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第百三十四話 雇われたって自由でいい

「アクセ王子、セハル王子、俺を雇うつもりはないか?」

「ここに居ても死ぬだけですよ、早く他の国へ逃げることをおすすめします」

「セハルの言う通りだ、君たちまで死ぬことはない」


 俺は再度アクセ王子とセハル王子に訊ねる、俺はこの国が気にいっている。そして、ファンの仲間であるドラゴンたちを殺したくはない。


「俺は上級魔法(・・・・)の使い手だ、雇っておいて損はないぞ」

「ええ!?」

「本当ですか?」


 俺が上級魔法の使い手であるということを告げたことに、その場にいる全員がざわめいて俺を見つめた。まず、ミゼが俺に聞いてきたから、考えていることを素直に答える。


「いいんですか、レクス様。そんなことを言ってしまわれて」

「ここにはアクセ王子とセハル王子しかいない、他の誰にも知られないから大丈夫だ」

「ステーキさん、セハルくん。僕も上級魔法が使えるよ!!」

「レクスさん……、僕もです。僕も防御と回復なら上級魔法が使えます」


 俺たちの中には三人も上級魔法が使える者がいる、これだけでもこの国にとって大きな戦力になるだろう。俺の暴言にディーレやファンも付き合ってくれるようだ、これならどうにかなるかもしれない。


 少なくともあのドラゴン達は人間とは関係がない、どうにかして解放してやらなくてはならない。更に俺は仲間を代表して、条件をつけくわえていった。


「雇用条件は俺を雇うが、上級魔法が使えるのは隠蔽すること。それに戦争のやり方は俺に任せること、俺がやったことはセハル王子がしたことにして欲しい」

「……私が全てやったことにすればいいのですね、構いません。雇います、私はレクスさん達を雇います!!」

「え、えっとセハル!? 良いのかい??」


 セハル王子の決断は早かった、すぐに俺たちを雇うと言った。アクセ王子はまだ衝撃から立ち直れないのか、セハル王子の判断を理解しかねていた。


「三人とも雇います、どうか我が国を助けてください」

「セハルが言うなら頼む、皆で我が国の助けになって欲しい」


 俺達はクナトス国に雇われることに決まった、あくまでも王子の私兵という形で雇われることになった。


「ドラゴンの部隊は俺がどうにかしよう、籠城戦にしたほうが良いと思う」

「僕は防御魔法を使いましょう、余力があれば回復魔法も使います」

「レクスとディーレがそうするなら、僕はどうしよう」

「ファンさんはいざという時の為に、アクセ王子とセハル王子の傍にいて貰ってはどうですか」


 俺達は王子たちとタークオ国への対策を練ることに必死だった、なぜかドラゴンだけは俺がどうにかできるという自信があった、そうどうにかして不本意に国に協力させられている、あの可哀そうなドラゴンたちを解放しなくてはならない。


「私は父上から初期の戦争の指揮をもぎとってきます、最初の魔法戦で上級魔法が使える私が動くのは自然なことですから」

「私も行こう、役にたてないかもしれないが、私だって皇太子だ。父を説得できるかもしれない」


 こうして二人の王子はクナトス国王と交渉して、最初の魔法戦に限ってだが指揮権をもぎとってきた。魔法戦は上級魔法が使える者どおしの潰しあいだ、これが終わってから他の兵士たちの出番となる。


「きました、ドラゴンの部隊です。レクスさん、頼めますか?」

「ああ、任せておいてくれ、『飛翔(フライ)!!』。ディーレ、ファンとミゼは二人の王子を守っていてくれ」


 俺は頭からすっぽりと魔法使いが使うフードを被っている、至近距離でよく見られない限りセハル王子と区別はつかないだろう。そうして、俺はまず真っ先に飛んできたドラゴンたちとぶつかった。


「太古よりドラゴンとは人の営みを見守りはしても、人同士の戦争などに手は出さないはずだ。今回はどうして、あのタークオ国に手を貸すんだ!?」


 ぎゃおあおぉぉぉおおおぉぉぉぉ!!


