第百二十七話 大国なんかも行ってみたい
クナトス国の冒険者ギルドでのことだった、ファンを連れて掲示板を見ていたら、彼女が一つの依頼に興味を示した。
「ん~、ファンは商隊護衛っていうのを受けてみたい」
「護衛依頼か、しばらくしていなかったな」
「ファンさんにはいろいろな経験が必要です、いいんじゃないですか?」
「どの護衛依頼に致しましょうか?」
「いっそ国を少し移ってみるか、クナトスの隣の国はなかなか大国らしいぞ」
「おっきい国には、大きいご飯があるかな?」
「このタークオ国ですね、神のお導きがありますように」
「宿屋が充実しているといいですね」
俺達はタークオ国に行ってみることにした、ちょうど商隊護衛があったし、飯の心配は…………大いにあった。その日からしばらく俺たちは忙しくなった、ファンの為に大量の携帯食を用意した。
「ねぇ、ねぇ、こんなに大量のお肉とかお米とか小麦をどうするの?」
「携帯食を作っておくんですよ、ファンさん」
「ディーレ何食作ればいいと思う、後は現地で狩りをするしかないな」
「ファンさんが健啖家であることを忘れておりました」
俺達は干し肉や米や小麦粉など日持ちする携帯食を作って旅の準備をして、後は道にそった森で狩りをするしかないだろう。
「少し隣の国へ行ってくる、また来たらよろしくな」
「またね、ステーキさんとその弟さん」
「お世話になりました。貴方たちに神が知恵と勇気を授け、お導きくださいますように」
「さようならでございます、また機会があればお会いしましょう」
俺たちは王城に行って旅に出る前にアクセ王子とセハル王子に挨拶をしておいた、二人は俺たちの言葉に答えてくれて快く送り出してくれた。
「元気でね、特にファンちゃん。旅は危険だから気をつけるんだよ」
「お元気でいてください、またお会いできるのを楽しみにしております」
そうして、また縁があったらこの国に来てもいいと思う。王族にしては驚くほどに、仲が良い兄弟だった。この兄弟が政治の中心にい続けるなら、悪い国にはならないと思う。そうやってできるだけのことをして、俺たちは隣のタークオ国に旅立った。
「あっ、獲物発見。『標的撃!!』」
「よし、いいぞ。ファン、獲物は多ければ多いほどいい」
「またいましたよ、風撃弾!!」
「…………皆さん、商隊護衛をしているのか、狩りをしているのかわかりませんね」
仕方がないうちには健啖家がいるのだ、商隊が用意してくれる食事くらいでは全然足りない。その足りないぶんを移動中に狩れるだけ狩って、食事の際には素早く捌いて焼いたり料理した。ファンはそれでようやく腹を満たすことができていた。
「白金の冒険者とはさすがに食べる量も違うんですな」
「ええ、まぁ確かに……」
俺達が狩っている獲物のほとんどはファンのお腹に収まっているのだが、商隊側の方は白金の冒険者の俺が食べていると思っているようだった。
俺が食べているのはファンが食べない部分の骨とかでとったスープなどだ、俺ほど少食な白金の冒険者もいないのではないかと思う。
「レクス、ごめんね。僕がいっぱいご飯食べてる」
「成長期の子どもが気にするな、遠慮せずに足りなかったら言えよ」
「そうです、子どもがお腹を空かせているのは見ている方も辛いです」
「大丈夫です、レクス様ならなんとかしますって」
実際に俺が何とかしていたのだ、俺の睡眠時間は短い。それを利用して見張りでは無い時間に森に入って、デビルベアとかデビルボアとかを狩って、狩って、狩りまくっていた。
そして、それを商隊とは別の手押し車にいれて昼間は交代で押して歩いていた。多少の悪路があるところは、俺とディーレとファンで協力して持ち上げて運んだ。
「白金の冒険者とはこんなに強いのか」
「あの細い男も凄いぞ」
「女の子も頑張るなぁ」
とにかくよく食べるファンの為に毎夜俺は狩りに出かけていた、だから手押し車の荷台から荷物が消えることは無かったし、他の冒険者には珍しそうに見られたがそれだけのことだった。
