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第百六十九話 聞いてみなくちゃ分からない

「レクス様、イケメンのヴァンパイアをお持ち帰りなんて!!とうとう女性は諦めて同性愛に目覚めましたか!?」

「な、なんだと……、くっ……。わ、私は貞操を犠牲にしてまで生きていたくない。さぁ、殺せ」


ミゼの馬鹿な発言を真に受けたのはオッドだった、さぁ殺せと言われてもこんな理由で殺すのも阿保らしい。俺はミゼをの首の後ろあたりを摘まみ上げて、オッドの方にその体をポーイと放り投げた。オッドは慌てて猫のミゼを受け止めていた、確かにオッドは長めの黒髪に黒い瞳でかなり綺麗な顔をしている男だが、俺にはミゼが言うような趣味はないからどうでもいい。ついでに馬鹿な従魔のお仕置きとして、ちょっとばかり脅しておいた。


「オッド、それは今日のお前の夕飯だ」

「な、なんてことを言うのです。レクス様!!憧れのくっ殺せを!?……まぁ女騎士じゃなかったけど見れた、そう思ったら私のことはもう用無しですか!?」


「こっちは命がけで仕事に行っているのに、留守番だけして馬鹿な発言をするからだ」

「うわーん、ディーレさん!!ファンさん!!助けてください~!!」


ミゼはそう言ってディーレやファンに助けを求めた、だがその心配は全く要らなかった。オッドは恐々とミゼを抱いていたが、やがて床に優しくそっと降ろした。そうして、こう言った。


「私は昨日、食事をしたばかりだ。だから、血を薦めてもらっても困るのだ」

「昨日、食事をしたってそれは鳥か何かか?」


「いいや、その、あの、こう言うと軽蔑されるのであるが、あそこには同じ同族がいたので、そのヴァンパイアから血を貰ったのだ」

「ヴァンパイアが同族のヴァンパイアから血を貰うのか!?」


「むしろ、動物よりもヴァンパイアから血を貰う方が調子が良いのだ。だが、そのヴァンパイアは人間を襲っているわけで、間接的には私も人殺しになるのかもしれん」

「……難しい問題だな、人間を襲って食べた熊を食べたら、人を食べたことになるのか。そんなところか」


俺はオッドの答えに驚いた、確かにヴァンパイア同士で血の遣り取りをするのは不可能じゃない。人間の血よりも調子がいいというのもありそうな話だ、そしてオッドが人殺しにあたるのかは難しい問題だった。人間を襲って食べた熊がいるとする、そしてその熊を仕留めて食べたら食人にあたるのか、いやほとんどの場合はそう考える人間は少ないだろう。俺はとりあえず、仲間の意見を聞いてみた。


「この場合、オッドは人殺しになるのか。俺はどうもそうは思えないが」

「難しい問題ですがもしそうなるのなら、墓地などに生える薬草を食べても食人に当たります」

「いちいち食べるお肉が何を食べてたかなんて知らないよ」

「私を食べないのでしたら、別にどうでも良いことでございます」


オッドの奇妙な食事の問題は片付いた、全員で特に問題はないという回答に至った。オッドはまたぷるぷると震えていた、本当に人間が怖いらしい。ディーレは元々人間だが、正体を明かしていない俺やファンのことも人間だと思い込んでいるようだ。そんなオッドに俺たちは構わずに話をすすめた。


「それなら特に問題はないな、ミゼ。高位ヴァンパイアのオッドだ、お前のベッドを譲ってやれ」

「はい、では私はファンさんと一緒に眠ります!!」

「いいけど、ミゼ。煩い寝言は勘弁してね」

「ああ、ミゼさんの寝言は面白いですね。この前もあと少しで嫁が、嫁がと言ってらっしゃいました」


「…………ミゼ、どこかで良いメス猫を見つけてやろうか」

「レクス様、ちょっとからかっただけですのにもうっ!!私も貞操を奪われるくらいなら、くっ、殺せ!!」

「ミゼっていろんな種族の女の子が好きなのに、なんで同族の女の子はどうでもいいの?」

「僕には分かりませんが、ミゼさんにも好みがあるのでしょう」


ミゼの嫁問題はしばらくは片付きそうにない問題だった、そんなことよりも大事なことがある。俺はオッドに手招きして、オッド用のベッドに座るように合図した。それから前から高位ヴァンパイアに聞いてみたかったことを聞いてみる。


