64 試運転
コミー狩りは順調だった。
順調すぎて解体が追いつかなくなり、毛だけを刈ってオレの胃へと収めることとなった。
「レオガルド様。兵がくるまで一旦中止したほうがよいのでは?」
「そうだな。オレもさすがに飽きてきた」
獣の舌も同じものを食い続けると飽きが出てくるんだよ。
「誰か兵がどこまできてるか見てきてくれ」
ゼルと別れて四日。もうそろそろくるとは思うんだが、山積みとなったコミーを見てると気持ちが逸ってしまうんだよ。
……これだけ狩ってるのに、まだコミーがいるんだからどんだけ増えてんだか……?
走らせている間に夜営地の周りの木を伐採し、処理用の穴を掘っておいた。
夜になって見にいったヤツが帰ってきて、一つ前の夜営地にいるそうだ。随分とゆっくりだか。なんかあったのか?
「なんでも町中から荷車を集めるのに手間取っていた様です」
ゼルのヤツ、オレたちが大量に狩るとわかっていたようだ。
次の日、昼前にコルモアから兵が到着した。
「ご苦労。肉がいっぱいあるから遠慮なく食っていいぞ」
まずは腹拵えしてもらって解体してもらおう。
「レオガルド様。職人よりレオガルド様専用の荷車ができたと報告がありました」
一人の兵がオレのところにきて、そんなことを報告した。
「お、もうできたのか。やはり職人は仕事が早い」
「できれば一度試して欲しいとのことです」
確かに試しもしないと良し悪しはわからんか。
「銃士隊。オレはコルモアに向かう。無理に狩り尽くさなくていいから、適度なところで終了させろ」
また増えたら狩ればいいだけだしな。
「わかりました」
あとは任せてコルモアの町へと駆けた。お土産にコミーを二匹持って。
コルモアの町にはすぐに到着。ゼルたちと合流した。
「夕食の足しにしろ」
巫女たちにコミーを渡し、荷車作りを頼んだ職人のところへと向かった。
荷車造りを任せている職人は、鍛治職人や木工職人が集まっており、技術局の下に置いてある。
オレ用の荷車の設計は発明家のマルジェムに設計させ、コルモアの町の職人たちに造らせたのだ。
「おー! いいじゃないか!」
荷車の骨格は鉄で、タイヤはモンスターの皮を使い、板バネを搭載している。
ただ、これだけではオレの走りに耐えられないので、ヤトアに霊装術で強化してもらっている。
人に纏えるのだから物にだって纏えるはず。と、ヤトアに物に霊装術を纏えることをやらせたのだ。
「最初は無茶なことを言ってくれると思ったが、やってみると有用だと思い知らされたよ」
ヤトアも呼んで荷車の説明をさせたら興奮した様子で語っている。
「霊装硬化と呼ぶようにしたのだが、どうだろうか?」
なんだか技より技名が大事って感じだな。
「いいんじゃないか。霊装硬化。今度は服や靴にもやってくれ」
「わかった! いろいろやってみる」
剣ではなく霊装術を極めるほうにシフトした感じだが、ヤトアが満足しているなら好きなだけやれ、である。
オレ用と言うだけに荷車は誰かにつけてもらうのではなく、自分でつけられるようにしてもらった。
謎触手に指はないが、紐を結べるくらいには器用なので、ベルトは引っかけられるようにしてもらい、三分くらいで装着できた。
「少し試してくる」
「おれもついていく!」
と言うヤトアを荷車に乗せて町中を走ってみた。
「ヤトア、どうだ?」
「霊装硬化に揺らぎはないが、もの凄く揺れるな」
まあ、舗装されてるわけでもなく荷車の往来で凹凸がある。揺れはしょうがないだろう。そのために霊装術で強化させたのだ。
「それなら揺れを受け流すか弱くする霊装術を考えろ。揺れは波と振動。海にいって波を観察しろ」
「……波と振動か……」
象徴的な表現だが、ヤトアはどちらかと言えば感覚派。言葉で説明するよりイメージを与えれば勝手に考える男なのだ。
町中を回り、次はマイノカへと続く道を進んだ。
「レオ様!」
時速二十キロくらいで進んでいたら、後ろからレブとチェルシーがやってきた。
「わたしもいく!」
断る理由もないので一緒に進むことにした。
「レオ様。荷車で唸ってる人、誰?」
あ! 乗せたままきちゃったよ! なんの用意もさせずに。
「そいつはヤトア。オウノミト・ヤトアだ。霊装術の使い手であり、オレの弟子みたいなものだな」
「レオ様の弟子なんだ」
あまり興味はなさそうだが、嫌ってはいないようだ。
親から隠され、同種とのコミュニケーションを取ってこなかったのに、レブは他種族に嫌悪を感じたりしていない。どちらかと言えば人懐っこいほうだ。
しばらく進むと、輸送隊と遭遇した。
「ご苦労さん。道の様子はどうだ?」
たまに大蛇や草食モンスターに木を倒されたり、穴を開けられたりするので、交差するときは情報交換をするのだ。
「第八夜営地に草食モンスターが集まってました。どうやら水場とされたかもしれませんね」
オレのエサにするため草食モンスターは狩らずにいるので、水場のある夜営地にはよく集まるのだ。
「そうか。こちらはなにもない。気をつけて進めよ」
「はい。レオガルド様たちもお気をつけて」
挨拶は大事なコミュニケーション。お互いを思って別れた。
「今日は第八夜営地までいって草食モンスターをいただくとしよう」
さすがにマイノカまではいってられない。第八夜営地ならちょうどいい試運転になるだろうよ。
「レオ様。先にいってモンスターを狩ってるね!」
「ああ、頼むよ」
先に駆けていくレブとチェルシーを見送り、オレは時速二十キロくらいを維持して進んだ。




