第百五十四話 とても見捨てて行けはしない
「ここがベラーターの街か、確かにいろんな人種がいるな」
「無事に辿り着けたことを神に感謝します」
「はぁ~、ミゼ。走り続けてちょっと疲れちゃった」
「ファンさん、こんな私の為に!! 私は感動しております!! …………おかしいです、私にロリコンの趣味は無かったはずなんですが」
俺たちはエルフのミュートスの集落を襲った火事から逃げ延びた、無関係な人間に街道で途中で会って分かったが、ミュートスの集落跡地にはもっと近い街もあった。だが、ヘルミナ国で特にエルフが多く住む街はここだという話だ、それでセラはこの街を薦めてくれたのだろう。彼女たちが無事に新しいミュートスの集落を辿り着き、そこであの勇敢なエルフたち全員が家族と再会できているといい。
ヘルミナ国に入ってからずっと街道を俺とファンで走ってきた、時々ディーレとミゼを降ろして休憩をとりながら、貰った地図を参考に走り続けた。俺たちは気配を消す魔法を覚えた、それで時々出会う人間に気をつけながら、走り続けてこの街にたどり着けた。次の行先を決めないといけないが、さすがに走り続けて俺とファンは疲れている。
「まずは飯屋だな、ファン。体は大丈夫か?」
「大丈夫、ドラゴンはこれくらい平気だよ」
「そうですか、でも少し僕たちは休みましょう」
「ディーレさんの言う通りです、レクス様、ファンさん。食事をしたら宿をとってお休みください」
俺たちはベラーターの街に入ってまず飯屋に行った、いろんな種類の食材があってファンが喜んだ。大丈夫、こうやって食べる気力があるうちは大丈夫だ。俺自身は走りながら、森から生気を分けて貰っていた。こうやって飯屋で飲むスープやジュースは水分補給と、純粋な食事と言う楽しみだ。皆で十分に食事をとったら、まずは宿屋に泊まって休むことにした。
「ディーレとミゼも休んでおけよ、俺も少し眠る」
「僕は背負われていただけですから、ミゼさんと交代で一応見張りをします」
「ふぁ~あ、僕もレクスと一緒に寝る」
「ファンさん、おやすみなさいです。ディーレさんと見張っていますから、ゆっくり休んでください」
俺とファンは宿屋について風呂を借りると眠りについた、ディーレとミゼは交代で起きて万が一に備えて見張っていてくれた。俺たちはヴァンパイアの追跡を振り切ったと思う、あの凍えるような視線を感じなくなった。フェリシアのことだけが心配だったが、俺たちを助けてくれた森の木々たちを信じよう。
俺とファンは半日は眠り続けた、その後も2日ほど同じように休養した。気配を遮断する魔法を覚えたが、人間やヴァンパイアを警戒して走り続けるのは神経を使った。2日休んでやっと体調が戻ったという感じだ、ファンのほうも本当はドラゴンで体力があるから同じように回復していた。
「さて、これからどうするかだな」
「どこか大国で、魔法に強い興味のある国を探しましょう」
「ヴァンパイアが手が出せない国だね」
「難しい問題でございますね、でもセラさんは必ずあると言っていました」
「とりあえず、この街のエルフに会ってみるか」
「それでは冒険者ギルドに行きましょう。セラさんの話では情報を集めやすいし、エルフの方も何人かは冒険者をしているはずです」
「冒険者をしているエルフか、どんな性格なんだろう」
「エロフのおにゃのことはいっぱい遊んで貰いました、この街にいるのも可愛らしい女性だといいですね」
俺たちは気力を取り戻すと冒険者ギルドによってみた、俺の白金の冒険者証は使わないし皆も依頼を受けない。冒険者ギルドは大抵の国にある大きな組織だ、そこには情報をやりとりする魔法の力がある。せっかく気配を消す魔法を覚えたのに、冒険者ギルドを利用してそこから情報が伝わったら意味がない。だから、ギルドの職員には冒険者証を見せられなかった。
冒険者ギルドは結構大きな建物だった、掲示板を少し覗いてみたりしながらエルフの冒険者を探す。他の冒険者たちと近隣の国の話をしてみたり、少しだけ情報交換をしながら注意深く観察する。冒険者が仲間を探して長時間いることはあるので、俺たちがギルドに出入りしていても誰も気にとめなかった。
そして、3日ほど経った時だ。エルフの冒険者を見つけた、弓を持った長い銀の髪に青い瞳の小柄な少年だった。ちょうど冒険者ギルドに入ったところで声をかけた。
「よう、セラと言うエルフを知らないか。彼女の仲間を探しているんだ」
「……………………母さんの使いか、集落のことは聞いている。俺は絶対に帰らないぞ」
「えっと、帰らないとは何のことだ?」
「俺を連れ戻しに来たのだろう、俺は冒険者として暮らしていくからな」
「いや、俺たちは近くの国の情報が欲しいだけだ。セラからエルフに聞くと良い、そう言われただけで、お前のことは詳しく聞いていない」
「あのババア、俺に面倒をおしつけやがったな」
セラは俺たちの恩人だ、どうやらその息子のようだが、恩人を悪く言われると嫌な気分になった。話から推測するにセラはこの息子を集落に帰したかったようだ、それに反発する息子が実力行使に出た。そんなところだろうと俺は思った、これは情報の方も期待できそうにない。
