第百四十話 のんびり旅を楽しみたい
ひとまずテオロギア国へと向かうことにした俺たちは最初のうちは急いで移動した、クナトス国から万が一追ってが出ていることを警戒したのでそうした。
いつものように急ぐ時には『飛翔』と、『隠蔽』の魔法を二重にかけて、国境まではそのまま飛んでいった。
「ふぅ、『飛翔』の魔法をかけて、翼で飛ぶのは早く移動できるが疲れるな」
「レクスさん、お疲れ様です」
「僕も早く自分で飛べるようになりたいな、今はまだレクスのスピードに勝てないもん」
「ファンさんのその可愛いふくれっ面、スクショ撮りたい!! ちっ、このダメ世界。いや、必ずそんな魔法があるはず……」
クナトス国の国境では通行税を取られただけで呼び止められなかった、アクセとセハルの二人の王子が手をまわしてくれたのだろう。それは二人の王子の無事を暗示しているということで、俺たちは密かにほっと安心した。
「レクス、ディーレ、ミゼと狩りに行っていい?」
「あまり遠くに行くなよ」
「気を付けて、危ないと思ったら呼んでください」
「待って、私を置いていかないでください――!!」
のんびりと旅ができるようになったらファンとミゼはよく狩りをしていた、ファンは今でもかなりの量を食べて成長を続けている。狩りはファンにとって遊びであり、真剣な狩猟でもあった。ミゼをお供につれていくのは俺やディーレだと、獲物を先に仕留められてしまってつまらないからだ。
ミゼはいざとなったら『従う魔への供する感覚』で俺と連絡がとれる、それにファンよりも弱いので狩りの邪魔をすることもない。
「レクス、デビルボアを仕留めてきちゃった。2頭仕留めたから1頭はドラゴンに戻って食べていい?」
「2頭とも食べていいぞ、『解毒』を忘れるなよ。ファンが食べている間に俺も狩りをするとしよう」
「僕は食事と火の準備をしておきますね」
「ヒーハー、この幼女強い。ディーレさん、お水をくださいますか」
ファンはデビルボアをドラゴンの姿に戻って食べていた、俺はその間に『広範囲探知』を使う、まだ近くに獲物がいたのでそこまで走っていった。ミゼはファンのお供でまいってしまったようだ、ディーレから皿に水を入れてもらい一生懸命に飲んでいた。
「この辺りは魔の森なんだな、デビルボアがまだ数頭いる」
俺は人がいないことを確認してから全力で走って、見つけたデビルボアに近づきメイスで一撃をくらわせた。俺が殺した一頭目を近くの木に逆さにつるして『掘削』穴を掘り血抜きをする、その調子で計三頭仕留めて昼の休憩場所に持っていった。
「一頭は非常食で『魔法の鞄』に入れておくか、二頭も解体して今食べる分以外は『魔法の鞄』に入れておこう」
「『水』、『乾燥』、えへへへ。お肉がいっぱいだ――!!」
「ファンさん、すぐにさばいて焼きますから待ってくださいね」
「はうう、焼き肉っていいですねぇ。これで味付けにたれがあれば完璧なのですが」
ファンは人間の姿に戻り、水で体を洗って乾かした。しばらくは皆でデビルボアの解体して、その後は肉をそのまま焼いたり、スープに入れて煮たりした。街道沿いの森でのことなので、時おり馬車が通り過ぎることもあった。
「ぷっはー、もうお腹いっぱい!!」
「ん、スープも美味いな」
「残りは『魔法の鞄』に入れておきますか」
「はうう、塩だけでも美味しい。焼き肉のたれがあったらどれだけ美味しいでしょう。これは街にいったら、お店をチェックしてみなくてはなりません!!」
よく分からないがミゼによるとただ塩を振るだけじゃなく、焼き肉にかけるたれというものがあって凄く美味しいらしい。暇があれば探してみるのもいい、テオロギア国に行くという目的はあるが、何も急ぐ旅ではないからだ。
だから仕方がない時には野宿をしたが、村や街がある時には立ち寄って納屋や宿屋があれば泊まった。街道沿いだと村でもあまり旅人は警戒されない、逆に金になる客なので邪険にされることはなかった。
「それでミゼ、その焼き肉のたれというのは何でできてるんだ?」
「はい、今こそ働かん、私の灰色の脳細胞!! ……えーと、砂糖とりんごをすり潰したもの、それに塩。醤油にゴマ油、あとはニンニクをすり潰したものなどをお好みで混ぜて使います」
「なるほど、それでは市場でミゼさんの言うものを買ってみましょう」
「焼き肉が美味しくなるの、僕も早く食べたいな」
フソラという街があったので途中で立ち寄ったのだが、運よくミゼの言っていたものは買えた。それから焼き肉をするたびにいろいろと試してみて、確かに美味い焼き肉のたれができあがった。俺は肉は食べれないのでたれだけ舐めてみたが美味しかった、スープに上手く応用できないか悩んだくらいだった。
