然でしかない
「親父に連絡してもいいよ、オレは死刑になるかもしれないけど」
「そんなことを言われてもな、お前の親父なんか知らん」
「言ってなかったっけ、オレの親父はサルヴァトル・グラウェルだよ」
「誰だそれは?グラウェルとつくからにはまさか王族か」
「あんたも物知らずだね、このグラウェル国の王様だよ」
「なんで王子様がふらふらっと出歩いてるんだこの国は!?」
俺の関係する奴らはどうしてこう命の危機にさらされてたり、王族や貴族だったりするんだろうか。まるで呪われているのかと思いたい、いくらなんでも王子や王女がこんなふうに、普通に自由気ままに出歩いていていいのか。セイヴィヤはまだ頭が痛むのか、額を押さえながら俺の質問に答えた。
「王位継承権で言えばオレは十三位だからさ、それに出来損ないだから姿が消えても誰も探さない」
「もう一人の親がいるだろう、母親の方はどうした」
「オレが子どもの時にもう死んだよ、後宮って面倒な争いごとが多くてね、その巻き添えになったんだ」
「お前は一体何歳なんだ」
「…………実は13歳」
「子供じゃないか!?まだ親の保護がいる年だぞ、それに麦酒を堂々と飲むな!!」
体がわりと成長しているから、15歳くらいかと思えばたったの13歳だと言う、まだ保護者がいる年だ。俺は頭を抱えた、フメット国でこの勇者もどきが起こした騒ぎは大きかった。故郷のグラウェル国に戻ってきたからと言って安心だとはとても言えない、しっかりとした保護者がいる安全なところにいくべきだ。だから他に居場所はないのかと、更に質問を続けた。
「他に親類はいないのか、母方の親戚はどこにいる」
「ああ、母さんも悪魔族で隣のアンフィ国に祖父と祖母がいる」
「そこで保護してもらうことはできるのか」
「母さんが死んでからはそこにいたんだ、でも退屈になってフメット国に逃げ出した」
「お前は保護者がいる年齢だ、一人で暮らせるようになるまでは退屈でもアンフィ国に戻れ」
「…………黙って出ていったから、凄く戻りづらいんだけど、そうも言ってられないよな」
そこで地図を見てみることにした、幸いなことにアンフィ国はフメット国から近隣では一番遠かった。だから、俺たちはこれからどうするか話し合った。
「ディーレ、ファン。それからミゼ、俺はセイヴィヤをアンフィ国まで送っていった方が良いと思う。こいつはまだ13歳だ、身分証を偽造しているようだが、一人で旅をさせるのは心配だ」
「そうですね、アンフィ国に送っていくだけなら、急げば10日ほどで大丈夫だと思います」
「またレクスと僕とで走っていくの、セイヴィヤがついてこれるかな」
「やった!!やっとファンさんと一緒に居られます!!」
「そうだな、徒歩で行こう。駅馬車などを使えば早いが、足取りを残すことになる。ただ走っていくのはセイヴィヤの足では無理だ」
「分かりました、できるだけ急いで歩いて行きましょう」
「レクスと走るのは無しか、ならミゼはレクスかディーレそれかセイヴィヤと一緒ね」
「うわーん!!ファンさんがまだお仕置き延長する気でございます!!」
簡単に話をまとめるとセイヴィヤをとにかく今夜は休ませた、きゅうせいあるこーるちゅうどく?になりかけたせいかまだふらふらしている、今はまだ休息が必要だった。その日はそのまま休んで、翌朝早くに出発した、セイヴィヤの調子は良くなかったので最初は俺が背負っていった。ミゼも泣きながらディーレのフードの中にいた、ファンから強制的に入れられたのだ。セイヴィヤはそんな俺たちに不思議そうに言った、俺は思ったままの答えを返した。
「なんで、こんなことしてくれんの。オレ何もかえせるものがないよ」
「見捨てていくのもなんだからな、お前のふうに言うなら成り行きで偶然だ」
そうしてなるべく俺たちは急いでアンフィ国に向かっていった、だが俺たちよりも早く噂は広がっていた。道すがら食事などを街などでとると、根拠のない適当な噂が流れていた。
「フメット国の勇者はグラウェル国に殺されたらしい」
「王女は勇者を想って、泣き暮らしているそうだ」
「グラウェル国は何も言わないんだってさ」
「それじゃ本当に勇者は殺されたの」
「フメット国はそう考えて、復讐する気らしいよ」
「また戦争になるのかしら」
「どうせ、フメット国がまた負けるさ」
「そうだね、勇者もいないんだから」
