第百十四話 貰ってしまったが仕方ない
「とおりゃああああああぁぁぁぁぁ!!」
「ファン、あまり無理するな!!」
「閃光弾!!」
「この幼女強い、勝てる気が全くしない」
俺達は日課の迷宮探索に来ていた、それはいつもの事だからいいのだが、二刀流を覚えたばかりのファンがそれを試したがって大変だった。
ぐらああああぁぁぁぁぁぁああああぁ!!
小さな体で器用にオーガの体を駆け上って、その首をスパンッと切り落としてしまった。見ているこっちがハラハラする、オーガに捕まって壁に叩きつけたりしないか、……心配で堪らない。
「勝利なのです、偉い?」
「半分偉くて、半分はお説教だな。あんまり無茶をするものじゃない」
「ファンさんが結構強いのはわかりましたが、オーガの腕力を侮ってはいけませんよ。彼らはかなり力がある、怖い魔物なのですから」
「二刀流の幼女…………尊い」
俺が思うにファンの二刀流はドラゴンだったときの爪にあたるのではないか、両手の延長の様にファンは剣を使いこなす。
「武器の形状は剣より、かぎ爪にかえた方がいいかもしれないな」
「はい、なのです。そういえばそっちの方が使いやすそうなのです!!」
「ファンさんはドラゴンですものね、そちらの方が自然ですか」
「えええ――!! 二刀流というロマンが――!!」
ミゼは残念そうだったが、ファンは武器をかぎ爪に変えてからの方が動きがよかった、オーガくらいならより簡単にその首を落としてしまう。
「俺も負けられないな」
俺も残ったオーガに向かっていき、相手がディーレ達の気をとられている隙に背後にまわりこんでその体を駆けあがり、反撃される前にオーガの首筋にメイスを叩きこんだ。
ファンとディーレとミゼ、そして俺で三体のオーガを倒した。そして恒例の剥ぎ取りのお時間だが、『広範囲探知』を使って周囲に俺達以外はいないことを確認する。
「ファン、こっちの皮を剥ぎ終わったやつから食べてもいいぞ」
「ありがとうです、やったお肉なのです」
ファンはドラゴンの形態に戻って、オーガの死体に齧りついた。そのままもぐもぐとオーガ達を食べていく、野生のドラゴンと同じで倒した獲物を食べて大きくなるらしい。
「よく食べるなぁ、成長期だから仕方がないか」
「この時期に良質な食事をすることで、立派なドラゴンになるのです、はぐはぐ」
「野生では料理されたものなんて、その場に出てこないですもんね」
「……この幼女ホントに強い」
俺達は剥ぎ取りを終えた後、ファンの食事を見守って誰かが来ないか警戒しておく。もし、ファンがドラゴンだとバレたとしても、とりあえず俺の従魔だと言えば問題ない。
ただし、ドラゴンを従魔にするような人間は珍しいから、国や権力者が煩くなるかもしれない。
ファンが食事を終えたら俺達は帰る準備をする、ファンが荷物を持ちたがるので最近は三つにわけて戦利品を持ち帰ることにしていた。
こういうときに『魔法の鞄』や『無限空間収納』が使えればいいのだが、どちらも珍しい魔法の品と上級魔法だ。上級魔法の使い手だとばれると厄介なことになるので、こうして地道にオーガの皮など剥ぎ取った物を持ち帰るのだ。
「スペルニア国にも随分と長くいるな、もう三カ月くらいだ」
「そろそろ他の国に行ってみましょうか?」
「どこの国、いろんなところにファンは行ってみたい」
「どちらがよろしいでしょうか?」
冒険者ギルドへの帰り道、そんなことを話しながら俺達は迷宮を上っていった。そして、いつものように冒険者ギルドで買い取りをして貰う。
「ああ、明日はとうとう駆除が行われますから、迷宮には近づかないでください」
「駆除?」
「あの浮浪者達ですよ、他の冒険者の邪魔をして税収がかなり減ったので国が動くことになりました。あっ、これは秘密の話なので冒険者以外には教えないでくださいね」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
人間が役にたたない人間を始末する、俺は目の前でにこにこ笑っているギルドの女が、また別の生き物のように見えて怖くなった。
「…………助けてあげられないの?」
「無理だな、確かにあの孤児達に襲われて死んだ冒険者もいると聞く」
「僕達はレクスさんが強そうだったから、襲われずに済んでいたんです」
「早くこの国を出ましょうか、嫌なものを見ないで済みます」
俺達は宿屋に帰るとそれぞれ荷物をまとめて、明日の朝一番で旅立つことに決めた。次に向かうのはクナトスという国だ、なんでも迷宮探索が盛んな国だと言う。
「キャアアアアアアア、ぐぎぃ!!」
「なんだこの化け物は!?」
「誰か助けてええええ、うぐっ」
「何なんだよ、止めろ、止めろ――!!」
「ギュアアアアアア!?」
ぐらああああぁぁぁぁぁぁああああぁ!!
ぎゃあうおあぉぉぉあああぉぉぉぉぉ!!
