第百四十一話 自分だけのものではない
それからしばらく平穏な旅が続いた、時おり盗賊などに出くわすこともあったが、それでどうにかなる俺たちではない。面倒な時は縄で縛って放置して、街や村が近い時にはつれていった。盗賊になった者の末路は言うまでもない、犯罪奴隷になれるほうならいいくらいだった。
「それにしても意外だが、街道沿いの治安が悪いな」
「聖地への巡礼者が狙われるのです、神よ。人々が己を振り返り、やり直す機会をお与えください」
「えと、お与えください?」
「ファンさん、可愛らしいです。私の中では聖女様でございます」
「聖女か、ディーレはそのうち聖人になれるかもな」
「僕のような若輩者ではとてもなれません、……僕は自分が大切ですから」
「ディーレ、自分を大切にするのは良いことだよ」
「そうですよ、己なくして嫁の幸せもあり得ません!!………………二次元の嫁が私の帰りを今頃待ってるんだ」
「ディーレは気にしてるんだろ、上級魔法の使い手だと隠していること」
「……はい、僕が自由を犠牲にすれば、救えた人々がもっといたのだと思ってしまいます」
「それ、僕は反対!!自由ってすっごく大切なんだから!!」
「さようでございます!!一日八時間労働から解き放たれた、その瞬間の幸せと言ったら!!」
「人の生き死には限界があるさ、ディーレがいたとしても変わらんかもしれん」
「ふふふっ、そうですね。少し自信過剰になっていました、自由に生きれることを神に感謝を」
「ディーレが捕まったりしたら、絶対に皆で助けに行くもんね」
「それはもちろん、私も皆さんの後からついていって見張りをしますとも」
俺たちはそんな話をしながら街道を歩いていた、時には訓練の為に走っていくこともあった。武術などのおさらいにお互いに戦うこともあった、そんな時にはディーレはなかなか怖い仲間だった。
「ちっ、ライト&ダークの連射を避けきれん。懐に入ればこちらの勝ちだが」
「そうあっさりとは勝ちを譲れません、僕も強くなりたいと思っていますから」
「ディーレの魔法銃って反則、当たったところが痺れちゃう」
「私はマスコットキャラクター、だから戦えなくても仕方ありませんね!!」
最近のミゼは鍛錬をさぼり気味だ、俺はそんなミゼと組んでディーレと戦ってみた。ミゼはやろうとすれば防御したり、相手の気を引いたりして、ちゃんと役に立つのだ。ただし、自分からすすんで動こうとしないのがミゼという従魔の猫である。
そんなことをしていたらとうとうテオロギア国についた、クナトス国からそんなに離れていない。歩いても2か月で来れるような国だった、俺たちはさっそくテオロギアの都に入る列に並んだ。
「すっごーい、人がいっぱいいるね」
「ファン、あんまり離れるなよ」
「神よ、ここまで無事にこれました。神に喜んで仕える心を支えてください」
「人が多いですね、ディーレさんフードの中に入れてください」
テオロギアの都に並ぶ人々は様々な姿をしていた、肌が白い者もいれば真っ黒い者もいる。髪や瞳の色もバラバラだ、様々な国から旅をしてこのテオロギア国に来ているようだ。
「通行税は銀貨5枚だ、身分証はあるか?これか、…………お前たちはしばらく待機だ」
しばらく待たされて、門番にそう聞かれた。俺とディーレとファンはそれぞれ冒険者証を見せた、すると何故かしばらく待っていてくれと言われてしまった。
「俺の冒険者証がまずかったかな」
「白金の冒険者は滅多にいないですから」
「えっ、そんなに少ないの?」
「国に2、3人いれば良いほうだと言われています。以前に図書室でシアさんから聞きました」
白金の冒険者になるには複数の国の推薦状が必要になる、俺が白金の冒険者になった経緯は思い出したくないが、国の不手際からの口封じという意味合いが強かった。俺自身は白金の冒険者だという自覚がない、そんなに活躍した覚えもないからだ。
「こちらへ案内しよう、特別な方がお会いになるそうだ」
俺たちは長い行列から離されて兵士たちに囲まれながら歩いた、しばらく歩くと大きな教会があって、そこで兵士から修道士に身柄を預けられた。わりと質素な部屋で待っていると偉そうな男性がでてきてこう言い出した。
「白金の冒険者だと聞いた、教会の警護を頼みたい。由緒ある教会に一時的とはいえ仕える名誉を与える、報酬は働き次第で決めるからそこの見習いについていくように」
あんまり高圧的に依頼をしてくるものだから、最初は大人しく聞いていたが最後には強く反論することにした。
「どんな警護だかしらないが断る、俺たちは冒険者ギルドにまだ行ってもいない。依頼をするならギルドを通してくれ」
「教会の司教たる私が頼んでいるのだぞ、何故喜んで従わないのだ」
「悪いが俺たちはこの国に来たばかりだ、教会も見てみようとは思っていたが、ここで仕事をするつもりはない。とにかく冒険者ギルドを通せ、それからじゃなきゃ何もしない」
「むうぅぅぅ」
俺が徹底的に相手の要求をはねのけたらその司教は出ていった、それからしばらく待たされた後に今度は女性の修道女がやってきた。
