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第百十九話 卵からじゃなきゃ育たない

 白銀の冒険者になった俺には相変わらず指名依頼がきていた、大抵は断っていたが今度のは断るとそれはそれで面倒なことになりそうだった。


「クナトス国からの指名依頼か、……仲間と相談してもいいか?」

「ええ構いません、ですが受けておいた方が何かと優遇して貰えますよ」


 俺は冒険者ギルドで指名依頼の話を詳しく聞いていた、少し難しい依頼だから仲間と相談して決めておきたかった。 


「実はクナトス国から指名依頼が入った、内容はワイバーンの卵の収集だ」

「ワイバーンって田舎に行くと、ドラゴンと勘違いされるやつだ。全然ドラゴンには似ていないのに――!!」

「ああ、この国はワイバーンによる飛行部隊があるんでしたね。そのおかげで小国ながら近隣の大国とも戦争を起こさずに済んでいると」

「卵からワイバーンは育てられますが、繁殖は非常に難しいとか」


「そうなんだ、ワイバーンを飼いならすことはできるが繁殖させるのは難しい。今年はそれで野生のワイバーンの卵をできるだけとってきて欲しいそうだ」

「いいんじゃないかな、あれってドラゴンじゃないし」

「ファンさん、レクスさんが心配しているのは、近隣国の力のバランスが壊れるのを心配しているのです。……実際にワイバーン部隊の記録を見せて貰って、増えすぎない程度に卵を持ち帰ればどうでしょうか?」

「ワイバーンの数が少なくなり過ぎても、今度は争いの元になりますからね」


 仲間達と話し合った結果、俺はこの依頼を受けることにした。この国のワイバーン部隊が小さくなっても、大きくなっても困る。


 ワイバーンの部隊が小さくなれば、他国がこの国を襲ってくるかもしれない。逆に大きくなり過ぎればこの国が他国への侵攻を考えてしまうかもしれない。


「よし、ますはギルドでワイバーン部隊の情報を集めてから受けてみよう」


 俺達はギルド職員に依頼を受けてもいいが、どのくらいの卵を必要としているのか過去のワイバーン部隊の記録が知りたいと聞いてみた。


「本当は軍事機密なのですけど、ギルドとしても戦争など起こされても困りますし、ワイバーン部隊は大体百から二百の数を保っています、今回寿命を迎えるのは十数頭と聞いておりますので、二十個前後の卵をとってくるといいでしょう」


 他にもワイバーン部隊がよくいく飲み屋のマスターなどにも話を聞いてみた、少し高めの酒を頼めばマスターはいくつか情報を教えてくれた。


「あいつらは大体百以上はいるはずだ、よくここの酒場で飲んでいくよ。ワイバーンは常に不足ぎみで、よく訓練された精鋭しか乗せないんだと。ああ、同族の巣に近寄るのを嫌がる性質もあるみたいだな、動物だから縄張りってやつがあるのかもな」


 そうかワイバーン部隊そのものが卵をとりにいかないのは、縄張り意識がその邪魔をするからか。かといって、他の部隊にも借りは作りたくなくて冒険者に依頼したのか。


 その酒場で飲んだくれてる兵士に酒を驕れば、彼らのうちの何人かがお喋りをしてくれた。酒は大変に人の口を滑らかにするようだ、信憑性の高い話が聞けた。


「俺は補欠なんだよ、ワイバーンの数が足りないなから乗せて貰えないんだ。畜生、ワイバーン部隊に入って空を飛びたくて田舎から仕官したっていうのにな、あいつらは百と少ししかいないんだ、この前の訓練で何匹か死んじまって余計に数が少なくなっちまった」


 いろいろと情報を集めた結果、ワイバーンの卵を二十個前後は獲ってきても問題はないようだった。俺達は依頼を受けて、野生のワイバーンが住処にしているホヤレという谷に行くことになった。


 駅馬車で近くの村まで行き、ホヤレ谷までは歩いていくことになった。その途中で野生のワイバーンに何度か襲われた。


「くらえっ、『重力(グラビティ)!!』」

「遅い、遅い、こんなのとドラゴンを一緒にしないで欲しいな。とうっ!!」

「閃光弾、からの火炎弾です」

「『風斬撃(ウインドスラッシュ)』でございます」


 俺達は飛んでいるワイバーンなら魔法を当てて叩きおとし、襲ってくるものには容赦をしなかった。俺のメイスとファンのかぎ爪の餌食になったやつもいた。そんなワイバーンの被膜や爪を剥ぎ取りでき、思わぬ臨時収入になった。


 そして問題のワイバーンが住みついている場所では仲間が上空にいるワイバーンを追い払うために攻撃しつつ、俺が命綱をつけて卵を回収することになった。ワイバーンの巣はちょうど谷の中腹にあったのだ。


