第百七話 拒否権なんて認めない
いつものようにギルドに顔を出したら、金の冒険者であるエスロが新しい仲間を引きつれてギルドの椅子でふんぞり返っていた。
「うっわっ、なんだあれは?」
「エスロさんでしたっけ、今日は仲間が沢山おられますね」
「逆ハーレムでございますか、イケメン度はこっちの勝ちです」
その隣には新たな生贄……、もとい犠牲者である騎士が彼女とお話をしているようである。俺は思った、物凄く関わりあいになりたくない。
「よぉし、今日は深めに迷宮を潜ろう」
「掲示板の確認はって、…………あの中に入っていけませんね」
「君子危うきに近寄らずでございます」
俺達はいつもどおりに迷宮に潜ることにした、今日はいつもよりに深めに潜ってみるつもりである。さて、何がでるだろうか。三十階層まではいつもと変わりがなかった、しかしそれより深く潜った時だ。
ぐらああああぁぁぁぁぁぁああああぁ!!
「ジャイアント、巨人だな。あれは皮膚も固くて、なかなか攻撃しずらい」
「いつものオーガのようにはいきませんでしょうか?」
「サイクロプスの時も思いましたが、大きいです。ああ、立体軌道装置が欲しい」
とりあえず、いつもの手順で仕かけてみることにした、ディーレが閃光弾を両目に撃ちこむ。その間に俺が壁を蹴って巨人にかけより、背後から首めがけてメイスを『重力』入りで叩き込んだ。ビキビキッと嫌な音がして、首の骨にヒビが入ったようだ、更にもう一発叩きこんだら巨人は動かなくなった。
「いつもの手順でもどうにか……、うっわっ、マジかよ」
「ご家族の方でしょうか、とにかく入口の狭いところに逃げましょう」
「うひゃあああああ、命が大事です!!まずは逃げましょう!!」
ぐらああああぁぁぁぁぁぁああああぁ!!
ぐおおおぉぉおぉぉぉおおおっぉぉぉ!?
ぎゃあうおあぉぉぉあああぉぉぉぉぉ!!
一体の巨人を倒したと思ったら仲間が現れて、その倒した巨人の周りをうろつきだした。その数は三体、あまり油断していい相手じゃない。
巨人とは名前のままに巨人なのだ、サイクロプスもでかくて大人三人ぶんくらいの身長があったが、こいつらも負けず劣らずでかい大物だ。
「どうしたい、ディーレ、ミゼ?」
「図体が大きい代わりに行動と動作は鈍いです、充分に距離をとって戦えば負けはしないと思います」
「はうぅぅ、働きたくないでござると言いたいですが、微力ながら頑張ります」
ディーレの言ったとおりジャイアント、巨人たちの動きは遅い。仲間の協力が得られるのならばと俺は巨人の群れめがけて飛び出した、壁を走りこっちの動きに気づいた巨人が手を向けるが、ディーレの閃光弾に次の瞬間には目を焼かれている。
俺は最初に目をつけていた巨人に飛び乗って『重力』付きでメイスを思いっきり振るった。ピシリッと音がしたがやはり今までの獲物よりは固い、角度を変えてもう一度メイスを思いっきり叩き込んだ。
ディーレとミゼは攻撃回避を最優先で、石撃弾や『風斬撃』を使っていた。俺が一体倒したことにディーレが気がつき、二体目にも閃光弾を両目に撃ち込んだ。
俺はぐらりと倒れかけた巨人の体を蹴って、ディーレが用意してくれた獲物に飛び移る。相手は視力を取り戻そうと必死で俺を払いのけようとしたがもう遅い、思いっきりその頭を『重力』付きのメイスで殴り飛ばした。続けて二撃めも同じように、ビキビキッと首の骨が砕けるまで叩き込む。
「この攻撃は巨人にも有効なようですね、閃光弾からの火炎弾!!」
「『追炎蔦』大きいからなかなか倒れませんが、確実に効果はありますね」
「そうか、止めはいりそうか?」
「もちろん、お願いします!!」
「もちろんです、お願いでございます!!」
仲間の言葉に応えて、俺は肺を焼かれて暴れまわる巨人に飛び移る。巨人からすれば俺なんてネズミのようなものだろう、だが俺はねずみと違って巨人の骨を折って殺すだけの力がある。『重力』付きのメイスで、四体目の巨人に止めていれて殺してやった。
ひとまずこれで敵は片付けた、あとは恒例の剥ぎ取りタイムだったが、巨人は大きいので剥ぎ取る部分はある程度選ばなくてはならない。
「なるべく滑らかで傷のない場所を剥ぎ取ってくれ、頬とか両手足の裏側が柔らかくて使い道があったはずだ」
「剥ぎ取り用のナイフでは貫けもしない場所がありますね、レクスさん『魔法の鞄』から新しいナイフを出していいですか?」
「少々、皮が硬うございます」
「ああ、もちろんいいぞ、使ってないナイフがいくつかあったはずだ」