「オッド、お前は高位ヴァンパイアだな。では祝福されし者と人間の子どもなのか?」

「私は違うのである、私の先祖がそうだった。代々一人だけ子供を作って死に、その子どもは高位ヴァンパイアとして、今も誇り高く生き続けているのだ」


「…………人間から一目散に逃げだしておいて、誇り高くも何もないだろう」

「それは人間が怖いから仕方がないことである、私の父もそうだったし、祖父も同じようだったと父から聞いた」


「高位ヴァンパイアは全部で何人くらいいるんだ?」

「最初は1000人ほどいたと聞く、でもその後に配下を増やしたり、複数の子どもを作ったりしたから……。長くヴァンパイアの国に帰っていないから正確には分からないが、今でも純粋な高位ヴァンパイアは200人もいればいいほうではないかと思う」


「……意外と少ないんだな」

「人間と関わっていると配下を増やしてしまうことが多い、同族同士でいると恋に発展して複数の子供を作ってしまうことになる。純粋な高位ヴァンパイアでいることは難しいのだ、だからこのオッド・パーソン・ニーレは誇り高いヴァンパイアと言ってもいいのである」


この際、オッドが誇り高いヴァンパイアなのかという問題は置いておく。誇り高く生きるというのは本人の気持ち次第な部分も多い、きっとオッドとしては誇り高く生きているのだろう。それから更に詳しく聞いてみた。


「ふーん、一応聞いておく。ウィル・アーイディオン・ニーレという高位ヴァンパイアの名前に聞き覚えは?」

「ああ、純粋な高位ヴァンパイアの一人で王のお気に入りだった。だが、王に反抗してばかりで仲が悪かったはずだ」


ウィルという高位ヴァンパイアは王であるフェリシアのことをママと呼んでいた、仲が悪そうには思えなかったがオッドがヴァンパイアの王の傍にいたのは昔の話だ、事情が変わっているのかもしれない。俺は今度は別の名前をあげてみた。


「キリル・パシオニス・ニーレという高位ヴァンパイアの名は知らないか?」

「パシオニス家は有名なヴァンパイアの家系だ、だがキリルという名前は知らない。最近、家を受け継いで生まれたのかもしれない」


フェリシアのお気に入りのキリルはまだ若いのか、それでも彼女は高位ヴァンパイアなのだ。オッドと同じように、子どもを一人しか作らず生き延びてきた家系なのかもしれない。他にも聞いておきたいことがあった、それはフェリシアのことだ。


「ヴァンパイアの王とは絶対的権力者じゃないのか、何故王に反抗をする者がいる?」

「どこの国でも一枚岩ではない、ヴァンパイアの王は優しく我々ヴァンパイアを見守る存在だ。あの方がいるから我々はただの魔物にならずに済む、むしろ人間よりも誇り高く生きていくべきだと思える」


ヴァンパイアたちにとってフェリシアは大事な存在らしい、やはり彼女にヴァンパイアの王を辞めさせることは難しいのかもしれない。だが、どうも彼女がそれで幸せそうだと思えない。俺が考え込んで黙ると、今度はオッドが自由に話し出した。


「私のように自分で狩りができる高位ヴァンパイアはまだいい、中にはヴァンパイアの王がいないと生きていられないものがいる。ミットライトと呼ばれるヴァンパイアがそうだ」

「……ミットライトとはどういうヴァンパイアなんだ」


「彼らはヴァンパイアなのに牙を持たずに生まれてくる。言い方が悪いが出来損ないなのだ、そして血の食事も十分にとれない。だから、ヴァンパイアの王は彼らを救うためにずっと傍にいなければならない。そうしなければミットライトのヴァンパイアは死んでしまう」

「そうか、それがヴァンパイアの王を止められない理由か!?」


「ヴァンパイアの王を辞める、それは難し過ぎる問題だ。だが、ミットライトは寿命も短い。私が王の元を離れて随分と経つ、もうそろそろ王は自由になってもおかしくないはずだ。もちろん、それを王が望めばの話だが」

「………………」


このオッドという高位ヴァンパイアを助けたのは運が良かった、今まで知らなかったいろいろなことが分かった。フェリシアがいないと生きられないミットライトというヴァンパイアがいる、いや今はもういた(・・)かもしれない。ではフェリシアはどうして自由になれない、突然助けを求めてきたのは何故だろう。あれからもう一年以上になる、俺の助けは間に合わないかもしれない。


「まぁ、ヴァンパイアの王に適う存在はいない。いるとしたら今は亡き祝福されし者くらいだ、人間が何を心配しているのか分からないが、ヴァンパイアの王は今でも健やかに過ごされているだろう」

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