66 百災危うからず
今すぐどうこうできないので、腹を満たすために海へ向かった。
今年の海はちょっと冷たい。大雪のせいだろうか?
まあ、近海のコノリ貝を採るだけなので冷える前に上がってこれた。
「レオ様。これ、食べれるの?」
「ああ、食べられるぞ。だが、レブはよく焼いてから食べろよ」
コノリ貝は人も食べれるので、胃腸の弱いレブでも大丈夫なはずだ。ちょっとずつ食べろよ。
雷焼きしていただきます。お、美味い。寒さで身が引き締まったのかプリプリ感が最高だ。
チェルシーにもやると、内臓を選んで美味そうに食っていた。通なヤツだ。
一つでは満足できないので、さらに採ってきて、最終的にオレとチェルシーで五個をいただきました。満腹満腹。
「フガクの様子を見てくる」
「レオ様、わたしもいきます」
「チェルシーは置いていくぞ。大雪で堪えられないと思うからな」
オレほど寒さには強くない。吹雪いたら低体温症になるだろうよ。
「橇に食料と薪を積んでくれ。レブ。暖かい格好をしろよ」
オレの体温で暖められるが、風で体温を持っていかれる。風を通さない熊の毛皮がいいだろう。
準備が整ったら出発する。
出発してすぐ、また雪が降り出した。
今年はなんでこんなに降るんだ? 開墾したときにできた薪がなければ凍死するヤツがたくさん出ていたぞ。
「レオ様。凄い霊圧を感じる」
雪の多さに四苦八苦して進んでいると、レブが固い声でそんなことを口にした。
霊圧?
「ヤトアさんから教わりました。霊力がある者から感じる力の圧を霊圧と呼び、それでわたしはモンスターの位置がわかるんじゃないかって」
「なるほど。と言うことは霊力を持っているとモンスターになるわけだ」
「この霊圧はモンスターって域から出てます。焚き火を間近で当たってるのと同じです」
それだけフガクは逸脱した存在と言うことか。
レブが辛そうなので、これ以上近づくのを止めてコルモアへと戻った。
フガクがとんでもない奴だということをゼルたちに語り、万が一、フガクがやってきたときの対策と避難手段を語り合った。
「フガクの移動経路を見ると、コルモアにはこない感じだが、どこに向かっているのやら」
簡易的な地図を地面に描き、マイノカ、コルモア、農業村を石で配置し、木片を削ったものをフガクに見立て、経路を点線で描いた。
まあ、通りすぎてくれるのならどこにいこうと構わないのだが、ハレー彗星の如く何十年に一回こられるものならその経路に村なんか築けないわ。
何日も話し合うが、答えは出ない。相手は災害級の存在なんだからな。
いや、発想を変えてみると、これは使えるんじゃなかろうか?
元の世界も災害はあり、オレが住んでいた国は毎年のように台風がきて、都市を破壊するような地震が発生する。
災害が当たり前になれば備える精神が生まれ、それに適した基準もできる。災い転じて福と成す、である。
「有事の際、動ける法を定めておく必要があるな。フガクだけじゃなく食い物が少ないときもあるだろうし、外から攻めてこられることもある。病気が蔓延することだってあるだろう」
有事は常にあると言うことを教え込み、意識づけしていく。
「自然は脅威だ。だが、それを乗り越える知恵はある。備えることはできる。被害を抑えることができる。オレたちは違う種だが、力を合わせることはできる。力がある種。知恵がある種。手先が器用な種。なにかに優れた種が集まっているんだ、単種の集団より乗り越える方法を多く持っている集団だ。力を合わせれば必ず先へいける」
理想論である。だが、意識づけしていけばやがて国是となり、レオノール国に暮らす者の誇りとなるはずだ。
まあ、洗脳に近いものだが、他種族が集まった国ならそのくらいしないと纏まらないだろうよ。
「いいか。驕るな。自然はオレらに優しくはない。オレらは敵の中で生きているようなものだ。敵を知り己を知れ。さすれば百災危うからずだ」
パクリで申し訳ないが、オレらが先にいくために使わせていただきます。




