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第百二十八話 わかりあえることは難しい

 新しい国タークオに来て驚いたのはその国土の広さだ、俺達は稼ぐ為に迷宮に行くはずだったが、その為にはまず首都のタークオに行かなくてはいけなかった。


 方角と場所を聞いて、簡単な馬車を購入して馬を付けて旅をすることにした。『飛翔(フライ)』で飛んでいってもいいのだが、地道に歩いて行くのも面白いかもしれないと、初めての馬車での旅をすることにした。


「馬具はしっかりと取り付けて、手綱はこう持つんですよ」

「わかった、なるほど」


 その為に馬に乗ったことはあるが馬車を動かしたことは無いので練習中だ、御者が出来るようにならないと馬車は動かせない。俺と交代でディーレも御者の仕方を学んでいた、……はっきりいって俺よりディーレの方が上手い。


 ファンは御者には向かなかった、ファンが姿を見せると馬が怯えるのだ。おそらく動物的な本能で、ファンが人間ではなくドラゴンだと分かるのだろう。


「そのくらい動かせれば大丈夫でしょう、馬たちに無理をさせずに優しくしてあげてください、馬は賢い生き物です」

「できるだけ頑張ってみるつもりだ、御者もなかなか難しいな」


 馬の為の飼料や固形塩なども積み込み、馬車での旅が始まった。御者は俺とディーレが交代で行った。ファンは気分次第で馬車に乗ったり、乗らずに獲物を狩ってきたりしていた。


「正直にいってあまり乗り心地はよくないな」

「ファンは馬車より、走るほうが好き!!」

「僕は楽ですが、やはり少し揺れますね」

「このくらいの揺れなら気になりません、ふぁ~あ、おやすみなさい」


 馬車の旅はあまり好評ではなかったが、屋根がある馬車の方にして良かった。外で天幕などは張らずにすんだ、交代で見張りをして馬車の中でぐっすり眠ることができた。


「ミゼ、昼間寝ていた分、夜の見張りは頼むぞ。サボったら飯屋の厨房に……」

「承りました!! ですから冗談でもそれは止めてください!!」


 ミゼが昼間に惰眠をむさぼっているぶん、俺は夜はしっかりと見張りをして貰おうとして、ちょっと怖い冗談で脅しておいた。鳥と猫のスープとかどんな味がするんだろうか?


「よっと、ディーレって何でも出来過ぎだろう」

「はい? それはレクスさんの方じゃないですか」

「むうう、ファンも負けないから」

「はい、試合ではレクス様やディーレさんが勝っても、私の心の勝負ではファンさんが完全勝利でございます。この幼女強い、そして可愛いは正義」


 野営地を決めて早目に止まって組み手の相手をすることもあった、旅で体が鈍ったりしないようにしていた。ミゼだけは参加できないから、何かまた妙なことを好きなように言っていた、とにかくファンのことをミゼは気に入っているらしい。


「おおっと、こっから先にはいかせねぇぜ」

「ふむ、もしかして盗賊か?」


 数人の武装して男達が俺達が通ろうとしている街道を塞いでいた、特に強そうな者はいなかった、はっきりいって関わるのも面倒だった。


「その通りさ、その馬車から命まで全部差し出しな」

「ファン、ちょうどいい手加減の練習相手だ、そして『竜巻(トルネード)』この馬車を矢なんかで傷つけないでもらおうか」

「よっし、いっくよー!!」


 時々、盗賊が出たが俺とファン、もしくはディーレとファンで片付けてしまった。殺しはせずに後ろ手に縛って放置した。もしくは街が近かったら馬車で、『浮遊(フロート)』の魔法をかけてゆっくりと引っ張っていった。


「全員を死刑にします、何名かは賞金首ですのでこちらが賞金になります」

「そうか分かった、貰っておく」


 法を守らないものにこの国は厳しい、馬車を宿屋につけて一泊した後に外壁をみると、昨日捕まえた盗賊達がしばり首にしてあることが多かった。


 むしろ縛り首ならばまだ良い方だった、中には八つ裂きや磔にして火刑、珍しいものでは象刑などもあった。やられてるのは殺人なども行った盗賊なので心は痛まなかったが、それを見物するほど趣味が悪くもなかった。


「うわわわ、痛そう~」

「悪いことを続ければ、ああやって罰を受けるんだ」

「神よ罪を重ねた彼らにも、どうか安らぎをお与えください」

「見て楽しいものではありません、出発致しましょう」


 出発した馬車のなかでファンがしばらく大人しくしていたが、さっきのことを疑問に思ったのか皆に向かって聞いてきた。


「盗賊だからってあんな酷いことをしていいのかな」

「悪いことをすればあんな恐ろしい目にあるという、つまり警告でもある。ファンだって思うだろう、あんな目には遭いたくないから悪いことはしないと」

「盗賊の場合、多くの者は殺人を犯しています、あれより恐ろしい罪を犯した者もいるんですよ」

「悪いことはしちゃいけないってことです、もっとも場所によって価値観は変わってきますが」


 俺達四人から次々に言われてファンは頭を抱えてしまった、よく考えようとする時のファンの癖だった。


「むうぅ、また人間が怖くなっちゃった」

「ドラゴンには法はないのか?」


「ドラゴン同士で争うことになったら、両方とも勇敢に戦って物事を決める。もしくは意見が合わずにその場を去る、あんなふうに仲間を嬲ったりはしない」

「人間とドラゴンでは物事の解決の仕方が違うな。まぁ、人間には人間の決まりがあるって覚えとけ」


 ファンは時々考えこんでいた、ドラゴンと人間ではまず価値観からして違ってくる。人間は命以外にも守るものが沢山あるが、ドラゴンはその身一つが持ちものであり命そのものだ。同族同士で争うことも、ファンの口ぶりでは少なそうだ。


