第百十八話 沢山食べるのは嫌いじゃない
今日はファンが友達と遊びたいというから迷宮探索はおやすみだ、俺達もそれぞれの趣味に時間を使うことになっている。
「それじゃ、ファンは行ってくるね」
友達に会う為に普段じゃはかないスカートをはいて、可愛らしくなったファンが俺たちに手を振っていった。
「ああ、ゆっくり遊んでこい」
「お小遣いは持ちましたか、スリに気をつけてくださいね」
「レクス様とディーレさんがまるで両親のようですね。はっ、リアルでBL!? …………そこまで考えて楽しめてしまう、私ってなんて罪深いのでしょう」
俺とディーレがファンの両親だとしたら、どちらが父親なのだろうか。ミゼはくだらないことを言っているが、びーえるとはまた何だろうか。……聞かないほうが良い気がする。
「それじゃ、俺は先に行って魔の森で何か獲物を仕留めてくる」
「はい、僕は『貧民街』で薬草を採ってくれる子ども達と一緒に後でいきます」
「私は守護者としてディーレさんについていきます」
俺は今日はディーレの趣味に付き合うことにした、先に魔の森に入って獲物を探す。『広範囲探知』ですぐにいくつか、手頃な獲物を二頭見つけた。
デビルボアだ、大き目の奴だからこれ一頭で充分に孤児達の腹は膨れるだろう。さっそくヴァンパイアの脚力を活かして、見つけたデビルボアを小さい方のメイスで首の骨を折って仕留めた。もう一頭も同じようにして仕留めた。
「こいつくらい大きければ一頭で済むだろうが、早くディーレの待つ森の方に戻るとしよう」
急いでディーレと待ち合わせしている普通の森に二頭を担いで向かった、集合予定の場所では既に子ども達による薬草採りが始まっているようだ。
「って、なんでファンがいるんだ?」
「友達が美味しいものが食べれる仕事があるから、今日は一緒に行って美味しいものを食べようって」
よく見ればこの前迷宮であった三人の女の子達の姿があった、そうか『貧民街』育ちだから、結構しっかりしているんだな。
「それじゃ、ファンは俺と一緒にデビルボアの血抜きをするのを手伝え」
「はーい、やったお肉だぁ!!」
「僕は料理と子どもたちのとってきた薬草を仕分けします」
「私はちょっと木の上に上って、お子さん達の見張りをしますね」
俺はファンと協力してまずデビルボアに傷をつけて血抜きをする、二頭を縄で吊り上げて掘った穴の中に血が落ちるように血抜きしていく。
「『解毒』毒を持つ奴がいるかもしれないから必ずこれはかけておく」
「そうなんだ、わかった」
デビルボアから滴り落ちていく血を前にファンはごくりと喉をならした、そして、俺に聞いてくる。
「この血は飲めないの?」
「…………美味くはないと思うぞ」
一度舐めてみてファンはうーんと唸っていた、充分に血が抜けたら次は解体だ。熱消毒しておいたナイフで内蔵を傷つけないように全て取り除く。
取り除いた内臓は血抜きに使った穴の中に後で埋めてしまう。ただし、心臓などいくつか食べてもいいものは別にとっておいた。
「あとは毛皮を剥いでいくんだが、デビルボアは毛皮に脂が多い。それをできるだけ肉に残るように剥いでいくんだ」
「うぅ、ファンは毛皮を剥ぐのは苦手~」
「はははっ、ディーレから指示を貰って肉を焼く準備やスープを作る用意をしてくれると助かる。ちゃんとお湯で手を洗ってから行けよ」
「わかった、『湯』」
ディーレから指示を貰ってファンは鍋や鉄板の用意をしてくれた、俺はそこに解体を終えた肉の塊をもっていく。
「ありがとうございます、レクスさん。ここからは僕が頑張りますね。今日連れて来ている子は三十二人です」
「ファンもディーレを手伝うー!!」
ディーレに教えられてファンは簡単な肉の焼き方とスープの作り方を学んでいた、俺は『湯』で手を洗ってから見張りをしているミゼのところに向かった。
軽く木の幹を蹴って跳躍して枝に乗り、ディーレから聞いたとおりの人数がいることを確かめる。
