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第十五話 話を聞いた覚えはない

 アルラウネを倒した後、俺はソイツの枝を『魔法の鞄(マジックバッグ)』に回収した。また、剥ぎ取りの途中だったオーガもしっかりと皮を引っぺがして、こちらは売却か自分の防具にするので普通の皮袋に入れておいた。あとで、ギルドか防具屋で売るか依頼をするつもりだ。


 もちろん、真っ先に服を着てからの話だ。これはあれだな、霧の状態から戻る時に服の中に潜り込めばいいのだろう。そうすれば霧になる度に全裸にならなくて済む。


 霧状のヴァンパイアとは凄い、ある意味で必殺技だ。でも、敵に勝利した後。全裸になってしまったら、勝負には勝っても別の意味で、敗北感を味わうはめになりそうだ。


「さすがに霧になるのは疲れた、アルラウネを食ったから魔力も回復したし満腹だが精神的に体が重い。今日は普通に、ゆっくりと歩いて帰るか」

「お散歩気分で帰るのも、偶にはよろしいでしょう」


 俺達は珍しく普通の冒険者のように迷宮を歩いて帰ることにした、買って以来使っていなかった角灯に『永き灯(ロングライト)』の魔法を使い、ミゼの言う通りに軽い散歩のような気分で帰ることにした。


「ふわぁ~、オーガとオークでは大違いだな。オークは力は弱いし、一直線に攻撃してくるから、殴り殺すのも簡単だ」

「オーガとオークでは力も大違いでございますから、でも、普通の冒険者からしますと、オークでも歩行する猪程度の力はあるのですから、危険なのですよ」


 10階層くらいまではそれで特に問題はなかった、角灯の『永き灯(ロングライト)』による明るい道をただ時々、相棒であるメイスくんを振り回して歩いていくだけで良かった。


 この階層より下にいける冒険者パーティなら、それはそれなりの実力者だからだ。時々戦闘に遭遇したり、すれ違う時に挨拶をする程度。こっちの戦闘に割り込みをしたり、冒険者のふりをして襲う強盗まがいの不届き者にもあわずに済んだ。


「なぁ、ミゼ。敵を倒したら勝手に魔石を回収できる、そんな魔道具が欲しいな」

「そんな物があったら、とても助かります」


 俺の戦闘方法だとメイスくんの活躍によりある意味、敵を解体しているようなものだ。時々、魔石を破壊してしまうという欠点はあるが、多数の敵を倒すのでそう気にする必要もない。


 ただ、お金に困っていない分、オーク以下のザコは魔石以外は無視している。逆に言うならば魔石だけは拾っていく必要があるのだ。最近では手で拾うのも面倒でしかたがなくなっている。


 だが魔石は様々な利用方法があるんだ、魔力を貯めておいて熱を発する道具を作るとか、魔石自体を砕いて特別なインクを作るとかな。だから、冒険者ギルドでも買い取りは常に行っているし、俺の主要な収入源でもある。


「魔石が落ちているということは、お金が落ちているのと同じことなんだが、こうゴブリンだの、コボルトだのが多いといちいち拾うのが面倒だ。なぁ、ミゼ。お前どうにかして魔石を拾えるようになってくれないか?」

「はぁ、『浮遊(フロート)』か『念力(サイコキネシス)』である程度はお手伝いできますが、迷宮を出るまでに魔力枯渇で間違いなく気絶します。よろしいですか?」


「……何があるかわからん、魔力は温存しとけ」

「はい、かしこまりました」


 うーん、俺が疲れた体に鞭打って魔石を拾っていくのも辛いが、10階層と比較的に魔物が弱いところまで来たとはいえ、世の中何があるかは分からない。ミゼの魔力も温存しておくべきだ。


 俺は何気なく腕のメイスを振って、死角から襲ってきたゴブリンどもを壁に叩きつけた。その際、ゴブリンの下で女がもがいていたようだが気にしなかった。


「くっそっ、ゴブリンどもめ。毎日、毎日、わらわらと湧きやがって……」

「ゴブリンの迷宮や魔力溜まりでの繁殖力は異常ですから、一匹のメスが十数体の子を産むこともあるそうでございます」

「あ、ありがとうございました。あの、お名前は?ええ!?」


 10階層まで上ると今度は新人冒険者が目立つようになってきた、いつもなら迷宮の天井を走り抜けて彼らに関わることもない。でも、今日の俺は疲れていた。


 他の冒険者に襲い掛かろうとしていたコボルトを壁に叩きつけた、助けられた冒険者は襲われたことにも気が付いていなかったのだろう、しばらく呆然としていた。


「コボルトもゴブリンほどじゃないが多いな、迷宮のどこかにあいつらの街でもあるんだろうか」

「コボルトも狼のように群れで動く傾向が強いです、もしかしたらあるかもしれません。毎日、毎日、これほどの数が出てくるのですから」

「た、助かりました。あの、ええと、ちょっと待って!?」


 新人冒険者というのは弱い、たとえパーティを組んでいても十匹のゴブリンに群がられて死んだりする。本で読み、シアさんから話には聞いていたが本当にそんな新人冒険者が結構いた。