「まーた、盗賊だぞ」

「ファンさん、大丈夫ですか? 僕の後ろで待っていてもらってもいいですよ」

「う、うん、大丈夫!! 頑張って、捕まえちゃうぞ」

「ご無理はなさらなくていいのですよ、辛い時は辛いと言っていいのです」


 皆から心配されたがファンは盗賊退治に出ていった、ディーレには馬車を壊されないように見張りに残って貰った。


「とうりゃあああ!! 盗賊なんて馬鹿なことする方が悪いんだからね!!」

「くっそ、うるさい小娘がこの俺が、盗賊をしなかったら俺が死んでたんだよ!! だから他人から奪って、生き残るしかなかったんだ!!」


 十数人の捕まえた盗賊はここに放っておくつもりだった、それよりも盗賊に捕まっていた女性数名の扱いに困っていたところ、そのうちの一人の女性が縛られた盗賊にナイフで襲いかかった。


「死ねよ!! 死んでよ、あんなこと!! 私の夫を返してよ!! 死んで償ってもまだたりないわ!!」

「そうよ、あんた達は死ぬべきよ!! 私が殺してやる!!」

「私をあんな目にあわせて、毎晩、毎晩!! うっくううう、殺してやるぅ!!」

「その両目をくりぬいてやるわ、もう二度と私の姿が見えないように、あんなに酷いことをしておいて、このまま殺してやる!!」


 俺が止める暇もなかった、咄嗟にファンの頭を抱きしめて耳を塞ぐ。盗賊達の断末魔の悲鳴が、できるだけファンに届かないようにするしかなかった。


 その後、女性達は自らナイフを使って自決した。この国では女性が結婚する際には処女であること、それがとても重視されるのだと俺は本で読んで知っていた、もう自分達は生きていても仕方ない、そう言って全ての女性が自害してしまった。


「行こう、ファン。彼女達は、彼女達に酷いことをした連中に仕返ししたんだ」

「うぅ、うええええええん。何でなの、何で皆あんなに酷いことができるの!?」


 しばらくファンは落ち込んでいたが、ディーレが優しくファンの疑問に答えてあげていた。


「どうして、盗賊なんているの?」

「いろんな事情があります、人を傷つけるのが好きな人もいれば、そうしないと食べていけなくなって仕方ない人もいるんです」


「彼女達の復讐は正しかった?」

「法律だけで考えれば正しくはありません、盗賊達に掴まって大人しくする意志があったのなら、あとは法に照らして裁かれるべきでした」


「どうして彼女達はあんなことをしたの」

「この国では男女の交わりには厳しい掟があるようです、未婚の女性は婚約者以外の男性から深く触れられてはいけません。その禁を犯した時点で彼女達の人生はとても厳しいものになり、それに耐えることが出来なかったのです」


「ディーレはこんなに優しいのに、ステーキさんとセハルも良い人だったのに、人間がとても怖い生き物に見えちゃうよ」

「最初はそのぐらいの警戒心を持つくらいでいいですよ、人間は自分と自分の大事な人以外には時に冷たい生き物なんですから」


 俺もディーレとほぼ同じ意見だ、人間は自分と自分の大事な者以外には冷酷な生き物だ。時には大事な者でさえ、人間は傷つけることがある。


 ミゼがするりとファンの膝の上に乗って丸くなった、それからミゼらしくかるい口調で言う。


「ファンさんも私と他のお二人を大事にしておけばいいんですよ、大事な人は増えるかもしれませんが、それよりもっと私のことを大事にしてください、構って貰えずにミゼは寂しいです!!」

「…………わかった、ファンの大事なものだけ大切にする。よっし、ミゼと遊んであげるね」


 はい、お願いしますと言って馬車の中でじゃれあう仲間を見て思った、あのホワイトドラゴンが俺にこの子を預けてよかったのかと……


「良かったんですよ、ファンさんは時に傷つくこともあるけれど、それさえあの子が学ぶべきことなんでしょう」

「…………ディーレは時々、人の心が読めるかと思ってしまうな。そんなに顔に出ていたか」


「いいえ、今までの経験からレクスさんが落ち込んでないかと心配しただけです」

「…………たった今、気分が良くなった。ほんの少し、気持ちがかるくなった」


 ディーレは笑いながら後ろで騒いでいるファンたちを見て、そして俺の答えを聞いて言った。


「僕もです、たった今ほんの少し気分が楽になりました」


 タークオの都を目指して俺達の旅は続いていく、時々問題もあるが信頼できる仲間がいて、旅は順調に続いていった。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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