「もちろん、とのお言葉です。はい、こちらのナイフはいかかでしょう?レクス様にも新しいナイフを届けて参ります」
「ありがとうございます、この新しいナイフは使いやすいですね」
いつ次の敵がくるのか分からないので剥ぎ取りは素早く最大限に行う、まずは魔石の回収にはじまって今回でいえば巨人の柔らかな皮を剥いでいった。
「サイクロプスの皮もいいが、この巨人の皮もいいな。俺は自分用に少し剥いで装備を変えてみる、硬さと柔らかさと備えた部分は手袋やブーツに、ただ固い部分は皮鎧にしてみよう」
「それっ、面白そうですね。僕も自分の用にいくらか剥ぎ取ってみます、新しく作る装備が楽しみです」
「今のところ敵影はございません、この四体がこの周辺を占拠していたようです」
俺達は四体の巨人から皮を剥ぎ取って、今日はもう帰ることにした。滅多にみない巨人の皮を四体分だ、自分用の物と合わせて『魔法の鞄』に放り込んでおいた。
そうして、迷宮を後にする。十階層まで上ると相変わらず子ども達がじぃっと俺達を見つめてくるが、もう俺たちの顔を覚えたのか襲い掛かってくる様子はない。
「もう、この奇妙な状況にも慣れてきたぞ」
「あまり慣れても、嬉しくない状況です」
「最初はホラーでしたが、最近はなんともありません」
とそこで奥のほうで子どもたちに集られて、殴られている者達がいた。最初は助けに向かおうと思ったのだが……。
「あんたらこの金の冒険者、エスロ様をなんだと思ってるのよ!?きゃあ!!」
という声が聞こえてきたので、俺はそそくさと姿を隠した。ディーレは少し迷ったが俺と同じように姿を隠していた、ミゼはディーレのフードの中にいる。
「……良かったんでしょうか?」
「いいんじゃないか、あそこの子ども達は何もしない相手には攻撃をしてこない。ということは、あの女が何かやらかしたんだろう」
「何をしたのか目に浮かぶようでございます、馬鹿にしたのか、罵倒したのか」
迷宮で最後にあった出来事は別として、冒険者ギルドでの買い取りは上手くいった。オーガの皮などは常時依頼としてでていないが、それは危険が伴うからで出していないだけだ。持ち込みをすれば、大抵すぐに買い取って貰える。
今回持ち込んだジャイアント、巨人の皮も珍しいものだったから良い値段がついた。一体で金貨十枚、魔石などをあわせると金貨八十枚を越えてしまった。
「なんだか、日に日にお金に対する僕の価値観がおかしくなりそうです」
「毎日、使う以上に稼いでおけばいいだろう」
「レクス様はそれ以上に稼ぎまくっています、金銭感覚がおかしくなってますよ」
そうそう普通の庶民の一年間暮らせる額が金貨二十枚だったっけ、ということは俺は今日だけで四年間働かなくてもいいわけか。いや、仲間と分けあうんだから一年と少しだな。そう考えるとちょっと稼ぎ過ぎなのかもしれない。
「これは今度のギルド代表戦は、レクス殿で決まりだな」
「は!?あっ、ギルド長。何だそれ、ギルド代表戦って?」
俺が普通の金銭感覚を取り戻そうと考えていると、スペルニアの都のギルド長がいつの間にか俺のところに来てこういった。
「我が国、スペルニア国には合計で八つのギルドがある、年に一度そのギルドの代表で模擬戦を行うのだ。それで今年はレクス殿に行って貰おうと思っている」
「……俺に拒否権は?」
ギルドの長はこの人も昔は冒険者だったはずだ、豪快な傷跡が残る顔でにっこりと笑って言った。
「そんなものはない、レクス殿で決定だ」
仲間と一緒に食事をして、宿屋に帰ってからも俺はギルド長の笑顔を思い出しては苛ついていた。嫌なことがあったら、楽しいことをして過ごすにかぎる。
「よぉし、『望みの姿に変化し創造されよ』」
俺はまた新しい金属付きの手袋やブーツを手に入れて、巨人とサイクロプスとどちらがいいかと試してみていた。お風呂あがりのディーレが俺のそんな子どものような様子を苦笑しながら見ていた。
この上位魔法は作れるものに幅があって面白いのだ、ディーレもその後同じことをしていたから俺は微笑んだ。
「私だけいつでもどこでも全裸待機、いいえもはやこれは精神修行でございます――!!」
ミゼだけなにも装備することができないので、巨人の柔らかい皮で『魔法の鞄』の上にミゼ用の座席を作ってやったら、少し機嫌がなおったようだ。
さてギルドを代表しての模擬戦か、いつかのようにわざと負けることもできない。
新装備でちょっと気分は変わったが、問題は解決しておらず憂鬱な気分は残った。
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