86 群れ
ミナレアへと帰ってきた。
思えばオレって移動してばかりだよな。放浪の獣かよ、って感じだぜ。
着いてすぐにルゼに帰ってきたことを告げる。オレがルゼを立てていることを知らしめるためにな。
「ご苦労様です。ゴゴール族はどうでした?」
「強かに生きていたよ」
「それは、我々も見習わないといけませんね」
「ああ、そうだな。また出稼ぎを連れてきたんで、面倒を頼む」
ゴノがフレンズな獣人のところに根づくまでは毎年のようにやってこよう。なら、寝る場所を作っていたほうがいいだろう。
「ギギ。ただいま」
ルゼとの挨拶が終わればギギの元へと向かい、ギギに頬擦りする。
「おかえりなさいませ、レオガルド様」
「おかえりなさい、レオ様」
「グルル」
レブとチェルシーもオレの帰りを温かく迎えてくれた。
二日くらいはギギたちと過ごし、騎士の様子を見にいった。
騎士の訓練場としていたところにくると、なにやら小屋がいくつか造られ、炊事場ができており、ヤトアの嫁やゼルム族の女が食事を作っていた。
「……いつの間に……」
いや、半年近く離れていたのだからできていても不思議ではないが、騎士が進んでやるとは思えない。きっとヤトアの嫁の発想だろうよ。
「ご苦労さん。騎士たちは走り込みか?」
「いえ、バリュードの群れが出たので退治に出ています。残りの方々は偵察に出ています」
銀狼か。続々と流れてきてるのか?
「被害は出ているのか?」
「いえ、騎士の方々が退治してくれてますのでミナレアまで近づいておりません」
「そうか。なら、オレもいってみるか」
猪も飽きた。たまには違った味を楽しみたいぜ。
「お前たち。無理はするな。腹に子がいるんだろう」
獣に転生してわかった。妊娠すると体臭が変わることにな。
「は、はい。ありがとうございます。注意します」
ああと答えて駆け出した。
しかし、五人も一斉に孕ますとかヤトアもやるよな。獣より獣な男だよ。
適当に走ると、偵察に出ている騎士と出くわした。
「レオガルド様!?」
オレの突然の出現に驚く騎士たち。
「お前ら、たるんでるぞ。Aランクのモンスターなら殺されていたぞ」
Aランクはまだ弱いモンスター。Sランク以上のモンスターのエサでしかないのだ。
「も、申し訳ありません! 精進します!」
「そうしろ。で、バリュードが出ているようだな?」
「はい。十から二十の群れが流れてきています。おそらくAランク以上のモンスターが率いているのだと思います」
狼だしな。強いのが群れを統率しているのだろう。
「わかった。お前らは偵察を続けろ」
「はっ!」
偵察の騎士たちと別れて一時間ほど走る回ると、血の臭いを嗅ぎ取った。
……獣の血だな……。
モンスターの血はオレの獣の血を滾らせる臭いがする。これは獣。それも大量に血が流れているな。
血の臭いがするほうへ全力疾走。すぐにバリュードの群れと戦う騎士を発見できた。
すぐには参戦せず、手頃な大樹へと登り、双方の戦いを観戦する。
バリュードは三十匹ていど。体長は二メートルくらいと小型だ。あれなら騎士たちだけで問題ないだろう。
「ん? モンスターの臭い」
風に乗ってモンスターの臭いが流れてきた。
「……結構いるな……」
臭いが複数ある。
オレの嗅覚はそれほど性能はよくないので、細かいことまではわからない。が、少なくともAランクのモンスターが三匹はいるな。
「様子を伺っているのか?」
Aランクのモンスターはわざと風上にいる。
群れをなすモンスターは己の強さを示すことをわざとやる。弱肉強食な世界では必要なこととは言え、人間の思考を持つオレには愚かとしか思えない。
いや、これは驕りか。自分より劣るモンスターでも油断するな、だ。
大樹から降り、気配を殺し、足音を殺し、風上にならないようAランクモンスターがいる場所へと向かった。
──いた。
小型のバリュードからしてAランクのは体長約五メートル。チェルシーより一回り小さいくらいか。
……それが五匹か。やはりオレの嗅覚は性能よくないな……。
観察してたら一匹がこちらを向いた。
……もしかして、オレの霊力を感じ取ったのか……?
オレにはわからんが、レブが言うにはオレの霊力は強く、数十キロ離れていても感じるらしい。バリュードの中にも霊力を感知できるヤツがいるようだ。
どう動く? とバレても動かずにいたら、逃げ出してしまった。
オレのほうが強いとわかるくらいには冷静な思考ができるようだ。群れてて賢いのは厄介だな。
バリュードが遠吠えをする。撤退か?
追って追えないこともないが、今は偶然だと思われていたほうがいい。下手に警戒されて群れを分けられたら厄介だしな。
遠吠えがあちらこちらから聞こえてくる。
「……結構いるっぱいな……」
Aランクの遠吠えより低いから小型のバリュードだろう。
完全にいなくなるまでその場に止まり、周囲を偵察してから騎士たちと合流した。
「レオガルド様」
激戦だったのか、怪我をした者や疲労で倒れている者までいた。
「よく戦った。腕を上げたな」
騎士二十数人に対して五十匹以上のバリュードが倒れている。十二分に褒める戦果だろう。
「オレがいる。今はしっかり休め」
「はい。わかりました」
騎士たちが倒したバリュードをいただきながら騎士の回復を見守った。
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