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第百十話 むやみにやたらと月夜に吠えない

 俺がスペルニアの都でギルドにある図書館を満喫していると、沢山の封筒を持ったギルド職員からまた声をかけられた。


「おお、レクス殿。待っていました、指名依頼が山ほどきていますぞ」

「俺は普通の採取依頼や討伐依頼でいい、それは断ってくれ」


「指名依頼の中にワーウルフ退治というものがあります、これでどうですか?」

「……ワーウルフか、それは見たことがないな」


 ここのギルド長は俺のことをある程度調べているようだ、新しい本が好きだとか知らないものを知ることが好きだとか分かっている。金の冒険者は少ないから、そうして人となりも知っておく必要があるのだろう。


「ディーレ、ミゼ。ワーウルフ退治に行かないか、既に人が襲われているそうだ」

「既に犠牲者がそれはいけません、僕はすぐに行きたいと思います。神よ、光の輝きで僕たちを照らしてください」

「人狼ゲームのリアルバージョンでしょうか、それはゲームでは済みませんがとても面白そうです」


「それじゃ、行くか」

「はい、行きます」

「ええ、参りましょう」


 俺は仲間とも相談し、ワーウルフ退治に行くことにした。スペルニア国の都から少し離れた、駅馬車で四、五日で着く魔の森が依頼された場所だった。


「ワーウルフは人間の言葉を理解し、人間に変身できるものもいると聞く」

「銀の武器が有効と本にはありますが、銀の武器って高いし金属としては柔らかいので、あまり武器としては向いてませんね」

「狼男の巣窟と言えば気持ちが盛り上がりませんが、ケモ耳おにゃのこもきっといるはず、リアルケモ耳っこに会えるのは時間の問題ですね!!」


 そんな約一匹がよく分からん会話をしながら五日ほどが過ぎて、俺達はワーウルフが出るという魔の森に入っていた。


 俺はすぐに『広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)』を使って森全体を調べてみた、そうしたら人間ではない魔物の反応が幾つも見つかった。軽く五十は超えているだろう。


「五十数匹のワーウルフと戦うのか、これは少しばかりキツイな。まずは俺一人で様子を伺ってくる、ディーレとミゼは森の入口で待っててくれ。」

「はい、わかりました」

「はうぅ、ケモ耳っこを早く見てみたい、……でも私の命も惜しいです」


 俺は『隠蔽(ハイド)』を使いながら、自分の翼で飛んで上空からワーウルフ達を観察してみた。ワーウルフは変身しておらず、全員が人間の格好をしていた。これは厄介なことになりそうだ。村を観察してそう思って、俺は仲間のところに戻った。


「約五十人はいそうな、ワーウルフの群れがある。俺が交渉はしてみるが、聞いて貰えるのかは分からん」

「ワーウルフは人間と違って強い力や素早さを持っていると聞きます。全員でかかってこられたら、僕とミゼさんは足手まといになるので結界を張ります」

「はうぅ、汝人狼なりやって言ってみたい。それどころじゃないですか、何事もなく依頼が片付くと良いのですが、難しそうですね」


 また俺だけが魔の森の中に油断せずに入っていった、真っすぐにワーウルフの集落を目指して歩いていった。そして、集落端っこで人間の姿をしたワーウルフに声をかけた。


「済まないがこの集落の長に用がある、会わせては貰えないだろうか」

「いきなりやってきて、何者ですか?」


「先日、ここから近いクヤの村で人を殺したワーウルフを探している者だ」

「……この村はごく普通の村です、そんな事件には関係ありません」


「そりゃ、おかしい。この辺りを治めるアデザ子爵によるとこの村は地図に存在しない、それじゃこの村は何だろう。何者の村なんだろうな、一体誰が治めているんだ?」

「その地図がきっと間違っているのです、この村はこうしてここにあります」


「では村の名前は何だ?」

「それは、ええと、そうだ、ループス村です!!」


 俺が次々と質問をすると相手は焦り始めた、他の村の者も集まってきている。俺はもう一度、村中に聞こえる声で問いかけてみた。


「おれが探しているのはクヤ村で人を殺した人狼(・・・・・・・)だ、それ以外は関係ない(・・・・)


 実際に俺が依頼されたのはそれだけなのだ、人狼の村を全滅させろだとかは言われていない。やがて数人の若い人狼がでてきた、止める者を振り切って叫ぶように言った。


「俺達があんたが探している人狼だ!! だが、たかが人間のあんたに俺達を捕まえることができるのか?あっははははっ、今日は人肉の食い放題だ」

「確かに人間の血臭がするのはお前らだけだな、それで他の村人はどうする?こいつらを庇うなら全員を退治して俺は報告する」


 俺がそう言った途端、犯人だという人狼の一人が姿を変えて襲いかかってきた。さすがに速いが俺にかなうほどの速さではない、俺はその人狼をメイスで正面からぐしゃりと頭を殴って殺してしまった。


「ヒィ!!」

「嘘だ!?ガンザがやられるなんて」

「ああ、どうする」


 殺人を行った者は今のところ四人、そのうちの一人は殺してしまった。俺はもう一度だけ村人の真似をしている人狼達に聞く。


「もう一度、問うぞ。他の村人はどうしたい? こいつらを庇うなら全員を退治して俺は報告する」

「…………私が村長だ、どうか私の命だけで勘弁して貰いたい。人を襲ったものはまだ若い、それが恐ろしいことだと知らなかったのだ」


 年をとった老人が一人進み出て、人を襲った人狼の命乞いをした。だが、それはできない。熊でもそうだ、一度人間を襲ったものは、また必ず人間を襲うという。そのほうが狩りが簡単だと学んでしまうからだ。


