88 対応
朝になり、バリュードの気配も遠吠えもなくなってしまった。
「一旦、逃げたか」
「そうだな。小さいのも消えた感じだ」
オレの気配察知では心ともないが、ヤトアがそう言うのならそう判断していいだろうよ。
「帰るか」
「ああ」
ヤトアを背に乗せ、ミナレアへと帰った。
帰る途中もバリュードは現れず、草食モンスターの気配すら感じなかった。
草食系のモンスターは大森林の気配を察する能力は本当に優れている。強者や異変があるとすぐ逃げ出してしまうのだ。
……オレはSSSクラスだが、無駄に威圧しませんので、気配を殺したらすぐに狩ることが可能です……。
ミナレアに近づくと、警戒している騎士の気配を感じ取った。
「気配を出していたほうがいいのか、気配を殺していたほうがいいのか、大森林では難しいところだな」
弱い獣なら有効だろうが、強いモンスターにはエサがここにいるぞと教えているようなもの。どちらがいいと言えないところがもどかしいぜ。
「出していたほうがいいと、おれは思う」
「なぜだ?」
「ここにはおれたちがいると示し、侵略してくるものを排除して教えていくほうが将来的にはいいと思う」
ヤトアが将来的とか、刹那的に生きていた男が成長したものだ。
「では、存在を示していくことにしよう」
騎士がいる方向い、合流してミナレアへと帰った。
「情報を統一させるぞ」
まず、オレがいないときの話を聞き、バリュードとの遭遇、戦い、ヤトアと別れてからのこと、オレが合流してからのことを騎士たちと話し合った。
ついでだから報告連絡相談を教え、情報は皆で共有することを徹底させる。
「いいか、お前ら。一人一人は弱くても数を揃えればどんなモンスターにも勝てる。騎士はその体現者となれ」
根性論は嫌いだが、絶対的な力の差を覆すにはまず根性と言う下地がなくてはならない。こいつらも小難しい戦略を語っても理解もできないんだからな根性だけは立派であれ、だ。
「十人一組となり、四方へ半日駆けたところの樹に『1』を刻んでこい。そこが第一次防衛線とし、さらに半日駆けたところに『2』を刻め」
謎触手で凸を描き、第一次第二次の円を描く。
「終わったら第二次防衛線の外を警戒しろ。ただし、遠くにはいくな。バリュードを見つけても深追いするな。誘い込みの恐れがあるからだ」
「レオガルド様。騎士を増やしたらどうだ?」
「いや、無闇に騎士は増やせない。騎士は特別だ。そう簡単に増やしていたら騎士の価値がなくなる」
だから簡単に死んでもらっても困るんだがな。
「お前たちは特別だ。オレが選んだ最高の戦力なんだからな」
獣の顔じゃニヤリと笑えないが、言葉は紡げるのだから言葉で伝える。お前らは特別なんだとな。
言葉はちゃんと騎士たちに届き、表情が引き締まった。
「お前らは退いてはならない。負けてはいけない。死んではならない。騎士の名を汚してはならい。なぜならお前らはレオノール国の希望であり勝利の象徴なのだから」
限りなく高い目標ではあるが、ゼルム族にはこのくらいがちょうどいいだろう。
「ミゼル。装備を整えたら開始しろ」
「はっ!」
「ヤトア。ルゼ公爵に報告する。ついてこい」
まだ疲労が抜けてない。無茶させないようミナレアへと連れていく。あ、嫁さんズも連れていかなくちゃな。
「荷車を取ってくる。ヤトアを寝かせておけよ」
嫁さんズに言いつけ、ミナレアに走り、荷車を装着つけて戻ってきた。
「ヤトアはしばらく休ませておけ」
はっきりとはわからんが、劇的に霊力が小さくなっている。きっと無理したんだろうよ。
ヤトアと嫁さんズを荷車に乗せてまたミナレアへと向かう。
「ザザ。ヤトアを診てやってくれ」
霊力のことは呪霊師だったザザに任せるが一番だ。
「かなり消耗してますが、しばらく休めば問題ないでしょう」
「やはりか。かなり無茶したな」
「生き残れ。それがレオガルド様の教えだ」
「アホか。そこは嫁のためと言っておけ」
よくそれで五人も娶ったな。独身のオレでもわかることだぞ。
「しっかり見張っておけよ。ヤトアにはまだ生きてレオノール国のために働いてもらわなくちゃならんのだからな」
「ツンデレだな、レオガルド様は」
「誰がツンデレだ」
クソ。変なことまで教えすぎたぜ。
ルゼのところへ向かい、主要メンバーを集めてバリュードのことを説明する。
「狙われてますな」
長老の一人が呟いた。
「やはり、そう思うか」
「はい。バリュードは群れますからな。きっと安全な土地を求めてやってきたのでしょう」
「ここはレオガルド様がいてくださるお陰で凶悪なモンスターはおらず、草食系のモンスターがたくさん生息してますからな。バリュードには最良の土地でしょう」
人間だけじゃなくモンスターにまでつけ狙われるとはな。まあ、縄張り争いは生き物の常。嘆いてもしかたがないな。
「このことはゼル王にも伝えて銃士隊を応援として呼ぶ」
レイギヌスをオレの武器にしたせいで銃士隊は人間相手の戦力になったが、銃は有効だし、砂鉄を集め、火薬を作っているので、銃は増えている。これを期に銃士隊の訓練もしておこう。
「人間も呼ぶので?」
「いや、さすがにここまで呼ぶのは大変だからな、今回はゼルム族だけで対応する」
ゴゴール族を投入するのはまだ早いだろう。連携訓練もしてないしな。
「ギギもきてくれ。これはレオノール国の未来を左右する重要な問題だからな」
政治に参加はさせたくないが、まったくかかわらないってことは無理だ。大巫女としてオレを支える立場だからな。
「わかりました」
「レオ様、わたしは?」
「レブとチェルシーはブランボルにいってシャルタの様子を見にいってくれ。あちらも落ち着いてないんでな」
ゴゴール族が参加させろと言ってくるおそれがある。だから、レブを向かわせて静めておこう。
「わかった。任せて」
素直でよろしい。
次の日、ギギや巫女を連れてマイノカへと向かった。




