第百三十一話 独りで生きてるわけじゃない
俺達はドラゴンの不法所持を疑われて、このタークオ国の王様に会うことになった。随分と豪華な謁見の間とやらに、やたらと大勢の兵士達に連れて行かれた。
「頭が高い、面を下げなさい」
いつかの王様と会ったのと同じように、俺達は頭を伏せて片膝を立てた体勢に入った。それから、いくらもしないうちに楽しそうな声がかけられた。
「面を上げよ、それでドラゴンなのは誰なんだい?」
「はーい、僕がドラゴンだよ」
タークオ国の王様は赤い髪に茶色の瞳をしたまだ二十代の若者だった、彼は返事をしたファンの事を見ると嬉しそうに言った。
「ドラゴンの姿をとってくれるかい?」
「うん、いいよ」
そうしてファンはホワイトドラゴンの姿になった、タークオの王様はとうとう玉座から降りてきて、珍しそうにファンのことを観察し始めた。
「余のそばにもホワイトドラゴンはいない、余はハウ・タークオという。余のところで他のドラゴンと一緒に暮らさないかい?」
『ううん、やだ。僕はレクス達と冒険するほうが楽しいの』
「そこを何とか……」
「ハウ、無駄よ。ドラゴンは自分の好きな場所で生きる、強制をするなら私も怒って好きな場所に行ってしまうわよ」
王のそばには真っ赤な髪と蒼い瞳を持つ女性が立っていた、人間の姿をしているが会話からして彼女もドラゴンなんだろう。
「……チェチェ、そうか残念だ。だが、我が王城に遊びにくることを許そう。仲間と共に余の大事なドラゴン達に会っていくといい!!」
「それは私も賛成ね、ハウはドラゴンが大好きなの。貴女も久しぶりに仲間にも会えるでしょう、時間があるなら会っていってちょうだい」
俺達は王城で一泊していくことになった、もう時間が遅かったし、ファンが他のドラゴン達に会いたがったせいだ。王城には十頭あまりのドラゴンが自由に生活していた。
「すっごーい、仲間がいっぱい!!」
「ここのドラゴンは群れで暮らすんだな、ドラゴンは皆独りで生きていくものかと思っていた」
「僕も本で読んだことがあります、本と実際とは違うという例でしょうか」
「現実とは違うこともしばしばあるのが本というものです」
さっきハウという王様の前にいた、チェチェという美しい女性が俺達の疑問に答えてくれた。容姿も整っていて綺麗な女性だった、太古の生き物は皆こんなに美形なのだろうか。
「私達は基本的には独りで暮らしているわ、ここにはハウがよくしてくれるから、その望みに応えて集まっているだけよ」
「僕、ちょっと仲間と話してくるね」
ファンがここのドラゴン達のところに行ってしまったから、俺は前から聞いてみたかったことを訊ねることにした。まず彼女の挨拶を聞いて、それから問いかけてみた。
「私もレッドドラゴンよ、この国は代々ドラゴンをとても大事にするの。だから、ドラゴンの方でも、気まぐれにこの国を訪れるわけ」
「あんたもドラゴンなのか、なら聞いておきたい。ファンの母親は寿命がきてファンを育てられなかった。発情期がきたら大人だと本人は言っていたが、それは本当なのか?」
「……それは本当でもあり、違うともいえるわ。要はドラゴン自身の力で生きていけるようになったら大人なの、だから大人になる時期はバラバラね」
「ドラゴンではない俺がファンを育てていてもいいのだろうか、ここのドラゴン達と育ったほうが良くはないのか?」
「それはそのファンという子の意志次第、面倒見のいいドラゴンもいるから母親役をやりたがると思うわ。本人の意思が一番大切よ、どうか優しく厳しく育ててやって欲しいわ」
「…………わかった、ファンの意志を聞いてどうするのかよく考えてみよう」
俺はチェチェというドラゴンとの会話を打ち切った、そして仲間のドラゴンたちと楽しそうに会話をしているファンを眺めていた。
「余が愛するドラゴン、彼女を大切にしている其方らにこれを授けよう」
「これはドラゴンの所持許可証か、有難く受け取らせて貰う」
「なに同じドラゴンを好ましく思う同士、余にとっては簡単な書状だ。気にしなくてよい」
「……本当にドラゴンが大好きなんだな」
「余は特にそうだろう、まだ小さいうちからチェチェによく遊んで貰った。危なかった時に守って貰ったこともある。だから余はドラゴンが大好きなのだ」
「ああ、彼らは仲間想いで優しいからな。その気持ちはよく分かる、俺もファンのことが大事な仲間だ」
