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第百二十二話 利用するだけなんて許せない

「ねぇ、レクス。ダメ?ミレナ達とパーティを組んじゃダメ?」

「……それは止めておけ」


「むぅぅ、何で!?」

「一つ、お前は人間を真似することが上手くない。二つ、お前とミレナ達の実力は違い過ぎる。三つ、人間とは楽な方に流されてしまうものだ」


 最近、友達であるミレナのパーティにファンがよく誘われている。だが、俺としてはファンが他の人間のパーティに混じるのはよくないと思っている。


 実力差が大きすぎるのだ、一度か二度ならその友達も驚くだけで済むかもしれない。だが、それ以降はファンの実力に頼りきりになってしまいそうで心配だ。


「むうぅ、レクスのケチ!!」

「落ち着いてください、ファンさん。僕もレクスさんと同意見です、貴女と彼女達のパーティが組むには危険が大きすぎます」


「そうかな、危険なら僕が守ってあげるもん」

「私が思いますに迷宮とは別の危険なのです、人間の怖いところをファンさんは見ることになりますよ」


 ディーレとミゼから言われても、むううぅとまだ拗ねているファンに俺は迷った、この辺りで人間の怖いところを教えておくべきだろうか。しかし、ファンはそれで初めてできた友達を失うかもしれない。


 育て親として難しいところだ、そう俺が悩んでいたら翌日ファンが姿を消した。俺の言うことを聞かずに実力行使にでたらしい、おそらく友達のところにいるだろうが大丈夫だろうか?


「『広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)』で調べたところファンは迷宮の浅い階層にいるようだ、連れ戻すべきか、様子をみるべきか」

「人間の怖さを教えておく必要もありますしね、少し様子をみてみますか?」

「果たしてファンさんのご友人は、力という誘惑に耐えられますでしょうか?」


 悩みに悩んだがその日はファンを探しに行かなかった、迷宮で戦う姿は見て安全を確認したんだが、声をかけるのは止めておいたのだ。


「ふっふーん、今日の僕は友達と迷宮で楽しく冒険したんだよ!!」

「……そうか、ファン。俺はそれを止めろと言っていたんだが、言い訳は?」


「う、ええと。と、友達も自由にパーティが組めないなんておかしいって言ってたもん、僕は悪くないもん!!」

「そうか、お前がそうしてみたいなら、……やってみるといい」


 俺はファンに人間の怖さを教えることにした。だが、ファンの友人達が本当に心からファンのことを友人だと思っていて欲しいとも願っていた。


 しかし、物事は簡単には上手くいかないものだ。ファンは最初は元気だったが、日が経っていくごとに、その元気をどんどん失くしていった。


「へっへっへ、今日も僕は迷宮で大活躍。お友達も一杯褒めてくれたよ!!」


「ちょっとオークとかとも戦うことになったの、皆のことを僕は守れたよ」


「オークくらいの攻撃じゃ僕は平気、オーガだってへっちゃらだもんね!!」


「最近、僕しか敵と戦っていないの、皆はお喋りばっかり混ぜてほしいな」


「僕が敵と戦うと褒めてくれるの、でもお話は何故かうまくいかなくなった」


「僕しか敵と戦わない、皆も一応褒めてくれるけどお金の話ばかりしてる」


「敵と戦って皆を守ったの、でもかすり傷が出来たって凄く怒られた」


「どうして、僕しか敵と戦わないのかな。皆でお喋りできないのかなぁ」


「敵と戦うのはいいけど、皆とお話できないのが辛いよ。なんで、どうして」


 こうして最初の頃は良かったが、だんだんとファンは落ち込むことが増えるようになった。いつもの元気がなく、笑う顔も滅多に見せなくなった。


 このぐらいが潮時かと俺は思った、これ以上はファンを大きく傷つける事故がおこりそうだ。ファンを呼んで俺は一つ、一つ言い聞かせた。


「ファン、俺達がパーティだった時、お前を一人だけ戦わせることがあったか?」

「……なかった、皆で敵と戦っていた。僕のことも助けてくれた」


「ファンが敵と戦っている時、俺達が関係のないお喋りなんかしていたか?」

「……そんなことなかった、僕がまだ戦ってたらすぐに助けてくれた」


「ファンが敵と戦っているときに、俺達がお金の話をしていることがあったか?」

「そんなこと全然なかった、ちゃんと僕だけで大丈夫か見ててくれた!!」


「お前も分かっているんだろう、彼女たちのパーティでお前の存在はなんだ?」

「……敵と戦ってくれる仲間、ただそれだけの仲間、……ううん戦うだけの道具」


 俺はうええんと泣き始めたファンを抱きしめて、その震える背中を撫でてやった。ファンはきちんと理解していた、彼女たちのパーティでファンの立場が変わっていってしまったことを誰よりもよく知っていた。


