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第百一話 そんな目で見つめられたら堪らない

 オーガを五体ほど倒した翌日はまた子どもが群がっている迷宮に行く気にもなれず、最初はスペルニア国の観光などをしていた。もちろん、図書館には最初に行った。


「……難しい本が多いな、古語で書かれた本も多くて読めん」

「僕が代わって読みましょうか、後で大事な内容だけお教えします」


「頼む、ディーレ。特に欲しいのはヴァンパイアに関してと……魔法関係かな」

「任せてください、古語を読み解くのは趣味でしたので」


 期待していたスペルニア国立図書館だったが、国の歴史がつまった資料館のような場所だった。何でもかんでも記録されてはいるが、その為にかえって何が大切なのか分からなくなりそうな場所だ。


「閲覧料は一日銀貨一枚となっております」

「それじゃ、銀貨二枚だな」


 ちなみに猫であるミゼは入ることができず、冒険者はランク金以上のパーティでないと入ることができない、そのうえに閲覧料の支払いもあった。


 閲覧料を取られるからかスペルニア国立図書館は空いていた、俺達の他に殆ど人がおらず黙々と本を読むことに集中できた。


 俺はディーレに言ったとおりの本で古語で書かれていない新しめの本を読んでいったが、どうも解釈が本ごとに違っていて途中で諦めた。原書を読めるディーレの読解力に期待しよう。


「魔法の本はわりと素直に書かれているな、本屋にも売っていると良いんだが」


 ヴァンパイアに関する記述と異なり、魔法の本はわりと読みやすく書かれていた。既に知っているものは復習代わりに、まだ知らないものを新しく学んだ。


「ディーレ、俺は買いたい本の代金を稼いでくるつもりだ。ここで本を読んでいるか?それとも一緒に来るか?」

「……ここで本を読ませてください、お心遣いありがとうございます」


 ディーレはこの国の孤児が群がる迷宮に行くのは抵抗が強いだろう、ギルドの職員によれば冒険者と騎士以外は、迷宮で殺害してもいいなどと恐ろしい決まりがある。


「というわけでミゼよ、久しぶりにお前と迷宮を散歩するか」

「ディーレさんがいないんですから、あまり無茶はしないでくださいね」


 そうやって二手に別れて迷宮に行くと、また入口に立ちはだかる孤児達がいた。俺が無視して通ろうとすると絡んできたが、昨日と同じように遊んでやったら諦めたようだ。かなりの高さまで放り投げたからな、最後は半泣き状態だった。


「昨日とはまた違うガキどもだったな、毎日違うグループが入り口に立っているのか、他の冒険者はどうしてるんだろう?」

「あと何回レクス様はあの命綱はないよ、恐怖の高い、高いをしなくてはならないのでしょうか? 憂鬱な話ですねぇ~」


 十階層まではガキどもが多いので関わるのが面倒で、人間としておかしくないくらいの速さで走りぬけた。


「ここからが本番だな」

「はい、頑張りましょう」


 どの階層にもいるゾンビやスケルトンを破壊しつつ、オークなどを素早く一撃で頭をメイスで砕いてやった。それから魔石を回収、オークの皮を剥ぎとった。


 この階層でも敵としては弱いので、結局小走りから全力疾走になって三十階層近くまで走り続けた。


「あれはなんだ? オーガにしては一際でかくて珍しい奴がいる、ええと……」

「サイクロプスでございますね、戦うのは初めてです」


 サイクロプスに四体のオーガがいたのでこちらの分が悪い。『広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)』を使い、近くの階層に人間がいないことを確かめた。


「ミゼ、全力で行くぞ。……奴らに踏みつぶされないようにどこかに隠れていろ」

「はわわわわっ、それでは付近に人が来ないか見張っております」


 俺は自分の翼で飛翔してまず一体のオーガの頸椎をボギリッとメイスで叩き折った、他の奴らがそれに驚く前に二体目のオーガはグワンッと、頭が動体にめり込むほど力をこめて叩き潰した。


「いくら力があっても遅い、遅い!!」


 騒ぎ始めたオーガやサイクロプスが俺を捻り潰そうと手を伸ばす中、それをかいくぐってもう一体のオーガの喉を、下から全力で叩き上げ体ごとドガアンッと壁に叩きつけた。


「あと、二体!!」


 残るオーガ一体の背後めがけて飛翔し、その速度のままにメイスを首に打ち付けてその骨をバキリッと叩き折った。これで残るはサイクロプスだけだが、一旦は距離をとって様子をみる。


「ディーレがいないと、結構キツいな」


 サイクロプスはオーガよりも大きい、オーガ普通の人間の二倍ほどの体を持つのに対してサイクロプスは三倍と言っていいだろう。ディーレがいれば牽制をしてくれるのだが、一人だと集団の相手はちょっときつかった。こうして草食系とはいえヴァンパイアの力が使えなければ、おそらくかなり苦戦したことだろう。


「俺もそろそろもう少し重いメイスが欲しくなってきた、『(ライト)!!』それから『追炎(チェイスフレイム)(アビー)!!』」


 ディーレ達の得意技で片をつけることにした、まずは光の目潰しでサイクロプスの視界を奪う!!そして、止めは口を狙って火炎を放り込み、体の中の肺を焼き尽くす方法だ。


 ぐらああああぁぁぁぁぁぁああああぁ!!


