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第百七十三話 本当の敵は見つからない

「どうか振り向いてくれ、ずっと待っていたんだ、私の愛しい花嫁!!」

「はぁ!?何を言ってるの、ついて来ないで!!」


「いいや、そういうわけにはいかないのである!!私の花嫁!!」

「訳が分からない、もういい!!とにかく早く逃げなきゃ!!」


オッドとビーノの街から逃げ出した女はどんどん森の中へ入っていった、ビーノの街からは人間たちが追っ手として何人か馬で追いかけてきた。だが俺たちもそんな人間たちには構わずに森に入る、森の中に入ってしまえば俺の草食系ヴァンパイアの力が一番に発揮できる。俺は森の木々と素早く同調して、追いかけてくる人間に対して『(ヴィジョン)』の魔法を使った。追っ手は俺たちとは逆の方向へ逃げていく『(ヴィジョン)』を追いかけていった、さぁそんなことよりもオッドたちのことが心配だ。


「ディーレ、俺の背に!!ファンはミゼを頼んだ!!」

「はい、分かりました」

「分かった、ミゼ。一緒に行くよ!!」

「はいでございます!!」


俺は森の木々に二人のヴァンパイアの行先を尋ねる、そして教えてもらった道を俺はディーレを背負って、ファンはミゼを抱えて走り抜ける。追いかけている二人はどちらもヴァンパイアだ、その速力は普通の人間では追いつけない、だからこうして草食系ヴァンパイアの俺とドラゴンのファンが走って追いかけた。ようやく追いついた先では修羅場なのか、喜劇なのか分からない展開になっていた。


「あ、あたしが花嫁ってどういうこと!?」

「うむ、一目見て分かったのだ、愛しているぞ。私の花嫁」


「それって一目ぼれってことじゃない、冗談じゃないわ。碌に知りもしない男と結婚なんて!!」

「これからよく知ってもらえばいいのである」


そんなふうにオッドは捕まえた女とぎゃあぎゃあ何か言い争っていた、俺たちはようやく追いつけたわけだが何だか入っていけない雰囲気だった。もう夜がきており暗闇で言い争う男女をその時、明るい月の光が優しく照らし出した。そうすると一体何故だろうか、オッドと言い争っていた女の態度が豹変した。


「綺麗、なんて綺麗なの。それに貴方は血の匂いで分かる、あたしと同じ(・・・・・・)ヴァンパイアね」

「そう言う君こそ綺麗なのである、血の匂いも私と同じだ。愛しい私の花嫁」


「あたしはストーミー、まだ花嫁じゃないわ」

「私はオッド・パーソン・ニーレ、ではこれから私の花嫁になって貰いたい」


「そうね、そうよね。なんて綺麗なヴァンパイア、どうしよう」

「褒めてもらってありがとう、どうか私の花嫁になって貰いたい」


「か、考えてもいいわ、貴方って人間をどう思う?」

「人間?人間なら怖い者である、できるだけ近づかないのが一番だ」


途中まで二人には入っていけない空気というか、なんだか良い雰囲気が辺りを包んでいた。だが、俺は最後のストーミーという女の質問、それに対するオッドの返答は失敗だと思った。何故なら普通のヴァンパイアは人間を襲うからだ、だからストーミーという女にオッドは振られたとそう思った。だが、俺の予想は見事に裏切られた。


「それなら貴方と結婚してもいいわ、人間に関わると碌なことがないもの」

「ああ、なんて喜ばしいことだろう。私の花嫁、やっと見つけた大切なヴァンパイア」


「あたしはストーミー、これからはオッド。あなたの妻よ」

「ストーミー、私の愛しい奥さん。これからよろしく頼むのである」


オッドとストーミーという女はそこでお互いを抱擁した、俺たちは完全に出ていく機会を失っていたが、だからと言って放っておくわけにもいかない。もしストーミーという女が人間を襲っているのなら、オッドと敵対しても止めなければいけなかった。


「……取り込み中に悪いんだがな」

「すみません、少し失礼致しますね」

「凄いじゃない、オッド。本当に花嫁さんを見つけちゃった」

「また世界に二人のリア充が増えました、チッ。爆発しろ、いっそ木っ端微塵にな」


俺たちが姿を現すとストーミーという女はオッドの後ろにさがった、それに対してオッドは以前と変わることなく俺たちとの再会を喜んだ。


「おお、レクス殿たちである。無事で良かった。ストーミー、彼らは私たちを殺したりしない人間である」

「……オッドの言うことなら信じたいけど、人間は大抵は敵よ」


俺はゆっくりとオッドに近づいていった、ストーミーという 短い白髪に青い目をした美しい女。彼女は俺を警戒しながらも、オッドにしがみついて離れなかった。そして、俺は気がついた。この女からも人血の匂いがしない、まさかオッドが探していた花嫁の条件とはこれか。