 俺の問いへの返事はドラゴンたちの咆哮とブレスの嵐だった、俺は『飛翔(フライ)』の魔法を駆使してそれを避ける。自分の翼が使えればもっと速く飛べるのだが、人々の目があるからそれはできない。


「チェチェ、どうした!! 正気じゃないのか!?」


 俺はドラゴンのまとめ役をしていた、チェチェに向かって呼びかけてみる。そんな俺にドラゴン十数頭のブレスが飛んできたので避ける、だがそのうちの何発かのブレスが体がかすっていった。


 すると俺の思考が切り替わる、これは命の危険がある行為だ。このまま避け続けていても俺には勝機がない、ドラゴンは強くて空中戦ならあちらが圧倒的に有利なのだ。


「ああ、そうか。そうでるなら、俺も本気で戦うだけだ(・・・・・・・・・・)


 俺は記憶の封印が解けていくのを感じる、そしてドラゴンたちに向かって魔法を放った。イメージは大きな竜巻だ、風の力を使って飛んでいるドラゴンたちを抑え込む。


『風よ、強く吹いてドラゴンたちを絡めとれ!!』


 うぎゃああぁぁぁぁあああっぁあぁぁぁ!!


 ドラゴンたちは突然吹いた強風に吹き飛ばされ散り散りとなった、俺はそんなドラゴンたちの中から探していたチェチェというドラゴンを見つけ出した。


『何故、人間に加担する。どうして戦争に出てきた?』


 俺が疑問に思っていることを『思念伝達(テレパシー)』で強く問いかけてみる、チェチェというドラゴンは切れ切れになんとか俺の問いに答えてきた。


『人間……恐ろしい……、ドラゴンの……研究し……て麻薬の……ようなものを……生み出し……だ……』


 俺は疑問が解消されて笑ってドラゴン達に向かって手を伸ばした。そこにはファンが仲良くしていたサクラというドラゴンもいた。


『消え去るがいい汚らわしい毒よ、清浄なるドラゴンへ戻れ、ドラゴン族としての本来あるべき姿に戻るといい』


 するとドラゴンの体からまるで雨のように毒液が溢れでてきた、そして敵兵にそれらは降り注いだ。


『これで正気に戻っただろう、仲間と共に人間には関わらずに静かに暮らせ』

『…………感謝するわ、祝福されし者』


 俺がドラゴンを侵食していた毒液を全て取り除いてしまった、するとドラゴン達はくるりと姿を翻し、元いた方向へと戻り始めた。


「ドラゴンはなんとか説得できた。それじゃ次は下にいる連中だよな」


 およそ一万は超えているだろう大軍に、おれは上級魔法で戦いを挑んだ。今の状態の俺なら無尽蔵に魔力が使える、どんなに大きな大魔法も俺の思うがままだ。


「これがいい、戦争がしたいならそうしてろ、『広範囲(ワイドレージ)(スピリット)神支配(ダーミネーション)!!』」


 俺の魔法の効果範囲は敵軍のほとんどに及んだ、敵兵は突然来た道を引き返し自分達の国へと向かって進軍をはじめた。高揚した戦意はそのままに、自分達の国を攻撃してしまったのである。


「はっはははは、死ぬがいい『多くの(メニー)命奪いし(ライブス)刃の振り子(ペンジュラム)』」


「終わりよ、『隷属せよ(スレイブ)囚われの(キャプティム)鉄の処女(アイアンメイデン)』」


「焼き尽せ、『抱かれよ(エンブレイス)煉獄(ヘル)の炎(フレイム)』」


「ゴミのように散りなさい、『切り裂け(トーン)広がりし(スプレッド)風の竜巻(ウインドトルネード)』」


 俺ではなくタークオ国の軍勢の中から、タークオ国に向かって上級魔法が放たれている。タークオ国の上級魔法の使い手も俺の精神支配に堕ちているのだ、だから自軍を攻撃することに何のためらいも見られない。


