第百十一話 育児放棄はしちゃいけない
俺は冒険者ギルドで指名依頼の紙を整理していた、使命依頼には二つある。一つは個人を指定して依頼するもの、もう一つは冒険者のランクだけ指定して依頼するものだ。
先日のギルド対抗戦がよくなかった、あれのおかげで俺はスペルニア国では顔や名前が知れ渡ってしまい。俺を名指しで指名する依頼が増えたのだ、増築された図書室を好きなだけ使えるようになったが、この指名依頼の多さは頭の痛い問題である。
「さぁ、レクスさんこの指名依頼なんかどうですか?簡単です、立っているだけで終わります!!」
俺は放っておくと指名依頼を完全に無視するので、俺の姿を冒険者ギルドで見かけるとギルド職員は突撃してくるようになった。
「あの冒険者がこの前のギルド対抗戦の冒険者」
「おほほほほっ、凄かったわね、あの魔法と……」
実際にただ立っているだけで終わるような依頼なら受けた、貴族には体面というものがあって俺を護衛として立たせておくだけでも良いらしい。この間のギルド対抗戦のいい話題の種になるわけだ。こういう依頼は楽だが、何もしないでいると体が鈍るのが悩みだ。
そんなことを考えながら昼までの指名依頼を終わらせて、ギルドに報告にきた俺は賃金をきちんと受け取れたのだが、少し離れた受け付けで揉めているようだ。
「だからね、坊や。お母さんのところに帰りなさい、ここは子どもの遊び場じゃないのよ」
「僕は子どもですけど、真剣なのです。金の冒険者のレクスに依頼なのです」
白い髪に蒼い瞳、少し薄汚れた服を身にまとった子どもが、受付で一生懸命に何かを訴えていた。
どうやら指名依頼で俺を探しているらしいが、もちろん俺の方には全く覚えがない。迷宮に住みついているガキどもの一人だろうか、少し興味をひかれて俺はその子に近づいて話しかけた。
「俺が金の冒険者レクスだ、お前は誰だ?」
「ああ、いました。確かに祝福されし者です、お母さんが僕のことをよろしくお願いします、だそうです」
そう子どもが発言した瞬間、ギルドの空気が変わったと言っていいだろう。なんだかとても不名誉な疑いが、酷い冤罪が俺にかけられている気がする。
「ちょっと外で話そうか?」
「はい、よろしくです」
その子は抱え上げると小さくて俺の身長の半分ほどもなかった、そしてこの魔力には覚えがある。どこであったんだったかと考えて、答えが出た時に背中を冷や汗が流れ落ちていった。できるだけ急いで俺は、借りている宿屋に戻った。
「俺の感覚が間違っていなければ、お前はホワイトドラゴンの子どもだな!!」
「はい、そうです。さすがは祝福されし者です、どうかよろしくお願いします」
「いや、何をよろしくお願いするんだ!?俺はお前の母親に何も頼まれていない」
「これからお願いするのです、『望みの記憶を我に見せよ』」
ホワイトドラゴンの子どもが魔法を使った瞬間、部屋の中の風景が変わった。どこかの見知らぬ土地になり、あのホワイトドラゴンが弱り倒れていた。
「可愛い我が子よ、私の寿命がこんなに早くくるとは。……うぅ、祝福されし者を頼りなさい、彼らは優しいからお前を大切に育ててくれるでしょう。お前も仲間という大事なものを作り、彼らを助けてあげなさい」
そうホワイトドラゴンが言い終えると、その巨体は静かに横たわったまま動かなくなった。それと同時に部屋に映しだされていた光景も消え去った、そして残るのはホワイトドラゴンの子どもが一人だけだった。
ちょっと待て子育てなんかしたこともない、そんな俺に勝手に子どもを押し付けるな。これはどうしたらいいんだ、俺が育てるしか方法がないのか。
「男親の方はどうした、そいつは何をしている?」
「ドラゴンははつじょーきにしか仲間に会いません、お父さんがどこにいるかは知らないです。そもそも、お父さんが誰かも知らないです」
なんて世界だ人間でいうなら孕ませたら、後のことは母親側でよろしくという制度なのか。なんていい加減なんだ、ドラゴンの世界は!?
