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第百五十二話 必ずどこかにあると信じたい

「ふははっはははっ、レクス殿。お元気になられたようでなによりだ、そろそろ姿を隠す魔法を教えようか」


いつの間にかセラが俺たちの借りている部屋に来ていた、俺たちの一連の騒動を全て見ていたようだ、少し恥ずかしいが俺たちはいつもこんなものだから特に気にはしない。


「ぜひ頼む」

「はい、僕からもお願い致します」

「僕も頑張る!!」

「あのー……、私も覚えないといけませんか?」


皆がやる気があるなかでミゼだけが消極的だ、ミゼは隙があればさぼろうとする癖がある。だが、今回はそうもいかない。全員で覚えないとこの魔法は役に立たない、俺たちは全員ヴァンパイアに目をつけられているだろうから、一匹でもこの魔法を覚えずにいたら無意味だ。その一匹から俺たちの情報が筒抜けになってしまう、だから俺はそろりそろりと後ずさりしていたミゼを捕まえた。


「ミゼも強制参加だ、そうしないと意味がない」

「そうですよ、ミゼさん。これから教わる魔法は大切です」

「覚えておかないと、ミゼだけヴァンパイアに見つかっちゃうよ」

「…………私は中級魔法までしか使えませんが」


俺と仲間たちがミゼをなんとか説得しようとする、それから逃げようとしているミゼの言葉に、セラがにっこりと笑って答えた。


「大丈夫、この魔法は中級魔法くらいの力で扱える」


それを聞いて俺もほっとした、ミゼも中級魔法なら楽々と使っている。もしミゼがこの隠れる魔法が使えないなら、どこかに預けなければいけなかった。例えばこのエルフの村だ、ここならヴァンパイアから隠れられるし、セラが面倒をみてくれるだろう。だが、そんな心配は今なくなった。


「良かったな、ミゼ。この魔法が使えなかったら、お前をセラに預けようかと思っていた」

「セラさん!!ぜひ私はこの魔法が使えない方向でよろしくお願いします!!」


ミゼはキラキラと瞳を輝かせてセラのほうにそう言い放った、俺はそんなミゼを無理矢理こちらに振り向かせる、そうしてその額をいつもの五割増しの力でぺちんっとはじいてやった。


「目が――!!目が――!!あっ、暗黒竜が目覚めてしまう――!!」

「ほえっ、それって黒いドラゴンのこと?そんなの、ドラゴン族では珍しくないよ」


ミゼはいつも以上に床を転がりのたうち回っていたが、選んだ言葉が悪かったようでファンの気はひけなかった。そのうちに力尽きたのか、のろのろとこちらに戻って座りなおした。


「それじゃ、セラ。改めて魔法を教えてくれ」

「ふははっはは、分かった。分かったが、面白い仲間たちだな」


「いつも賑やかで楽しいぞ」

「うむ、私も若い頃には冒険をした。その頃の仲間を思い出す」


セラは一瞬遠いどこかを見る目をした、だがすぐにコホンッと咳払いをして俺たちの前に座った。


「教える魔法は簡単だ、『隠蔽(ハイディン)せし(グマジカル)魔力(パワー)』と言う」


そうセラが唱えた瞬間に彼女の姿が希薄になって消えたように見えた、すぐそこにいるのに気をつけないと見失いそうだった。たった十秒ほどのことだったが、確かに彼女の姿が消えたように見えた。


「この魔法は簡単だが難しい、この村には古語でこの魔法を掘った魔石、それを要所に配置してある。魔石の力が失われないうちは村は隠されている、だが生きている者がこの魔法を使うと、ずっと魔力を消費したままになる」

「それはミゼには厳しいな、ミゼは中級魔法までしか扱う魔力が無い」


「うむ、それはともかくまず魔法について説明する。レクス殿たちがヴァンパイアに居場所を知られる、これはレクス殿たちの魔力を相手が覚えているからだ。だからこの魔法を使いこなせるようになれば、もう居場所を知られることはなくなる」

使いこなせる(・・・・・・)ようになれればだな」


「そうだ、常にこの魔法を使って魔力を隠す。慣れれば慣れるほど、使う魔力は減っていくし、眠ったままでも使えるようになる。初めはとにかく使うしかない、そして仲間のことだけは逆に覚えないといけない、同時に二つをこなしていく必要がある」

「難しそうだが、やってみるしかないようだな」


「そのとおりだ、だが自由に使えるようなれば知らせたい相手にだけ、選んで自分たちの姿を見せることができるようになる」

「そうか、とにかくやってみよう」


セラから詳しい魔法の構造を聞いてみると、初級魔法の『隠蔽(ハイド)』がただ単に姿を消すのに対して、『隠蔽(ハイディン)せし(グマジカル)魔力(パワー)』は姿に加えて魔力まで隠してしまうようだ。それから、俺たちは常に一緒にいながらこの魔法を使い続けた。


