第十三話 適度な運動は欠かせない
「破壊衝動というのは人間になら誰にでもあるが、草食系とはいえヴァンパイアになってから、少し酷くなっている気がする」
「やはり、ヴァンパイアの王に会いに行かれますか?レクス様の強さならば、それなりの領地が与えられることでしょう。はふ、はふ、お肉が美味でございます」
俺はラビリス近くの森から街へ帰ってきたあと、屋台で適当にミゼの食事を購入して宿屋に戻った。俺自身は固形物は食べられないので、上等な紅茶をいれてゆっくりと楽しむ。
「物凄く面倒だ、いくら領主になれるといってもそんな面倒なことはしない。なるべく健康的に体を動かして、倒しても文句の出ないモンスター相手に八つ当たりしよう」
「……なんでしょう、私でさえ八つ当たりで倒されるモンスターに、ちょっと同情しようかなと思ってしまいました」
仕方がないだろう、人間だって生物だ。生き残る為の闘争本能を有している、それが草食系とはいえ、ヴァンパイアという怪物になった俺ならよけいに強いわけだ。
「それに空気銃というミゼの面白い話もあったな、……お前が書いた図面は酷い物だったが、理屈はなんとなく分かった気がする」
「この可愛い肉球ぷにぷにの私に、精細な描画能力を求められても、それは限界というものがあるのでございます」
まぁ、俺もその点ははっきりいって期待していなかった。猫の手は描画をすることに明らかに向いていない、むしろぷにぷにした肉球と爪でインクを使って、ここ数日でミゼはなかなか頑張って構図を描いてみせた。
さて、ひとまず空気銃の問題はおいておく。とりあえず、日々の暮らしを支える為に稼ぐためにも、戦って闘争本能を満足させるためにも、朝の食事を終えた俺達は迷宮へといつものように向かうのだった。
「ある日~、迷宮で~、強そうな~、オーガに~、出会いたい~♪」
「なんでしょう、どこか懐かしいような感じが、でも大きく間違っているような」
ドッゴオォォォ!!という音とともに俺が殴ったゴブリンが壁まで吹き飛びその体は粉砕されて飛び散った。
俺は飽きもせず、またまた迷宮に来ていた。一応は角灯も購入したのだが、他の人といちいち話すのが面倒で結局のところ使用していない。他の冒険者に会いそうだったら、壁を駆けあがり天井を走ることにしている
今日も俺は昨日の深夜から朝までは森で体を動かす訓練をして、朝からは相棒であるメイスくんを片手に鼻歌混じりで迷宮に挑んでいる。たった、今もゴブリンという汚い花火を約10個ほど生産したばかりだ。
「この間はマジク草を採取することが目的だったから、一番人が通っている道を選んで、速攻で地下にもぐったがこの迷宮は結構でかいな」
「確かに、レクス様もご存じのとおり、この迷宮はラビリス以外。他の街にも通じているそうですから、一体どれほどの深さがあるのやら」
この間は、とりあえずはギルドの依頼を受けてみるというのが目標だった。だから、迷宮の地面に残っている僅かな足跡、土などの状態からよく使われている道を選んで、最短距離で迷宮を降りていった。
「よっと、こういうのは嫌だなぁ、スケルトンになってくれればいいのに」
「ゾンビは匂いといい、腐り具合といい、できれば避けたいものですね。『浄化』」
ぐしゃぁあぁぁという水っぽい音をたてて、ゾンビが壁にまで飛ばされその体は千切れて散らばった。
俺の相棒のメイスくんは当然だが使えば汚れる、だからゾンビ相手の時はコボルトなどから奪った棍棒を使うようにした。
だって腐肉とか手入れの時に触りたくない、水で洗って錆びないように油を塗り、綺麗に毎日お掃除してるんだ。この点、ミゼは従魔だというのに役にたたない。
俺は棍棒を無造作に振るって、先輩であったであろうゾンビと化した冒険者を排除した。
「剥ぎ取るようなものはありそうかー、臭いからあんまりいらないけど」
「放っておいてよさそうでございます、どうせ大したものは持っておりません」
冒険者というものは名前とは違って冒険などほとんどしない、あえて危険なことをするよりも、堅実にできることをして糊口を凌いでいる者が多い。そうしなければ、さっき出会ったゾンビの先輩のようになるわけだ。
「仕事として危険が多いわりに儲けが少ないよな、でも皆が冒険者をやめないのは、一攫千金ねらいか?よっと、おらぁ!!遠慮なく花火となるがいい!!」
「それもあるでしょうが、大体は家をつげなかった貴族の冷や飯ぐらい。また物語などに憧れたか耕作地のない村民など、他に行き場のない方が多いようです」