「駄目だ、人間が恐ろしい生き物であることを、あんたはもっと教えておくべきだった。人を殺した者はもう人肉の味を知っている、今庇ったところでそれを忘れることはないだろう」

「…………そうか、わかった。先日クヤ村を襲ったものは全員出てこい、そうしなければこの人間は村人全員を殺すつもりだ」


 長の命令に新たに二人の若者が、皆から押し出されるようにして姿を見せた。俺は他に人血の匂いがする者がいないことを確認した、犯人は殺してしまった一人を除いて五人、それを確認して満足して頷いた。


「ああ、交渉に応じてくれて助かった。仮に俺や仲間たちを全員で殺すとか言っていたら、ギルドの方からもっと腕の立つ者がきただろう」

「…………そんなことだと思った、若者たちよ。無駄なことはしないで人を殺した者は人に従え」


「まぁ、ギルドも人を選んでいる。だが、いくら俺でも人狼を五十人以上殺すのは少し疲れると思っていたんだ」

「…………仲間たちよ、よく見ておけ。人間とはこういった恐ろしい生き物(・・・・・・・)なのだ」


 生きている犯人たちをデビルグレイトスパイダーから作った紐で、全員を後ろ手に縛り上げる。俺が殺してしまった人狼は皮袋にいれて、俺が持ち上げて運ぶことにした。


「一応、忠告しておくが早くこの地を去ったほうがいい。そして、人間には関わらずに平和に暮らせ」

「ああ、分かっている。まったく人間とは恐ろしい生き物だ」


 俺はワーウルフの集落から残った五人の犯人をつれて戻った、ディーレとミゼが人間の姿の彼らを見て不思議そうに言った。


「これが犯人たちだ、集落の長が賢い者で探すのが助かった」

「それは良かったです、でも本当に人のような種族なのですね」

「わぁお、リアルで人狼ゲームができるでござる」


「人間に見えるが人間じゃない、今はもうただの殺人者だ」

「そうなのですね、……殺された方々に安らかな眠りをお与えください」

「ケモ耳っこが見たかったのですが、全員男ですか仕方ありません」


 それから俺たちは森を出たところで駅馬車が通りがかるのを待った。それから移動などで暫く時間はかかったが、アデザ子爵が治めて住んでいるアオト村まで犯人達を運ぶことができた。俺たちが着いて面会を求めると子爵はすぐにやってきて喚き散らした。


「これが私の村人を殺したワーウルフか!?汚らわしい化け物め!!」

「……依頼書に達成印を貰いたい、アデサ子爵様」


「ああ、達成印か。これでいいだろう。この人狼達はもう抵抗できないのだろうな」

「一時的に拘束しているだけで、当たり前だが拘束を解けば襲ってくるだろう」


「なら、いますぐに絞首刑にするとしよう。拷問して村人の苦しみを味あわせてやれないのが残念だ」


 俺達が連れていった生きているワーウルフ五人は絞首刑になった、手は後ろ手に縛られたままで首に太い縄を駆けられて吊るされた。


 俺に一撃で殺されたワーウルフは運が良かったのかもしれない、絞首刑にされたものは途中で人間の姿からワーウルフ本来の姿へと変わった。だが、後ろ手を縛っているのはデビルグレイトスパイダーから作った紐で、どれだけ毛皮に食い込もうが解けることはなかった。


「あの人狼が言っていたように、人間(・・)というのは恐ろしい(・・・・)生き物だ」

「………………神よ、みもとに召された者たちに永遠の安らぎを与え、仲睦まじく光の中で憩わせてください」

「人間さえ襲わなければ、ごく普通の村人として生きれたのでしょうか?」


 どうだろうか人狼も大きな破壊衝動を持っていると言われる、実際に被害にあったクヤ村では食べる者以外に、遊び半分で殺された者が多くいたと依頼書にあった。だから、子爵もワーウルフに対して容赦がないのだ。


「上手く自分の中の本能と戦って生きなければいけない、……難しいことだがな」

「レクスさん、……貴方は大丈夫ですよ。ちょっと変わり者の、僕達が頼りにしている冒険者として生きていけますよ」

「もちろん、優秀な従魔である私もそう思っております」


 ああ、俺って草食系ヴァンパイアで良かった。もし俺が普通のヴァンパイアとして生きていたなら、ミゼはこんなに気安く話してくれただろうか。今では大事な友人となった、ディーレと仲間になれたかどうかも分からない。


 初めからヴァンパイアとして生まれる者はどうなのだろう、人間は彼らにとって食事の相手でしかないのだろうか。やはり俺は草食系ヴァンパイアで良かった、俺は人間ではなくなったが人間の傍にいて過ごしていきたい。


 こうして、俺達のワーウルフ退治は終わった。でも帰れば別の試練が俺を待ち受けているのだった。


「さぁ、レクスさん。金の冒険者に対する指名依頼書です、さくさくと片付けていってください」

「………………俺、もう金の冒険者を止めたい。うう、銀の冒険者に戻りたい」


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


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