 俺ならもし命綱が切れて落ちても、自分の翼か『飛翔(フライ)』の魔法で飛べばいい。最初からそうしてもいいのだが、どこかで誰かに見られると拙いのでこういった方法を使った。


「よっと、全部の卵はとらずに各巣から二、三個頂いていくか」


 俺が命綱をつけて卵を採集している谷の上では、ワイバーン達を近づけさせないように、仲間たちが魔法をうち放題だった。


「いくよ『標的撃(ハンティングショット)!!』」

「いきます『聖なる矢(ホーリーアロー)!!』」

「『風斬撃(ウインドスラッシュ)!!』でございます」


「まだまだ!!『魔法矢(マジックアロー)!!』」

「はい、いきます『聖なる矢(ホーリーアロー)!!』」

「『火炎槍(フレイムスピア)!!』です」


 キシャアアアアァァァァ!!


「そう怒るなよ、きっと大事な騎獣に育てて貰えるさ、『標的撃(ハンティングショット)!!』」


 ワイバーンの卵は親の大きさの割にそんなに大きくなかった、細長い卵で俺は丁寧に一個ずつ綿を詰めた袋に回収していった。


 俺本人を攻撃しようという個体には、俺からも『標的撃(ハンティングショット)』を叩きこんだ。仕事には手を抜かない主義だ、俺を攻撃しようとしていた個体は衝撃を受けて落下していった。


「よし、回収が終わったぞ。ここから離れよう」

「うん、逃げる――!!」

「すいません、失礼しますね」

「さらば、でございます」


 ワイバーンはそんなに頭が良くないのか、一度振り切ったら追いかけてくることはなかった。散発的な襲撃はあったが、卵を取り戻そうとしている様子はなく、ただ縄張りから侵入者を追い払いたいというだけのようだった。


「これがワイバーンの卵かー、ちっちゃーい」

「僕も初めてみますね、この小さい卵があの大きなワイバーンになるとは」

「そろそろ温石をとりかえますか?」

「そうだな、それに転卵もしておこう」


 巣から獲ってきた卵はそのままにしておいてはいけないらしい、人肌より少し高い程度の温度で温め続ける必要があるそうだ。それから、定期的に卵の向きを変えておかないと中身が殻にくっついて、死んでしまうこともあるらしい。


 俺達は交代で適度に温めた温石を取り換え転卵しながら、駅馬車に揺られクナトス国の都へと帰ってきた。


 冒険者ギルドではなくワイバーンの軍訓練施設の方に届けて欲しいと言われていたので、そちらのほうに行って指名依頼書をみせた。


「これがワイバーンの卵だ、二十三個入っている」


 荷物を渡すとすぐに奥から軍医らしい男がでてきて、光を当てながら卵を一つ、一つ確かめていった。そして、興奮気味に叫んだ。


「素晴らしい!! 二十三個の卵がすべて生きている!! ……今まで冒険者に頼んでも訓練と称して兵士に行かせてもこんなに状態の良い卵は無かった!! 全部買い取らせて貰う、できればもっと獲って来て欲しい!!」

「いや、卵をとるだけでも命がけだったので、今回限りにしたい。それで報酬を貰えるか?」


 軍医らしき男は残念そうにしていたが、報酬の金貨百十五枚を支払ってくれた。なるほど卵一つあたりで金貨五枚の儲けか、そう考えるとなかなかいい依頼だった。


 国同士の戦争という可能性を考えなければ、もっと卵をとってきてもいいくらいだ、俺達は無事に卵を渡して依頼達成の印を貰えた。


「うわー、すごーい。ああやってワイバーンを慣らしてるんだ」

「根気よく育てればいい騎獣になるんですね」

「空から攻撃ができるというのはいい強みになる、偵察も攻撃も楽にできるだろうしな」

「飛べない猫は、ただの猫でございます。ああ、私も自力で空を飛んでみたいものです」


 少し変わった依頼だったが、初めてワイバーンの巣や卵を見ることができて面白かった。途中で狩ったワイバーンの素材も売れるし、卵自体も高値で引き取って貰えたのでかなりの儲けになった。


「はう、ステーキって美味しい!! もう五皿、おかわりー!!」

「ファンも皆もよく働いたからな、今日くらい贅沢してもいいだろう」

「少し高めのお店もいいものですね」

「私用のお皿まで用意して頂いて、さすがに高級店は違いますねぇ」


 今回の指名依頼ではかなり儲かったので、遠慮なく普段より高い飯屋に行ってみた。スープだけでもいろいろとあって、俺は充分に料理を堪能した。


 偶にはこんな贅沢も良いだろうと仲間と一緒に楽しんだ、この依頼が後で厄介なことのきっかけになるなど想像もしなかった。


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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