ドッゴオォォ!!と俺はメイスで現れたオークの頭をぶん殴る、その体はまたもや吹っ飛んで迷宮の壁のシミと化した。
俺は今度はオークを倒しながら迷宮を下りる、もう既に10階層は過ぎている。ここから20階層あたりにはオークが混じるようになる、迷宮は広くこのラビリス付近ではアンデッドになった冒険者を除けば、こういった二足歩行のモンスターが多い。
「よぉし、お目当てを見つけたぞ!ミゼ、ちょっとお前はここで『魔法の鞄』の守護者となるがいい」
「はい、喜んで。レクス様、お気をつけてお楽しみください」
俺の目の前に現れたのはオーガという人食い鬼だ、髪の無い人間を二倍ほどの身長にして、その容貌は醜く額から角を生やしたモンスターである。
「うおりゃっと、ははははっ!!なかなかに素早い、そして力もある」
オーガは普通の冒険者にとっては恐怖の対象だ、まずなによりも体の大きさが成人男性の二倍もある。それに加えて巨体のわりに素早い、その強靭な筋肉が速さを生み出しているのだ。
「純粋な力比べでは……、それでも俺が少し上か。だが、おっと危ないじゃないか。俺は壁に口づけするような、おかしな趣味は持っていない!!」
俺を見て闘争心がくすぐられたか、オーガは俺よりは遅いが素早く、全力で突進してきた。愛用のメイスで頭に一撃いれてやろうとするが、オーガは俺のメイスをつかみ取り、僅かな間。武器の引っ張りあいで力比べとなった。
だが、次の瞬間にはオーガが空いているほうの太い腕で、俺を攻撃しようとしたのでつい武器を持つ手が緩んだ。俺は地面に踏ん張っていた足の力を失い、いつもとは逆に迷宮の壁に叩きつけられそうになって受け身をとった。
「うん、このくらいは強くないと稽古の相手にならん。ははははっ、いくぞ!! まずはその速さから潰してやろう!!」
ぐらあああああああぁぁぁあぁぁ!!
オーガは雄たけびをあげて俺を威嚇するが、俺がそれで恐怖心を抱くほど弱くない。ただの村人であった頃なら、必死に逃げだしたかもしれないが、今の俺は相手が叫んだ隙に、素早く敵の背後にまわりこんんでまずはその右足を蹴り飛ばして潰した。グガシャ!!という嫌な音がした。
「ははははっ、敵の俊敏さを奪うのは基本。おっと、生憎だが俺はお前のような醜いモンスターと握手をする趣味も無い!!」
ぐぎゃあぁぁぁぁぁっぁあああぁあ!!
オーガはなおも咆哮をあげながら襲い掛かってきた、足を一つ潰したがそれで悲鳴をあげても、まだまだ強力な腕が二本ある。俺は油断することなく、オーガの攻撃をよけて壁を跳び、今度は全体重を駆けて横殴りでその頭に途中で拾い上げたメイスを叩きつけた。
グギイイイィ!!と悲鳴のようなものを残してオーガは倒れた。
「ふうぅ、こんなものか。ヴァンパイアが強いと言っても、やはり生物の頂点ではないな。オーガが良い運動相手になるのだから、きっと世の中にはもっと強い生物が沢山いるんだろう」
「でもレクス様でしたら、ヴァンパイアの王くらいならなれるかもしれませんね」
俺のオーガへの攻撃は相手の頸椎を捩り切るように当たった、モンスターとはしぶといが、大体は人型なら頭と体の連絡経路を断てばいい。未だにびくっびくんと体が痙攣しているが、じきに死を迎えるはずだ。
俺は遠慮なく油断はせずにオーガから剥ぎ取りを行った、文字通りに皮を剥ぎ取っていくのだ。オーガの皮は固いのに柔軟性もあるから、良い防具になるらしい。
生きたまま生皮を剥がれるとはこいつも運がない、だが頸椎を破壊しているから、痛みはないはずだ。そうミゼは言っていた、頸椎には体の感覚を伝える役目があるという。本当にたまに博識なんだよな、ミゼの奴。
俺は今日来る前にオーガの皮でブーツを新しく作って貰った、他の材料を持ち込みしたのでそこそこのお値段で、丈夫な使いやすいブーツが手に入った。また今度は自分が倒したオーガで防具を作るのもいいだろう。
「ある日~、迷宮で~、オーガさん~、剥がされて~、可哀想~♪」
「つくづく私は貴方が主であって良かったと思います、レクス様ほどの力がある方を敵にまわしたくは……――――!? レクス様!!」
俺がオーガの皮を村にいた時のように、うさぎや鹿と同じく丁寧に剥がしていたら、ミゼの悲鳴のような声が届いた。
「ガァッ!!」
茶色く長くしなる鞭のようなものが何本も現れて、とっさに俺は回避したがその中の数本が俺の肩や腹を、刺し貫いていた。
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