あとは森から狼などが出てこないように見張りをするだけだ、ディーレとファンが料理をする様子を見ながら俺は見張りをしていた。
「筋があるところは包丁で切ってあげると食べやすくなりますよ」
「もう、口の中が涎でいっぱい。早く食べたーい!!」
お腹を空かせて料理をしているファンを眺めながら自然と笑みが零れる、子どもはその動作一つ一つがいちいち可愛らしい。
『貧民街』にいる子ども達だって、働く場所さえあれば『貧民街』を抜け出すことが出来るだろうに。…………そういう難しいことを考えるのは領主様とかに任せよう、今日の俺はディーレの友人として趣味の手伝いだ。
「それじゃ、薬草採りも終りです。今日獲れた薬草を持って、こっちに並んでください。これは薬草、これは違う、薬草、違う、違う、これは毒草です、違う、薬草……」
「薬草を数えて貰った子から飯を配るぞ、ファン。お前も食べてもいいが、一人分だけにしておけ。後で残った分は全部食べていいから」
「うん、わかった!!」
俺はディーレが薬草と雑草を分けて孤児ごとに記録しているのを見ながら、数え終わった子に柔らかく煮込んだスープと肉のついた串を配っていく。
「何日か食べていないなら、ゆっくりと噛んで食べるんだ。そうしないとお腹がいきなりのご馳走に驚いて痛くなる」
「はい、ありがとう。お兄ちゃん」
「ありがとうー」
どういたしましてと返事をしながら、俺は料理を配り続けた。ディーレもしばらくすると全部数え終わったようだ、薬草をとってきた数が多かったこどもに銅貨を一枚ずつ配っていた。
俺もディーレやミゼとスープを頂く、ディーレ達は焼いた肉を美味しそうに頬張っていた。俺は早く食べ終わったのでまた給仕に戻ることにした。
「おかわりしたい子は来ても良いぞ、ただし喧嘩をしたら無しだ、順番に並べ」
「はい、おかわり!!」
そう俺が言ったら真っ先にファンがおかわりに来ていた、ファンと仲が良い女の子たちも一生懸命にご飯を食べていた。
「ファンのお兄さんって優しいんやね、こんなに美味しいご飯は久し振り」
「ほんと~、あのデビルボアを二頭も狩ってきてるのも凄いし」
「あれだけ腕が良かったら、貴族とかにもスカウトされるんじゃない?」
「うーんとレクスは貴族は面倒だから嫌いだって、ディーレはこういう人助けが好きだから冒険者を出来る限り続けるんだって」
「いいなぁ、その才能を分けて貰いたいわ」
「このお肉美味しい、もうお腹一杯に食べたのは何日ぶりだろ」
「装備を買う為に節約してるからね、今日はしっかり食べておきましょう」
「うん、うん、ディーレの料理は美味しいよ。おかわりに行こう!!」
ファンと仲がいい女の子達は二回ほどおかわりにきていた、ファンは論外だ。あっという間に食べ終えては何度もおかわりをしていた。
デビルボアを二頭狩っておいて助かった、そうじゃなかったらファン一人に食べつくされてしまったかもしれない。
「それじゃ、ここで解散です。また、薬草が必要な時は頼みますね」
「「「「「はーい」」」」」
子ども達の通行料まで支払って都に入ったら解散となった、あれだけあった料理は全て子ども達のお腹におさまった。デビルボアの肉は栄養があるから、数日は子どもたちが元気でいられると思いたい。
「レクス、我慢して少しだけ食べてたら…………お腹すいた」
「ぶっくくくっ、宿屋に帰るまでに屋台があるだろ、そこで何か買って帰ろう」
「ファンさんは本当によく食べますね、元気があっていいことです」
「しかし、久し振りのデビルボアの肉。大変おいしゅうございました」
俺達は途中で美味そうな屋台で食糧を買い込みながら宿屋に帰った、宿屋に帰った後もファンは肉を挟んだパンなどを食べていた。本当に見ていて気持ちのいいくらいの食べっぷりだった。
お腹一杯に食べれるということは幸せだ、そう思いながら俺は浅い眠りについた。
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