65 災害(フガク)
いくどもの試運転とヤトアの霊装術による強化、耐震によりオレの荷車、ライデンが完成した。
さあ、これから、ってところで大雪に見舞われてしまった。
「いやまあ、橇も悪くはないんだけどな」
雪が降ったら橇のほうが牽きやすいし、道も均される。ライセツと命名して冬用として使っていこう。
「さすがにこれだけ積もると輸送隊も移動できんな」
オレですら埋もれているんだからゼルム族では身動きもできんだろうよ。
だが、そこを無茶するヤツがいるので、オレが安全確認のために道を巡回しているのだ。
「またか」
止んだと思ったらまた大粒の雪が降ってきやがったぜ。
「ハァ~。まったく、どんだけ降るんだよ。何百年に一回の寒波なのか?」
さすがのオレも動き難くなってきたわ。
風で雪を吹き飛ばして進むも雪が舞って視界が悪くなるし、力で押し進むと毛に雪がついて体温を持っていかれる。SSS級のモンスターも自然には勝てんぜ……。
「ビバークするか」
橇を外し、埋もれてもわかるように大樹の近くに置き、雪を掘っていく。
体が埋もれたら謎触手で周りを叩いて固めていき、放電して体を温めた。
「レブたちを置いてきてよかった」
チェルシーも寒さには強いほうだが、自ら体温を上げる手段はない。一度冷えきったらそのまま凍死してしまうだろうよ。
翌朝、雪は上がっており、珍しく快晴だった。
「ほんと、自然はよーわからんわ」
大きく伸びをして全力で放電すると、縮んだ肉体が活性化される。
「よし。エサでも探すか」
この積もり具合では探せるかわからんが、昨日は碌なもんを食ってない。食い飽きたコミーでも食っておかないと体が維持できんよ。
「ん? なんだ?」
覚悟して探そうとしたら、なんか白い山が動いていた。
なんだとすぐには理解できなかったが、それはビッグなマンモスだった。
「いやデカすぎんだろう!」
もう怪獣である。え? この星って怪獣惑星なの!? ってくらいデカいよ! この世界にゴ◯ラとかいちゃったりすんの?!
「……こ、この世界、どんだけヤベーんだよ……」
キングなゴリラが出てきたらオレ、確実に負ける自信があるぞ!
「ミドと同じ存在か?」
さめサメ鮫シャークな守護聖獣かと思い、呪言で語りかけてみる。聞こえますか~?
だが、反応はナッシング。周波数が合ってないのか? オレの呪言が小さいのか? 種として違うのか?
「……意志疎通できんのは不味いな……」
こんなデカいのがコルモアとかにこられたらたまったもんじゃないぞ。
「こんなのがいるとか、この大陸に文明が発生しないわけだ」
知的生命体が何種もいて文明が発生しないとか、こいつみたいのがいるってことだろう。もしかして、国とか創っちゃったの失敗だったか?
「いや、もう今さら退けないのだからやるしかない!」
最大で雷をマンモス怪獣に放つ──が、チェルシーと同じなのか、毛を上層部を駆けて空中に流されてしまった。
ならばと爪アタック! するが毛が数本斬れただけであった。
「……マジかよ……」
最悪である。効かないならまだしも爪まで効かないとか打つ手なしじゃんかよ。
「おい! オレの声が聞こえたら止まれ! 止まれってんだよ!」
マンモス怪獣の前に立ち、あらんばかりの声で叫び、呪言を飛ばすがまったく効果ナッシング。マンモス怪獣はゆっくりと歩を進めていた。
「クソ!」
倒れた木を咥え、斬とばかりに振り払うが、あっさりと砕けてしまった。木のほうがな!
「止まれ!」
十トンダンプカーをも踏み潰せる足に噛みつくが、毛で肉まで届かない。もちろんのごとぐ止められもしなかった。
「──ふがっ!?」
歩が進んだと同時に振り飛ばされてしまった。
大樹に激突。振り飛ばされた威力はそれほどではなかったが、久々に痛みを感じてしまった。
「……クソが……」
グッと堪えてマンモス怪獣に挑むが、まるっきり効果ナッシング。それどころか羽虫扱いもされてない感じである。
チッ。どうしたらいいんだよ……。
「いや、落ち着けオレ。考えろオレ。体は獣でも知能は人だ。霊呪や爪で解決しようとするな」
マンモス怪獣は歩いているだけ。大樹を薙ぎ倒しながら。毛は霊呪を弾き、防御力は絶大。唯一対抗手段はレイギヌス、か。
ただ、あの巨体だ。豆粒みたいなレイギヌスが効くかどうかだよな?
「マンモス怪獣が向かう先はコルモアじゃないな」
コルモア寄りだが、コルモアに向かっているルートではない。通りすぎてくれるなら対策する時間はあるな。
橇のところに戻り、装着してコルモアへと戻った。
至急、主要メンバーを集め、マンモス怪獣のことを説明した。
「それは、フガクだな」
フガク? 富嶽のフガクか?
「昔から大地の神として恐れられている獣が、年寄りのお伽噺として聞いたていどなので、本当にフガクかはわからんがな。そうだ。雪の多いときに現れるとも聞いた記憶がある」
移動する災害だな。
「オレの霊呪も爪も効かなかったよ」
「レオガルド様でも敵わないのか」
「あれはオレが百いても勝てる気がしない。ただ、レイギヌスならとは思う。セオル、レイギヌスを集めるとしてオレが咥えられる槍は作れそうか?」
レイギヌスはオレを殺せる武器でもあり、嫌な感じを出すものだが、そんなもの普通の武器だって同じ。レイギヌスに触れなければ充分堪えられる。
「辛うじて、と言ったところですな」
「モンスターに対抗できる手段を失うのは痛いが、フガクがコルモアにきたらお仕舞いだ。ゼル王、決断を」
重要なことはゼルに決断させる。それが王の役目なのだから。
「レオガルド様用にレイギヌスの槍を作れ」
「はっ。ただちに」
セオルもわかっているので、わざとらしく畏まって頭を下げた。