「ミゼは良いことを知ってるね、僕は焼き肉が美味しくなって嬉しい!!」
「ああ、なんて眩しいその笑顔!! おかわりください!!」
「ミゼさんもおかわりですか、よく噛んで食べてくださいね」
「ディーレ、ミゼのおかわりは焼き肉のことじゃないと思うぞ」
フソラという街の宿屋で厨房の一角を借りて焼き肉のたれを作らせてもらった、宿屋の人も味見させて欲しいと言ってきて、ミゼも反対しなかったのでこのレシピは宿屋に残ることになった。
「ふっ、私という特異点が、こうして世界を少しずつ変えていくのです」
「ミゼは他には何か料理は知らないの、僕は美味しいものがいっぱい食べたいな」
「以前に頂いたカレーも美味しかったですね」
「ああ、あれはスープにしても美味かった」
それでしばらくミゼはいろんな料理の知識を主にディーレに教えていた、俺たちの中で一番に覚えが良かったからだ。泊まっていた宿屋の夫婦も負けじと猫のミゼの言うことを真剣に聞いていた、宿屋となると美味しい料理を出せれば人気がかなり出るらしい。
「も、もう少し!! あと少し、ご滞在ください。宿代などは要りませんから――!!」
「私の知識はもっと小出しにするものなのです、……全部教えて用なしとか酷い扱いが怖い、今日この頃」
宿屋の主人の方は旅立つ寸前までミゼを崇めていた、なんならミゼを譲ってくれとこっそり言われたことは内緒だ。金を払ってもいいから、いくら欲しいんだと言われたが、ミゼはあれでいないと俺の周りが静かになり過ぎて困る。
「私はいまや時の改革者――!! 見よ、我が時代はすぐそこに――!!」
「馬鹿やってないで行くぞ、ミゼ!!」
危うく売られそうになったとも知らずミゼは大興奮だった、それをひょいと摘まみ上げて持っていくことにする。本当にどこからそんなに知識を得ているのか分からない、どの国の図書館でも知らないようなことを知っているのがミゼという猫である。
「そういえば、冒険者ギルドにも寄っておくか」
「何か良い依頼があるといいですね」
「僕はまだ銅の冒険者だから、早く鉄の冒険者になりたいな」
「ふぅ、私の魅力の虜になった者がまたでなければいいのですが」
ミゼが俺の肩の上で何故か格好つけているので、その額をなんとなくぺちんっとはじいてやった。案の定、ミゼは地面にわざわざ降りて転がりまわった。
「目が――!! 私の第三の目が――!! 邪神の封印が解かれてしまう!!」
「あっはははっ、ミゼ。何それ、面白い」
またファンがミゼを褒めてしまったものだから、ミゼはしばらく地面をころがりまわった。俺は面倒だったが、ミゼに『水』『乾燥』の魔法をかけて綺麗にしてから、肩に乗せて冒険者ギルドに入っていった。
依頼が貼ってある掲示板を見たが特に引き受けたいものが無かった、仕方がないのでギルドの図書室をちょっと見ていくことにした。
「テオロギア国は宗教国家であり、国民全員が敬虔な信徒である。朝昼晩と礼拝はかかさず行われ、祈りが捧げられている。神が現れたという聖地でもある、ディース神の信徒ならば一生に一度は訪れるべき国といえよう……、なるほどな。かなり宗教色の濃い国なんだな」
「僕が信仰しているのはパルム神ですが、一度訪れてみたい国ではあります」
「むぅ、神様ってどういうものかな。ドラゴンでも会ったことないなぁ」
「私のような無神論者が行って大丈夫でしょうか」
「誰も何も言わなきゃ、猫の言うことなんて気にしないさ」
「ミゼさん、大丈夫ですよ。神は祈る者全てを見守っておられます、今からでも遅くはありません」
「ディーレ、パルム神ってどういう神様?」
「私が祈るのは自分と嫁の身の安全でございます、………………嫁がいるのは二次元ですけど」
ファンから聞かれてディーレはパルム神について説明していた、パルム神は僅かな小さい力を持つ神である。でも、人間が努力を怠らなければ、小さな奇跡。僅かですが、必ず助けをもたらす神でもあると言っていた。ファンはその説明が気に入ったようで、それからディーレが祈りを捧げる時は、その言葉に耳を傾けることが増えた。
俺もそのパルム神とやらは気に入っている、神様に頼り過ぎにならないところがいい。神がもたらす助けなど、その程度のものでよいのだ。あまりあてにするものではない、それよりも頼もしい仲間がいるからな。
俺たちはテオロギア国に着実に近づいていった、俺はどういう国なのか楽しみにしていた。
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