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第百四十七話 孤独と狂気は遠くはない

セラという村長は俺の言葉を聞いて考え込んでしまった、俺はただヴァンパイアを退治する魔法が欲しいだけなのだが、禁じられた魔法とはどういう意味を持っているんだろうか。


「…………村の恩人には出来得る限り報いたい、だが少し考えさせてくれ」

「わかった、もしその魔法を教えることがこの村を危険にさらすなら、何も聞かなかったことにしておいてくれ」


俺はセラというエルフにそう答えた、長い時を生きるエルフでさえ戸惑うようなことがあるのか。俺の探しているものは、もっとずっと難しいものなのかもしれない。


「…………レクスさん、僕は流行り病の重症な方を治療しました。でも、まだ軽傷な方は患ったままです、しばらくはここにいる必要があると思います」

「ディーレ、そうか。分かった、それだけの時間があるということか」

「僕のお母さんがその魔法を知っていたらすぐにレクスに教えるんだけど、何度も記憶を探ってみたけどどうしても見つからなかったよ。残念」

「禁じられた魔法なんて、なんて中二病な雰囲気。エルフの村といい、私は感動がいくつも味わえて幸せでございます」


ミゼ以外は事態を理解していた、自分たちが望んでいるものが、思った以上に危険なものなのかと感じていた。だが、そう思い悩んでいても仕方がない。


「悩んでいても始まらない、今日は用意してもらった食事をして早く休もう」

「そうですね、エルフの方々の食事とは初めてです」

「えーと、これはなんの植物だろう。野菜ばっかりで僕は大丈夫かな」

「ファンさんの胃袋を満たすには、明日になったら狩りの許可を貰わないといけませんね」


俺たちは与えられた屋敷で、用意されていた食事をとるとそれぞれ交代で眠りについた。野宿の時と一緒である、エルフは穏やかな種族だと聞くが、実際はどうだか分からないから普段の習慣に従った。


「ディーレ殿、昨日よりも病状が悪化した者がいる、朝食がすんだら診てもらってもいいだろうか」

「もちろんです、すぐに用意致します」


セラは翌日になってからしばらく、ディーレをつれて村を歩き回っていた。流行り病はディーレの魔法で回復できるのだが、まだ潜伏期にいるものが次の日になると発病した。俺たちはディーレ自身の体調を心配して、帰ってきたら一番に休ませるようにした。


「それじゃ、僕は狩りに行ってくる。やっぱりお肉も食べたいし、ディーレにおみやげも狩ってくる」

「私がお供します、エルフを傍で見れないのは残念ですが、これもまた放置プレイという新しい世界でしょう」


ファンとミゼは村の近くに狩りにいった、そうして鹿や猪などを何頭もしとめてきた。エルフは肉をあまり食べないということで、それらのほとんどはファンのお腹に収まった。それか、治療で疲れているディーレに振る舞われた。


「ふう、ちょっと疲れました。流行り病の初めに来られて良かったです、あと数週間後ならもっと酷いことになったでしょう」

「おつかれ、ディーレ。あまり無理はするなよ、お前が流行り病にかかったら治す奴がいないだろう」

「ふふーん、大丈夫だよ。レクス。ディーレはそういうことを考えて、あのポーションを作っておいたんだ」

「ああ、そうなのですね。ファンさんが協力して、ディーレさんが作ったポーションには、そんな意味があったのですね」


ディーレが作ったポーションはかなり高級品で、傷を癒すだけでなく病にも聞くと初めて聞いた。飲んでもいいし、非常時には少し効能はおちるが体にかけてもいいらしい。


ドラゴンの血はそれだけで薬になるという、俺も一度ファンの母親の血を飲んだことがあるが、その翌日は何故か妙に調子が良かったのを覚えている。それが本格的に薬として加工されている、ドラゴンの血と癒しの上位魔法の使い手、加えてその二つが揃ったものだからかなり強力な薬なのだろう。


「薬としては最上級のものだと思います、ですが薬に頼りすぎて副作用などが出るといけません。あくまでも非常時の備えです、普段から常用はしないでください」

「分かった、ディーレ。大事に使わせてもらう」

「僕もディーレがすごく大切に作った薬だもん、使う時は迷わないけど普段は大事にするよ」

「私も大事にしたいところですが、薬を持ち歩く方法がございません。仕方がないので、薬のお世話にならないように……、できる限り私はノージョブということで、やった!!エルフの女の子をナンパしにまいりましょう!!」


俺はミゼの首のあたりをまた後ろから掴んだ、そして額をはじくのではなく今度は別のお仕置き方法に変えた。ミゼをころんと仰向けに転がして、喉のあたりをくすぐってやった。


