第百話 助ける為なら理由はいらない
「レクスさん、すみません!! 僕にはどうしても彼らが見捨てられません!!」
そう言ってディーレは先ほど拒絶された少年たち、今にもオーガに食い殺されそうになっている、そんな少年たちの方へ走っていった。
「――――ははははっ、ディーレがそう言うんじゃ仕方がない。行くぞ、ミゼ!!」
「かしこまりました、レクス様。ディーレさんってイケメンなのに、中身も本当にイケメンなんだから、もう!!」
俺とミゼは引き返してディーレの姿を追った、しばらく走っているとディーレだけがオーガと戦っていた、負傷した少年たちはそんなディーレには構わず逃げ出した。
「両目に閃光弾に、石撃弾を続けて――!? 『浮遊』僕には当たりませんよ」
ディーレは逃げ出した少年たちは放っておいて、オーガの足止めをしていた。閃光弾でオーガの視界をつぶし、続く石撃弾で完全に両目をつぶしてしまった。両目を失い、やみくもに暴れるオーガ。ディーレはその攻撃を『浮遊』で軽くなった体で回避した。そこに俺たちが来た。
「ディーレは火炎弾で口を狙え、俺が隙があれば両足を潰す!!」
「――!! はいっ、レクスさん!!」
「私もディーレさんのお手伝いを致します」
俺は手探りで大きな爪のついた手を振り回すオーガの足元に滑り込んだ、そのままの勢いでまずはガツンッと右の足をメイスでへし折った。ディーレがすかさず、悲鳴をあげるオーガに火炎弾を撃ち込んでいった。
ぐらああぁぁあぁあぁぁぁぁ!!
痛みの為か牽制か分からないが、オーガが何かの魔法を放った。ディーレは素早く回避しようとしたが、その前にミゼが飛び出してオーガの攻撃を完全に防いだ。
「おっと、『風硬殻!!』でございます」
「ミゼさん、ありがとうございます!!」
俺は弱ってきたオーガの背面から近づいた、気づいて回避しようとしても遅すぎる、オーガの背中を駆け上がりメイスを首元にバキリッと叩きつけた。オーガの首の骨が折れる感触が伝わってきた、しばらくすると体も倒れ完全に動かなくなった。
「ディーレ、お前らしいよ。だが、一人で突っ走るよな」
「すみません、迷宮のルールは分かっていますが、どうしても見捨てられませんでした」
「助けた子どもたちにはもう逃げられましたね、ディーレさんもっと私も頼りにしてくださいです」
ディーレが助けた子供たちはその姿を消していた、中には深手を負った者もいた血の匂いからそう感じ取れた。俺は草食系とはいえヴァンパイアだ。だが、俺たちにその子どもたちを探して助ける理由がない。オーガから助けてやっただけでも、充分な過ぎるくらいのお節介だった。
迷宮で助けを求めないパーティを勝手に助けたりすると、次はこちらが獲物だとみなされてそのパーティに寄生するようになることがある。少なくとも逃げ出したガキどもはそうじゃないようだ、俺たちのパーティにオーガをおしつけて逃げたというだけだった。
「ディーレに感謝もせずに逃げ足だけは一人前だな」
「いいえ、充分です。僕は子どもを助けられた、それだけでいいのです」
「……イケメンのオーラが凄い、フツメンには対抗できないのです」
時には親切心から助けた者に、獲物を、狩った物を、人員やお金までめぐんで欲しいと後をつけてきて寄生するパーティになることがある。だから、冒険者同士の助けあいはあるが、勝手に他の冒険者を助けてはいけないのだ。……昔、俺は意識せずにそれをしたことがあるが、徹底的に彼らを無視したので寄生とかはされなかった。
「ディーレも回復したことだし、鬱憤ばらしに派手にいくか!!」
「はい、閃光弾!! 『浮遊』」
「おっと、『標的撃!!』でございます」
敵はこちらの様子を警戒していたオーガが三体だ、おまけに先ほど歩いて来た背後の方から一体のオーガが近づきつつある。
ディーレに前方のオーガ三体の気を惹いてもらっているうちに、俺は後方のオーガを倒すことにした。その様相はまさに人食い鬼、だが俺たちの敵ではない。
大振りな右腕から掴みかかる攻撃をかわして、その間に俺は背後に回る。踵の骨をメイスでベキリッと圧し折って片膝をつかせた、その背中を駆けあがり頸椎を砕くほどの重い一撃をくらわせベキリッと骨が折れる音がした。
「まずは一体、次はっと」
「視界は全部潰しました、えっと、火炎弾です」
「『追炎蔦!!』でございます」
ディーレ達はいつものように目潰しから、口から炎を放り込んで肺を焼くという攻撃をしている。決してオーガに囲まれたりしないように、ディーレは用心深くオーガから距離をとって動いている。
下がって距離をとるディーレの横をすり抜けて俺は一体のオーガの膝に『重力』付きの一撃を与える、捕まらないように避けて壁を駆けあがり、オーガに止めの一撃を首におみまいする。
ベキベキィと嫌な音がした瞬間には俺はもう回避行動に入っている、二体目の肺を焼かれたオーガが追ってくるので、伸ばされた手の上を駆けあがって頸椎にまた『重力』付の一撃をくれてやった。残りは一体!!