「他の祝福されし者に、心あたりは?」
「ないです、お母さんも数百年ぶりに会ったのがレクスです」
これ完全に育児放棄じゃねぇか、しかしここまで無防備なガキをただ放り出せるか?いや、無理だ。となると育てることになるのか、ディーレ達が反対しなければいいが。ディーレは優しいからそれはなさそうだな、ミゼは従魔だから論外とする。
「今は人型だが、ドラゴンにも戻れるのか?」
「はい、でも一日にあんまり沢山変身しちゃダメだって言われました。寿命が縮んでしまうそうです。あと、物凄くお腹が空くそうです」
ぐ~きゅるるるるる
「……………………」
「……………………」
俺は無言で子どもを抱き上げて近くの飯屋に行くことにした、その間に食べられないものなどがないか聞いたが、特にないと力のない返事があった。
「はむはむ、レクスは、もぐもぐ、食べなくて、むぐむぐ、いいのですか?」
「ああ、俺は紅茶だけでいい。まだ、夕食の時間には早い」
とにかくこのホワイトドラゴンの子どもはよく食べた、肉の炒めものや、野菜麺類や、豆のスープ、野菜のサラダ。好き嫌いというものはなく、一生懸命にもぐもぐと口を動かして食べ物を詰め込んでいった。一体どれだけ食べればいいのだろうと思うくらい、熱心に食事を続けてた。
「はふぅ~、ずっとお腹が空いてたから嬉しいです。お父さん、ありがとうです」
「――――――!?」
俺はもう少しで飲んでいる紅茶を吐きだすところだった、誰がお父さんだ!?確かに早いものなら十七でもう子どもがいる、でも俺は独身なんだ。その名称で呼ばれるのはまだ早い!!
「お父さんじゃなくてレクスだ、誰だそんな呼び方を教えたのは?」
「お母さんがこういってふせーあいをもぎとりなさいって、言っていました」
あのホワイトドラゴンめ余計なことを、俺のなかでドラゴンという美しい幻獣の姿が、ガラガラと音をたてて崩れていった。
「とりあえず、お前に必要なものを買いにいくか」
「はい、です」
俺はホワイトドラゴンの子どもを片手に持ち、商業ギルドの方で必要になりそうなものを購入していった。
そうしていたら日も暮れてしまい、ホワイトドラゴンの為に大量の食糧を買って宿屋に帰った。ディーレとミゼは既に帰ってきており、俺は何故か緊張して部屋の扉をあけた。
「ただいま、ちょっと話があるんだが」
「ただいまです、そしてお久しぶりなのです」
「あれっ、はい。おかえりなさい」
俺とホワイトドラゴンの子どもがそれぞれ挨拶すると、ディーレは不思議そうな顔をした後にしっかりと返事をしてくれた。ミゼの奴は……
「レクス様、まさか、まさか、その子は隠し子でしょうか!? ああ、レクス様ったらなんということを!?」
「逆算して俺が幾つの時の子どもになるんだ!? やっぱりお前はそう言うと思ってたぞ!!」
ホワイトドラゴンの子どもに夕食を食べさせながら、俺はこれまでの経緯を説明した。そして、とりあえずこのドラゴンは俺が育てることを告げる。
「僕の名前はホワイトファング、とある言葉で白い牙って意味。ファンって呼んで下さい」
「はい、わかりました。僕はディーレと言います、よろしくお願いします」
「私はミゼ、従魔としてレクス様にお仕えしております」
「とりあえず、風呂に入れようか。体もだが服も汚れている、それから新しい服を……しまった服を買うのを忘れていた」
俺は日用品ばかり買い込んで、肝心の服を買うのを忘れていた。ファンは笑ってそんな俺に言った。
「僕は服は自分で用意できるのです、ほらっ簡単に脱げるのです!!」
ファンがそういった瞬間、来ていた服が光の粒子となって消えてしまった。そこには当然ながら全裸のファンがいるわけだが、俺達全員で思わず言ってしまった。
「女なのか!?」
「女の子!!」
「リアル幼女、キタ――――――!!」
約一匹が間違った方向で驚いているような気がした、いやそんな些細なことはどうでもいい、俺は男なのに女のドラゴンを育てられるのか!?
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