第百十六話 食べ始めたら止められない
俺たちはクナトス国の迷宮に潜ることにした、原因は迷宮から得られた様々な魔道具などを見ることになったからだ、それらはクナトス国の都で道具屋に並んでいてどれも興味深いものだった。
「クナトス国には沢山の魔法具があるな、これなんかどうだ料理用の熱を発生させる機械らしい」
「いろんな物があるね、魔石をこんなふうに使っているんだ」
「質の悪い魔石は燃料などに使われることもありますけどね、それでも普段の火とはくらべものにならないほどの高温が得られるそうです」
「…………電気コンロの魔法具とか、明らかに私の同郷者が文化を伝えている」
あの料理用の魔法具とか買ったら役に立つかもしれない。ただ、値段はびっくりするほど高かった。これはもう、迷宮で稼ぐしかないだろう。
「おーい、混んでるから離れるなよ」
「うん、レクスの手を放さない。う!? 今、何か寒気がしたような」
「人が多いです、とにかく下層にもぐっていきましょう」
「私はディーレさんのフードから出ません」
十階層までは人が多過ぎてゴブリンやコボルトすら見かけることが無かった、二十階層を過ぎてもオークやインプなどを沢山の人が狩っていた。オーガでさえ、多数の冒険者に群がられて狩られていた。
三十階層を過ぎると急に人がいなくなった、このあたりからジャイアント、巨人が出てくるからだろうか。
キシャアアアアァァァァ!!
「おい良い獲物を見つけたぞ、ダンジョングレイトスパイダーだ」
「うわぁ、蜘蛛さん。あれはちょっと食べたくないな、…………食べるけど」
「最初に乾燥させて粘着糸を無効化しましょうか」
「はい、私は他の魔法を担当致します」
「「「『広範囲乾燥!!』」」」
俺とディーレ、それにファンが一斉に『広範囲乾燥』を唱えた、その瞬間に蜘蛛の糸は粘着性を失ってその巨体が落ちてきた。この隙を逃がすわけがない!!
「『風斬撃』でございます!!」
ミゼがすかさず蜘蛛の頭を二つに魔法で叩き斬った、俺はおちてきた蜘蛛の足を狙って跳躍し四本、半分の足をメイスで叩き潰していった。
「ファンも負けないもん!!」
「僕が少しお手伝いしますね、『追氷岩!!』」
ディーレが残りの4本の足を凍らせてしまい、そこにファンのかぎ爪が襲う。蜘蛛はあっという間に胴体だけの姿に解体されてしまった。
「あとは剥ぎ取りだな、ミゼは誰かこないか警戒。俺とディーレは糸を剥ぎ取る、ファンはドラゴンに戻って食事のついでに魔石をとっておいてくれ」
「かしこまりました」
「この糸を巻き取る作業って根気がいりますよね」
『もぐもぐ、あれっ、意外といけるかもしれない。もぐもぐ』
俺とディーレは黙々とダンジョングレイトスパイダーの糸を剥ぎとっていった、前にもやったことがあるが、単調で根気がいる作業だ。
『あった、魔石があったよ』
「それは売却用の袋にいれておいてくれ、食事は続けていていいぞ」
ドラゴンの姿になっているファンから『思念伝達』がきたので俺はそれに応える、そうしながらもまた糸を巻き取り中だ。なかなか大きなダンジョングレイトスパイダーだったから、まだしばらくかかりそうだ。
「食べ終わったから、ファンも手伝う!!」
食事を終えたファンが人型に戻ってくれて作業を手伝ってくれた、オーガの皮を剥ぐのは苦手だが、糸の巻き取りは上手かった。ファンのおかげでもうそろそろ終わりそうだった。
「レクス様、誰かがきました」
剥ぎ取った品を集めて、誰がくるのか待ってみた。来たのは女性ばかり5人のパーティだった。
「あら、ダンジョングレイトスパイダーを狩れたの」
「貴方達凄いのねー」
「ねぇ、ねぇ、大きな獲物だし、少し分けてくれない?」
「こんなに沢山の荷物、持って帰れないでしょう」
「うふっ、親切心からいっているのよ」
俺はどれもこれも嘘の気配を感じたので、そいつらを無視することにした、仲間たちも変だと思ったのか何も言うことがなかった。
「いや結構だ、もう帰るところだった。残りの糸は好きにしていいぞ」
俺達は戦利品を其々抱えて帰ろうとした、するとその女たちが男だけに纏わりついてきた。俺もディーレもその薄気味悪い腕を振り払った。
「ダンジョングレイトスパイダーを倒すくらい強いんでしょう、ちょっと私達にもおこぼれを頂戴」
