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第百六話 そう簡単には通せない

 今日は一日俺はスペルニア国の宿屋で眠っていて唐突に目を覚ました、まだまだ真夜中と言っていい時間だったが。簡単に身支度を整えると俺は『隠蔽(ハイド)』で自分の姿を隠しつつ、都の外壁を飛び越えて外の森に出る。


「まぁ、軽くいっておくか」


 その場で体をほぐしてから夜の森を気配を消して素早く走り抜ける、体が鈍らないようにいう軽い運動だ。毎日ではないが宿屋に泊まる時は、できるだけ俺はこの習慣を続けるようにしている。


 夜目が利く俺だからこそできる鍛錬だな、森の中は道が無かったりするから木々を蹴って走ったりと、立体的な動きを練習するのに良い。一通り攻撃があったと想定してよく運動したら、夜が明ける前に宿屋に戻ることにする。


「おはよう、今日は良い天気になりそうだ」

「ふぁ~あ、おはようございます。そうですね、いいお天気です。レクスさんも疲れがとれたようでなによりです」

「あと5分だけ、あと5分だけ……」


 ディーレの身支度を待って、寝ぼけ眼のミゼを抱えると近くにある飯屋に向かった。このあたりでミゼも目をしっかりと覚まして、朝食は何にしようかと話し合って決める。


「俺は玉ねぎのまるごとスープ、具は無しで野菜ジュースを二杯つけてくれ」

「僕はパンと肉と野菜の炒めものに卵スープをつけてください」

「私は肉と野菜の炒め物、肉を多めにお願いします」


 今日もしっかりと朝食を頂く、まぁ俺はさっき森で生気を分けてきてもらったから、これはデザートみたいなもんだな。


「今日、俺はギルドの長から呼ばれてるんだよな、何だろう」

「レクスさん個人をですか、何でしょうね?」

「何か失敗でもされましたか、特に心当たりはございませんが」


 何も悪い事をした覚えはないが、冒険者ギルドの長から呼ばれているとなうと無理難題をふっかけられそうで頭が痛い。


 止めよう、どうせ後でいやでも会いにいくのだ。それまではギルド長のことなんて考えずに美味しい朝食を頂くとしよう。


「…………昇格試験官、俺がですか?」

「そう鉄から銀への昇格試験、その実技の試験官になって貰いたい」


 思いもしていなかった言葉に、俺の反応が遅れる。昇格試験官か、まだ冒険者になって二年と少しの俺がやるものでは無いと思う。


「俺じゃ経験が圧倒的に不足してますよ、できれば断ります」

「そこをなんとか、銀の冒険者の皆も嫌がって引き受けようとしないのだ」


 俺の脳裏にエスロとかいう金の冒険者の顔が浮かんだ、あれでも一応は金の冒険者だし、丁度良いから押し付けてやろう。


「俺以外にも金の冒険者がいるじゃないですか、あの女ならそういうの喜んで引き受けると思いますよ」

「エスロ・ノタミのことか、彼女ではダメだ。詳しい経歴は守秘義務があるから言えないが、どうして金の冒険者にしてしまったか、俺なら絶対に合格させないな」


 うぅ、その意見には同意する。俺の金の冒険者への昇格もあまり褒められたものじゃないが、エスロはもっと酷い手を使っていそうだ。なにしろ彼女には根本的に力が無い、誰かに取り入るのは上手いが実力というものが無いのだ。


「……合格基準っていうのはどうやって決めればいいんですか、勝っても落ちたり、負けても合格してたりしますよね」

「要は銀の冒険者になるにふさわしい応用力があるかどうか、他人に迷惑をかけたりしない冒険者をギルドは望んでいる」


 最終的に俺は断り切れずに試験官を引き受けることになった、相手は銀に昇格してくるくらいの者だから、ディーレにも待機して貰って何かあったらすぐに治療して貰えるようにした。もちろん、その分の賃金はギルド持ちである。


「それじゃ、銀の冒険者の実技試験をはじめる。今日は十五人ほどだから、まとめてかかってきていいぞ」

「レクスさん……」


 ディーレの呆れた様子が伝わってきたが、一人一人を相手にするよりは、この方が余程てっとり早くて各自の実力もわかりやすい。


 受験生は始め呆然としていたが、一斉に俺に向かって殺到してきた。それぞれが得意な武器で襲ってくるが、ギルドが貸してくれた鍛錬場は広い。充分に俺が逃げまわりつつ、相手の様子を観察する時間はあった。


「1、2,4,7番は実技試験終了。帰って良し、残りは続けろ」


 真っ先に俺ではなく、同じ受験生に襲い掛かったやつは、俺は不合格と判断して止めさせた。敵ではなく味方を狙ってどうするという話だ、どう考えてもパーティとして協力が必要な冒険者には向いていない。


