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第百六十一話 決して使ってはならない

「あんなところ人間が行くところじゃない、悪いことは言わないから引き返した方が良い」


そんなことを言われたが簡単に諦められる話じゃない、俺たちはもっと詳しくリブロ国について聞いてみた。


「あそこに住んでいるのは皆が悪魔だよ、姿だけじゃない心もそうなのさ」

「あの国には行商人くらいしか行かないな、迷宮の物なんかが高く売れるという」

「姿形が恐ろしくて堪らない、とても一緒にいられないわ」

「悪魔以外にも人間の世界にいられなくなった、そんな逃亡者が行きつくところだ」

「リブロ国に入っていく人間が偶にいるけど、戻ってくる時には必ず人数が減っているの」

「住んでいるのは悪魔族なのよ、なんであんな国に行きたいんだ」

「物好きはどこにでもいる、でも命がかかっているんだぜ」

「教会の人間は嫌われている、悪魔は神様に祈ったりしないんだ」

「毛皮がよく売れるわよ、辺境は一年中どこも寒いから」


俺たちは酒場や飯屋、冒険者ギルドそれに傭兵ギルドでいろんな話を聞かされた。どうやら簡単に入れる国じゃなさそうだ、それに傭兵という身分よりも行商人の方がいいかもしれない。そうしてそれぞれが思ったことを宿屋に帰ってから皆で話し合った。


「傭兵という身分はここまででいい、行商人になってみるか」

「商業ギルドで身分を登録する必要がありますね」

「行商人って、何を売るの?」

「そうですねぇ、幸いこの街にも迷宮があるそうですよ」


「それじゃ、そこに行ってみよう。戦いの勘も取り戻しておきたいし、売る物を用意する必要がある」

「いつも冒険者ギルドに持っていく物でいいのでしょうか」

「それ以外にも売れるものってあるのかな」

「商業ギルドに行ってみなければなりませんね」


俺たちは翌日、商業ギルドに行ってみた。金貨をこっそり何枚か渡すと、ギルドの職員はとてもお喋りになっていろいろと話してくれた。


「そうですね、迷宮で得られる物はリブロ国では良く売れます。リブロ国には迷宮が無いんです、神様に見捨てられているからですね。それ以外にも荷物に余裕があれば食べ物なども良く売れます、ただ本当は行くのはおすすめできません。途中の道が険しいですし、山賊もでると聞きます。それで行きよりも帰りの方が人が少ないんです。行商人の身分が欲しい、あらっ金貨をこんなに、すぐにお作りいたしましょう!!」


それから俺たちはリブロ国で売る物を得る為に迷宮に向かった、どこの迷宮でもあまり出てくるモンスターは変わらないが、今回はどんなモンスターでも大事な商品になるのだ。


「うぎゃ!!」

「ぎぎ!!」

「ぎゃあ!?」

「きぃ!?」

「ぎゃい!!」

「ぐぎぃ!?」

「ぎゃ!!」


ゴブリンやコボルトはディーレがいつものように魔法銃で片付けた、魔石だけは拾っていくがあまり売れそうにはなかった。それからオークとオーガまでディーレが片付けてくれた、そのままもぐって30階層くらいになった時、サイクロプスやミノタウロスが数頭で現れた。


「ディーレ、援護を頼む。ファン、あまり無茶はするなよ。ミゼは見張ってろ!!」

「はい、分かりました」

「分かった、えへへへっ。無茶はしない、任せといて!!」

「私は見張りですね、大人しく隅っこの方にいます」


俺は自分の2、3倍はある相手に向かっていった、そうしてまず足をメイスで潰してまわった。背が高い相手にはまずこうするのが一番良い、ファンはそんな足をやられたサイクロプスやミノタウロスの首を刈っていった。時々ディーレが援護してくれる、閃光弾から風撃弾が飛んできて、目から入った風の弾に脳をかき回されて死ぬ奴もいた。そんな狩りをしばらく繰り返した、時々は更に大物のジャイアントが混じることもあったが、連携がとれている俺たちの敵ではなかった。


「サイクロプスにミノタウロス、それからジャイアントか」

「良い魔石と皮や角が手に入りました、これがリブロ国で売れるのでしょうか」

「僕もたくさん倒したもんね、えへへへ。……剥ぎ取りはちょっと苦手だけど」

「他の冒険者の方に出会いませんね、見張りをしている私は楽ですけど」


よくよく話を聞いてまわるとこのスルシードの街は辺境に近い、だから若い冒険者はもっと都会へ出ていってしまうのだ。確かに俺だってここに生まれたら、もっと広い世界を見に旅に出たに違いない。それで迷宮産の物はたくさん手に入れたが、他にも毛皮を取る為に街の外で狩りをした。


草食系ヴァンパイアの特権だ、森の木々に話を聞いて熊や狼の居場所を教えてもらった。それからは同じような狩りの連続だった、そうして毛皮は売却用に肉はファンが主に食べるか非常食にとっておいた。そして『魔法の鞄(マジックバッグ)』に売却するものを全て入れた。


それからディーレには法衣を脱いで冒険者らしい格好をしてもらった、教会の人間は嫌われているようなので、ディーレは祈りの言葉も口にしないようにした。


できるだけの準備をして俺たちはとうとうリブロ国へ向かうことにした、途中の道も高い山々があって道が厳しかった。それに加えて雪が酷かった、防寒具は着ていたがそれでも寒さは忍び寄ってきた。