 俺はタークオ国が自滅していくのを『飛翔(フライ)』で上空から見ながら、これで戦争は終わりになると確信して、クナトス国の砦に一瞬で移動した。


「ただいま、ディーレ、ファン、ミゼ。アクセとセハルも多分これで大丈夫だ、……ディーレすまん、俺は少し力を使い……過ぎ……た……、げほっ、かはっ!!」

「レクスさん、今どうやってここに!? これは!! 『完全なる(パーフェクト)癒し(ヒーリング)の光(シャイン)!!』」

「きゃあぁ!! レクス!?」

「レクス様、しっかりしてください!!」


 ディーレとファンそれにミゼの心配そうな顔を最後に俺の意識は落ちていく、また俺は体中が痛くて内側からこみあげてきた血を吐いて倒れこんだ。


 戦争はまだ最初の魔法戦が終わっただけだ、まだしっかりしていないといけない。そう思うのにどうにか目を開けたいのに、俺の体は自由には動かせなくなっていった。


 次に目が覚めた瞬間、俺は王城の客室のベッドに寝かされていた。真っ先に戦況が気になって傍にいたディーレたちに聞いた、ディーレは少し怒っていたが俺の問いに答えてくれた。


「ディーレ。ファンにミゼ。戦況はどうなった、クナトス国は無事か!?」

「ええ、誰かさん以外は大丈夫ですよ。あれから敵軍は引き返して自分の国を攻撃し続けました。それに怒ったドラゴンからの攻撃もあったようです、現在は賠償金も含めて国同士の話し合いが行われているところです」

「僕も見たよ、サクラくんも自由になって飛んでいった」

「こっちの大勝利ですよ、タークオ国では内乱も起こっているそうです」


 自軍同士で殺し合わせる、俺って我ながらえっぐい作戦を立てたもんだ。ドラゴンのことは意外だったな、おそらく今まで無理やり操られていたことの怒りをタークオ国に向けたのだろう。


「それより、これからどうしましょうか。僕たち、上級魔法の使い手だとバレてしまいました」

「……直接知っているのはアクセ王子とセハル王子だけだ、少しくらいは怪しまれるだろうが、俺たちはただ王子様たちに雇われた私兵だ」

「レクスがぜ~んぶ片付けちゃった、僕はすっごく心配したよ」

「そうでございます、私の出番が少なくって困るったらもう!!」


 俺はどうにかドラゴンたちを説得できたようだった、今回は前よりも切れ切れだが記憶が残っている。少しは強くなったということなのだろうか、それとも何かの予兆なのだろうか。


「そうですよ、レクスさん。今回は仕方なかったかもしれませんが、できれば僕たち仲間を頼ってください!!」

「そうだよ僕だって、同じドラゴンたちを助けたかったよ!!」

「私は後方支援で、なんなら愛玩用でもいいですが、主人には無茶をしてもらいたくありません」


 よっと起き上がって俺はディーレたちに軽く笑いかけた、だが俺は仲間を頼りにしてないわけじゃない。


「俺はディーレとファンを十分に頼りにしてる、お前たちを信じているから自由に動けたんだ。皆がいなかったらとっくに死んでるところだ」

「……レクスさん、ずるいです。そう言われては無茶を止めにくくなります」

「……むぅ、僕もレクスはずるいと思う。だって頼りにされてるって、なんだか嬉しいもん」

「……なんだかとってもリア充って雰囲気。はっ、私も爆発対象になってしまう!? ……いや、違いますね。だってレクス様、私の名前だけ呼ばなかったですもん。まったく、もう!!」


 それから俺達は王子様に仕える私兵になった、タークオ国がまた攻めてくるかもしれないからだ。でも時々迷宮にもぐるくらいの自由はあっていいだろう。そして、世情が安定したら、また他の国を見てまわったりするのもいい。


 草食系ヴァンパイアの寿命は長い、それくらいの刺激がないと退屈してしまうさ。


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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