 それをファンはよく分かっていて、それがとても悲しくて寂しくて、俺の腕の中で疲れて眠るまでファンはずっと泣き続けた。


「彼女達は人間としての欲望に勝てなかった」

「楽ができるなら、できるだけ楽をしたいという欲望ですね」

「ファンさんと彼女達では実力差があり過ぎました」


 いつかはファンが知らなくてはいけなかったことだ、人間というのは欲深い。仲間だと言いつつ、その言葉を免罪符に、ファンをただ利用するだけの存在にしてしまう。


 できればそうならなければいいと思っていたが、あの彼女達のパーティは若過ぎた、楽をしたいという欲望に勝てなかったのだ。


 翌日、ファンは目を覚ました。泣き過ぎて目が真っ赤になっていたから、ディーレから『治癒(ヒール)』をかけてもらっていた。


「ファン、人間のいけないところはわかったか?」

「…………多分、楽だからって強い人に全部押し付けるところ、楽にお金が入るからって友情を利用するところ」


「ファン、彼女達はまだ子ども過ぎた。ディーレを見ろ、彼は人間だが彼女達みたいに俺達を利用するだけなんてことはない、毎日鍛錬を欠かさずにいて、またとても仲間想いで優しい」

「分かった、……レクスもごめん。最初に忠告してくれたのに……」


 俺はファンの頭を撫でながら笑って答える、俺の後にはディーレも同じようにしてくれた。ミゼもファンの膝の上でファンを落ち着かせるようにその体を預けた。


「いつかは学ぶことが必要だった一つだ、人間は優しい時もあるが、恐ろしい姿に変わることもある」

「彼女たちとはダメでしたが、僕らとのパーティに戻ってきてくれますか? 僕はファンさんを大事に思って、危険があったら共に戦いたいと思います」

「戻ってきてください、ファンさん。貴女がいないと私は寂しいです」


 俺達からの誘いにファンは力強く頷いた、迷宮に行く為の装備を整えて俺達と一緒に迷宮に向かう。その途中でファンが仲良くしていた、彼女達のパーティと会うことになった。


「ミレナ、クレア、キセナ、今までありがとう。僕はレクス達のパーティに戻ろうと思っている」

「なっ、なんでいきなりそんなことを言うの!?」

「そうだよ、私達仲良くできていたのに」

「そうですか、貴女は友達に随分と冷たいのですね」


 彼女達からのさまざまな言い分に、ファンは両手をぎゅっと握りしめて、一度俺達の方をみてから答える。


「僕だけが戦うんじゃなく、皆で戦うパーティの方がファンは良い。だから、戻る。ファンと一緒に戦ってくれる、レクス達のパーティに戻るの!!」


「そんな考え直して……」

「いきなりそんな事を言われても」

「私達だって、少しは戦っていたわ」


 友達だった彼女たちが何か言っていたが、ファンはもう振り返らなかった。一人で迷宮の方に向かって歩く、その後ろにはディーレとミゼがついていった。


「一応、忠告しておくぞ。お前達のパーティはファンのおかげで今までずっと強い狩場に行っていた、初心に戻ってコボルト狩りから始めないと命が危ういからな」

「私達だって強くなりました」

「武器や防具も良くなったし」

「ご忠告に感謝します、でも大きなお世話です!!」


 俺は一応の忠告はしておいた、彼女たちはファンといたせいで敵の強さを誤認している可能性が高い。それに幾ら武器や防具を良くしても、使うのは戦うのをサボっていた彼女達自身だ。


 言うだけ言って俺もファンと合流すべく迷宮を目指した、ファンたちは入り口で俺を待っていてくれて、前と同じようにお互いに協力しつつ迷宮で戦った。


 ファンの友達だったパーティはしばらくはいたが、ある日突然いなくなった。だが、誰もそのことを気にしなかった。


 そして、ファンも最初にできたお友達のことは口に出すことがなくなった。


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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