「ええ!?レクス様、嫌です。そんな楽しいことはエロフの女の子とって、ごろにゃあんん、ごろごろごろごろ」


ミゼは愛玩用だけあって、ちょっと丁寧に撫でてやるとすぐに体が弛緩する。だらーんと横になって、後は喉をならすくらいしかできない。しばらくこのお仕置きを続けて、エルフの女の子に迷惑をかけるなと念を押しておいた。


「ううぅ、私はまたも汚されてあまつさえ、希望まで奪われてしまいました。エロフのおにゃの子がきっと私を待っているはずなのに!!」


さて、ミゼの妄想は放っておくとする。そういう状況でディーレが流行り病の治療にして回っている間、俺は自由に族長の家を見ることが許されていた。他の家よりは大きいと言っても、一人暮らしのようでそんなに広くは無かった。だが、嬉しいことに本はいくつもあった、だから俺は好きなだけ本を読むことができた。


「こうやって本を読んで、森で食事をできたならあとは何がいるだろう」


俺は許可をもらって庭まで本を持ち出したりもした、魔法に関する本や植物に詳しい本が多かった。どちらも勉強になったので面白かった、庭の木からは生気を分けてもらって食事もできた。草食系ヴァンパイアの本領発揮といったところである、本当に随分といい休憩になった。


そして流行り病も落ち着き、集落の皆が回復をした。セラはそれを待っていたようで、俺たちに話しかけてきた。


「村を救ってもらって本当に有難い、だが禁じられた魔法は教えられない。だから、それ以外で好意に報いたいと思う」


ディーレやファン、ミゼが何も言わないので俺は聞きたいことを言った。それが禁じられているとしても、どうしても聞いてみたかった。


「禁じられた魔法とは何だ、どうして禁じられている」


セラは少しまた沈黙した、だがやがて観念したように話し始めた。俺たちは聞き逃すことが無いように、注意深くその話を聞くことにした。


「…………エルフは生まれたものは何か意味があって生まれたと考えている、ヴァンパイアたちもそうだ。だから、その生き物だけを排除するような魔法は禁じられているのだ」

「人間を襲わなければ生きていけない、そんな生き物にも何かの意味があるというのか」


「そうだ、人間を襲うからといって悪いものばかりではない。魔物だって人間を襲うが、それはその生き物なりの理由があるのだ」

「俺たちはヴァンパイアに襲われるから、その対抗策が知りたい。それは悪いことではないのか」


「与えられた運命などない、それに抗うのもまた生き物の本能だ。だからレクス殿たちが、禁じられた魔法を探すのは悪ではない。…………ただ、私たちは手を貸せないだけだ」

「俺たちがこの集落に来たことで、何か迷惑をかけることはないか」


「私たちは禁じられた魔法を渡していない、だから仮にヴァンパイアに襲われても戦える。襲われて殺されるような理由がない、たとえあの祝福されし者が力を貸したとしても、私たちは正しいと思う道を歩いていける」

「祝福されし者を知っているのか」


「ソリチュードと私たちの間では呼ばれていた、最後の祝福されし者そしてヴァンパイアたちの庇護者」

「…………もう他に祝福されし者はいないのか」


セラは黙って首を振った、ソリチュードとは孤独という意味だ。フェリシアは本当に最後の祝福されし者らしい、そしてヴァンパイアの王だというのも知る者は知っているようだ。


「レクス殿、一つ忠告しておく。ソリチュードはロクーラとも呼ばれている。その意味は狂気だ、あの最後の祝福されし者は、今では狂うほどにかつての仲間を欲している」

「……………………」


俺はフェリシアを思い出す、確かに危なっかしい奴だが、そんなに危険な者だとは思えない。いや、思いたくないという気持ちが強い。……そうか、フェリシアは俺にとってこんなにも、そう自分よりも大切にしたい者になっていたのか。


「貴方たちはこのミュートスの集落の恩人だ、いつでもまた訪れるといい。貴方たちの旅の無事を祈っている」


セラのその言葉を最後に俺たちはぐらりと世界が揺れた気がした、しばらく経つと揺れは収まったが俺たちは全然別の場所に来ていた。ちょうど迷ってしまった街道のあたりに戻ってきていたのだ、でこぼこだがしっかりとした道があり、エルフたちの痕跡は何一つ残っていなかった。


そして、俺は久しぶりに懐かしくて愛おしいその声を聞いた。


「レクス、ああ、無事なの。今までどうしてたの、私の目の届かないところになんてどこに!?」

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