この国でドラゴンを所持しているということを許可する書状を王様からは貰えた、これでファンを連れて歩くことへの不安が少し減る。何といってもこの国の王様が発行した書状だ、逆らえるものは多分いるまい。
俺と王様は広く大きな庭園で、ドラゴン達が好きな姿でくつろいで生きているのを嬉しく思い、しばらく俺達はその光景を眺めていた。
「えへへ、僕の仲間と久しぶりにいっぱいお話したよ。こんなに沢山のドラゴンがいる場所なんて珍しいよ、ここは凄いね!!」
「ファンがよかったら、この王城でこのまま過ごしてもいいいんだぞ」
「えー!! それはやだ、僕はレクス達についていくよ。もっと、もっと強くなるんだ。そして、立派なお母さんみたいなドラゴンになるの!!」
「そうか、わかった。お前の好きにするといい、頑張れよ」
「うん!!」
ファンは俺から頭を撫でられて嬉しそうにしていた、ディーレにも興奮してここで会ったドラゴンの話を続け、ミゼをその間ずっと膝の上に乗せていた。
「そういえばドラゴンが大人になるには発情期がくるとは限らないそうだぞ、自分で生きていけるようになったら大人だそうだ」
「そうなの?だったら、もう僕は大人だね!!」
「まだまだ子どもだ、人間の文字や計算も覚えてない。それにファン一人だけをこの世界に放り出すのは心配だ、その小さな体では怪我をするかもしれない」
「うむむむむ、勉強は苦手だけど頑張るよ。そして、もっと、もっと、強くなるんだ。皆のことを守れるくらいに、強くなってみせるよ」
ファンは王宮で過ごすことを選ばずに俺達との旅を続けることにした、俺から見ると力はそこそこ強くなったがまだまだ危なっかしい。
「力だけなら大人かもしれないが、まだかなり心配なことがいくつもあるな」
「そうですね、読み書き計算もですが、ファンさんにはまだ学んで貰うことが多くあると思います」
「まだまだ子どもですよ、なんせ生まれてまだ数カ月なんですから」
この国にいる間、ファンはこの王城に好きなときに遊びに来れることになった。俺達も監視がつくがそれが可能となった、おかげでいろんな珍しいものが見れた。
「すっごおい、面白い!!」
「絡繰りじかけの人形芝居とは面白いな、こんなふうな娯楽もあるのか」
「魔法……ではないようです、魔法がなくてもこんなことができるのですね」
「まるでどこかのテーマパークみたいです」
広い王城の中には幾つも庭園があって、この絡繰り人形のような仕かけがしてあった。一つ一つ違った絡繰りで、見ているだけでも何日も時間がかかった。
「うわぁ~、お花が綺麗だね」
「うん、実によく整えられた庭園だ、綺麗に配列されているんだな」
「これは手間がかかるでしょう、さすが大国だけはありますね」
「はい、ちょっと極彩色ですが綺麗な庭園です」
そして、言うまでもなくドラゴン達が沢山いる庭園が一番珍しかった。ドラゴンが自由に飛べるように庭木は最小限にしてあり、そこでくつろいでいるドラゴンが良く見えた。
「前に見たことがあるブラックドラゴンに似た奴もいるな」
「僕にもお友達ができたんだよ、ドラゴンのお友達だから気をつかわなくていい、それがとっても幸せ」
「それは良かったですね、僕達にも紹介してください」
「どんなドラゴンなのでしょうか」
ファンが紹介してくれたのは薄赤色をしたドラゴンだった、名前はサクラというらしい。ドラゴンの姿のままだったので、『思念伝達』で俺たちに自己紹介をしてくれた。
『ファンの育て親さん達、よろしくです。私も子どもの頃にここに保護されたから、ファンの気持ちがよくわかります』
「ここの人達はとっても優しいんだって、サクラもだからここで安心して暮らせるんだよ」
ファンが紹介してくれた友達はサクラと言った、なんでも同じ色の花があるらしい。今は咲いていないので、見せられないのが残念だと薄赤色をしたドラゴンは言っていた。
「ほんの一泊だけ泊って様子をみるだけだったのに」
「一週間ものんびりしてしまいましたね」
「僕は楽しかったよ」
「私ものんびりした生活で楽しゅうございました」
一泊と思っていたが、思わず一週間ほども王城に滞在してしまった。俺達はまた遊びにくることを王やドラゴン達に告げて、元の冒険者稼業に戻ることにした。
ファンにもドラゴンの友達ができて本当に良かった、それだけでもこの国に来た甲斐があったというものだ。
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