 残りの11人は各自で俺にむかって攻めてきた、俺は彼らの攻撃を避けながらその動きなどを見ていた。時々、魔法が飛んでくるがそれも見切って避けてしまう。


「5、10番は実技試験終了。帰って良し、残りは続けろ」


 俺が避けた先にいた別の受験者に当たったこともあった、その魔法を当てた方も、そして避けられなかったほうも試験終了とした。


「それではこちらから行くぞ」


 残った9人に対して俺がそれぞれ軽く掌で寸止めの打撃を与えた、その時の対応や攻撃に気がつけたのかを見る。


「8、11、15は番は実技試験終了。帰って良し、残りは続けろ」


 ただ逃げまわっており、俺からの攻撃に対して反応が鈍いものを下がらせた。残った6人は俺の手加減した攻撃に反応し、そのうえで反撃しようと動いた。


 うーん、このくらいでいいだろう。最後に一人ずつ打撃を与えて、戦闘ができなくなるようにした。ディーレがため息をつきつつ、痛みで唸っている受験者のところにやってきた。


「『大治癒(グレイトヒール)』、レクスさんが試験官の時は注意しないといけないですね」

「そうか? これくらいディーレだったら避けるだろ、かなり手加減をして試験を行ったと思うぞ」

「ディーレさんを合格基準にしたら、合格者がいなくなってしまいます」


 俺はディーレとミゼに少々怒られ、ギルドから渡されていた紙に3、6、9、12、14は合格と書いてギルド職員に提出した。13番は健闘していたが、少し実力が不足しているように見えたので俺は合格にしなかった。


 俺としては咄嗟に受験者同士で協力できるかどうか、他人の足を引っ張ったりする奴じゃないか、銀の冒険者としてある程度の力があるかをみたつもりだ。


「やったぁ、合格だ!!」

「良かったぁ」

「私もとうとう銀の冒険者!!」

「やっと、合格したぜ」

「憧れの銀のプレートだわ」


 冒険者ギルドでディーレと俺は良い依頼がないか掲示板を見ていた、午前中は試験に使ってしまったので短時間で稼げる依頼がいい。


 試験に落ちた者達もいたが、別に何も言われなかった。ただ、肩をおとしてその結果を受け止めていた。ただ、13番だけは何か言いたそうだったが、彼が何かを言う前に俺はギルド職員に声をかけられた。


「金の冒険者レクス様、もう!!試験官としての報酬をお忘れですよ」

「ああ、そういえばあったな。すっかり、忘れていた」


 試験官にも報酬があったことをすっかり忘れていた、大した金額ではないが貰えるものは貰っておく主義だ。そして、俺達は掲示板に視線を戻す。


「この近くの魔の森でデビルウルフ退治はどうでしょう、レクスさん」

「場所も近いし、すぐに終わりそうだな。それにしよう」


 掲示板から俺達はデビルウルフの依頼書を持って受付にいく、試験に落ちた者はその様子を恨めし気に見ていた。


「……そんなに簡単にデビルウルフが狩れるものか」


 俺達は森に行くと俺が『広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)』を使用して、デビルウルフのいる場所を見つけた。


 討伐証明に毛皮に傷をつけないように、素手で俺はデビルウルフの首を折った。他のデビルウルフは、ディーレに口のなかに火炎弾を撃ち込まれていた。


「少し数が多かったな、まさか五十匹もいるとは思わなかった」

「剥ぎ取りはギルドの専門の方に任せましょうか、これは数が多過ぎます」

「ここで剥ぎ取っていたら日が暮れてしまいますね」


 俺達はデビルウルフの死骸をひとまとめにして、『浮遊(フロート)』で冒険者ギルドまで引いていった。剥ぎ取りは別に自分達でやらなくてもいい、むしろ腕に自信がないのなら、ギルドの専門家に任せたほうがいい。


 俺達はもう何度もやっていて、剥ぎ取りに慣れているから自分で行う。その方がギルドに手数料を取られないからだ。しかし、今日は少し時間が無かったのでそのままデビルウルフの遺体を持っていった。


 ギルドの裏口から入りその遺体を渡して、依頼達成の印を貰った。それを受け付けに持っていって、剥ぎ取りの手数料を引いた分の賃金を貰った。


「数が数だったからな、剥ぎ取りの手数料をとられても儲かったぞ」

「ギルドの方が大変そうでした、五十匹は少し狩り過ぎたでしょうか」

「でもディーレさん、その方が森に近い街道は安全になりますよ」


 何か俺達に言いたそうにしている者がいたが、何も言ってこないので無視することにした。今日も一日よく働いた、俺達は労働の後は夕食食べて風呂に入り宿屋で充分に休んだ。


 今日も何事もない、良い一日になった。


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