 サイクロプスが目つぶしの光に堪らずに咆哮をあげたところに、追尾式の炎を口から放りこみその両肺を焼き尽くした。サイクロプスはしばらくは足掻いて暴れていたが、やがて徐々に静かになり死んでいった。


「やはり、一人だとやり辛い。ディーレが早く立ち直れるといいが……」


 俺は空中から翼をしまって、獲物達のところへ舞い降りた。これから恒例の剥ぎ取りのお時間だ、サイクロプスもやはり皮を剥ぎ取る必要がある、それだけ時間がかかるのでミゼに命令しておいた。


「ミゼ、見張っていろ。何かあったら、すぐに言え」

「かしこまりました、レクス様」


 まずは初めて倒したサイクロプスから皮を剥ぎ取っていった、場所にもよるが丈夫でしなやかな皮だ、自分達の分は売却とは別に取っておいて加工するとしよう。


 あとはオーガ四体分の皮だな、それと忘れずに全部の魔石を回収した。昨日の稼ぎから考えるとどれくらいになるか。俺の体と同じくらいに大きくなった包みを軽々と持ち上げる、入りきらない分は皮袋に入れて『魔法の鞄(マジックバッグ)』に放り込んだ。


 それからまた十階層までミゼと一緒に上がっていくと、孤児たちがじいっと無言の目で俺達を見る。その瞳には感情がない、獲物を狙う獣の目だった。


「うっとおしいぞ、散れ!!」


 威嚇して怒鳴ればババッと素早く孤児達は姿を消した、しかし確実に後ろから隙を伺って追いかけてきた。


「これはディーレでなくとも、普通の冒険者は近寄りたがらんだろう」

「軽くホラーでございます!!」


 ミゼも彼らの熱のない視線が怖いのか、迷宮の外に出るまでは毛を逆立てていた。そこでやっと不気味な視線もなくなって、俺達は冒険者ギルドに今日狩った獲物を持ち込んで買い取って貰った。


「これはサイクロプス!!サイクロプスの皮ですか!?えっと、ええと……」

「ああ、そうだ」


 サイクロプスの皮や魔石はどうやら珍しい素材らしく、自分達で使う為に抜いた分を除いても高く売れた。合計で金貨10枚になった、なかなかの儲けになった。


 その足で街の本屋に向かった、魔法書の良い物はないか訊ねると『中級魔法書』と『上級魔法書』を持ってこられたがそれは既に持っている。別のものが無いか聞いてみると重そうな『禁じられた魔法』という本を持ってきた。


「ふーん、どれどれ古語が混じっていて読みにくいな」


 中身は上級魔法の使い手でないと使いこなせそうにない複雑な魔法ばかりだった、面白そうだったので見栄を張って理解しているふり(・・)をして買うことにした。


「はい、それでは金貨30枚、確かに受け取りました」

「ん、読めるだけ読んでみることにする」

 

 最初は金貨百枚とか言っていたが、そこをまけにまけさせた。他にこんな本を買う客などいないだろうと最終的に金貨30枚で購入した。今日一日の儲け以上につぎ込んだわけだが、反省も後悔もしていない!!


「レクス様からお金を巻き上げるには、古くて面白そうな本を置いておくといいですね」

「おう、迷宮に毎日潜ってその分稼ぎまくってやるさ」


 夕食は図書館にこもっていたディーレと合流して、飯屋で食べることにした。古い都のせいか屋台というものを見かけないのだ、意外なことにミゼをつれて入れる店が結構多かった。これは貴族が動物を連れていることが多いからだそうだ。


「今日の迷宮の稼ぎで本を買ってしまった、面白そうな本だから後で読んでくれ。ああ、それとサイクロプスがいたから、装備を新しく作るとしよう」

「僕のほうは古語でヴァンパイアについてや、魔法について読みあさってきました。いくつか気になる話があったので、後でお話しますね」

「はい、まずはご飯でございます!!」


 スペルニア国の味付けは上品なものだった、冷たい芋のスープが上手かった。ミゼ用の食器まで出てきたのには驚いた、古い都だけあって貴族などには同じように対応するらしい。


 ディーレの方もいつもどおり、ステーキなどご飯を大盛りで食べていたから大丈夫そうだ。本気で落ち込んでくると食べ物が喉を通らなくなるからな、ディーレはしばらく図書館通いをさせた方がいいかもしれない。


 夕食を楽しく話しながら食べ終えて、ちょっと高い飯代を払って宿屋に戻る。高いが風呂もついている宿屋だ、こういう良い点は長い歴史のある国だけはある。


「そうそう、幾つかの本に祝福されし者という記述があったんです」

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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