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第百五十一話 再会するのが早過ぎない

「エロフの村、またチャンスがきたこれ――――――!!」

「煩いぞ、ミゼ。一匹だけ留守番しているか」


 俺たちは半月ほど元来た道を引き返して、ミュートスの集落の近くへと戻ってきていた。ミュートスはエルフたちの隠れ里だ、さて果たして今度はエルフたちの導きなしで辿り着けるだろうか。


「ディーレ、確かこの森で、この街道だったよな」

「はい、この場所でした。ですが、この先が分かりません」

「飛んできた空からは何も見えなかったよね」

「ええ、そうでございますね。空の旅って凄く速いのはいいのですが、ちょっと乗り物酔いです」


 主人である俺を乗り物扱いしているミゼは後で叱ろう、また半月も空を飛び続けて俺も少し疲れている。だが、この場所に俺たちが必要としているものがある。


 エルフたちの助けがなくても、ここは森の中だ。草食系ヴァンパイアの俺が一番力を発揮しやすい場所だ、俺は近くの木々にミュートスへの道を尋ねてみることにした。


”……また……来たね……”


”…………こっちだよ…………”


”……こっち、……こっちだよ……”


”……気を付けて…………”


”…………静かに……”


”…………こっちだよ…………”


 俺たちはいつの間にかまた森の中に迷いこんでいる、だがそれでいい簡単に辿り着けないこの場所に用があるのだ。霧が出てきたのも前と同じだ、そのまま森の木々の導きに逆らわず、俺たちは目的地へと辿りついた。


「人間か、何をしに……、あんたたちはあの助け手か」

「突然訪れてすまない、どうしても知りたいことがあった」


「あの時助けて貰った恩がある、それに村長が喜ばれるだろう」

「そうならいいが、俺たちは厄介ごとを招くかもしれないぞ」


 俺たちはミュートスの集落へ辿りついた、近くにいた住人であるエルフは俺たちのことを覚えていた。まだほぼ一月しか経っていないから不思議もない、俺は住民全ての名前まで覚えていないかった。


「確か覚えています、ポールでしたね。お母さまと弟さんはその後、お元気ですか」

「二人とも元気だ、助け手のおかげだよ」


「それは良かった、他の皆さんもご無事ですか」

「ああ、皆も元気だ。村長のところまで案内しよう」


 俺とは逆にディーレはその若者を覚えていた、若者は顔をほころばせてディーレの問いかけに答えた。そして俺たちを村長であるセラのところへ案内してくれた、セラは薄青い髪と瞳をしたエルフだ。


「おかえり、優しい助け手たち。帰ってくるような予感がしていたよ」

「そうか、悪い予感じゃないといいが」


「ヴァンパイアたちのことを心配しているんだろう、でもこの場所には普通辿りつけない。でも助け手たちはよほど森に愛されているとみえる、迎えに行かなければそうでない者はここに来られない」

「あんたたちに迷惑をかけるかもしれない、だがどうしても聞きたいことができた」


 そこまで話したところで俺はくらりと眩暈を感じた、さすがに半月も空を飛び続けるのは疲れた。体が疲労して休息を欲しているのだ、それを気力で補ってまずは聞きたいことを聞くことにした。


「この集落のように姿を消す魔法を教えて欲しい」

「単刀直入で分かりやすい、だがまず貴方に必要なのは休息ではなく休養だな」


 セラはまた自分の家へ招き入れてくれた、そして俺たちにお茶をいれていれた。皆で座って飲むと体が温まって、今まで凍えていたような気がした。そうだ、俺はずっと凍えるような視線をこの半月で感じていた。それはこれまで意識しなかったが、ヴァンパイア達からのものに違いない。


「まずは休むと良い、この新しい魔法を覚えるのは大変だから」


 セラがそういった瞬間、俺は緊張がとけた。ふいに眠気も襲ってきて、逆らわずに眠ることにした。ディーレが床で眠りこんだ俺に、上着をかけてくれたことまでは覚えている。


俺はどれぐらい眠ったのだろうか、あたたかなベッドの上で目を覚ました。傍にいるディーレとファンに聞いてみる。


「…………ディーレ、ファン。うーん、俺はどれくらい眠っていた」

「レクスさん、眠っていたのは半日くらいですよ。全く無理はいけませんよ」

「そうそう、レクスったら何があっても起きないんだもん」


「何かあったのか!?」

「ええと、ですね。あったというか、今もあっているというか」

「現在進行形で村中が騙されてる、特に可愛くて綺麗な女の子ばっかり」


 思わず飛び起きた俺だったが、ディーレやファンには緊張が見られない、ただ困った様子をしている。こういう時に何かをやらかすのは決まっている、姿が見えないミゼの奴が何かやっているのだ。