噂話を聞くたびにセイヴィヤは暗い顔をしていた、子どもがちょっとばかり調子にのっていろいろやったら、なぜか勇者に祭り上げられてしまった。そして今やそのせいで戦争にまで発展しようとしている、だがそれは元々フメット国とグラウェル国の仲が悪い、そういう下地があるからそうなるのだ。セイヴィヤがやったことは軽率だったかもしれないが、ほとんどは周りの大人に利用された結果だと俺は思う。
旅の途中にセイヴィヤと個人的に対戦をしてもらったが、確かに剣の腕は相当なものだった。思わず本気で相手をしたくらいだ、これで13歳なのだから恐ろしい。成長すればもっと凄い剣の達人になれるだろう、成長できればの話だが可能性は十分にあった。偶にそんな模擬戦をすることもあったが、ほとんどは旅を急いですすめた。フメット国から少しでも離れたかったからだ、アンフィ国にいるセイヴィヤの親類が良い悪魔族であることを祈っていた。そうして10日間はあっという間に過ぎた、とうとう俺たちはアンフィ国に辿り着いた。
「ううぅ、凄く帰りづらいよ」
「我慢しろ、お前は何年かはいろいろ勉強して静かに暮らせ。フメット国がまだお前を探しているかもしれないからな」
「ああ、ピシアにはそういうところがあるな。オレはよく逃げ出せたもんだよ」
「そんなにしつこいお姫様だったのか」
「ずっと監視されているようなもんだった、オレがすることを何でも知ってたよ。凄く怖くて人の話を聞かないお姫様さ、オレだったら絶対に結婚したくない」
「……ちょっとだけお前の気持ちが分かるぞ、お前は絶対に目立つことをするな。大人になるまでは静かに暮らして、他の国にも行かない方が良い」
「分かってる、ありがとな」
「ああ、元気で暮らせよ」
俺たちはアンフィ国についてセイヴィヤの親類の家の途中まで送っていった、貴族や王族が暮らす特別区だったので中までは入っていけなかった。だからセイヴィヤとも特別区の扉の前で別れた、最後に話した時は俺たちに苦笑しながら手を振ってくれた。今まで家出していたのだから帰りづらいのは仕方がない、でもそこに帰るしか今はできないのだ。幼いまだたった13歳の少年は俺たちの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。さて、俺たちはこれからどうしたものだろうか。
フメット国から俺たちが追いかけられている可能性は低そうだ、俺たちよりも勇者セイヴィを追いかけているのだろう。元勇者のセイヴィヤが他の誰にも捕まらずにここまでこれたのは運が良かった、グラウェル国にいたとしてもセイヴィヤがしたことを知られたら、敵国に加担したとしか思われないだろうし、そう王様たちに判断されたら本当に死刑もあり得ることだった。これから数年をセイヴィヤが静かに目立つことなく生き抜いていくことを祈りたい。
「さて、これからどうしようか」
「そうですね、ここまで旅を急ぎましたから少し休みたいです」
「賛成、アンフィ国を見て回ろうよ」
「ファンさん、あの、その、そろそろお仕置きは止めてもいいんじゃないでしょうか」
「そうだな、少し休もう。飯屋に行った後に宿屋を借りて、数日は休みだ」
「はい、分かりました。セイヴィヤさんに苦しむ時の励まし、暑さの安らい、憂いの時の慰め。そして恵み溢れる光の導きがありますように」
「ミゼは反省したのかな、僕はまだ足りないと思うな」
「うわーん!!反省しております、今後は迂闊な行動はちょっと慎みます!!」
俺たちはアンフィ国の飯屋に行って腹を満たした後、宿屋に泊まって疲れをとることにした。10日間の急ぎの旅はそれなりにこたえた、セイヴィヤも結構速く歩いていたし、ほとんど小走りを続けていたような旅だった。数日はゆっくりと休もうということになって、実際にそれから数日はそれぞれ好きなことをしていた。俺は読書をしながら近くの森に食事に行ったし、ディーレも宿屋で大人しく休んでいた。ファンはあちこち観光していたようで、ミゼがやっとファンについていくことを許された。そんな数日が経った後のことだった、また不穏な噂話がアンフィ国の都に流れた。
「フメット国がグラウェル国に宣戦布告したんだってさ」
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