第百五十五話 仲間の意見は面白い
「久しぶりの迷宮だ、気をつけていこう。クロッシュ、お前はどのくらいの相手を倒せる?」
「……俺はまだ駆け出しだ、運が良くてオークくらいだ」
「そうか、それなら良い機会だ。俺たちはもう少し先までもぐる予定だ」
「……足手まといにはならないようにする」
俺たちはクロッシュと一緒に迷宮に来ていた、今日の予定はオーガくらいで止めておくか。この迷宮は俺たちも初めてだし、最近は迷宮に来ていないから肩慣らしだ。
「うぎゃ!!」
「ぎぃ!?」
「ぎゃあ!!」
「ぐきっ!?」
「がっ!!」
浅い階層では俺たちの中ではディーレがほとんど敵を片付けてしまう、ライト&ダークの二丁の魔法銃から撃ちだされる弾丸は速くて正確だ。ゴブリンやコボルトなどをディーレがほとんど撃ち殺した、倒した数は十数匹だがその連射を抜ける者がいた。
「ふぅ、少し鈍っています。皆さん、よろしくお願いします」
「任せて!!」
「……ああ、分かった」
そうしてディーレの連射を抜けてこちらにきた、走ってくるコボルトをファンがかぎ爪で一匹首を狩った。クロッシュも落ち着いていて弓でコボルトを仕留めた、腕は悪くないようだな矢が目に命中していて脳にまで達している。生きているコボルトの動きをよんで、小さな目にだけ当てるのは難しい。
「確かに足手まといにはならなさそうだな」
「……そう言っただろう」
これほど腕がいいのなら、何故他のパーティから声がかからない。やはりクロッシュの性格が問題か、どんなに腕がよくても何を考えているのか、それが分からない相手とは組めない。
「ねぇ、クロッシュ。なんで冒険者しているの、僕はね。楽しいから!!」
「……食べる為、俺には弓しか技術がない」
「そうなの、弓が上手なら狩人にもなれるよね」
「……それだけでは食べていけないし、今以上に成長できない」
「ああ、強くなりたいんだ。それは僕も同じ、強くなって仲間を守るんだ」
「……良い目標、強くなれるといいね」
「クロッシュは仲間を探してるんだよね、どんな仲間を探してるの」
「……俺を馬鹿にしなくて、よけいな詮索をしないやつ」
しばらくはディーレの連射で敵はほとんど片付いた、その間にファンがクロッシュに話しかけている。ファンは全く気にしていないが愛想というものがない、確かにこれでは仲間としてはやっていきづらい。そうやって進むうちにオークなどが混じり始めたが、ディーレの敵としては不十分だ。俺たちは更に先に進む、いたいた今日も出会えたぞ。今のクロッシュの相手なら、これくらいがいいだろう。
「俺もそろそろ運動しよう、友人がやってきてくれたしな」
「……オーガは普通、友人とは呼ばないのですが」
「……レクスってオーガが友達だったっけ」
「……友達というよりは、金ずると呼ぶべきですね」
俺の言葉に仲間たちは複雑な顔をする、俺はもうオーガさんの親友だ。冒険者になった頃からお世話になっている、その魔石と剥がした皮は俺の生活を常に支えてくれていた。まぁ、もちろん同じオーガには二度と会わないが。
ぐらあああぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!