「俺はこの魔法と相性がいい、精神魔法に近いな。よく考えてみれば、俺は精神魔法と相性がいいようだ」

「レクスさん、そこにいるんですね。気を抜くとレクスさんの姿が消えます」

「難しいよ、この魔法。一瞬だけなら簡単だけど、ずっと維持して使い続けるのが難しい」

「はっ、教室で私の存在を消したかったあの頃。あの頃の気分に戻れれば!!」


俺たちはそれぞれのやり方で『隠蔽(ハイディン)せし(グマジカル)魔力(パワー)』を覚えていった、一番に覚えたのはやはり俺だった。どうも俺は精神魔法と相性がいいようだ、俺とは逆に一番に苦労したのはファンだった。ドラゴンの魔力は存在感が強いのだ、意外なことにミゼは魔法を維持するのは難しそうにしていたが、その覚えはなかなか早かった。


「ディーレ、そっちにいったぞ。目潰しを頼む!!」

「お任せください、閃光弾!!」

「僕が止めを!!」

「ファンさん、そのまま頑張って!!」


俺たちは『隠蔽(ハイディン)せし(グマジカル)魔力(パワー)』を覚えて使えるようになったら、今度は鹿や猪など森へ狩りに出かけた。そうして自分たちの姿は隠したままで、仲間の気配を覚えて見失わないように練習した。


「この魔法は確かに使えば使うほど、使用する魔力は減っていくな」

「確か眠ったままでも使えるようになるんですよね」

「無意識での魔法発動ができるようになればそうなるはず」

「私は存在しない、存在しない、そう空気になれ、教室の空気になるんだ」


最初は難しかったが俺たちは徐々に魔法を使いこなせるようになった、眠っている時でも魔法が解けなくなると、セラが合格だと言って笑ってくれた。そうなるまでに三か月もかかってしまった、俺は18になっていた、ディーレも17だ。ファンもやっと1歳になった、ミゼの年齢は分からない。


「それじゃ、次は大国で魔法が盛んな国に行くか」

「ミュートスの集落から、一番近い街で情報を集めましょう」

「また空を飛んでいくの?」

「うっぷ、空の旅でございますか、できれば遠慮したいものです」


そう話している俺たちにセラがハッした顔をした、そして思い出したことがあったとこう注意をしてくれた。


「一つだけ、この魔法には弱点がある。他の魔法を使う時、隠蔽されている魔力がどうしても漏れてしまうんだ。だから中級魔法くらいまでならいいが、上級魔法を使い続けないほうがいい。一瞬だけなら問題ないが、上級魔法を使い続ければ居場所がバレてしまうだろう」


なるほど魔力を隠す魔法だから、他の魔法を使うと隠しきれなくなるのか。では『飛翔(フライ)』の魔法は使えない、あれは上級魔法だからだ。つまりは次の目的地まで歩いて移動するしかない、他の回復魔法の『完全なる(パーフェクト)癒し(ヒーリング)の光(シャイン)』などは大丈夫だ、使うのは一瞬だけだからな。


「ここからならベラーターの街が一番近い、詳しい地図を描いて渡しておこう。若いエルフは冒険好きだ、だからその街に住んでいる者もいる。時間があれば訪ねてみるといい、きっと他の国のことにも詳しいはずだ」

「何から何まで済まない、……とても助かった」


「ふはははは、このくらいはディーレ殿がしてくれたことに比べれば何でもない。彼がいなければ今頃、この村の半分は死んでいた」

「そういえばどうやって俺たちが来るのを知ったんだ」


セラは俺の問いにちょっと言い淀んだ、少し考えているようだったが教えてくれた。彼女は大きな水晶玉を持ってきて、そして俺たちの前で魔法を使ってみせた。


「この魔法はエルフの者しか使えない、何故だが分からないがそうなんだ。今日はレクス殿たちの為に使ってみよう、『世界よ(ワールド)我に(ショウ)希望(ミー)を示せ(ホープ)』」


セラが『魔法の言葉(マジックワード)』を唱えた瞬間に、水晶玉にどこかの国の風景が映し出された、知らない都だったがこれが俺たちがこれから行く国なのだろうか。


「ふぅ、こうやって私は以前の流行り病の時も魔法を使った。するとレクス殿たちが同じように映った、だから必ず助け手がくると判断できたのだ」

「つまり、俺たちの望んでいる国も必ずあるということか」


俺の言葉にセラは微笑んだ、それは肯定の笑みだった。俺はさっきの光景を忘れないようにした、なかなか発展した都のようだった、大きな時計台があるのが特徴的だった。そんな俺にセラが笑って言った、それは俺たちとの別れの言葉になった。


「どんな時にも希望は必ずどこかにあると信じたい」


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