「貴方たちにしてもらいたいのは高貴な方の護衛です、頼み方が少し性急過ぎたことはお詫びします。もちろん冒険者ギルドを通しますので、そちらへ寄ってみてください」
この修道女の言うことはわりとすじが通っていた、俺たちは教会の建物から都へ開放されたし、後をつけられることもなかった。
「どう思う、皆」
「宗教国家であるゆえに教会の力が強いのでしょう」
「男の人は感じ悪かった、女の人は優しそうだった」
「ファンさん、それは良い警官・悪い警官という交渉テクニックでございます。最初に男のほうが悪い印象を与えておいて、女性が反対に良い印象を与えて好感を持たせて、それで結局は要求を通すようにするのです」
俺たちはミゼの言うことに考え込んでしまった、ミゼの言う通りならこれから冒険者ギルドに行っても、教会からの依頼は受けない方が良さそうだ。
「まぁ、冒険者ギルドには後で行くとして、まず行くのは?」
「僕はお腹がぺっこぺこ、ご飯に行こう!!」
「ふふふっ、ファンさんは元気でいい子ですね」
「聖地ではどのようなものが食べれますでしょうか」
宗教国家であり聖地を含んだ国であっても飯屋は変わらない、その国独自のいろんな料理があったから、いつものようにファンがここからここまでと沢山注文していた。
「豆のスープがなかなか美味しい、ディーレここにも迷宮はあるのか?」
「はい、この国にも迷宮は確かあります。後で行きましょう」
「僕このパンとこのパンと肉入りスープのおかわり!!」
「良かった!!猫の料理とかなくて本当にようございました!!」
俺たちは食べ終わったらさっそく冒険者ギルドに顔をだした、思った通り修道女の方から俺に指名依頼がきていたが断った。それ以外、掲示板には良い依頼が無かったので迷宮に稼ぎにいった。
「久しぶりにオーガだな、元気だったか俺の友達」
「……生まれ変わってもオーガにはなりたくなくなりました」
「……僕は生まれ変わってもまたドラゴンがいいな」
「……あれで本人は友達感覚なんだから、友達の皮を剥ぐ人がどこにいますか、……ってここにいた」
昼から迷宮にもぐったのであまり深い階層には潜れなかった、俺は軽々とオーガを飛び越え後ろからメイスを思いっきり叩きつけた。ディーレもいつもの精密射撃でオーガの頭を風撃弾で破裂させていた、ファンだってかぎ爪ですれ違いざまにオーガの頭を刈り取った。ミゼはいつものように見張りである、一見して暇そうな役目だが意外とミゼはこれを真面目にこなしている。
オーガをそのまま十数頭狩ってその日は終わった、剥いだ皮と魔石はギルドで売却したので金貨で2枚ほどになった。ここでは少し買い取り額が厳しいのかと思ったら、何割かが教会への寄付として取られるということだった。
冒険者ギルドを出て宿探しをしようとしたら、何かの集団が教会前にできていた。何が起きているのか興味があったから、覗いてみることにして俺はファンを肩に担いで見てみた。ミゼもディーレの肩の上に乗せて貰っていた。
「『完全なる癒しの光』」
俺はディーレ以外の人間が初めて回復の上級魔法を使うのを見た、使ったのは女で白い修道女のような姿をしていた、変わっているのは頭を布で隠しておらず豪華な金髪が波うっていた。瞳は空のように青い色だった。何があったのか俺は周囲の人々に聞いてみた、周囲からは少し興奮した返答がいくつも返ってきた。
「聖女さまが魔法を使われたんだよ」
「駆け出しの冒険者が重症でね」
「ただで治してくださるんだ」
「全員ってわけじゃない、聖女さまの神託があった時だけさ」
「教皇さまより聖女様の方が良いね」
聖女とやらの治療はその後も二人続いた、それで死にかけていた重症者が3人助かった。まだ倒れている者もいたが、聖女の治療はそこまでだった。魔力枯渇に陥ったのか、聖女は修道女たちに連れていかれた。見物していた者もバラバラと散っていった、最後まで残ったのが俺たちだ。
当然のようにディーレがまだ生き残っている者に近づいた、傷の具合を調べて彼は『大治癒』を数回使った。それから回復した者たちと話をしたが、治療の代金は払わないと言われてしまった。
「ほっとけば、聖女様が治してくれたさ」
「そうそう、だから金なんて払わねぇ」
「もう行こうぜ、貧血でふらふらするぜ」
ディーレは残念そうだったが、こちらが勝手にしたことなので仕方がない。ディーレだから『大治癒』で彼らの傷を癒せたが、俺ではそこまで回復魔法に適正がない。多分、俺が同じことをやったら死なせることになっただろう。
「ディーレ、あんまり気にするなよ」
「はい、勝手をしてすみません。レクスさん」
「えへへへ、ディーレらしいよ。優しくて大好き!!」
「はうぅ、私にも向けてくださいその笑顔」
そんな俺たちを観察している者がいた、教会の上の方からじっとこちらを見ていた。俺は視線に気がついてそちらを見たが、暗がりの中で女らしいくらいしか分からなかった。
「私と……、同じ……」
暗い闇の中で影の口の形がそう動いたような気がした、草食系ヴァンパイアの俺の並外れた視力でも、あまりにも距離がありすぎて断定はできなかった。
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