「……変な人間、巻き込まれて死ぬのは勘弁したい」
「心配するな、オーガさん達じゃ俺は殺せない」
俺は仲間に合図して一人でオーガの群れに突っ込んでいく、鈍っている戦いの勘を少し取り戻しておきたい。それにしてもセラは俺の正体に気づかなかったのか、いや知っているが娘や仲間には教えていないようだな。
「まずは一匹、続けて二匹目!!」
オーガの群れに正面から突っ込んでいって、すれ違いざまに飛び上がって武器を振り下ろす、一匹のオーガの首をメイスでへし折った。オーガは俺の二倍くらいの身長があるから、少しだけ飛び上がって攻撃する必要がある。続けて襲ってきた奴の攻撃を躱して、二匹目のオーガも首を下から突き上げて折る。オーガくらいが相手なら、『重力』はもう必要ない。
「ディーレにクロッシュ、援護射撃をお願い。僕も行ってくる!!」
「はい、ファンさん。お気をつけて」
「……わ、分かった。援護する」
俺に続いてファンが突っ込んでくる、オーガくらいならファンが負けることはない。俺はファンの位置を常に把握しつつ、もう一匹オーガの首を目掛けて飛び上がりメイスを振るった。ファンも小さい体でオーガの攻撃は躱しつつ、迷宮の壁やオーガ自身を足場に見事に首をかぎ爪で狩りとった。
時々、ディーレの援護射撃がくるが、ディーレの腕なら誤射される心配はない。だが、今日はちょっとだけ俺もファンも気を付ける、クロッシュがいるからだ。
「……ちっ、当たったのにまだ動いてる」
クロッシュは腕は悪くない、オーガの目にしっかりと矢を当てている。でも、クロッシュはまだ成長しきっていない女の子だ。矢がオーガの脳まで届くような力が無い、これが他の冒険者から戦力にならないと言われる理由か。クロッシュは後衛として善戦していた、全てのオーガの目だけを射抜いているが、どうしても止めを刺すことはできなかった。
「うむ、今日のところはこんなものか。クロッシュ、援護は助かった」
「……俺は役に立っていない、仲間に入れるだけ無駄だ」
「いや、目潰しをしてくれるだけでも違う。自分を過小評価し過ぎだ、だが確かに止めをさすにはもっと力がいるな」
「……分かっている、俺はこれからが成長期だ」
「ん、何をそんなに怖がってる、慣れない俺たちが怖いのか?」
「……こ、怖くなんてない。さっさと剥ぎ取りをしよう」
クロッシュはどこか思いつめているようなところがある、何をそんなに緊張しているのだろう。よく眠れてもいないようだ、動きを観察していたが目の下にくまがある。それにミュートスの集落で一緒に逃げたエルフたち、彼らは大人だという違いはあるがもっと身軽だった。クロッシュは後衛だが、動きがやや鈍い。うーん、良い仲間を見つけてやりたいが、俺たちがここにいられる時間は少ない。
オーガの群れから魔石と剥がした皮を回収して、迷宮の入り口でクロッシュとは別れた。とりあえず明日も迷宮に一緒にもぐる約束はした、なかなかパーティを組めていないぶん稼ぎも悪かっただろう。今日の稼ぎで良い宿屋に泊まって、たまっている疲労がとれればいいが。俺はそう思ったが、皆はどうだっただろう。オーガからの戦利品は商業ギルドで売却した、その道すがら聞いてみる。
「あまり長くは一緒にいてやれない、クロッシュは何を考えていると思う」
「僕は、……彼女は何かから逃げていると思います」
「うーんとね、何も考えたくない感じ」
「せっかくの可愛い女の子なのに、自分を否定することに必死なようです」
「よく眠れていないようだしな、何がそんなに彼女を追い詰めているんだろうか」
「何故か僕のことをよく見ていました、視線を感じて振り返ると目をそらされましたが」
「あっ、それ僕も思った。ディーレのことを好きって感じじゃないんだけど」
「イケメンって本当に得なんだから、とは言えない辛そうな視線でしたね」
うむ、仲間の意見を聞くとやっぱり面白い。俺が気がつかなかったことがいっぱいある、ディーレのことを気にしている。そして、ミュートスの集落に帰りたがらない。その二つを結ぶものは何だろう、それはそう時間が経っていないうちに起こったはずだ。
ディーレと俺たちはミュートスの集落に最近訪れたのだから、そして最後には集落は別の場所に移動した。いや、その前には一体あそこで何があった、ディーレとミュートスの集落が関係するものはあれしかない。
「…………明日、クロッシュに聞いてみよう」
俺は思いついたことがあって、それを皆に伝えてみた。ディーレも同意見だった、ファンは納得した。ミゼはクロッシュのことを心配した、彼女が眠れていないのもおそらく原因は同じだろう。
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