87 準モンスター
傷口を洗い、布で巻く光景を見て医者が必要だなと思った。
いや、いるか。ゼルム族の。ただ、名前、忘れたけど。
「ミナレアで薬草に詳しいヤツはいないのか?」
宇宙人的なにかに創造されたわけじゃなければ、ゼルム族は何十万年とかけて進化してきたはず。なら、その長い年月で傷を癒す植物があると学ぶはずだ。
「はい。ミロンドがいます」
なんじゃそれ? と、よくよく聞くと、薬師のことらしい。
じゃあ、薬師は薬師ってことで、オレの中で統一しておこう。
「そう言えば、ヤトアはどうした?」
「ヤトア様でしたら親玉の注意を引きつけるために囮になってくれました」
親玉? あいつらの他にいたのか?
「そうか。まあ、ヤトアなら死ぬことはないだろう。オレの嗅覚や察知から逃れ、背後を取ったからな」
気配の殺し方、モンスターがなにて獲物を察知してるか、その回避の仕方を教えた。嗅覚頼りのモンスターならそれほど苦ではないはずだ。
「やはり、レオガルド様の弟子なのですね、ヤトア様は……」
だから様呼びなのか。
力がすべてなところでヤトアが受け入れられてるのは強いから。そして、オレの弟子だってことなんだろう。
「ヤトアは力だけに頼らない。強い相手でも勝つために考える。オレが認めるのはそこだ」
嫁を五人も娶るところも同じオスとして尊敬するよ。
「我々はまだまだですな」
「それは知識の差であり知恵の差だな。種としての特性をよく知り、種の限界を知っている。お前らに足りないのはそれだ」
ゼルム族にはゼルム族のよさがあり、悪いところがある。それを知らなければゼルム族に先はないだろうよ。
「ブランボルで猟兵と言う組織を創ってきた。騎士とは違う戦い方をする。お前たちもお前たちにしかできない戦い方を築いていけ」
試行錯誤。創意工夫。こいつらは自分たちで自分たちを育てることも学ばせないとな。
一晩、そこで休んでからミナレアへと戻った。
「まず、体を癒せ。オレはヤトアを捜してくる」
ルゼへの報告と警戒を怠らないようにも伝え、ヤトアを捜しに出かけた。
二日ほど捜し回り、単独で行動していたバリュードを狩って食っていたら、遠くからバリュードの遠吠えが聞こえた。
「……狩りか……?」
遠吠えは一つだけではなく、いろんな方向から聞こえる。
バリュードの生態など知らんが、Aランクモンスターとなればそれなりに知恵をつけている。考えもなしに遠吠えしているとは思えない。おそらく群れで狩りをしているのだろう。
Aランクのモンスターが群れで狩る。それは獲物が大きいか強敵かのどちらか。獲物がヤトアである可能性が高い。
遠吠えが聞こえた方向へと走ると、体長四メートルくらいのが小型のバリュードを率いていた。
モンスター以下獣以上か。いろんなのがいるもんだ。
「バリュードの一大勢力って感じだな──おっと、気づかれた」
霊力を感じられるタイプだったのか、準モンスターがこちらを振り向いた。
「お、逃げた」
その辺は弱肉強食の法に従うんだな。
ゲルボアルと言う種としてオレの走りはそこまで飛び抜けてはない。おそらく、バリュードより遅いだろう。だが、オレには風を使える呪霊があり、雷を放てるまでの域に達している。
風を纏えばオレの走りは時速二百キロ(体感だけど)まで出すことができるのだ。
風を纏いつつ風の刃で枝葉を刈るので障害となるものはなし。数キロの差も数分で追いつき、雷で準モンスターを倒した。
小型は逃げるが、なんら脅威でないので追撃したりはしない。準モンスターを咥え、切った樹の枝にぶっ刺しておく。あとで食うためにな。
次の遠吠えがする方向へ走ると、また準モンスターが小型バリュードを率いていた。
「準モンスターは隊のリーダーなのか?」
逃げる準モンスターを狩り、また樹の枝にぶっ刺して次へ。やはり準モンスターが小型バリュードを率いていた。
「A以上がいないな?」
四つ目の隊を狩るが、Aランクのモンスターはいない。先見隊か狩りをする隊か。どちらにしろ社会性を持った種である。
遠吠えを上げる隊を一つ一つ潰していくと、オレの霊力を探ってヤトアがやってきた。
「お、生きてたな」
「ああ。さすがに死を覚悟したがな」
そんなことないように笑うヤトア。身も心も強くなったようだ。
「腹が減っただろう。乗れ」
「いいのか?」
「勇敢な弟子を背に乗せるだけだ」
謎触手をヤトアの腹に巻き、背へと乗せた。
一匹だけ血抜きしたところへ向かい、爪で切り裂き、ヤトアの前に置いてやる。
「非常用の塩は持っているな?」
大森林でのサバイバル術も教えてあるし、塩分補給のための塩も持つように言ってある。
「なんとか一日分は残った」
どうやら長いことバリュードに追われていたようだ。
枯れ枝を集めてやり、雷で着火してやる。焼くのはヤトアに任せる。
焼けた肉を獣のように食らうヤトアを眺め、胃が満たされたら残りはオレがいただいた。
「眠ったか」
オレがいることで安心したのだろう。食い終わってヤトアを見れば大の字になって眠っていた。
火に枯れ枝をくべ、ヤトアを守るよう寝そべった。
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