今度ファンをつれて旅をする時には商隊護衛は受けずに、俺たちで馬車を買って動いた方がいいかもしれない。
俺はこの商隊に間違った白金の冒険者の印象を与えてしまった気がする、とは言っても他の白金の冒険者が何をしてるかなんてまるで知らないんだけどな。
「……おい、気づいているか。馬鹿共がくるぞ!!」
「よっし、ファンも頑張る!!」
「先制攻撃しましょう、風撃弾!!」
「『風斬撃!!』でございますよ」
もちろん、ちゃんと商隊護衛の依頼もこなしていた。旅の途中で五十人近い盗賊に襲われたが俺達の敵ではなかった。
俺は対人戦の練習用として、殺さず無力化してみせた。ファンにもその練習をさせた、ファンが街中などで殺人事件を引き起こしてはいけないからだ。
「全部、止めをさしてください」
「はい、わかりました!!」
「任せとけ!!」
「もちろんだぜ!!」
大きい商隊だったので、俺達が無力化した人間達も他の冒険者が止めをさしていた。それ以降は盗賊の襲撃もなく、俺達はタークオという大きな国にやってきた。
そこで商隊とは賃金を貰って別れた、何かあった時はご利用くださいと俺はしつこく言われたが、覚えていることはないと思う。どうやら、白金の冒険者には縁を作っておきたい連中がいるらしい。
新しい国にきて俺達が一番最初に行くとことろは決まっていた、もちろん飯屋に直行だった。
「この国、料理が美味しい!!そして、量が多い!!」
「本当だな、料理の種類も豊富だ。えっ、猫の料理もあるんだって?」
「わ、私を食べても不味いですからね、わ、私は愛玩用の猫です――!!」
「ミゼさん、落ち着いてください。誰も貴方を食べませんよ」
ちょっとだけツクヨミ国に似ている国だった、部屋の内装とかが極彩色なのだ。赤とか金色がこの国では人気の色らしい。俺は黒髪だし、ファンは白髪だ、ディーレも茶色の髪なのでここでは人気のない髪色だった。
「いろんな料理があって美味しいね、もぐもぐ」
「ああ、スープ料理も種類が多い。……虫のスープだとぉ、うーん、うーん」
「何でも食べてしまう国のようですね、僕にとっては驚きの連続です」
「レクス様、何事も挑戦でございますよ!!」
「レクスが食べれなかったら、ファンが残りを食べるよ」
「そうしてくれるか、それなら頼んでみるか」
「何を食べても残さなければ問題ありませんね、僕はこの料理に挑戦します」
「はうぅ、さっきから厨房からの熱い視線が怖い。私は愛玩用、愛玩用、愛玩用」
いろんなスープを食べてみたが虫のスープは薬のような味がした、半分でファンが引き受けてくれて助かった。本当にファンは好き嫌いをしないで何でもよく食べてしまう。
「少し高いが風呂付の宿屋にしよう」
「贅沢ですが、最近では僕も風呂に入らないと落ち着きません」
「ファンは水浴びだけでも平気だよ、お風呂も気持ちいいけどね」
「くっ、くっ、くっ、こうしてお風呂文化は浸透していくのです」
とりあえず新しい国にやってきた、この国は非常に大きな国らしい。いろんな民族が暮らしているそうだ、明日からは迷宮にも行ってみたいと思っている。とりあえずその日は、風呂付の宿をとって大人しく眠りについた。
そして、朝になったらまずは冒険者ギルドだ、新しい仕事やここの迷宮が俺達を待っている。
それは楽しみだったが、朝ご飯も旅の楽しみなので飯屋に行ってしっかりと頂いた。ミゼは飯屋につれていくたびに、持ち込みの食材かと聞かれることになった。
「私は愛玩用でございます、ご飯にはなりたくございませーん!!」
そういうわけで飯屋に行く度、ミゼの絶叫が響いてうるさかった。ミゼの反応も仕方がないことだ、国によっていろんな文化があるんだが、毎回のように食べられそうになっては堪らないだろう。
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