第百三話 これは試さずにはいられない
朝日が出る頃に起き出して身なりを整えて、宿屋の近くの飯屋で朝食をとる。装備の確認をして、まずは冒険者ギルドに向かう。迷宮に潜るよりも面白い依頼があるかもしれないからだ、するととても珍しい者を見た。
「なぁ、あれ金の冒険者だよな。俺は初めてみたぞ、女でもいるんだな」
「……レクスさん、毎日のように鏡で見ているでしょうに」
「へぇ、金の髪に蒼い瞳。華奢な方ですね、どのような戦い方をするんでしょう」
依頼表を見ようとしたところで、俺以外の金の冒険者を初めて見た。思わず不躾な視線になってしまったのも無理はない、ランク金の冒険者はなかなかいない。
金の髪を短く切って、薄い鎧を各部に身につけていた。その周囲にいる騎士風の男性達も同じような格好で、私設の騎士団のような感じだった。
「特に目だった依頼は……、うっわっドラゴン退治があるぞ」
「スペルニアの北にある森、ドラゴン討伐、ランク銀以上ですか」
「受けてみますか、わくわく。まるで冒険者のような気分です!!」
「冒険者が冒険してどうする、死にたいのかお前は?」
「堅実に迷宮に潜りますか、危ないことはしない方が無難です」
「……お二人ならそう言うと思いました、言ってみただけでございます」
そんな会話をしていた俺達の目の前で、そのドラゴン退治の紙が掲示板から剥がされた。剥がしたのはさっき見ていた金の冒険者だ、俺達のことなど意識に無い様子で、受け付けでギルド職員から説明を受けていた。
「あの華奢な体でドラゴン退治か、大丈夫なんだろうか?」
「金の冒険者ですから、ある程度はお強いのではないかと」
「かっこいいですね、ドラゴンキラーなんちゃって、てへぺろ」
他に目ぼしい依頼も無かったので俺達は迷宮に向かった、また入口でもめるかと思ったが、俺がどいつにしようかなと視線を送った時点で子ども達は逃げ散った。子どもだけに学習能力はあるらしい、おかげで入口は簡単に入ることができた。
「今日もオーガさんがいるかな、もう俺はオーガさんの親友と言ってもいいだろ」
「あああ、オーガに産まれなかったことを私は神に感謝します」
「レクス様、そんな物騒な親友は結構です」
また浅い階層では子どもたちがゴブリンやコボルトを狩っているので、なるべくそちらを見ないようにしてから十階層までを走り抜けた。
「ここからはのんびりと下りていくぞ、大丈夫かディーレ?」
「このくらいは大丈夫です、しかし本当にここの子ども達の視線は怖いですね」
「感情を失くした暗い瞳があんなに怖いとは思いませんでした」
そこからは偶に現れるオークを殴り飛ばし、その皮と魔石を剥ぎ取っていく。いつもと同じ風景だが、実は一つだけ違うところがある。
「見るがいい、俺の新しい相棒のメイスを!!」
「前のものより一回り大きくなりましたね、使い心地はどうですか?」
「ああ、それあのヴァンパイアのお屋敷から回収してきたやつじゃないですか!?」
そう俺が攫われたヴァンパイアの屋敷で死蔵されていたメイスの一つである、以前ならちょっと重くて使いにくかったが、成長した俺には丁度良い武器になりそうだ。
「以前なら重くて使い勝手が悪かったが、俺も成長したことだし武器を変えてみたんだ。今のところは丁度いい重さだな、魔力の通りも良さそうだ」
「ちょっと持たせてくださ――重いっ、これすっごく重いですよ。レクスさん」
「よくそれを軽々と振り回せますね、我が主人ながら常識知らず」
うーん、以前のメイスは普通の人間でも持てなくはないという重さだった。今度のメイスくんは一回り大きくなり、そして結構重くなった。軸も太くてしっかりしているし、子ども1人ぶんくらいの重さがあるのではないだろうか。
俺達は会話をしながらもどんどん深く迷宮を潜っていって、やっと俺の親友オーガさんを発見した。どうやらミノタウロスさんと世間話中のようだ、オーガが二体にミノタウロスが三体だな。
「俺が突っ込んでいくんで援護をよろしく、相手の攻撃の回避は最優先で!!」
「分かりました閃光弾!!」
「注意をそらします、『小花火!!』」
新たな装備のメイスが出番をいまかいまかと待っている、俺は目の前に走ってきたミノタウロスの一頭に、まずは飛び上がって自力だけで正面から頭の上にメイスを振りおろした、ビキビキという嫌な音がしてどうやら頭蓋骨を叩き折ってしまったらしい。
「ははははっ、予想以上だ。嬉しい誤算だな!!」
もちろん既に俺は他の敵からの回避行動に入っている、壁を蹴って目の前にきたオーガの頭を右から左に殴りとばす、ぐぎきぃという音がして首がありえない方向に曲がってしまった。
「うーん、手加減は難しいかもなぁ」
そのオーガの背中を蹴って、ディーレ達に迫ろうとしているもう一体のオーガを背後からその首めがけてメイスを振り下ろす、グワッシャという音と共にオーガは前向きに倒れた。もちろん、その時には既にディーレとミゼは回避行動に入っている。
あとはミノタウロスが二頭だが、もう既に一頭はディーレが両肺を焼いてしまったようだ。仲間達の惨状に逃げ出しかけていたミノタウロスに追いつき、最後の一撃は『重力』をかけて頭を潰したら、べしゃあぁと頭が柔らかく潰れてしまった。
「うん、新しいメイスは手加減は苦手だが、頑丈でなかなか働き者だ」
あれだけの激しい攻撃をしても新しいメイスには歪み一つない、前のメイスは実は少し曲がってきていたんだよな、それもメイスを交換した理由の一つである。
「それじゃ、恒例の剥ぎ取りのお時間だ。牛頭とか粉砕しちゃってるけど、角とかは無事だから!!」
「レクスさん、ちょっと角とかも欠けちゃってますよ。次は手加減してくださいね」
「はーい、私はいつもどおり見張りを行いまーす」
俺とディーレでオーガを二体、ミノタウロスが三体の剥ぎ取りを行った。もう冒険者稼業で皮を剥ぐのも慣れたものである、皮に加えてミノタウロスの角と魔石も忘れずに回収していく。持ち切れない分は皮袋に入れて、また『魔法の鞄』に入れておいた。
「それじゃ、今日は充分に働いたことだし帰るか」
「充分以上に働いてると思いますよ、明日はスペルニア国の観光でもしますか」
「そろそろ、オーガさんが化けて出てもいいような気がします」
今日も一日よく働いたことだし、鼻歌混じりで帰り道を歩く。十階層辺りから子どもの視線を感じるがもう慣れたものだ、一言かければすぐにいなくなる。
「見てても何にもならねぇぞ、散れ!!」
順調に冒険者ギルドに着いて買い取りを頼む、買い取るギルド職員さんも笑顔で対応してくれる。魔石や良い皮の買い取りで、金貨20枚ほどが手に入った。
「毎日、毎日、コツコツと稼ぐのが平民ってものだよな」
「レクスさんの場合はもっと間隔をあけても大丈夫ですよ、大金を稼いでいて全く働き過ぎです」
「働き者の主人を持つと、従魔である私は大変に苦労致します」
さて、帰ろうかとした時に冒険者ギルドに朝見た金の冒険者が走りこんできた。そして、依頼表を急いで書き上げてその場にいた者達に言った。
「ドラゴン退治の仲間を募集する依頼だ、誰か腕自慢の者はいないか!!」
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