「ディーレ、大丈夫か。いざとなったら背負っていくぞ」

「まだ大丈夫です、歩けなくなった時は正直に言います」

「ミゼは僕の胸の中で大丈夫?」

「極楽でございます。ああ、私はこのまま天国に行けそうです」


「ファン、ミゼを抱いていると暖かいだろうが、重くなったら交代するぞ」

「ふぅ、結構辛い道のりですね。あっ、神への言葉を言うところでした」

「ディーレのお祈りが聞けないのは寂しいな」

「レクス様、交代など結構でございます。私はファンさんから離れません」


雪の中を俺とファンは交代でミゼを抱えつつ歩いた、ディーレは人間だから一番負担が大きかった。だから、ディーレの様子を見ながら時々休憩をとった。洞窟などがあればそこで休み、無いときには俺とファンで雪の山に穴を掘った。そうして休憩できる場所を作りながら、教えられた道を進んでいった。最後の街から一月が過ぎた頃、俺は19になっていた。そして、リブロ国の高い城壁が見えてきた。


「お前たちは何者だ?」

「…………俺たちは行商人だ」


リブロ国の門番を務めていた悪魔は本当に姿が変わっていた、枯れ木が人間を形作っているような姿だった。最初は驚いて言葉が出なかったくらいだ、それから目的を思い出して何とか返事をした。彼か彼女かは分からないが、俺の行商人の身分証を見ると頷き、そうしてリブロ国の都に入ることができた。


「これは凄いな、なんていう光景だ」

「僕の今まで見ていた世界はなんて小さいんでしょう」

「わー、いろんな姿の悪魔族がいるね」

「ハロウィンの仮装のようです、トリックオアトリート!!」


とにかく行きかう悪魔族の人々はいろんな姿をしていた、中にはモンスターに見えるものさえいた。言葉は大陸の共通語のようで、話をするのには問題はなさそうだった。俺たちはまず商業ギルドに行ってみた、そこにいたのは猫を大きくしたような悪魔族で意地悪そうに笑って言った。


「おやおや、人間のお客様とは珍しい。何を売ってくれるのかな」

「ああ、迷宮産の魔石や皮に角。それから毛皮なんかもある」


「おやぁ、『魔法の鞄(マジックバッグ)』を持っているとは珍しい。どうか、それを売ってくれないか」

「これは売れない、大事な物だ。それ以外なら取引してもいい」


商業ギルドで俺は用意していた荷物を少し売却した、リブロ国では通貨も違っていたからだ。そしてまずは宿屋を探して歩いた、すぐに宿屋は見つかったが全身に蛇の鱗がある者が主人だった。


「四人部屋が1日で銀貨2枚だ、飯は外で食ってきてくれ。風呂も共同浴場があるから、そちらに行くといい」

「ああ、分かった」


とにかく変わった姿をした者が多かった、ファンの言ったとおり魔力が高くて姿が違って寿命が長い、それだけで人間と暮らし方はそう変わりがなさそうだった。


ただ飯屋だけはあまり良くなかった、新鮮な野菜などはなく肉が中心の食事だった。ファンはそれで喜んだが、ディーレやミゼの体にはあまり良くなさそうだ。長居はできそうにもない、俺は塩辛いスープの食事を済ませると、まずは国立図書館へ向かってみた。


「おや、人間の行商人ですか。申し訳ありませんが国立図書館は魔族にしか開放していません、とても残念なことですが、本が目当てならこちらの本屋を巡ってみてください」

「分かった、そうしてみる」


国立図書館の職員は角と翼をもった悪魔族だった、それ以外は特に人間と変わりはなかった。むしろ態度は丁寧で入室は断られたが、代わりに本屋の場所を教えてくれた。


「お客さん、何をお探しで?」

「ヴァンパイア退治の本が欲しい」


「それなら、これかな。これもいい、こんな本はどうでしょう」

「意外と安いな、全部で金貨10枚か。とりあえず、全部くれ」


俺は教えられた本屋を巡ってヴァンパイアの関係の本を買いそろえてみた、そんなに簡単に高位ヴァンパイアを倒す魔法が見つかるとは思わないが、駄目で元々で本のことは好きだから構わなかった。


そうして買った何十冊かの本を宿屋に帰って、皆で手分けしてそれぞれ読んでみた。ただ読むだけではなく、『残留思(リーゼチュアル)(ソート)』も試してみた。そうしたら本を読んでいたファンがいきなり大声を出した。


「レクス、見つけた。この本だよ!!」

「は!?見つかったのか!?」

「ファンさん、ちょっと本を見せてください」

「ええ、もう見つけてしまわれたのですか。ああ、角と翼つきの図書館司書の美女さん、彼女がどこか遠くへいってしまいます」


俺もファンが言ったところを読んでみた、するとそれはディーレが以前に使った魔法が載っていた。『聖なる炎(ホーリーフレイム)』という魔法で悪魔族に効果があるとされているものだ、だが本からは別のことが『残留思(リーゼチュアル)(ソート)』で読み取れた。


『この魔法を本当に(・・・)使えたなら、相手の精神を焼き尽くすことができる。それはたとえ高位ヴァンパイアでも例外ではない、だがこの魔法は呪われている決して使ってはならない』

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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