「オッド、お前が探していた花嫁とは、お前のように人間を襲わない(・・・・・・・)ヴァンパイアか」

「うむ、それが前提だが、今は違うのである。見れば分かるだろう、このストーミーこそ私の愛しい美しい花嫁なのだ」


「見たところ下位ヴァンパイアのようだが、それでも高位ヴァンパイアのお前の花嫁になれるのか」

「大丈夫だ、相手がヴァンパイアでさえあれば生まれてくる子はヴァンパイアになる。私が死ぬ時に力を子どもに分けてやれば高位ヴァンパイアになれるのだ、私も父からこの力を授かったのである」


「そうか、お前がそうしたいのなら、そうすればいい。上手く言えないがおめでとう」

「ありがとう。私は幸せ者である、こんなに美しい花嫁を授かったのだ」


確かにストーミーという女は美しかった、肌はオッドとは対称的に黒いが白髪と青い瞳に似合っていた。オッドはこの女との間に息子を作って、やがて死ぬ時に高位ヴァンパイアにするのだろう。ストーミーはオッドの言葉に少し赤くなったが、俺たちのことを油断せず睨みつけ続けた。俺は確かめたいことだけ、ストーミーという女に聞いておくことにする。


「何故、人間を襲わない。ヴァンパイアは人間を襲う者だろう」

「あんたって馬鹿?人間って一人なら怖くないけど、一人襲ったら百人でヴァンパイアを退治しにくる奴らよ」


「なら、これからも人間を襲わないのか」

「あたしは賢いヴァンパイアなの、人間なんて関わらないで済むならそれが一番よ」


「オッドを愛しているのか」

「ふふふっ、人間を襲わないヴァンパイアなんて、見つかるとは思わなかったわ。あたしたちはきっと上手くやっていける、愛し合っていけるわ」


俺は聞きたいことは聞けた、人間を襲わないヴァンパイアなら始末する必要もない。それにオッドのこともこの一月で本当に人間を襲わないと分かっていた、だったらもうこれ以上二人の邪魔をする理由もない。


「それならオッド、ここでお別れするとしよう。言うまでもないが、これからも人間は襲うなよ」

「オッドさん、レクスさんの言う通りです。人間はとても怖い生き物です、どうかお幸せに。貴方たちの生に、神の祝福が満ちることを祈っています」

「えへへへっ、良かったね。オッド、綺麗な花嫁さんと幸せにね」

「なんということでしょう、これだからリア充は……、もうお前ら結婚しろ」


俺の草食系ヴァンパイアの耳は追っ手がまた近づいているのを聞きとった、だから手短にオッドとストーミーへ別れの言葉をかけた。俺たちなら追っ手に捕まってヴァンパイアの検査を受けても何も起きない、だがストーミーという女は違うだろう。きっと、太陽の魔法を使われたら、下位ヴァンパイアだから死んでしまう。


「うむ、レクス殿たちとの旅は楽しかったのである。人間にも理性的な者がいるものだ。それではさらばだ、縁があればまた会おう」

「よく分からないけど、オッド。もう行こう、人間たちがやってくるわ」


俺たちはそこでオッドたちと別れた、向かうのは追っ手たちのところだ。できるだけ時間を稼いで、オッドたちが逃げるのを楽にしてやろう。俺たちがそれから追っ手に遭遇するまでそう時間はかからなかった、すぐに全員が捕まってヴァンパイアの検査をさせられたがもちろん何も起きなかった。そうしているうちに深夜になってしまい、ビーノの街の追っ手たちはオッドたちを追うのを諦めた。俺たちは検査を通ったので、夜は門が閉まっていたが翌日の朝になったらビーノの街に入れた。


「オッドたちはこれからも人間を襲わない、そんなヴァンパイアとして生きていくんだろうな」

「人間を襲うヴァンパイアは恐ろしいです、でもオッドさんのような方々もいるのですね」

「うーん、いろんなヴァンパイアがいるんだ。敵と味方を見分けるのが難しくなったね」

「世の中はリア充かそうでないかでございます。はぁ~、そして多くのリア充の天下でございます」


敵と味方を見分けるのが難しい、ファンの言ったことが俺には本当に思えた。今まではヴァンパイアは全て敵だった、だが人間を襲わないのなら敵でないヴァンパイアもいると知った。本当に敵と味方を見分けるのが難しい、俺の本当の敵とは誰になるのだろうか。そう考え悩みながら俺は旅に戻った、そしてとうとうフォルティス国へと辿り着こうとしていた。


「見て、レクス。フォルティス国の都だよ!!」

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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