 ゴブリンにたかられて傷だらけになっていた冒険者を避けてメイスをふるった、襲っていたゴブリンどもがそれで壁のしみになったことは言うまでもない。


「迷宮にもぐっていると太陽が恋しくなるな、あと臭い。血とか腐った肉とかモンスターの体臭とか、今日。俺は帰ったら石けんで、念入りに水浴びをする」

「どこかに風穴がありますから、空気は循環しておりますが、確かにこの臭気には慣れましたが、歓迎はできません。ああ、お風呂が恋しゅうございます」

「ああ、貴方は命の恩人です。どうかこのご恩をって、ええ!?」


 なんかもういろいろと面倒だった俺は、道すがら苦戦している新人冒険者達を無視して敵をさくさくと倒していった。もう、今日は魔石も充分に取れた。だから、新人冒険者に魔石や剥ぎ取りを押し付けて、淡々と迷宮を歩いていた。


 道をさえぎるゴブリンに蹴りをいれ、倒れていた人間はまだ元気そうだったので放っておいた。何か話しかけられた気もするが気のせいだ。


「風呂、風呂とはなんなんだ?それは気持ちがいいものなのか?」

「お風呂とはそうですね、人の体が入るほど大きな器に、温かいお湯をいれたものでございます。こちらでは貴族の邸宅などにしかございません」

「きゃあって、え?助かった、あ、ありがと。べ、別に助けてくれって!?」


 善戦している新人冒険者の場合はその横を黙って通り抜けたが、苦戦している奴らは俺の通行の邪魔物と判断し魔物を撲殺していった。迷宮のルールでは獲物の横取りはいけないが、冒険者同士での助け合いは認められている。


 10匹ほどのゴブリンを力任せに次々と壁に投げつけた、どこからこんなにわいてくるんだ全くもって面倒くさい!!


「ああ、そういえばあったな、あの屋敷になんかでっかい器。あれってそういう事に使うものだったのか、一回くらい使ってみれば良かった」

「宿によっては風呂付きのところもございますよ、ただしお値段が桁違いに高いですが、懐も温かいことですし、今度探してみられますか?」

「うわぁ、凄い。あ、ありがとう。私はって、あの!?」


 今回はちょっと俺が疲れていたので、助けがいりますか?と少し相手に聞く手間を省いただけである。ゴブリンやコボルトに剥ぎ取る部分なんてほとんどない、偶にコボルトの毛皮を剥ぐ変人もいるが、質が悪いのでまず売れない。


 どこか気の強そうな女が仲間らしき奴らと分断されていたので、ゴブリンからひっぺがしてその仲間らしき奴らのほうへ放り投げた。


「そうだな、今日はもう面倒だから水浴び程度で済ませておく。でも、明日から一度探してみるか。連泊はしなくても、十日に一度くらい宿を変えるのも悪くない」

「やったぁ、憧れのお風呂でございます。あれは病みつきになりますよう、特に寒くなる時期なら止められません。あっ、私は盥にお湯を頂ければそれで結構です」

「え?え?ええ!?もしかして助けてくれたの、ふっ、あたしとお近づきになりたいのねって!?」


 ひょっとしたら、助けのいらなかった新人冒険者も中にはいたかもしれない。でも、彼らは魔石の回収ができたのだから楽して儲けたことになったことだろう。


 俺はようやくたどり着いた迷宮の出口で、温かい太陽の光を浴びてほっと一息吐いた。それはミゼも同じようで、その後は宿に帰って武器の手入れと、水浴びを済ませると二人そろってベッドで熟睡した。


 霧に変化するのは魔力を消費するし、精神的にひどく疲れる。なんだかばらばらになりそうな自我を、自分という個を維持し続けるのに酷く神経を使うといった感じであった。凄い必殺技を手に入れたと思うが、その練習はくれぐれも注意して行おう。


「おはよう、ミゼ。久しぶりに真夜中の鍛錬もさぼってしまった、魔石の買い取りもして貰わなくてはならん、飯を食ったら冒険者ギルドに行くぞ」

「お疲れさまでございます、偶には鍛錬もお休みして体調を整えるのも良いかと、ではまずは朝食でございますね」


 久しぶりに長い睡眠をとったら、体も心もすっきりとした気がする。ミゼの言う通り、偶には完全に休日にしてもいいか。いや最低限の鍛錬だけはやっぱりするか、体が鈍ってしまってはいけないな。


 そんなことを考えながらミゼと適当な屋台で朝食を済ませ、俺達は冒険者ギルドを訪れた。そのとたんに、俺達に様々な雑音(・・)が一気に降り注ぐことになった。


「ああ、昨日はありがとうございました。あの、パーティを一緒に組んで貰えませんか?」

「あああああ、あの一目惚れです!どうか私と結婚してください!!きゃっ、い、言っちゃった」

「命の恩人さん、どうかこの僕の師匠になってください!!」

「昨日はお礼も聞かずに行ってしまうから驚いたよ、ありがとう助かった。どうか俺達のパーティに入ってほしい」

「ええ!?私達のパーティに入ってもらうのよ、あの、まずはお食事してお話だけえでもどうですか?」

「あっ、あんた昨日はよくも無視してくれたわね。き、今日はお礼につきあってあげてもいいわよ!!」

「ああ、見つけたー……」


 うん、俺の耳は雑音を会話として拾うことができない。某勘違いもう思い出したくもないメスから学んだことである、だから今日も俺は遠慮なくその能力を発揮した。何かごちゃごちゃ周囲がうるさかったが、俺の言うべきことは一つだけ。


「オーガの皮と、魔石の買い取りをお願いします」


 俺は周囲は無視して無言で買い取りカウンターに並び、順番がまわってくると買い取りババアにそう一言だけ告げた。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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