「ディーレさん!?」
「大丈夫か!?」
「――――大丈夫です!!」
残った一体のオーガの一撃がディーレをかすっていた、でも彼はそれを感じさせない素早い動きでオーガから距離をとった。
俺はディーレに気を取られ過ぎているオーガの背後からまた踵をベキリと叩き潰す、オーガは自分の体重が支えられずに仰向けに倒れた。
「これで終わりだ、『重力!!』」
仰向けになったオーガの首を体重と重力をかけて踏みつぶす、バキバキッと嫌な音がして俺はオーガから即座に距離をとった。先ほど傷を負ったディーレのことが真っ先に気になってそちらに向かう。
「ディーレ大丈夫か!?」
「大丈夫です、ちょっと避けそこなって背中を少し引っ掻かれただけです」
「本当です、さすがは魔物の糸で作った服です。軽く擦過傷ができただけで済んでいます」
ディーレの傷は確かに浅かった、服をたくし上げて見てみると、丈夫な防御服が幸いしていた。肌がこすれて、赤い線が幾つか残るくらいで済んでいる。
「油断大敵だな、『治癒!!』」
「ありがとうございます、おかげで痛みも消えました」
「オーガ四体で挟撃されたのが辛かったですね、気をつけましょう」
さて後は恒例の剥ぎ取りのお時間だ、ミゼに見張りを任せてオーガから皮を剥いでいく。あの少年たちが戦っていたオーガからもだ、倒してしまえばあとは素材として活用させて貰う。
「神よ、この子達の憎しみのあるところに愛を、諍いのあるところに許しを、天へと旅立つ者に永遠の安らぎをお与えください」
帰り道でディーレはところどころに残された少年たちの遺体に短く祈りを捧げていた、本当にディーレは優しい奴だ。天才的な才能を持ちながら、決して驕らず逆に人の心配ばかりをしている。
オーガを五体も狩ったことだし、俺達は今日の狩りはここまでにして階層を上っていった。
「なんだ、なにか聞きたいことでもあるのか?」
「……………………」
十階層まで上がってくるとオーガの皮を担いでいる俺達は、群れになっているガキどもの視線にさらされるわけだが、こちらから睨みかえしてやると無言で散った。それはそれでいいとして、俺たちは冒険者ギルドに向かった。俺とディーレ、ミゼの順に職員と喋った。
「オーガの皮の買い取りを頼む」
「はい、ああ良い状態の皮ですね。買い取り価格を多めにつけさせて貰います。近頃は迷宮に行ってくれる冒険者が少なくて、正直に言って困っているんです」
「……もしかして、あの迷宮に群がっている子ども達が原因なんですか?」
「はい、そうなんですよ。最初は『貧民街』の子が数人で、ゴブリンを倒して帰ってくるぐらいだったんですが、今は他の冒険者の邪魔をするんです」
「騎士団はそのことを知らないのでしょうか?」
「もちろん、冒険者ギルドの収入減にもなりますから、王様や騎士団には伝えてあります。ですが、迷宮を子どもが上手く利用して逃げてしまうんです」
今までにも貧しい子ども達をみかけたことはあったが、ここまで逞しい子どもたちにあったのは初めてだ。最初にゴブリンを狩れた時から思いついたのだろう、迷宮が良い稼ぎ場になるんだと知ってしまったわけだ。
「ですから、現在迷宮は冒険者と騎士以外は立ち入り禁止となっています。騎士達が交代で見張りをしてくれているはずなんですが」
「……残念ながら俺は彼らを見ていない、きっと見逃したんだな」
騎士達にも同情する、たとえ碌に武器も持っていないとはいえ相手の数が多過ぎる。二、三人の騎士だったら数の暴力の前に返り討ちにあうだろう。
「冒険者ギルドでは冒険者以外からの買い取りは断らせて頂いてます、それでもどこかで魔石を換金してきてしまうんです。多分、商業ギルドか、もしくは闇で換金しているのでしょう。それで通行料も払ってしまうので、都への出入りを禁止することもできません」
商業ギルドからすれば冒険者からよりも安く魔石を買い叩いて儲けることができる、あとは闇組織に流れてその収入源になっているというわけだ。
「というわけですので、もし迷宮で騎士や冒険者以外を見つけたら、例えそれを殺しても罪には問われないことになっております。その事をよく覚えていてください、彼らには何をしても構いませんので」
俺は怖い、迷宮で生きる為に必死になるガキどもに会った時よりも、今俺の目の前にいて殺人をあっさりと薦める女が怖いなと思った。
「歴史があるとか言ってとんでもない国だな、迷宮を占拠するガキも悪いがそれを殺しても無罪にするという国が怖い」
「ですが、そうしないと普通の冒険者さん達が迷宮を利用できない。何と言っていいのか、割り切れない複雑な気持ちになります」
「孤児への対策がおざなりになっているのです、これはもう国の問題ですね」
今日も迷宮でよく働いたがひどく疲れた、主に精神的に疲れた。古くから在る国だけあって、宿屋も一日で銀貨1枚と値段は高めだが風呂がついていた。それを堪能すると、俺達は疲労に逆らわずに其々が眠りについた。
貧富の差が激しくて人の命が軽く扱われている、どうもこの国は好きにはなれそうにないな、そんな事を考えながらゆっくりと眠りについた。
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