相手のリーダーらしき黒髪の女がそういうので、俺は一旦荷物を降ろしその女の体すれすれに素早くメイスをドガンッと叩きつけてやった。
「このメイスのおこぼれならくれてやる、叩き潰されたいのはどいつだ」
「…………ちぇ、つまんなーい」
それでこの女達はついてこなくなったので、俺達は迷宮から出ていった。そして、冒険者ギルドで買い取りをして貰う分を出した時、さっきの女がいつの間にか来ていて俺に喚きちらした。
「その獲物は私達が狩った獲物よ、この泥棒返しなさいよ。冒険者証もつけていない男と銀と銅の子どもが一人で、ダンジョングレイトスパイダーを狩れるわけがないでしょう?」
「これは俺達が狩った獲物だ、そっちこそくだらない横取りなんかしないで、銀の冒険者なら自分で獲物を狩ってこい」
ギルドの職員はどちらの言い分を信じればいいのかと考えていたようだ、俺は隠しておいた冒険者証を取り出した。ちっ、この白金の冒険者証は見せたくなかったから隠していたのに。
「まあぁ!! ……そちらの女性の方、貴女達がこの獲物を狩ったという根拠がありません。冒険者ギルドではこちらの方に売却金額をお支払いします、どうぞお引きとりください」
「な、なんでよ。これは犯罪よ、ちょっと放してったら!?」
俺に言いがかりをつけてきた女は、冒険者ギルドの男性職員に連れられてどこかへいった。買い取りカウンターの女性は、うんざりしたように俺に向かって言った。
「我が国では迷宮に力を入れている分、ああいった人の物を横取りしようとする者も出るのです。騒ぎを起こさないように、これからもこの冒険者証は隠しておいたほうがいいでしょう」
「ああ、分かった。注意しておくことにする、……助言をありがとな」
売却用にしていたダンジョングレイトスパイダーの糸はいい値段で売れた、少しは自分達用にとってある。この糸で紐を作るとそれはとても丈夫な紐で、野営の時などに役に立つのだ。
それを差し引いても金貨二十枚も貰えるのだから運が良かった、あの糸は加工されて何枚かの貴重な防御服にされて売られるわけだ、今日はまずまずの儲けだと言っていいだろう。
「もぐもぐ、人間って、ぱくぱく、面倒な、もきゅもきゅ、決まりがあるんだね」
「そうそう、人間には面倒な決まりごとが沢山ある。少しファンのことが羨ましいと思うな。ああ、下に零してるぞ。ゆっくりと落ち着いて食べろ」
「こうなるとレクスさんが昇格しておいたのも良かったかもしれません、先ほどのギルド職員は明らかに冒険者証を見て態度を変えました」
「魔物よりも人間に注意しないといけない国かもしれませんね」
「はぐはぐ、ドラゴンは、ぱくぱく、そんなこと、むぐむぐ、ないのです」
「はいはい、喋りながら食うな。今日の稼ぎをファン一人で、全部食べつくしてしまったりするかもな」
「レクスさんたら意地悪を言って……、冗談ですよ。今日稼いだ分を食べつくすつもりなら、あと五百皿は料理を頼まないといけませんね」
「そうです、レクス様の冗談なのです。お腹一杯食べていいのでございます」
「良かったぁ、まだお腹が空いてるんだ。ここからここまでぜ~んぶおかわり!! うはぁ、人間の料理って美味しい!! 生肉よりずっと美味しいよ!!」
「ほどほどにな、腹をこわすほど食べるんじゃないぞ」
「ふふふっ、ファンさんの食べっぷりを見ているとかえって気持ちがいいですね」
「沢山食べる女の子も大好きでございます」
さて帰る段階になって俺が合計金額を支払ったわけだが、ファンの奴は金貨1枚分も食事をしていた。
できるだけ迷宮にいってドラゴンの形態で獲物を食べさせよう、そうしないと本当にファンの食事代だけで財布が空になるかもしれない。
でも人間の料理が美味しいと言って、にこにこ笑顔でご飯を食べるファンは可愛いしな。一応の親代理としては悩みどころだ、これからもしっかりと稼いでファンにご飯を満足するまで食べさせよう。
宿屋に帰るとおやつといって、ファンは屋台の食べものを買ってきて食べていた。……よし、明日からもっとしっかりと稼いでいくとしようと再び俺は思った。
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