「呼び止めて悪かった、他のエルフを探してみる」
「待て、エルフは恩人に応えないわけにはいかない。面倒だが、ついて来い」
エルフとしての誇りはあるらしい少年はそう言い放った、外見年齢は俺より少し下くらいだが実際は何歳なのだろうか。恩とは流行り病を治したディーレのことだろう、村には戻らないと言いながら恩返しはする、エルフは優しくて律儀な性格をしているようだ。俺たちは一旦、冒険者ギルドを出て近くの飯屋に入った。全員が適当に飲み物だけを注文する、そして少年は単刀直入に話を始めた。
「俺の名前はクロッシュ、それで何が聞きたい?」
「この近くの強国で、特に魔法が盛んに研究されている国を知りたい。ああ、時計台のある国かもしれない」
「……難しい条件だな、強国ならビウダ国だが魔法のことは知らない。魔法が盛んならエンパテ国だが、あそこは小国だ。時計台とは何だ?」
「クロッシュと言ったか一体何歳なんだ、時計台とは大きな時計のついた建物だ」
「……俺はもう15歳だ、母さんは反対するが人間なら成人している。国の話だったな、フォルティス国はどうだろうか、時計台があるのかは知らないが魔法も確か盛んだったはずだ」
「そうか、フォルティス国か。ここからどのくらいで着く国だ?」
「歩いても一月でつくだろう、このベラーターの街で情報を集めて行くといい。それじゃ、俺はもう行くからな、……母さんに俺のことは言うなよ」
「分かった、情報に感謝する」
俺は注文したジュースを飲みながら、クロッシュという少年を見送った。いや少年と言っていいのだろうか、なんと15歳だという。エルフとしては赤ん坊くらいの時期かもしれない。どおりでセラが心配して集落に呼び戻したがるわけだ、それに何だろうか彼を見ていると違和感に襲われる、俺はひとまず仲間たちに声をかけた。
「フォルティス国を薦められたが、皆はどう思った」
「あの少女のことが少し心配です、頑張って男性を演じていましたが、見る者が見ればすぐに分かります」
「えっ、やっぱり女の子だったんだ。ディーレって鈍いのに、変なところで鋭いよね」
「綺麗な女の子でしたね、レクス様。私は恩人の娘さんが心配です」
変な違和感はそれか、確かに小柄で線が細かった。声は低めだったが、女の子だったのか。俺は国のことを聞いたが、仲間と同様に彼女のことが心配になってきた。俺が15の時はどうだっただろう、ミゼと出会ったばかりで常識知らずなこともやらかした。あっ、本格的に心配になってきた。
「フォルティス国の情報を集めるついでに、彼女のことも聞いて様子を見ておこう」
「ええ、あの少女には危うい雰囲気があります」
「良い仲間に恵まれているといいね」
「故郷を離れ、孤独に生きる可愛い少女。私は見捨てることができません、エルフの娘、ばんざーい」
ヴァンパイアたちはおそらくミュートスの集落跡地に近い街や村、そんなところから俺たちを探そうとするはずだ。だったらしばらく時間に猶予がある、それに恩人の娘を放ってはおけそうにない。翌日から聞き込みをあちこちでしたが、クロッシュという少女は予想以上の有名人だった。
「ああ、フォルティス国ね。確かに強国だし、魔法が盛んよ。えっ、クロッシュのことも知ってるの。あれで男を演じているつもりなの、ふふふ。とっても可愛い子どもよね」
「フォルティス国についてか、強国だとしか知らないな。クロッシュ?ああ、弓しか使わないエルフの娘だろう。戦力にならないから、冒険者ギルドで仲間を探してうろちょろしている」
「魔法が盛んで研究がすすんでいる国よ、魔法ならどんなものでもあるって聞くわ。エルフの女の子?ああ、クロッシュね。弓は凄腕だけど、仲間になる女の子を見つけられないみたい」
「時計台か、確か大きなものがフォルティス国にあるって話だな。クロッシュか、パーティに入ってもにこりともしない。本音で話せないようじゃ、長く組むわけにはいかない」
どうやら俺たちの目指す国はフォルティス国でいいようだ、それはいいのだがクロッシュというセラの娘の評判が気にかかった。冒険者ギルドの横にある酒場でよくその噂を聞いたが、腕は良いらしいが堅物過ぎて感情表現が苦手らしい。女の子なのに男のふりをするから、女性のパーティからも距離をおかれているようだ。
「行く国は決まったようなものだが、どうにもあのクロッシュという娘が気になるな」
「レクスさん、一度僕たちのパーティに誘ってみたらどうでしょう」
「うん、僕も女の子同士で話してみたい」
「エルフの綺麗で可愛い女の子、そんな子を私が歓迎しないわけがありません」
俺たちは話し合った結果、クロッシュというエルフの女の子をパーティに誘ってみた。俺が声をかけてフォルティス国に行くまでだが、迷宮探索を手伝って欲しいと頼み込んだ。
「…………恩人の誘いだ断れない、でも俺はミュートスの集落には戻らないからな」
どうしてそんなに頑ななのか、俺たちは不思議に思いながらパーティを組んでみることにした。幸いなことにベラーターの街にも迷宮があった、はてさて一体どうなることやら。
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