俺達は早朝から悲鳴と咆哮で目を覚ますことになった、全員が素早く荷物をまとめ戦闘体勢に入った。そして、宿屋を飛び出すとそこには地獄が広がっていた。
オーガやオーク、コボルトやゴブリンなどが迷宮から湧き出てきたのだろう。通りすがりの都の人間を襲っていた。あちこちに喰い散らかされた遺体が残り、辺りには血だまりができていた。
「駆除って、この国のやつら一体何をしたんだ!?」
「迷宮が溢れ出ている、僕達も行きましょう。状況を把握しないと!!」
「はわわわわ、どうするの?」
「まずはできるだけ、敵の数を減らしながらディーレさんの言った通りに」
俺達は戦闘に使う物以外は『無限空間収納』にしまい込んだ、通りを歩きながら人を喰らっているオーガを壁を蹴って跳躍し、その首にメイスを『重力』付きで叩き込んだ。
「なるべく離れずに行動しろ、人の波に巻き込まれたらまずい」
「はいです、レクスにくっついておきます」
「ミゼさんは私のフードの中にいてください」
「はい、よろしくお願いします」
幸いなのは出てきている魔物がオーガくらいまでだということだった、ジャイアントなどの巨人がでてきたらもっと厄介な事態になる。
「くらえっ、この野郎『重力!!』」
「もう一体はファンが始末するですよ」
「閃光弾、早く戦えない方は逃げてください!!」
「そのとおりです、落ち着いて逃げてくださ――い!!」
逃げ惑う都の人間に巻き込まれないように俺達は迷宮を目指していた、途中でオーガやオーク、コボルトやゴブリン、スライムを始末しながら進んでいった。
迷宮の入口ではこの国の騎士達が戦っていたが、その数はもう数人しか残っていなかった。中には迷宮から逃げ出したのだろう、子ども達の遺体も幾つかあった。
「おい、迷宮の中にもう人はいないのか?」
「はっ、ああ、もう誰もいねぇよ!!」
「皆死んでしまった、どうして計算では煙で片付くはずなのに……」
「こんなに下まで煙が届くはずがないんだ」
「終わりだ、終わったんだ」
迷宮の中に誰もいないというのなら、一時的に迷宮を塞いでしまえばいい。俺は集中して魔力をこめて魔法を放った。
「これでどうだ『硬土壁!!』」
俺がありったけの魔力で作った壁はもう壁というより四角い土の塊だった、これで迷宮の入口は封じた、とりあえず迷宮から新手の魔物がくることはないはずだ。
「あとは都の方だな、できるだけ始末していこう」
「うん、ファンは頑張る!!」
「一人でも多くの人を助けましょう!!」
「魔力枯渇にご注意ください、これは消耗戦になりそうです」
そこからはオーガやオークを片っ端から斬って、殴って、撃ち殺してとただひたすらに戦い続けた。最後のオーガを倒した時には、俺でさえ疲労してそのまま倒れたかったくらいだった。
『広範囲探知』で確かめたがもう魔物の存在は残っていないようだった、俺達はそのままその場所に倒れるように座りこんだ。
「皆、怪我はしなかったか?体の方は大丈夫か」
「ちょっと、かすり傷だけだよ」
「『大治癒』、これで良くなるでしょう」
「ディーレさんも魔力の使い過ぎです、これ以上は魔法を使わないでください」
疲労困憊している俺達とは逆に命が助かった都の人々は歓声をあげていた、俺達は何とか立ち上がって宿屋の方に戻っていった。その間中、都の連中から何かを言われ続けていたが、もう俺はそれらを聞き流していた。
壊れずに残っていた宿屋で風呂を使ってベッドに入る、その前にありったけの非常食をファンに与えておいた。
ファンは眠いのだろう目をこすりながら干し肉などを齧ってお腹を満たしていた。ディーレやミゼもベットに倒れこんで、俺が覚えているのはそこまでだ。
「このスペルニアの都を守ってくれた英雄を、白金の冒険者と認める」
次の日に起きたら俺は冒険者ギルドに呼び出されて、白金のプレートを押し付けられた。英雄って誰のことだ、俺は心底要らないと思ったのだが、これには国からの口止め料も含まれているようで断りきれなかった。
国としては迷宮を占拠していた孤児達を火でいぶして殺そうとしたあげく、失敗して迷宮から魔物を溢れさせたなど他の国に知られたくないのだろう。
その事を他で話さないように俺を迷宮から溢れたモンスターを退治した英雄、そういうことにしておきたいのだ。俺以外にも何人か国から報奨されていた。
ディーレも鉄から銀の冒険者になっていた、さすがにファンは銅のままだったが、俺達と同じく特別な報奨金を貰っていた。
俺が閉じてしまった迷宮の入り口は土壁が取り除かれ、元の迷宮に戻っていたそうだ。そこに群れていた孤児達は全て姿を消したかと思ったら、数日後にはもう何人か戻ってきたらしい。……人間とは時にこんなにも逞しい。
出発前にいろいろとあったが、俺達はようやくこのスペルニアの国を出ていくことにした。さて、次は何が待っているだろう。どんな国に出会えるだろうか。
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