「ちょっと止めて……」

「レクスさん、貴方に必要なのは休養です。まだ、眠っていてください」

「大丈夫、大丈夫。皆も珍しいから構っているだけで、女の子たちに飽きられたら戻ってくるよ」


 俺は強引にディーレにまたベットに寝かされた、そういえばここへ運ばれたのにも気がつかなかった。それにしてもミゼの奴め、何をやらかしているのだ。


 俺は起きるのが怖いような気がしながら、また仲間の優しい気配を感じて、そのままいつの間にか眠りについた。そうして、しばらく俺は休養の為に部屋から出られなかった。


「ディーレさん、ファンさん。もう私ここの招き猫になってもいいですかね、可愛いエロフのおにゃのこが沢山遊んでくれるんです。何という幸せ!!」

「ミゼさん、エルフの方々と仲良くなるのはいいですが、あとで女の子ばかりに構っていること。それも、レクスさんにバレてもしりませんよ」

「そうだよ、ミゼ。それから精進料理だか、何だか知らないけど変な物を教えちゃって」


「精進料理は悪いものではないです、エルフの方々は野菜ばかりを食べているので、少し新しい料理法を提案してみただけのことでございます」

「別の宗教の料理でしたね、動物性の食材ともう1つは五葷を食べないでしたか。教会でも清貧という私的な財産を持たない教えはありましたが、食事まで細かい教えがあるとは別の宗教も面白いものです」

「僕は狩りに行くのが大好きなのに、ここの皆ってお肉あんまり食べないだもん。ミゼはエルフの女の子ばかり追いかけてるし、まったく僕のこと聖女とか言ってたくせにミゼの浮気者!!」


 俺は賑やかな仲間の声でまた目が覚めた、ミゼがやりたい放題やっているようだ。でもディーレもファンもいろいろと言いつつ笑っているから、そんなに大したことではないのだろう。俺も苦笑いをしながら、ゆっくりと体を起こした。


「ミゼ、俺のいない間にまた何かしたな」

「うひょおおぉぉぉぉぉうぅぅ、レクス様。私はレクス様の忠実なる(しもべ)でございます、その主の品格を落とすようなことなど、あはははっははっはっは。……ごめんなさいでございます」


 ミゼは俺が起きたと知るや、飛び上がって驚きうろたえたが、最終的には素直に頭を下げて謝る姿勢をとった。だが、俺には分かってしまう、こいつ全然悪いと思っていない。


「これぞ、秘儀。ごめん寝でございます!!」

「お前、全く反省してないだろ!!」


 俺はミゼの首を後ろから持って起こすと、額にぺちんっといつもの一撃をくらわせた、さて今日は何と言ってくるだろうか。案の定、俺から離れたミゼは目を抑えて床を転がり出した。


「目が――!! 目が――!! 悪魔が、私の中の悪魔が――!!」

「それはいけません!! 『聖なる炎(ホーリーフレイム)!!』」


 ミゼが悪魔がと言いだした瞬間にディーレが動いた、ミゼはディーレの魔法で蒼い炎に包まれた。俺もファンもそれにはびっくりしたが、ミゼ自身が一番驚いてきょとんとしていた。


「ご安心ください、ミゼさん。この炎は悪魔にしか効かないと言われています、体には何も害はありません」

「そ、それはありがとうございますって、……私は火葬にされるかと思いました。もう、ディーレさんったら、なにこれ怖いこの純粋なイケメン」


 そうか悪魔って本当にいるのか、確かに悪魔族という種族が僻地にはいるらしい、本にはそう書いてあった。だが、ディーレのような退治方法までは俺も知らなかった。しばらくするとファンが呆れたようにディーレに言った。


「悪魔族って悪いイメージがあるけど、魔力が高くて姿が違って寿命が長いだけで他は人間と変わらないよ」

「そうなのですか!?…………反省致します、僕は教会の知識だけで、凄く悪いものだと思い込んでました」

「俺も知らなかった、悪の一族という印象が強いが、魔力と姿に寿命以外はあまり人間と変わらないのか」

「それでは角と黒い翼の悪魔族のおにゃのこ、そんな夢の彼女と仲良くなるのも時間の問題ですね!!」


「ミゼったら女の子ならどの種族でもいいんだ、はぁ~。人間に嫌われてるから辺境にいるだけで、別に悪い種族じゃないんだよ。僕も会ったことは無いけどさ」

「大変な間違いでした、本物の悪魔族の方々に会うまで認識を改めます。ありがとうございます、ファンさん」

「ああ、人間は別種族を軽く見ているところがあるからな。俺も気をつけよう」

「なんということでしょう、ワーウルフの時といい、ここのエロフさん達といい。人間の偏見の為に異人種交流を妨げられているなんて、人類の大きな間違いでございます!!」


 ミゼの言っていることは凄いことのようだが、実際は女の子のことしか考えていないだけだ。ディーレには衝撃だったようだな、俺も悪魔族にまで詳しくは知らなかったから変わりはない。


「ふははっはははっ、レクス殿。お元気になられたようでなによりだ、そろそろ姿を隠す魔法を教えようか」


 いつの間にかセラが俺たちの借りている部屋に来ていた、俺たちの一連の騒動を全て見ていたようだ、少し恥ずかしいが俺たちはいつもこんなものだから特に気にはしない。

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